九百十一話 ゾフルvsシヴァ
──"魔族の国"。
「あーあ……やっぱ駄目かもしんねェな……勝てる見込みが無ェ……」
「「…………」」
「だろうよ。頼みの綱のシャドウとゼッルも拘束した。つか、元々お前一人じゃ幹部一人にも勝てねェだろ。まあ、幹部の存在は魔族の国の最大戦力。敵にも幹部クラスが居るとかじゃなきゃ、裏切り者一人に負ける訳ゃ無ェよ」
ライたちとゼウスとグラオ。そしてヴァイスと孫悟空に四神。各々の戦闘が終盤に縺れ込むに連れ、魔族の国にて行われる支配者シヴァとゾフル、シャドウ、ゼッルの戦闘はシャドウとゼッルが拘束され、ゾフルが地に膝を着いている状態で進行していた。というより、ゾフルが敗北の一歩手前まで来ていた。
元より幹部と支配者の実力には差がある。幹部と側近の差は支配者程ではないが、それでも離れている。
つまるところ、此処にシヴァが来た瞬間からゾフルに勝てる道理など皆無だったのだ。
「だが、ただやられるのは何か嫌だな。俺も国を捨てて侵略者になったんだからな。最期に足掻くだけ足掻いてやろうじゃねェか……ハリーフみたいによ……!」
「……。ほう? そう言えばハリーフは死んだと報告があったな。その最期は生物兵器になっての死亡……。だが、確実に死んだと言える現場を見た奴は居なかった。お前の言葉からするに、それは本当みてェだな」
「ああ。だが、俺には身体を改造する時間がねェ。その場凌ぎでやってやるよ!」
次の瞬間、ゾフルは雷へと変化して消え去り、残っている生物兵器の兵士達の元へと向かった。
何かを企んでいるのは明白。本来ならそれを阻止した方が良いのだが、シヴァは敢えて何もしなかった。
ゾフルは元々魔族の国の主力。シヴァの見ていない所で行われたハリーフの件もある。なので何かをしようと言うのなら、それを見届けてやろうという気概なのだろう。
「……。……ハッ、有り難うよ。シヴァさん。アンタなら俺に追い付いてトドメも刺せた筈。俺のやる事を待ってくれるのか」
「ああ。これは余裕の表れだ。だが、何年かは幹部の側近として働いてくれていたお前に敬意も無い訳ではないさ。さて、お前の全力。俺が受け止めてやるよ」
「本当に良い支配者の元に付けて、俺は幸せ者でしたよ……!」
次の刹那、ゾフルの雷の身体が生物兵器達の近くで炎へと移り変わり、生物兵器の兵士達を飲み込んだ。
それは一体や二体ではなく、その場に居た生物兵器の兵士達全員。見る見るうちに生物兵器の兵士達は消し炭となり、気化してゾフルがその残骸を取り込む。
取り込まれた生物兵器の肉片はゾフルの傷を埋め、それ以外は肉体に吸収される。それから数秒後、全ての生物兵器達は完全消滅し、ゾフルに取り込まれ終えた。
「……っ。ハハ……これで……こレでオレは生物兵器に成っタ……!」
「お前の能力。そんな力もあったのか。確かに身体を炎や雷その物にしているから、そこに巻き込まれた存在を吸収しても別におかしくはない」
ゾフルは取り込み終え、再び膝を着いて脂汗を流す。やはり無理矢理の結合。身体への負担もかなりあるのだろう。
対するシヴァはゾフルの行った事を冷静に分析しており、自分自身の身体と生物兵器の破片を炎によって溶かして吸収した事も分かった。
ゾフルは立ち上がり、フラ付きながら言葉を続ける。
「……っ。呂律ガ回らねェナ……ハリーフもコンな気分だったのか……!」
「気分が悪そうだな? 大丈夫か?」
「心配ハ要りませんよ……シヴァさん……! 直に身体は……慣れる……!」
所々片言だったゾフルだが、次第に言葉が鮮明に聞こえるようになる。やはりゾフル自身がセンスの塊。そう言った力に適合するのも早いのだろう。
同時に身体を雷に変換させ、シヴァを睨み付けて言葉を発した。
「後は……戦って支配する!!」
「……!」
一瞬にしてシヴァの背後に回り込み、霆混じりの回し蹴りを打ち付ける。それをシヴァは屈んで避け、背後に向けて蹴りを放つ。それをゾフルは躱し、シヴァの正面へと移動して力を込めた。
「焼き……消えろ……!」
「確かに力が上がっているな。今なら幹部に勝てるかもしれねェ」
それと同時に放たれた炎と雷の融合技。
名は無く、ただ力一杯に放出しただけのそれによって前方が消滅して消え去り、エネルギーの通った痕のみが残った。
見れば遠方の山も貫通しており、山自体は砕けていないが真っ直ぐな光線が重力を振り切って宇宙にまで飛び出したと考えるのが妥当だろう。
「この力が相手じゃ星が持たねェな。場所を変えるか」
「ハッ、好きにしな。何処だろうと、俺はテメェを倒す!」
その瞬間、周りの世界が弧を描くように廻り、一瞬にして別空間へとシヴァとゾフルを誘った。
無論、此処はシヴァの力からなる世界。生物兵器と融合した今のゾフルの一撃は世界を揺るがすものとなるだろう。だからこそ移動し、世界に及ぶ影響を最小限に抑えようと考えたのだ。
「これで存分に暴れられるな。まあ、今のお前が与える影響は未知数。取り敢えずは銀河系並みの範囲を誇る星を創ったが、宇宙破壊規模の攻撃なら世界に何らかの影響が及ぶかも知れねェ。まあ、そうなった場合は無限の空間を創れば良いだけなんだがな」
「良いじゃねェか……! 今の俺の力……確かめてやるよ……!」
銀河系並みの範囲を誇る世界。そこにてゾフルは周囲に電磁空間を展開させ、自分の戦いやすい世界を形成した。同時に身体を雷に変化させ、雷の中を移動して瞬間移動のようにシヴァの背後へ回り込む。そのまま両手を炎に変え、シヴァの身体を灼熱の業火で包み込んだ。
「お前の力はそんなもんじゃねェだろ。態々こんな空間まで創る必要も無ェ筈だ」
「此方にもやり方があるんでね。俺は俺なりに、俺流のやり方でやるだけだ!」
炎を一瞬で消し去るシヴァと、その周りに展開されている電磁空間を連続するように瞬間移動するゾフル。
おそらく翻弄するのが目的なのだろう。そこから隙を突いて的確な一撃を与えるのが狙い。シヴァはそれも全て理解していた。
「となると、この空間が邪魔だな」
「……!」
それと同時に破壊を創造し、ゾフルの張った電磁空間を自分の位置から中心に崩壊させる。そこから天空へ手を翳し、無数の隕石群を降り注がせた。
「一つ一つが惑星破壊規模の威力を誇っている。さて、お前はどうする?」
「どうする必要もねェさ。本気のテメェならそれこそ惑星サイズや恒星サイズの隕石を落とす事も可能な筈。まだ俺を舐めているみたいだな……!」
次の瞬間、ゾフルはその隕石群を全て片手からなる霆で破壊した。
同時に炎で焼き払い、余波も含めて消滅させる。そのまま踏み込み、シヴァに向けて加速した。
「また正面から来るのか。それじゃ意表は突けねェぜ?」
「それはどうかな?」
「……!」
そしてゾフルは──瞬間移動を行った。
そのままシヴァの背後へと回り込み、炎と雷を纏った両腕を突き刺す。強靭なシヴァの肉体には焼き切れて小さな傷痕が付く程度だが確かな一撃は入る。
同時にゾフルは距離を置き、周囲の岩盤を触れずに持ち上げてシヴァへと放つ。シヴァはそれらを片手で砕き、その力を推測した。
「……その力……超能力か? 岩盤を電磁石にして持ち上げる事も今のお前なら可能と思ったが、瞬間移動や何の仕込みも無く岩盤を持ち上げた様子からしてお前自身の能力じゃねェ事は分かった。生物兵器を取り込んだみてェだが……その中には完成品も混ざってたのか?」
それは、生物兵器の完成品の力があるのではないかとの事。
通常、生物兵器は未完成ならその能力は肉体的な不死身性と鬼に匹敵する剛力。そして単純な魔法や魔術に武器などを扱える知能のみである。
しかし完成品は自分の意思を持ち、前述した力を少し強化したものに加えて超能力を扱え、自身が受けた攻撃を学習して模倣する。その能力は主力クラスに匹敵するものとなるのだ。
シヴァの推測を聞き、ゾフルはクッと笑って言葉を返す。
「いや、"完成品"は混ざっちゃいねェよ。使った超能力は"未完成品"の力だ」
「……。成る程な。確か、通常の生物兵器より上の力を持ちながらお前達が未完成と切り捨てた存在もあったんだっけか。その特徴は──」
「──ああ。機械的に動く知能しか無く、様々な攻撃を受けて漸く完成する使いにくさ。それが未完成だ。……だが、確かな力はある。俺はそれを取り込み、超能力や炎や雷に変化させる力以外の魔法・魔術を身に付けた」
ゾフルが取り込んだ生物兵器は、あくまで未完成品である。
ゾフルが言ったように知能。厳密に言えば自分の意思を持たず、様々な者と触れる事で初めて完成する存在。
ゾフルがそれを教えるのは余裕の表れか自己顕示の為か。それは不明だが、全て推測する必要も無くなりシヴァにとっては楽で良かった。
「それを教えるってのは俺的には有り難いが、お前的にはあまり良くねェ筈だ。生物兵器の力を取り込んだくらいでそこまで自信に溢れたか?」
「違うね。俺はテメェの能力を知っているが、テメェが知らねェってのはフェアじゃねェだろ? 裏切りはしたが、魔族としての性分は残っているぜ?」
「そうかよ。だが、それは良い事だ。お前がただの裏切り者ってだけじゃねェ事が分かったからな」
国を裏切ったゾフルにも、ゾフルなりの考えがある。それを理解したシヴァはゾフルに応えるよう、魔力を込めた。
「んじゃ、俺もそろそろお前に合わせてやるか」
「……。そうか。それは有り難い」
──その瞬間、ゾフルの頭上に"惑星"が創造された。
そう、"惑星"である。
無数の惑星が顕在し、その全てが下方目掛けて降下する。シヴァ自身も何度か行った事のある戦法であり、純粋に惑星を高速で落とせばその数万から数十万キロの範囲と文字通り惑星一つを容易く崩壊させる破壊力から攻撃としては適性な技なのである。
「本来なら星も砕けねェ俺だが……今の俺ならそれも可能だ……!」
「……」
降り注ぐ惑星の隕石を見やり、自身を雷に変換して加速。一瞬にしてそれら全てを消滅させ、そのままシヴァの背後から回り込む。
「瞬間移動は便利だな。まるで隕石群にお前が行ったように見せ掛けられる」
「……!」
その瞬間、シヴァは背後へ回し蹴りを放ち、姿を現したゾフルは飛び退いて距離を置く。
先程雷になったのはその力を用いて星を砕く為ではあるが、ゾフル自体は特に動いていなかった。雷のみを放出して姿を眩ませ、瞬間移動で死角に回り込んで仕掛けるのが目的だったのだ。
しかしそれは無意味に終わり、シヴァには即座に気付かれる。やはり隕石によって広範囲が見え難くなる可能を考え、常に気は張っているのだろう。
「ハッ、やっぱ気付かれてたか。まあ、引っ掛かるなんて思ってはいなかったけどな!」
「身体の調子も良くなったみたいだな。さっきよりハキハキしてやがる。生物兵器の細胞が馴染んで来ているって訳だ」
「……! そう言や身体の調子が良いな。クハハ……! こりゃ良い……! もっと馴染ませて……華麗に支配者に勝利してやるよ……!」
「そうか。それは楽しみだ」
惑星を破壊した辺りからゾフルの調子が上がっている。それを見抜いたシヴァだが本人は気付いていなかったらしく、改めて力を込め、荒々しい口調で身体に力を込める。
当初の目的は選別なのだが、シヴァを前にすると勝ちたいという気持ちに拍車が掛かるのだろう。元より地位と力を求めていたゾフル。当然と言えば当然だ。
シヴァとゾフル。生物兵器の細胞を取り込んだゾフルが強化されつつある中、銀河系の範囲を誇る惑星に置いての戦闘が続くのだった。