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九百十三話 シュヴァルツvs冥界の神と海の神

 ──"モノクロの海"。


「ハッ!」

「フム……!」

「……ッ! シャラァッ!」


 各々(おのおの)の戦闘が続く最中、モノクロからなる別空間にてハデスとポセイドンがシュヴァルツに向けて拳を放ち、シュヴァルツが破壊魔術で防ぐがそのまま吹き飛ばされた。

 シュヴァルツの身体は黒い海を割るように吹き飛び、破壊魔術で海を破壊してその勢いで停止する。


「さて、何処まで耐えられるかな?」

「……っ」

「二人掛かりはいささか卑怯な気もするがな」


 停止した先には既にハデスとポセイドンが回り込んでおり、シュヴァルツの前後を囲んで次の刹那にけしかけた。


「舐めるな! "破壊ブレイク"!」

「「……!」」


 そんな二人の間に破壊魔術を形成し、空間を破壊して攻撃を阻止。それと同時にくぐり抜けて海へともぐり、海中から破壊魔術を連続して放った。


「死角からの即死攻撃か。確かに他の幹部じゃ少し手古摺てこずりそうだ」


「アフロディーテ辺りなら攻撃を反射する事も出来るかもしれないが、概念を砕いている様子からするに無効化の力も備わっているようだな。純粋に肉弾戦を行うにしても隙を突かれたらその瞬間に肉体が砕かれる。触れたら終わりなど毒でも持っているようだな」


「毒ならまだ対処のしようもあるのだがな。破壊という概念をもちいて空間という概念を砕く存在……純粋な身体能力でまさっていても油断は出来ない」


 破壊魔術の前では、力の差はあまり関係無くなる。触れたら終わりの力なので当然と言えば当然だ。

 だからこそ現在のシュヴァルツが行う死角からの奇襲はかなり効果的な戦法なのだが、


「やっぱめた。こう言う風にチマチマやるのは趣味じゃねェからな……! 元々強敵と戦いたかったんだ。このやり方は好みじゃねェ!」


 正面から戦いたいというシュヴァルツは海の中から仕掛けるのを止め、ハデスとポセイドンの周りに破壊の魔力を放出して浮上した。

 シュヴァルツは強敵と戦いたいと言っていた。それが叶ったにも拘わらずにこの様な回りくどいやり方をするのは嫌なのだろう。


「愚かな程に真っ直ぐな男だな。あのまま仕掛けていれば私たちを倒せたかもしれないというのに」


「ハッ、冗談は寄せよ。あのままやっていたとしてもテメェらなら海ごと俺を吹き飛ばす事も出来てたろ」


「まあ、それも可能だな。我らの力をもってすれば対象諸とも世界を消し飛ばす事も出来る」


 ハデスとポセイドンならば、相手が隠れていようが関係無く攻め立てる事も可能。要するに隠れている場所諸とも消し去れば良いのだから当然だ。

 しかしそれはしなかった。本人たちもなるべく正面から戦ってやろうと考えているのかは不明だが、少なくともシュヴァルツは正面突破を試みる。


「テメェら……砕け散れ! "空間完全破壊スペース・フル・ディストラクション"!」


「これは……少し面倒だな」

「ああ。我らも使うか」


 星一つを空間ごと砕くシュヴァルツの破壊魔術。それを見たハデスとポセイドンはバイデントとトライデントを取り出し、正面に自身の力を込めて魔法や魔術のように神の力を飛ばして防いだ。

 三人以外の空間は全てが音を立てて崩れ落ち、シュヴァルツ、ハデス、ポセイドンが向かい合う。


「ハッ、いきなり使うのかよ。その武器。一振りでさっきの俺の破壊魔術以上の攻撃が出来んだろ、そりゃ」


「確かに範囲はそうだが、空間その物を砕いているアンタの力とはいささか差違があるな。概念を砕く破壊魔術は通常の惑星破壊規模の攻撃で傷が付かぬ私たちにも傷を負わせる事が出来る。私のバイデントやポセイドンのトライデントは銀河群くらいなら消し飛ばせる威力を誇っているが、格上にはどうしても防がれてしまう。格上にも通じる破壊魔術の方が使い勝手は良いだろうさ。……あくまで戦闘に置いてはだがな」


 本気なら銀河団や銀河群を崩壊させる事も可能なハデスとポセイドンの武器。だが、シュヴァルツの扱う破壊魔術とは少々違う点もそれなりにあるのだ。

 純粋な武器に自身の力を込めて広範囲を消し飛ばし、それを防げぬ存在には致命的な傷を負わせる二人の力。

 それに対し、破壊魔術は障害物があれば防がれる可能性もあるが、触れる事さえ出来れば、その性質その物を無効化出来る存在以外になら必ず通じる。先代から力を受け継ぎ、自身を極限まで鍛える事からなる力とシュヴァルツの唯一だった力は根本的な部分が違うのだ。


「ハッハッ! そりゃ良いな! なら、素の力で劣っていてもテメェらに俺の攻撃は通じるって事か……! ま、元よりテメェらに劣っているなんて微塵も思っちゃいねェけどな! "連鎖破壊チェイン・ディストラクション"!」


「「……!」」


 その瞬間、シュヴァルツは破壊魔術を周囲に展開し、それをもちいてハデスとポセイドン目掛けてけしかけた。

 直接防ぐ術を持たない二人は飛び退くように距離を置き、二つの武器を振るって衝撃波という名の障害物を形成。そのまま防ぎ、シュヴァルツの眼前に迫った。


「やはり危険な力だな。破壊魔術。半端な力しか無い奴なら使われるよりも前に倒せるが、アンタが使うと阻止するのも至難の技だ」


「ハッ、ならさっさと本気を出したらどうだ? なに律儀に俺に力を合わせてんだよ。テメェらなら俺の反応が追い付かない程の攻撃も可能な筈だ」


「それもそうだな。だが、それをしたところで戦況は変わらないだろう。我らと同じく、お主もまだまだ本気ではないのだからな」


 迫ると同時に二人はバイデントとトライデントを穿ち、それをシュヴァルツは身を捻ってかわす。それでも余波で肉体が消滅してもおかしくないが、自身の周りに破壊の壁を形成する事で余波も抑えたようだ。


「ハッ、本気を出すと疲労が早くつのるからな。ただでさえデメテルとの戦闘で多少疲れてんだ。いきなり全快じゃ気合いがあっても身体が持たねェよ」


「フム、尤もな意見だな。本気なら容易くは無いにせよ倒せるが、その分我らの疲労も募る。お主以外の侵略者が居ると考えれば連戦も覚悟しなくてはならない。それまでなるべく体力を残しておかなくてはな」


「ああ、そうだな。一気に攻め立てるのと地道に慣らしていくのじゃあ、地道に慣らした方が長期戦にも備えられる」


 三人はまだ本気ではない。ポセイドンが言うように互いに力を温存している状態なのだろう。

 三人のスタミナも無尽蔵にある訳ではない。それでも数週間くらいなら戦っていても平気だろうが、それは今のままで戦っていた場合に限る。本気を出して戦うとなると互いが受けるであろうダメージを考えても一日も持たない筈だ。

 だからこそ身体を慣らしつつ仕掛ける。一戦限りの戦闘なら良いが連戦を想定するなら当然の判断だ。


ー事で、俺は体力を残しつつ破壊するぜ! "破壊ブレイク"!」


ほとんど動かずに仕掛けられるのは素直に羨ましいな。私たちは肉体的な力しかないから大変だ」


「まあ、我らも初動で広範囲を狙える。その辺はハンデにもならぬだろう」


 シュヴァルツが空間を破壊し、二人はその余波を消し去る。同時に光を超えて加速し、左右から挟み込むようにシュヴァルツの身体を狙った。


「……っと。"直進破壊ストレート・ディストラクション"!」


「ハッ!」

「フッ……!」


 それを見切ったシュヴァルツは背後へ跳躍して飛び退き、そのまま正面に直進する破壊魔術を放出した。

 丁度二人が重なるタイミングを見計らったのだが、その破壊魔術は防がれ、二つの槍による衝撃波がシュヴァルツの身体をかすめる。

 掠めただけでも恒星から太陽系破壊規模の衝撃が及ぶが、既に現在のシュヴァルツはその程度で疲弊するような実力ではない。ライたちが一瞬の間に成長するように、荒波に揉まれるシュヴァルツも超速で成長しているのだ。


「"全方位破壊オール・ディレクション・ブレイク"!」


 二人の位置目掛けて破壊を放ち、その空間が崩壊する。二人はバイデントとトライデントを薙いで破壊を破壊して防ぎ、その場から連続した突きで衝撃波からなる槍を複数飛ばした。


「……っ。これも危ねェ攻撃だな……!」


 飛ぶ刺突をシュヴァルツは見切ってかわし、そこから周囲の海にクレーターが造り出されて津波のような水飛沫を散らす。


「遠距離攻撃の不利点は視界が一時的に見えにくくなる機会が増える事だな……!」


「だがまあ、見付けられない程ではない」


 その津波は軽く薙いで消し去り、水飛沫に紛れて姿を消したシュヴァルツの気配を追う。即座にその気配を掴み、そこに向けて二つの槍を突いた。


「……! チィッ! もう見つかったか……! "破壊の防御ディストラクション・ディフェンス"!」


 それによって生じた弾丸のような惑星破壊規模の衝撃波は破壊魔術を周囲に張り巡らせる事で防ぎ、二人の姿を視界に捉える。次の瞬間に二人はゼロ距離に迫っていた。


「そしてもう来たか……!」

「ああ、近接戦に持ち込んだ方が良さそうだったからな」

「ウム。直接仕掛けた方がやりやすい」


 同時に仕掛けられた腕と足。鉤状に弧を描いて放たれたそれらをシュヴァルツはしゃがんで避け、両手に破壊魔術を纏って二人の懐へ放つ。それを二人も躱し、全方位にヒビが入って欠片が飛び散った。


「だが、それは当たったらの話だ。……お互いにな……!」


「その様だな。まあ、まともに食らったら互いに致命的な傷を負うからな。当たらない事を前提にしていた方が良いか」

「そうみたいだな。だが、人数的には此方こちらが有利。実力的にもだ。それなら仕掛け続ければいずれは決着が付く」


 互いに互いの一撃は致命傷。実力的にはハデスとポセイドンの方がシュヴァルツよりも上だが、前述したように破壊魔術は無効化の能力でも無ければ当たるだけで大きな影響が及ぶ。なので油断は出来ないのだろう。


「それが問題だな。数の差を埋める生物兵器の兵士や合成生物(キメラ種)は此処に来た瞬間テメェらに全て消されちまった。まあ、戦力になるとは思っていなかったが、少しでも隙を突ける機会がありゃあ良かったんだけどな」


「だからこそ消したって訳だ。一般の兵士達にとっては強敵な生物兵器の兵士達も、私たち主力の前ではあまり意味を成さない。だが、視界が兵士達に埋められると狭まり、そこかしこから飛んで来る魔法や魔術。銃弾に弓矢はダメージは無いが煩わしい。折角先手を打てたんだからな。此方で既に準備を終える必要があった」


「そうなんだよな。抜け目が無い神様達だよ、本当にな。てか、御伽噺おとぎばなしや本でも悪役が兵士を連れて国に攻め入るのは常識なのに、何でそれを阻止するんだよ」


「此処が現実だからな。御伽噺や本程に都合の良い世界は広がっていないのさ。……魔王を連れるでもしなければな」


 策で言えば、不意を突いて生物兵器の兵士達を消し去り、自分の得意とするモノクロの空間と海に連れて来る事が出来たハデスとポセイドンが一枚上手である。

 シュヴァルツはそれについて悩んでおり、御伽噺や本を例に出して文句を言う。正義の味方としても、悪の存在としても思うようにいかないのは世知辛いものだろう。


「まあいいや。一番やりたかった強敵との戦いがやれている今の事柄は変わらねェからな。こんな所に来ちまったんだ。元々は一番の目的だった選別は……まあついでで良いか」


 もっとも。シュヴァルツ自身は正義も悪も関係無く、純粋に今の状況を楽しんでいるのだが。

 本来の目的である優秀な存在の選別。それもして置いた方が良いのだが、この世界から抜け出さなければそれも不可能。なのでシュヴァルツは"嫌々"、嬉々とした表情で呆れた様子を演じながら向き直る。


「だってしょうがねェもんな? 元の世界に戻るにゃ持ち主を倒した後で此処と元の世界を繋ぐ次元の壁を砕いて脱出しなくちゃならねェからなーッ!? 本当に残念だぜー!」


一層いっそ清々(すがすが)しいな。そこまで堂々とするメンタルは良いんだが、今と出会った立場が違えばもっと良かった」


「ハッハッハ! いや、何か気分が良くてな! 今の俺は誰にも負ける気がしねェんだ! 何でだろうな? 何か力がみなぎって来てやがる……!」


「「……!」」


 次の瞬間、シュヴァルツを中心に周りの空間が砕け散って崩壊した。

 その衝撃にハデスとポセイドンの二人は警戒を高め、改めてバイデントとトライデントを持ち直す。


「魔力の質と身体能力が向上したな。一撃一撃で生きるか死ぬか、そのギリギリの瀬戸際を味わう事で覚醒でもしたか?」


「まあ、体内に魔力や妖力。仙力に神力が宿る者ならそれは別におかしい事ではないな。様々な動物が環境に応じて進化したように、極限の戦闘を求めるあの者の魔力が進化する事もある」


 急変とまではいかないが、若干唐突に高まったテンション。気力。やる気。

 その事を指摘するようにハデスは呟き、ポセイドンが推測して話す。そう、肉体に適度なストレスが与えられる事で生き物は成長する。ずっと戦いたがっており、実際に相応の強敵を目の当たりにしたシュヴァルツは今、細胞レベルで進化しているのだろう。

 二人は初めて表情から余裕を消し去り、存在その者が敵であると判断して向き直る。


「ハッハ! 成る程な! ヴァイスが生物兵器の兵士に様々な実験を施していたが、それは"覚醒"という事でより強力な生物兵器を生み出す為だったのか! だが、成功者は0。となると、俺は生物兵器ならずして完成品になったのかもな!」


「完成"品"か。自分自身を物のように話しているな」


「実際、本人からしたら全く関係無いのだろう。本人が知っている最も相応しい言葉が生物兵器の完成品ってだけだ」


「御名答! ぶっちゃけこの溢れる力の正体は全く知らねェからな! "何か強くなった"って心の片隅にでも入れておけ!」


 力が向上し、破壊魔術の精度も高まる。シュヴァルツ自身もそれが何なのかは分からない様子だが、一つだけ言える事があった。

 それは、たった今この瞬間、シュヴァルツの身体能力もハデスやポセイドンに匹敵する存在となったという事だ。


「じゃあ、やろうぜ? 戦いの続きをな。この力を試せる機会は無かったから楽しみだぜ!」


「単純で純粋。それ故の力の覚醒か。厄介な事になった」


「ああ。我らももう少しだけ本気を出した方が良さそうだな」


 シュヴァルツが先を促し、その存在を厄介に思いながら微動だにしないハデスとポセイドン。

 成長したシュヴァルツと二人の主力による、モノクロの空間に顕在する海上での戦闘。それはより激しく続くのだった。

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