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九百十六話 アンデッドの王vs幻獣の王・決着

 ──"幻獣の国"。


『滅せよ……アンデッドの王!』


「アハハ! 不死身は滅びないから不死身なんだよ? "女王の吐息(クイーン・ブレス)"!」


 ロキとテュポーン。シュヴァルツとハデス、ポセイドンの決着が付く少し前。此方で行われているマギアとドラゴンの戦闘もより激しく続いており、二つの風によって巨大な竜巻が形成された。

 ドラゴンが放ったのは風竜の力をもちいた風。マギアが放ったのはリッチの力からなる風魔術。星一つを吹き飛ばし兼ねない二つの風は互いが互いを相殺する事でこの星への影響を弱め、天空に逃げてその余波が超巨大竜巻となっているらしい。


『──カッ!』

「"女王の涙(クイーン・ティアーズ)"!」


 ドラゴンが水神の力をもちいた轟水を放出し、マギアはリッチの水魔術でそれを相殺した。

 先程の竜巻は二つの水によって外部から崩壊し、暴風の余波と海のような水が幻獣の国を覆い尽くす。


『やはり互角か。だが、この力を以てしても本気ではないリッチと互角とはな……!』


「リッチって呼ばないで! ……アハッ、本気じゃないって言っても貴方も本気を出していない……出せないんでしょ? この世界の事を想っているもんねぇ。私達が本気を出したら……まあ、主力達は大丈夫として世界中の住民が死んじゃうからね。私としても一応選別して使えない物は生物兵器に改造しなくちゃならないから本気は出せないんだけどねぇ」


 マギアとドラゴン。両者は本気を出せない理由がある。それは、ドラゴンは民を護る為でありマギアは目的の為。だからこそ天変地異が起こり、地形が変わる程度の現在の貧弱な力などまだまだ軽いものなのだ。

 一人と一匹は余水に濡れながら力を込め直し、次の刹那に互いの眼前へと迫った。


「まあそれはいいとして、そう言えば……折角創った剣。使っていなかったや!」


『別に無理して使わずとも良いのだがな』


 マギアが魔力から形成された剣を振り抜き、ドラゴンが爪で受け止める。同時に一人と一匹は弾かれ、マギアが今一度踏み込んで肉迫。次の刹那に剣を振るい、ドラゴンはそれを爪でいなすようにかわした。

 一人と一匹の剣と爪による攻防は続き、文字通り火花を散らす。二つとも金属では無いのだが、この世のどんな金属よりも遥かに硬度なものだろう。


「やっぱり硬いね♪ それなのに大きくて速い。私じゃなかったら致命的なダメージを何度か負っていたかな?」


『主力クラスには通じぬだろう。ただ爪で斬り付けただけなのだからな。これは俺自身の力だ』


「だから凄いんだよ♪ 別に他の龍の力を借りなくったって元々の力があるんだからね♪ 流石の支配者ってところかな?」


 それだけ告げ、目にも止まらぬ攻防が繰り広げられる。

 金属音のような音と飛び散る火花に魔力の欠片のみが森だった場所にて顕在し、数撃のせめぎ合いの直後にマギアがドラゴンとの距離を詰め、魔力からなる剣でその鱗を切り裂いた。


『……ッ!』

「当たったぁ~♪ どうやら私の剣は如何なる武器よりも強いみたいだね♪」

『……っ。ふっ……そうかもな……』

「……!」


 同時にドラゴンが尾を薙ぎ払い、近くのマギアを吹き飛ばす。

 死角からの奇襲をかわし切れず吹き飛ばされたマギアは大地を抉りながら突き進み、少し離れた場所にあった土塊に衝突して粉塵を舞い上げる。そこから立ち上がって言葉を続けた。


「酷いなぁ……頭が曲がっちゃったよ。手足も折れちゃった」


『……。何とも不気味な存在よ』


 粉塵が晴れ、ドラゴンの前に姿を現したマギアは首が捻れており顎が斜め上にあり、手足があらぬ方向を向いていた。

 切断された肉体からは骨が見えており、そこから緩やかな鮮血がゆっくりと流れる。その光景を見ると、見た目は普通なマギアもやはりアンデッドなのだろうという事が実感出来た。


「不気味って酷いなぁ。貴方がこんな風にしたんでしょ? まさか尻尾を払っただけで私の身体がボロボロになるなんてねぇ。ちょっと予想外。衰えても支配者って訳」


 頭を掴み、骨の擦れる音と共に頭の位置を戻してあらぬ方向を向いた手足もなかば無理矢理に嫌な音を立てながら元の方向に戻しながら話す。

 裂けた肉は再生し、骨を押し込んで体内に戻す。足元に広がった血液はそのうち自然の栄養になるだろうと無視し、改めてドラゴンに構え直した。


「まあ、頭が割れなかったのは良かったかな。ほら、お腹の傷はそこから下にしか血が行かないけど、頭が割れちゃうと服が全体的に汚れちゃうじゃない? 赤は嫌いじゃないけど、乾くと赤黒くなるし鉄臭いしそうなったらサイアクだよぉ~」


『わざとらしい言葉の引き延ばしをめろ。揶揄からかっているのか? ……と聞きたいが、本当にそうなのだろうな』


「アハハ。バレた? 今みたいな状況だと知能のある生物は繊細になるから、ちょっとした言葉遣いが挑発になるんだよねぇ~。まあ、平常時でもイラッって来るかもしれないかな」


 ドラゴンはマギアの挑発には乗らない。それこそ時間の無駄だからだ。ただでさえ時間に限りのある力。それを無駄にしている暇は無いだろう。

 下手に攻めるのではなく状況をうかがって最適()つ効率的な攻め方を行う。マギアの戯れ言に付き合っているのはその隙を探られぬよう、わざと会話して狙っているのだ。


『そうだな。その舐め切った言葉遣い。正すのもまた仕事の一つだが、年齢的にはリッチのお主と俺はほぼ同じだな』


「だから! リッチって呼ばな──!」


 ──マギアがリッチを否定する言葉を発した次の瞬間、ドラゴンは勢いよく加速してその身体を吹き飛ばした。


「……ッ!」

『お前の隙は、リッチという名にあるな』


 マギアが反応するよりも前に仕掛けたドラゴンは続くように炎を吐き付け、その身体を炎上させる。

 同時に他の龍族の力をもちいてけしかけ、連続攻撃を放った。


『ハッ!』

「成る程ね……これが狙いって訳……!」


 支配者であるドラゴンの攻撃は、無論不死身のマギアでもまともに受けたらこたえる。

 爪や尾、突進自体には問題が無いが、先程吐かれた炎。それが問題だ。

 それによってマギアの片腕は細胞一つ残らず燃え去り、連続して放たれた水や雷によって半永久的に感電させられる。目映い光と共に焼き痺れさせられたマギアはその場に止まり、魔力を込め直した。


「ちょっと……痛いかな! "女王の包容クイーン・インクルシブ"」


 それと同時に造り出した、リッチの魔力からなる防壁。丸みを帯びた魔力の壁はマギアを包み込むように覆い、ほんの僅かな隙間を通り抜けて全身を飲み込んだ。

 それによってドラゴンの放った水と雷は消え去り、マギアは消えた片腕を抑えながら言葉を続ける。


「ア……アハハ……。腕が一本無くなっちゃった……。……ねえ……どうしてくれるの……? 細胞が残っていないと再生にも時間が掛かるんだけど!!」


『どうやら効いたらしいな。そういきどおるでない、アンデッドの王よ』


「怒ってま・せ・ん! 蜥蜴トカゲの強化版みたいな存在が偉そうに……! 私は痛め付けるのは大好きだけど、自分が痛い思いするのは嫌なの! これがエマとかなら心して受け入れるけど、むしろ私の腕を奪ったお詫びや口実として私の肉体にエマの腕を移植出来るかもしれないからメリットを作れるけど、実力以外は認めていない貴方には痛め付けられたくない!」


『……。一層いっそ清々しい感性だな……。自分勝手にも程があるぞ……。子供みたいな駄々をねるでない。いや、お主みたいな子供が居たら世界は滅びるか……』


 マギアの癇癪を見やり、ドラゴンはやや引き気味でなだめる。こう言った対応は大人なものだろう。

 だが、先程まで温厚に笑っていたマギアの豹変っ振りには流石に戸惑ったらしい。しかしそれを意に介している暇はない。誰だって腕を消されたら少なからず憤る筈だ。なのでドラゴンは一先ず無視して力を込め、マギアに向けてけしかけた。


『まあ構わぬ。どの道お主は全身を消し飛ばすのだからな……!』


「やってみな! 私は貴方を殺さないつもりだったけど、手が滑るかもしれないから気を付けてね……!」


 風を纏い、一気に加速して光以上の速度で肉迫するドラゴン。対するマギアは防壁は解除せずに構え、魔力を込めて向き直る。その間は秒にも満たない。次の刹那に一人と一匹は正面衝突を起こした。

 それによって一人と一匹を中心に大地が抉れ、そのまま陥没して巨大クレーターが形成された。ドラゴンが纏った風の膜とマギアの防壁はその衝撃で消え去り、一人と一匹が互いの眼前に力を放出する。


「"女王の怒りラース・オブ・ザ・クイーン"!」

『──カッ!』


 近距離にて放たれた二つの炎。

 リッチの魔力からなる業火とドラゴンから形成された轟炎。それらの炎は衝突してそこから波のように広がり、巨大な火柱が形成されて星を貫く。

 ドラゴンが思うに現在位置の反対側はおそらくだが広大な面積を誇る人間の国か魔物の国。なのでこの炎が星を貫いたとしてもおそらくだが問題無いだろうと、おそらく大丈夫と言うそんな根拠もない思考で割り切り、一人と一匹の火柱はその場に留まる。


『……。いや、流石に世界を巻き込むのは問題か。国際問題に発展し兼ねない。人間の国とはそれなりに交流があり、魔物の国ともライたちのお陰で関係が良くなった。今更問題を起こすのは良くないな』


 だが、支配者としてそう言う訳にもいかなかった。

 今現在、まだ小規模の問題はあれど、世界各国との関係は良くなりつつある。元々交流のあった人間の国を始めとし、ライたちの影響もあって魔族の国や魔物の国とも以前よりは良い関係になっているのだ。

 支配者(みずか)らがそんな関係を壊す訳にもいかず、自己完結したドラゴンは翼を羽ばたき、火柱から距離を置くように離れた。


「ブツブツ何かを言っているなって思ったら……逃走? ちょっと! あまり私を舐めないでよね!」


『舐めてなどおらぬ。このままではこの星の反対側に悪影響が及ぶからな。少し抑えさせて貰ったに過ぎぬ』


「フン、成る程ね。貴方の見た目はあまり好きじゃないけど、実力とその性格は悪くないって思うよ。だけど貴方が奪った腕の仇……再生したこの腕で討ってあげる……!」


 そう言い、マギアは再生した腕を見せて睨み付ける。人間的……というより幻獣的にドラゴンの存在は見た目以外は許容範囲のようだが、やはり腕を一度奪われた怒りは中々消えないのだろう。

 本人も言うようにエマのような存在ならウェルカムのようだが、色々と複雑な思考をしているようだ。

 そんなマギアを見つめ、ドラゴンは呆れたように一言。


『腕が再生したならもう良いだろう。元より不死身の存在なのだから』


「そう言う問題じゃないよ! 好みじゃない存在に傷つけられるのは貞操を奪われるのと同じなんだから! だから貴方を倒す!」


『……。理屈、理論、道理、筋道、根拠。その全てに置いて自分勝手でおかしな物言いだな』


 その瞬間、マギアは今一度大きく魔力を込め直した。

 それによって先程の火柱は消え去り、周囲の黒煙が全て晴れる。同時にドラゴンへ向けて言葉を発した。


「理にかなっていなくても結構! 貴方を倒す事に変更は無いからね……! 今、決着を付けるよ!」


『成る程。確かに俺の力も此処まで。決着を付けるには丁度良いタイミングだな』


 力を込めたマギアの言葉は本当だろう。たった今、本当に本気でドラゴンを打ち倒すつもりらしい。

 だが、ドラゴンはドラゴンでそろそろ力の解放時間の限界。ドラゴンにとってもこのタイミングでの決着宣言は都合の良いものだった。


「──"女王の処刑エクスキューション・オブ・クイーン"!!」


『俺もたまには技に名を付けるか──"神竜の息吹きゴッド・ドラゴン・ブレス"……!!』


 そして放たれた、形容出来ない魔力の塊からなる刃と神々の力が加わった火炎。その二つが正面からぶつかり合い、その衝撃が天空に届く。

 地上に及ばなかったのはまだ幸運だろう。この衝突だけでもいくつもの惑星が崩壊する程の力が秘められている。地上に到達していればこの星は消えていたのだから。

 二つの衝撃波は更に広がり、辺りは魔力と炎に掻き消された。



*****



『……! 何と言う破壊力……!』

「貴方もね……!」


 それによって生じた粉塵が晴れ、余風に包まれる一人と一匹が姿を現す。

 ドラゴンは片翼が切断され、マギアは半身が消滅していたが戦闘は続行出来るようだ。

 星を複数崩壊させる力のぶつかり合い。互いが相殺し合った事で消滅した土地は最小の範囲で収まったらしい。

 ドラゴンとマギアは再び向き合い、その戦闘が今一度再開された。


『……ッ!? もう……力が……』


「今だね……! これで終わらせて上げるよ! "女王の慈愛クイーン・チャリティー"……! 」


『──……! ……。…………』


 ──が、刹那に決着は付いた。

 マギアが放ったのは攻撃魔術ではなく、敵を眠りに就かせる睡眠魔術。

 先程までのドラゴンには通じなかったのだろうが、疲労がつのっている状態である今のドラゴンは別。マギアは眠らせる事で戦いを終わらせたのだ。


「……。……はぁ……。かなりキツかった……腕にもまだ違和感があるし……半身が消えちゃったから服もボロボロ……脱いじゃおっと……」


 ドラゴン。支配者というだけあり、壮絶な戦闘ではあった。マギアが不死身の身体を持っていなければ早い段階のうちに死していた事だろう。

 元々はただの魔術師だったマギアだからこそ、その実力は身を以て実感していた。

 既に意味を成さなくなった衣服は脱ぎ捨て、上半身に何も身に付けぬ半裸の状態で周りを見渡す。


「……。他の主力の気配は無いね。少し休憩しよっと……。腕の感覚が戻らないと魔術に支障をきたすからね……」


 周りの様子をうかがい、敵対する存在が居ないのを確認して一息吐く。

 本来なら不意を突かれようと問題無いのだが、ドラゴンとの戦闘の直後。他の主力たちが来た場合に確実に勝てるという保証が無いので確認したようだ。

 マギアとドラゴン。アンデッドの王と幻獣の王が織り成していた戦闘は、マギアがドラゴンを眠らせる事で決着が付くのだった。

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