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九百十二話 アンデッドの王vs幻獣の王

 ──"幻獣の国・支配者の街・トゥース・ロア"。


「どう? そろそろ限界が近いんじゃないの。支配者さん。貴方は元々古参の支配者。寄る年波には敵わないんじゃないかな?」


『手厳しいものだな……! やはり歳を取るというのは様々な不調をきたすようだ……!』


 ライたちとヴァイス。ゾフルが戦闘を行っている頃、幻獣の国支配者の街"トゥース・ロア"ではマギアが支配者であるドラゴンを追い詰めていた。

 ドラゴンは決して弱い存在ではない。如何なる武器も通さぬ鱗に万物を切り裂く爪や万物を焼き尽くす炎。支配者として十分な力は持ち合わせている。

 だが、今回は相手が悪かったとしか言えないだろう。元より全知全能を目指す為に様々な魔法・魔術を会得しているマギア。如何なる攻撃も通じぬ肉体を持つ相手にはマギアが持ち合わせている知能や魔術によって攻撃を通す。ドラゴンにとってマギアは純粋に相性が悪い存在なのである。

 加えて肉体的にも色々とガタが来ている。だからこそ時期支配者を息子のドレイクに譲るつもりだったのだが、当のドレイクは世界各国を旅していて滅多に国に帰らない。老体の幻獣の王に消滅せぬ限り一生現役であるアンデッドの王の相手はかなり厳しいのだ。


『確かに状況は悪い……しかし、だからと言って引き下がっては国を治める支配者の存在が務まる筈もない……!』


「……!」


 次の刹那、ドラゴンは羽を広げ、一羽ばたきで光の速度を超えて加速した。

 咄嗟の加速にマギアは反応し切れず吹き飛び、幻獣の国にある森を突き抜けるように直進する。その直後、国にある一際大きな山に衝突して立ち込める粉塵と共に動きは止まった。


「やるじゃん。まだそんな力が残っていたんだね?」


『……! 空間移動の魔術か……!』


 山から立ち上る遠目にも分かる粉塵。それとは関係無く、ドラゴンの背後からは空間移動の魔術によって移動したマギアが姿を現した。

 その出現に対応したドラゴンは飛び退くように距離を置き、そのまま空へと飛び立って下方へ火炎を吐き付ける。

 一気に放出された炎は見る見るうちに広がり、波打つように周囲を焼き払った。

 自分の国なので後始末は大変だが、そうも言っていられない現状。住民は最優先だがこの街自体は二の次である。


『これくらいでは微塵もこたえぬのだろう。牽制にくらいはなれば良いのだがな』


「うん、残念♪ それと、影響が無い訳じゃないよ。ただ単に貴方の炎を私の魔術で無効化しただけ」


 放たれた炎の中心から風が吹き抜け、そこからマギアが姿を現す。本人も言うようにどうやら魔術をもちいて炎を消し去ったのだろう。

 風に巻かれた炎は竜巻となりて幻獣の国を飲み込み、それはドラゴンが羽ばたきで消し去る。


『遠距離からの攻撃はあまり意味が無さそうだな。まあ、魔術師相手に遠距離から攻めるのは愚策に他無いか』


「そう言う事。と言うか、だからこそ貴方が此処まで追い込まれているんでしょ? まあ、近距離の戦闘にも私は対応出来るんだけどね」


 マギアは遠距離戦闘より近距離の戦闘の方が苦手だが、別に戦えないという訳ではない。そうでなくてはドラゴンを追い詰める事など出来ないからだ。

 だがどちらかと言えば苦手である。故にドラゴンはマギアに向けて突進した。


『対応出来たとしても、有利ではある筈だ。一気に決めさせて貰う……!』


「アハハ。此処まで何回近接戦に持ち込んだか覚えている? どちらにしても無駄だよ♪」


 光の速度を超えたドラゴンによる突進。マギアは魔力からなる壁を周囲に形成してそれを防ぎ、衝突の衝撃で周囲の森が吹き飛ぶ。

 衝突したドラゴンは弾かれるようにマギアから距離を置き、再び炎を吐いて牽制。炎によって視界が消え去るのを見越し、死角から勢い良く尾を振るった。


「……! 畳み掛けるね……連続攻撃……! 防壁がたった三発で壊れちゃったよ……!」


『寧ろ俺の攻撃を受けて三回も耐えた事が驚きだがな。かなりの強度を誇る防壁だ』


「アハハ♪ まあ、惑星破壊クラスの攻撃くらいなら耐えられるかな?」


 防壁を砕くと同時にドラゴンは爪を振るい、マギアの身体を切り裂く。マギアはギリギリでかわし、服が破れ心臓付近の胸に切り傷が形成された。


「危ないなぁ。心臓は血液が多いんだから。心臓が切れたら服が汚れちゃうよ」


『やはり急所を狙っても意味が無いという事か。胸が駄目なら残る急所は頭。目。鼻。顎。首。股関節。一番可能性がありそうなのは頭。脳だな。貴様の話ではリッチの同種族の脳と心臓を食して力を向上させたらしいからな』


「胸とか股間とか、エッチだねぇ。ドラゴンさん。それに、私自身何度か脳は傷付いているよ。それでピンピンしているんだから、あまり意味が無いって分かっているんじゃないかな?」


「物は試しだ。しかし、確かに股間部分はあまり影響が無さそうだな。通常股間部分に衝撃を与えればその衝撃が直接骨に伝わり、体内を内部から破壊するが、即座に再生するのだろうからな」


「もう、ノリ悪いな」


 人体には様々な急所部分が存在している。それはおそらく、リッチになる前のマギアもそうだったのだろう。

 だが推測からして唯一の弱点になりそうな脳。そこにもあまり影響は及ばなそうな雰囲気。心臓にも直接食らわせた訳ではないが、やはりダメージを与えるのは困難を極めそうである。


『根本的な部分は生物兵器と同じ。それなら、やはり隙を突いて炎で完全消滅させるのが一番か』


「隙を突けるならね? 自分の弱点って言うのは、誰よりも私自身が自覚しているものだよ。細胞一つ残さず消し去るすべを持ち合わせている貴方の技は常に警戒しているんだからね?」


 ドラゴンの狙いはマギアの肉体を細胞一つ残さず消し去る事。しかしそれはマギアも承知の上。ドラゴンと出会った瞬間から常に警戒していた事である。

 だからこそ困難を極めるのだ。決して慢心はしない。余裕を見せても常に相手の動きを見ている。そうでなくてはドラゴンが此処まで負傷する事も無かっただろう。


「だからこそ……少し本気出しちゃおっかな? ──"女王の炎(クイーン・ファイア)"……!」


『……!』


 次の刹那、リッチとしての魔力をもちいて炎を放ち、ドラゴンの身体を炎上させた。

 炎は渦巻くように全体を熱で巻き込みながら直進し、先程までドラゴンの居た場所から全ての自然が消え去る。正しくは、ドラゴンの居た場所から半径数十キロの自然が完全に消え去った。


『成る程。確かに本気……だが完全な本気では無いようだな。本来なら星一つは余波で蒸発する程の炎を扱えるだろうからな』


「そうだね。まあ、今回の私の目的は相手を殺す事じゃないからねぇ。あくまで捕らえるのが目的。此処にドラゴンしか居なかったのは残念だけど、後々は他の幻獣達も捕まえるつもりだよ♪ だから、本気で戦ったら周りが消えちゃうから出来ないって感じかな」


 選別が目的であるマギアに、相手を殺すつもりはない。余波によって巻き込まれてしまう場合は仕方無いが、元より主力クラスは余波などで死ぬ訳がない。それを逃す訳にはいかないのだろう。

 無論、ドラゴンに逃げるつもりなど毛頭無いのだが。


『それはさせぬ。国を護る支配者として、幻獣の王として貴様を葬り去る……!』


「出来ると良いね。そんな事。"女王の水(クイーン・ウォーター)"!」


 旋回するように空中を飛び交い、加速を付けてマギアに迫る。

 マギアはリッチの力からなる水魔術を放ち、ドラゴンは自身の炎と風を纏ってそれを消し去りながら加速した。

 同時に過ぎ行き、ドラゴンの突進を紙一重で躱したマギアは魔力を込め直した。


「龍退治にはこれかな? "女王の剣(クイーン・ソード)"……!」


『魔力からなる剣か』


「如何なる武器も通じないって言う自慢の鱗だけど、私の魔力から造られた剣はどうかな?」


 マギアが造り出したのは剣。

 伝承や神話に置いて、英雄は剣をもちいて龍をほふると相場は決まっている。故にマギアは剣を造り出し、伝承を再現しようと考えているのだろう。


『確かにそれはやってみなくては分からないな。だが、龍は古来より天候や様々な現象を操る事も知っているだろう。実に久し振り……数百年振りだが、持てる力をもちいて攻め行く……!』


「良いね! それくらいの気概が無くちゃ支配者は務まらないよ!」


 ドラゴンは、龍には幻獣から神まで多種多様の存在が居る。それに伴って扱える能力も様々だ。

 支配者であるドラゴンはその様な神に匹敵する龍を差し置いての支配者。だからこそ、それ相応の力は扱えるのだ。

 マギアは笑って返し、更に言葉を続けて剣を構えた。


「だけど、数百年振りって言っていたよね? という事は衰えている筈……今まで使っていなかった事も考えると、その能力には時間制限があるって見て良いかな?」


『……っ』


 ドラゴンの言葉から、マギアは今まで様々な龍の力を使っていなかった理由を推察する。

 そう、"世界樹ユグドラシル"での"終末の日(ラグナロク)"と言い、それよりも前の幻獣の国での戦争と言い、ドラゴンは今の今までその力を使っていなかった。ただ単に使う必要も無かったという可能性もあるが、それらの戦争に置いて様々な危機に瀕したにもかかわらず使っていないのは不自然である。

 だからこそマギアは"使わなかった"のではなく、"使えなかった"のだと考えていた。

 数千年に及ぶ支配者ドラゴン。その老体に神にも匹敵する能力を扱うのは厳しいものがあるのだろう。


「沈黙は是って言うよね。まあ、話せない場面もあるから必ずしもそう言う訳じゃ無いんだけど、今回は前者が正しいみたいだね♪」


『ふっ……俺も衰えたな。そろそろ一人称を私かワシにでも変えてみるか』


「え、そう言う問題?」


 マギアの言葉は正しい。だがドラゴンは構わず、力を込めて一気に加速した。


『問題を強いて挙げるなら、世界が崩壊しないかどうかだ』


「いや、そう言う事じゃなくて……ね!」


 周囲に雷撃をほとばしらせ、マギアに向けてそれらを放出する。対するマギアも雷魔術をもちいてドラゴンのいかづちにぶつけ、周囲が放電による目映い光で包まれた。

 その衝撃で天候が変化し、近隣にある雲が集って黒い雷雲が形成される。同時に雨のような雷が降り注ぎ、幻獣の国の森が焼き払われた。


「へえ。私の雷と互角……本気じゃないにしても、自然の雷とは比べ物にならない威力なんだね♪」


『それは遠回しに自画自賛しているな。だが、それはまあいい。一筋縄でいかない敵という事には変わり無いのだからな』


「アハハ! 貴方には"時間"って言うもう一つの弱点もあるからね♪ だから時間稼ぎさえすればおのずと勝てるって事だけど……それはちょっとズルいかな? ちゃんと時間内で貴方を戦闘不能にするから安心してね♪」


『身の危険が迫っていると言うのに安心出来る訳が無かろう。だが、その心意気は俺としても助かる。逃げ回られるのが一番マズイ事だったからな……!』


「アハハハハ! それならお互いの利害は一致したね。じゃあ……倒すよ?」


『来るが良い……アンデッドの王よ……!』


 実力は互角。互いに本当の本気ではないが、本気を出したとしても互角だろう。

 だからこそ逃げられる事を懸念していたドラゴンだが、マギアはちゃんと相手をしてくれるらしい。その点に関して安堵し、刹那に力を込めて構え直す。対するマギアも剣を握り締めながらも魔力を込めた。

 マギアとドラゴン。アンデッドの王と幻獣の王。二人の王が織り成す戦闘も終局が見えてきていた。

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