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九百十四話 悪神vs魔物の王・決着

 ──"魔物の国"。


『フン!』

『……っ』


 軽い一声と共に光の速度を超越した巨腕が放たれ、ロキの身体を掠めて消し飛ばした。

 この世界から別空間まで様々な場所で戦闘が継続される中、テュポーンとロキの戦闘も続いているが、どうやらロキは押されているらしい。その巨腕が通り抜けた場所からは全てが消滅し、塵すら残っていなかった。


『デカい図体に似合わない速度だな。巨体でも速く走れる動物は居るが、挙動は少し遅くなる筈なんだが』


『フッ、そんな理論はこの世界では通じぬ。巨体を持とうと、光如きなら軽く超越出来るのだからな』


『一応宇宙最速の存在が光と謂われているのだがな。まあ、所詮は常人が勝手に決め付けた確証もないもの。この世での最速は何なのか気になるな』


 巨腕は戻し、そのまま光以上の速度で振り回して薙ぎ払う。炎となったロキはテュポーンの背後へと瞬間移動のように回り込み、その全身を焼き払った。


『この程度の炎。余に通じるとでも思っているのか? 余にとっては太陽すら熱く感じぬというのに』


『その様だな。先程からやっている事だ。効かないというのは今更だからな』


『ならばどうする?』


『無論、本来の力を取り戻した今……始めから全力で仕掛けさせて貰おう……!』


『もう戦い始めて数十分は経過しているのだが、始めからというのは変な言い回しだな』


 テュポーンは炎を消し去り、ロキが本気を出すと告げて周囲に炎を張り巡らせる。

 ロキ曰く始めからとの事だが、テュポーンの言うように既に戦いが始まってから数十分は経っている。色々と違和感のある言い回しだが構わずテュポーンはロキに向き合った。


『始めからさ。本気で戦うのは、今が初めてだからな……!』


『成る程。本気その物が始めからという事か。紛らわしい言い方をするな。そもそも始めからという点には触れていない気もするが』


『細かい事は気にするものではない。魔物の王よ』


 腑に落ちないが、何はともあれロキが本気になった事には変わらない。既に炎は広がっており、そこから炎が槍のように迫り行く。

 テュポーンを囲んでいた炎。その炎が全て槍のように変形してテュポーンを狙い定めたのだ。ロキ自身は炎に紛れて隙をうかがう。


『たかが炎の槍。これがお主の本気か? 拍子抜けも良いところだな』


 その炎の槍はテュポーンが腕を振るう事で囲んでいた周りの炎諸とも消し去り、それと同時に巨腕を突き出してロキを見つけ出し、その身体を吹き飛ばした。


『……ッ! 相変わらず炎その物の私を普通に殴り付けるとはな……! だが、今の私は対等に戦えると良いな……!』


『ただの願望か。嘘をよく吐くと言うが、実際に余より主の方が力も劣るだろう』


『さて、どうだろうな?』


 吹き飛ばされたロキは空中にて停止し、炎を放出してテュポーンを狙う。テュポーンは既に吹き飛ばしたロキの近くへと来ており、その炎を払い除けて巨腕を薙いだ。


『まあ、その攻撃は当たる前に避ければ良いだけだがな』


 巨腕は空を切り、一筋の焔が風に巻かれて消え去る。その瞬間にテュポーンの周りを火柱が包み込み、複数の火柱が一つの大きな火の塔となる。そして次の瞬間に内部から破壊され、暴風が巻き起こってテュポーンとロキが睨み合う。それと同時に二人はけしかけた。


『ハッ!』

『ハァ!』


 一本の巨腕と直進すら火炎の渦。それらが正面から衝突して衝撃波を散らし、魔物の国全域にその衝撃が伝わった。


『これが主の本気か? まだまだぬるき力よ。この世界を焼き尽くすくらいの気概を見せたらどうだ?』


『そうするつもりなのだがな。世界が焼滅しょうめつする前に主が相殺するから影響が及ばないだけだ』


『フッ、お主勘違いをしておるな? 余が言ったのは"この世界"だ。何も軽く力を込めるだけで容易く崩壊させる事の出来る"この星"とは言っておらん。余諸とも消し去ってみよという事だ』


『成る程。これは一本取られたな。確かに主や他の支配者を謳われる存在を焼き払う程の力は無かった。反省しよう』


 テュポーンが求めているのは、世界を崩壊させる程の戦い(暇潰し)

 テュポーンやライたち。他の支配者を消滅させる勢いで戦って欲しいのだろう。そうする事で初めてテュポーンは満たされる。

 それに返すロキは反省し、それと同時にテュポーンへ無数の轟炎を放出した。


『これもぬるいの。太陽に匹敵する温度にはなっておるが、所詮は太陽程度の低温。もっと力を入れよ。悪神!』


『だから命令するな。魔物の王……! 待っていれば望み通り消し去ってくれる……!』


『先からそれを期待しておるのだがの。如何せんその概要が見当たらぬから待機しておるのだが?』


『私も他者には言えぬが、主も大概減らず口が回るな。挑発には乗らぬぞ』


 それだけ言い、ロキは先程と変わらぬ火力で炎を放出する。

 テュポーンの挑発に乗り、"この世界"を崩壊させるまではいかないにせよ相応の炎を放出する事も全盛期の力に戻った現在のロキなら可能である。

 だがしかし、それを実行するとなるとそれに伴った疲労がロキをむしばむ。故に隙を窺い、放つとしたら確実なタイミングで放とうと考えているのかもしれない。


『なんだ、つまらぬのう。この程度の炎は先程から見飽きている』


『──だがまあ、息も付かせぬ連撃はしてやらない事もない……!』


『ほう?』


 それだけ告げ、ロキは先程放った炎も掻き消したテュポーンに向けてけしかけた。

 自身が炎となりて加速。そのままテュポーンの懐に攻め込み、勢いよく衝突してその巨体を後方へ少し逸らせる。同時に炎を正面から放出し、勢いによってロキ自身が下がる程の威力でテュポーンの腹部を焼き尽くした。


『この程度か?』

『いいや、連撃と言っただろう?』


 それを受けてもほぼ動かぬテュポーンは片腕を軽く振り下ろして下方のロキを狙う。その巨腕をロキは自身が炎となって流動させ、そのままテュポーンの後頭部近くにある炎へと移動して力を込める。

 次の瞬間にロキは込めた炎を一気に放出し、頭を焼き払った。ロキはそれもあまり効かない事は分かっている。一撃(ごと)に場所を変えては炎を放ち、場所を変えては炎を放ちを繰り返す。

 それはテュポーンから見たら小さな攻撃だが、その一つ一つには島一つを焼却するだけの力が備えられている。そう、あくまでテュポーンから見たら小さな攻撃なのだが。


『何を狙っているのか分からないが、何かを狙っている確証はある。さっさと仕掛けたらどうだ? 悪神よ』


『ああ。それなら言われた通り仕掛けてやろう。準備は先程の炎で完了した』


 それだけ告げ、次の瞬間には先程放たれ弾かれ消し去られた炎が集い、徐々に形を形成して巨大な壁と化した。


『ほう? 余よりも巨大な炎の壁か』


 それを見やり、どうでも良さそうに言い放つテュポーン。

 現在のテュポーンは山のようなサイズ。本人からしたら何百分の一にも満たないサイズだが、ロキは自身の炎でそれに匹敵する。それを越す壁を生み出したのだ。

 炎の壁は周囲を焼き、熱気で覆い酸素を奪いながら燃え盛る。曰く、これがロキの下準備。故にロキはその炎をけしかけた。


『永遠に燃え続けろ。魔物の王!』

『……』


 瞬間、テュポーンの全身が炎に包み込まれ、地面すら蒸発する程の熱によってテュポーンの肉体が焼かれた。

 その炎によって魔物の森は全域に火事が起こり、空の雲が余熱で消え去る。もしも宇宙からこの光景を見たのならば、魔物の国が全て紅蓮の炎によって燃えているように見える事だろう。

 その炎は見る見るうちに激化して天を貫く火柱が立ち上ぼり、宇宙に届く程の業火と化した。


『フム、確かに……ようやく少しは熱くなったな。だが、地獄の業火には及ばぬ。星の形すら残っているではないか』


『……!』


 その火柱は下方の内部が破壊されて消え去り、そこから姿を現したテュポーンが純粋な感想を告げる。

 テュポーンに少しは熱いと言わせるだけあってかなりの高温だったが、地獄の最下層に顕在する熱量に比べたら冷水に等しき熱。消滅した地面などのすすによってテュポーンの身体は所々が黒くなっているが、本人は全くの無傷だった。


『これでも足りぬか……! この世界のレベルは高いようだな……!』


 それを見たロキは多少の動揺を見せるが即座に割り切り、再び炎となってその身体に剣、槍、矢などを再現した炎を打ち付ける。だが皮膚は焼き切れず、皮膚は貫けず、皮膚には弾かれた。


『これも駄目か……!』


 それならばと更なる力を込めて炎によって加速した拳で殴り付け、かかととしで頭から蹴り抜く。

 だがそれらも微動だにせず、無数の火球を形成して隕石のように落撃。下方から火柱を立ち上らせて貫く。周囲を渦で囲んで焼却。その全ては無傷だった。


『……っ!? 何故だ……! 手加減はしていない……! 何故お主には効かない!? 魔物の王ッ!!』


『単純な話よ。主の炎は火力不足だ』


『……ッ!』


 それを見て流石に大きく動揺するロキ。テュポーンは返答と同時に巨腕を突き出し、ロキの身体を再び吹き飛ばした。

 それによって飛ばされたロキは自身の腕を追い付かせて掴み、物を放るように大地へ叩き付ける。大地からは粉塵が立ち上ぼり、巨大なクレーターが造り出された。


『カハッ……!』

『さて、そろそろお主も限界だろう。早いところ本気を見せて欲しいものだがな』

『……っ!』


 ロキは本気だった。故にこの星が焼滅しても良いような炎を連続して放出したのだから。

 だが、それをもってしてもテュポーンには汚れを付ける程度。プライドの高いロキにとってそれは屈辱的だろう。


『……。そうか、それなら……遠慮なくこの世界を火の海に変えてやろう……!』


 だからこそ、ロキは身体の力を込め、全身全霊の一撃を込めた。

 先程の技によって燃え広がった炎。その全てを回収し、巨大な火球を形成する。その温度は太陽のレベルなど当の昔に越えており、小さな欠片で地上世界全てを火の海に変える程の地獄の最下層の業火に匹敵する。もしくは越える炎と化していた。


『この感覚……成る程な。地獄の炎と同じような熱量か。だが、炎を司り操る主はまだ地上が燃え尽きぬように調整している。先に地上を消し去ってはつまらぬからな。余に触れると同時にその真価を発揮すると考えても良いのか?』


『いいや、この炎にそんな威力は込められていない。試しに防御せず受けてみると良いさ』


『しれっと嘘を吐くでない。地獄の業火以上の威力は確実に込められておると感覚で分かるからの』


 ロキは嘘を吐きつつ、確かな威力を込めた火球を片手に構える。世界の全てを自由自在に飛び回れる神具の靴は既に焼き消えており、自身の身体と同化している衣服とロキの存在のみが残っていた。

 本来なら靴も同化する筈だが、ロキとはまた違った神性の靴なので適合しなかったのだろう。

 何はともあれ、その会話を終えたロキは火球を構えてテュポーンに放り出した。


『折角だ。技名を付けよう。そうだな……"悪神の炎イートエル・ゴッド・エルダ"……! シンプルだが、こう言うのはどうだろうか?』


『……まあ、良いのではないか?』


 名を付け、エレメントに火球を干渉させてその威力を更に倍にする。

 魔法や魔術がエレメントに干渉して威力が上がるように、"名"はその存在をより明確に示す証となる。故に地獄の業火を越えた炎がテュポーンに直進し、テュポーンは片腕のみを本来の大きさに戻して迎え撃つ。


『フム……今までの攻撃では、一番面白い攻撃だ。褒めて遣わす。悪神よ』


『もう勝った気でいるのか。魔物風情が大口叩くでない……!』


 その瞬間、地上全てを焼き尽くす炎の数倍の威力を秘めた火球と宇宙を破壊するのに必要な片方の腕が正面衝突を起こし、そこから大きな衝撃が魔物の国を包み込み、その余波が宇宙の彼方へ過ぎ行った。

 世界を滅ぼし兼ねない二つの衝撃はより威力を増し、魔物の国から森が消え去る。



*****



『……ッ!』

『……!』


 ぶつかり合って数秒。無限にも感じる数秒を経てロキは火球ごと吹き飛ばされ、テュポーンの片腕が消し飛ぶ。その瞬間、ロキの身体が焔の粒子となって消え行く。


『……フム……どうやら余が競り勝ったようだな。片腕は焼滅したが、久方振りに楽しき時を過ごせた』


うやら……その様だな……。私の敗北か。惨めなものだ……』


 身体の大きさを常人並みに戻し、フッと笑ってテュポーンが呟く。遠退く意識の中でロキは目を閉じ、それ以上は何も言わずに何処かへ消え去った。


『……。フッ、そう卑下ひげするでない。悪神よ。もう聞こえているのかどうかは分からぬが、余を楽しませる事が出来ただけ大義であった。あの世に消えたか封印されたのかは分からぬが、しばし眠りに就くが良い。余は満足だ』


 テュポーンは失った片腕を意に介さず、満足そうに元居た"メラース・ゲー"への帰路に付く。既に周りの炎は全て消えており、辺りには焼け焦げた大地と閑散とした空気が立ち込める。

 素直な称賛以外の言葉は告げず、テュポーンが立ち去ると同時に周囲に残っていた最期の灯火。一筋の火の粉が消え去った。

 テュポーンとロキ。魔物の王と悪神が織り成す戦闘は、テュポーンの勝利で決着が付いた。

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