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九百六話 仲間の存在

 何もない別の次元へと移転させられたライ達は構え、互いに互いの出方をうかがっていた。

 純粋な力ではライ(喜)とライ(冷)に劣るライだが、敵も油断している訳ではないようだ。

 実際、敵が魔王の力というだけで確実に勝てるという確証は無くなる。如何に容赦せずに打ち倒すとしても、油断していたらその隙を突かれてやられるのが関の山である。

 なのでそう簡単に動かないのだが、


「このままにらめっこしていても永遠に終わらないな。折角だ。俺が先に仕掛けよう。俺自身の全力、まだアンタは体験していないだろ?」


「そうだな。それじゃ頼むよ。参考になる」


 ライ(喜)が名乗り、空間を踏み込んで加速した。

 走っているのか浮いているのか分からないが、確かに駆けてライに迫る。

 ライは自分がどの程度の力になるのかを参考にする為にも構え直し、光の速度など止まっているのと大差無い程の速度で加速したライ(喜)はライに向けて拳を放った。


「オラァ!」


「……ッ! 成る程……凄い重さだ。流石に一撃じゃやられないけど、まともに受けたらヤバイな」


 放たれた拳をライは受け止め、その重さを感じつつ背後に吹き飛ぶ。

 今の激突で複数の宇宙と次元が崩壊したが元の世界でゼウスが修正している。なので無問題だろう。

 しかし、こうも何も無い場所だとまるでこの空間にも影響が及んでいないかのように錯覚してしまう。そんな筈は無いのだが、それもあって手応えは感じない。しかしながらそれのお陰で余計な情報が入らず戦闘に集中出来るとも言える感覚だった。


「何も無いからか、誰かが止めるか自分で止まるしか無さそうだな」


「……っ。ああ……止めてくれてありがとさん……!」


 光の何億何兆倍。無料大数倍。阿僧祇あそうぎ倍。不可説不可説転ふかせつふかせつてん倍。いや、もはや常に加速を続ける無限倍の速度で吹き飛ぶライに追い付いたライ(冷)が膝蹴りで受け止めて蹴り飛ばす。それを受けたライは空中と思しき場所で無理矢理停止し、前後から迫るライ(喜)とライ(冷)に向き直った。


「「遅い!」」

「……ッ!」


 その刹那に二人による拳と蹴り、その他の様々な力を受けてライは吐血し、同時に振り下ろされた拳によって下方、もしくは上か左右へと落下する。

 基本的に銀河系破壊未満の攻撃では傷を負わぬライだが、今回ばかりは小手調べのような軽い一撃で骨が軋み内臓が痛み口から血を吐く程の傷を負ってしまっている。

 魔王の力。改めてその強さを実感した。


「受けたのは数撃だけど、まだ耐えられているのが奇跡だな……けど、我ながら何て力を宿しているんだよ……俺って……」


 口元の血を拭い、即座に周囲へ気配を集中させる。

 元より力の差がある異世界のライ。それが二人も居るのだからその苦労は計り知れない。今の感覚からすれば、まともに戦っていないゼウスよりも二人のライの方が今までで一番の強敵である。


「オラァ!」

「はっ!」

「動きを見切るのも一苦労だな……!」


 形容出来ない程の超速で二人のライがけしかけ、ライはその動きをなんとか見切ってかわす。だが全ては避け切れずに受けてしまい、また傷を負う。

 支配者クラスの存在以外ではあまり傷を負わなかったライからしても、まだ全力で戦い始めたばかりの現在にこんなに傷を負うのは貴重な体験だった。


(小手調べなら支配者並みの攻撃も問題無かったけど、少し厄介だな……!)


 貴重ではあるが、この体験を味わっている暇はない。隙を突かれればその時点で死する可能性の高い今。本当に一瞬も気を抜く事は出来なかった。


「アンタも近いうちにこの力に到達出来たんだろうな。けど、此処で倒されるからそれも遠い夢の彼方に消えるさ」


「まあ、その代わりに俺達がアンタの世界も征服するんだ。アンタは俺。俺はアンタ。アンタが俺に成り代わろうと問題無いだろ?」


「それは駄目だな。俺には仲間たちが居る。アンタらじゃ、俺の代わりは務まらない……!」


 再び先程と同じ力で二人に攻め立てられ、ライはそれを受け止める。相変わらずその破壊力は多元宇宙破壊規模だが今度は吹き飛ばず、二人の拳を掴んで放り投げた。


「仲間の心配なら要らない。俺もレイたちとは知り合いだったからな。まあ、俺の知っているレイたちはもう居ない。完全に成り代わるのは確かに無理だろうな」


「仲間なんか要らないだろ。余計な存在が居るから感覚が鈍る。いいか、よく聞け。──失うものが無い俺はアンタよりも強い」


「好きなだけ言えば良いさ。失うものが無いって言うのは、"護る"べきものが無いって事だからな。俺には"護る"べきものがある……!」


「ならば教えておくよ。"守る"べきものがあるという事は、失うものがあるって事だ」


 仲間が居て失ったライに仲間と出会わなかったライ。"守る"べき存在というものに関して二人にも思うところがあるだろう。

 だが、仲間がおり、失っていないこのライにとっての仲間は、二人のライ達が思っているような存在では無かった。


「そうだな。"護る"べき存在は、言い換えれば失う可能性がある存在だ。けど、俺にとってのレイ、エマ、フォンセ、リヤン……そして各国の支配者や主力はただ護るだけの存在じゃない。俺も"守られている"からな」


「成る程。世界征服に支障が出る訳だよ」

「ハッ、下らないな。どちらにせよ失う怖さに脅える事もあるだろうさ」


 ライにとって仲間は"護る"存在だが、ライ自身も仲間に"守られている"。だからこそ世界征服も強行手段には及ばず、自分を認めさせて行うという方法に出ている。

 それもあり、ライは精神的な部分も安定しており、すさむという事も滅多に無いのだ。


「てな訳で……アンタにも失う怖さを具体的に教えてやるよ……!」


「失う怖さか……けど、その点に関しては問題無い。俺だって大事な人を失っているからな。少なくとも、"旅の動機"はアンタ達と同じだ……!」


 ライ(冷)が迫って拳を放ち、ライはそれを受け止めずに受け流す。そのまま流れるような動きで顔を捉えて拳を打ち付け、弾き飛ばしてもう一人のライ(喜)に構える。

 ライ(喜)は既にライの懐へと迫っており、次の瞬間に拳を振り抜いていた。


「……ッ! やっぱり止められるのは精々一人か……!」


「ハハ、けどやるじゃん。一応俺と同じく魔王と俺の全力を出しているんだ。そんな俺の一人を殴り飛ばすなんてな」


 打ち抜かれたライは空中で身を捻って態勢を立て直し、ライ(喜)が間髪入れずに迫り行く。

 ライは飛び退くようにかわして距離を置き、同時に迫って蹴りを放った。


「あまり俺を舐めるな。あれくらいじゃちっとも効かねえよ……!」


「……。そうみたいだな」


 その足はライ(冷)によって受け止められ、そこを軸に振り回して放り投げる。放られたライはあるのかどうか分からぬ空気を突っ切って進み行き、ライ(喜)がその先で待機していた。


「数と実力。その二つで不利なんだ。もう一噌いっその事、諦めた方が良いんじゃないか?」


「諦める訳にはいかないさ……仲間がアンタらにやられるからな……!」


「定型文のように仲間。仲間。気に入らないな。その仲間を失った俺への当て付けか……?」


 同時にライ(喜)はライの身体を蹴り飛ばし、動きを止めて拳に力を込める。次の瞬間にその拳を放ち──ライの身体を貫いた。


「……ッ! ガハッ……!」


 ライ(喜)の拳はライの腹部から背部に掛けて貫通している。大抵の力では傷一つ付かない肉体だが、流石に魔王と自分の力が合わさった力を受け止めるには脆過ぎたようである。


「当て付け……何かじゃないさ……けど仲間という存在を否定するその様子……もしかして……アンタに宿るエラトマとも仲が悪いのか……?」


「エラトマ? ああ、魔王の事か。さあな。最初に会った時と旅の序盤以外では話してもいないな。話し掛けて来ようとすらしない。まあ、俺には関係無い事だよ。もう既に魔王の役目は終わっているんだからな」


「ああ、そうだな。俺も同意だ。俺には仲間が居ないが、仲間と呼べるかもしれない唯一の存在が俺に宿る魔王だ。……だが、仲間なんて安っぽい言葉は誰にでも吐ける。仲間なら仲間らしく俺に貢献してくれなくちゃな。俺に貢献してくれる魔王は確かな仲間だ」


 ライの身体を貫くライ(喜)の近くから、ライ(冷)も姿を現して同意する。

 どうやらこのライ達は魔王とそこまで親しくないようだ。しかし力は貸している様子を見ると、魔王がライに成ったと考えるのが妥当だろう。

 ただ力を貸すだけの、都合の良い存在。かつての魔王が形無しである。しかしそれならばと、ライは笑って言葉を返した。


「そうか……それなら……俺たちの勝ちだ】

「「……!?」」


 ──次の瞬間、ライの身体から漆黒のオーラが具現化して放出され、それが意思を持つように二人のライを弾き飛ばした。

 急激な力の変化にライ達は戸惑いを見せ、少し距離を置いて警戒を高める。


「その力……魔王の全力……いや、それは最初からそうだな。じゃあなんだ、この感覚は……」


「俺が俺じゃないみたいだな……確かに魔王の力は纏っているけど、何かが違う感覚だ……!」


【クハハ! いいや、何も違っていねえよ! お前達の相手は相変わらず俺だぜ? ちょっとばかし意識は別の所に置いてきたけどな!】


「「……! この口調……! まさか……!」」


【ハッハッハ! 流石の同一人物! 見事に同じ言い方、同じ反応だ!】


 ライの身に起こった変化。それを感じ取ったライ(喜)とライ(冷)はその荒々しい言葉遣いから何かを察し、もう一歩下がるように距離を置いてその様子を窺った。

 確かに見た目はライのまま。貫通した傷も漆黒のオーラによって防がれた。だが中身が違う。そう、その中身──


「「──魔王!!」」

【御名答! 見事に当てた景品は伝説の存在(この俺)との戦闘券だ!! 返品は受け付けねェぞ!】


 ──魔王、ヴェリテ・エラトマ。

 だが、今回の魔王は少し違う。先程まではライが魔王を纏った状態だったが、今回は魔王がライを纏っている。

 それはまさしく、伝説の存在である魔王・ヴェリテ・エラトマとの邂逅だった。


「まさか魔王が直々に出てくるとはな……! 依然として問題は無い……けど、経験で言えば俺達よりも上だ……!」


「ああ。しかも、魔王を文字通り自分の外に出すとはな……戦い方も何も分からないぞこれ……!」


【ハッ、お前ら……いや、テメェらとテメェらの中に居る俺は仲が悪いみたいだな。そりゃそうか。趣味趣向も俺と同じ存在なら、俺にとってテメェらはあまり面白い存在じゃねェからな! 甘さも遊び心も何も無い存在なんてつまらねェだけだ! 手を貸してるってのも、テメェらの血縁故に手助けしてくれてるだけだろ? ーか、片方はまあいいとして、もう片方は俺様の子孫も殺してんだろ? そりゃ許せねェな! ハッハッハ!】


 明るく、豪快に笑う魔王ライ

 そう、あのライ達二人には魔王(元)にとって面白いと思えるものが備わっていないのだ。

 この魔王(元)の宿るライには甘さと直ぐには事を遂行しない遊び心がある。敵のライ達も相手の様子をうかがう為に小手調べをする事はあるが、基本的に直ぐ殺す。

 どちらかと言えば相手をなぶり殺すのが趣味な魔王(元)にとってそんなライ達は退屈な存在なのだろう。

 加えて、仲間を失ったライは不可抗力なので致し方無いが、仲間に出会わなかったライは自分の宇宙を崩壊させている。つまりその世界のフォンセは消されているという事である。他人の親類を殺す事には何とも思わない魔王(元)だが、身内には割りと甘いところがある。故にフォンセを消した事も許せないのだろう。


【さて、テメェら。覚悟は決まってるよな? 元々その為の戦いだ。俺を楽しませろ!】


「……っ。ハハ……魔王がなんだ。俺には関係無い。良いぜ、やってやるよ。アンタらを倒して、さっさとアンタらの世界も征服してやる……!」


「同じく。ハッ、魔王を倒して世界に平和を取り戻す……俺が幼い頃に憧れた勇者物語そのままのシチュエーションじゃないか……!」


 冷や汗は掻くが、魔王を相手にする事自体には付いていない。逆にライ達の憧れである勇者の物語を体験している感覚となり、高揚感も少し出ている雰囲気だ。

 ライとライ(喜)とライ(冷)による戦闘。それはライが押され気味だったが魔王に意思を委ねる事により、戦況が立て直された。

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