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九百三話 三人のライ

「レイたちと出会わなかった俺に……レイたちを失った俺……?」


 ゼウスに告げられた言葉。それを聞いたこの世界のライは反復するようにゼウスの言葉を返した。

 レイたち。レイ、エマ、フォンセ、リヤンの大切な仲間たち。そんな仲間と出会わなかったライに、出会いはしたが失ったライ。現在目の前に居るその様な存在に流石のライも戦慄わななく。


「何でそんな俺を呼んだ……?」


「言っただろう。自分と対話して死者を生き返らせる事。世界の平和を断るのか考えてみよ……とな」


 ゼウスがあのライ達を呼んだ理由はライの意思が何処まで突き通せるのかを確かめる為。

 ゼウスならそれについても知る術は持ち合わせているが、ライ本人はそうもいかない。神としてライに試練を与えているのだろう。


「ハッ、成る程な。自分との物理的な対話って事か……!」


「へえ。ハハ、この世界じゃ、まだレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人が生きているのか。それは良いな。久し振りに会ってみたい」


「ハッ、下らないな。仲間なんて居ない方が征服しやすいだろ。実際、俺と仲間を失ったって言う俺は征服を終えている様子。見たところ、アンタはまだこの世界を征服していないみたいだな」


「……。明るい方が全てを失った俺に、比較的冷静沈着な方が誰とも出会わなかった俺か……。何だこの感覚……何とも言えない妙な気持ちだな……」


 そしてレイたちの名に失った方のライが反応を示した。

 その様子からしてどちらがどちらのライなのかを理解し、二人の世界は既に征服済みという事が分かった。

 そんなライが一番気になるのはその性格。同じ自分の筈だが、片方は異様に明るく片方は無愛想。この世界のライにも思うところはある。


「要するに、世界への復讐の心を持って……復讐の心しか持たずに征服を終えたって訳か。俺がやらない力に任せた世界征服を遂行したと考えて良さそうだな」


「ああ、そうだな。それで、どうすりゃ良いんだ? ゼウス。アンタが俺達を呼んだ理由に自分との対話って言っていたが……もしかして俺と俺で戦わせるつもりか?」


「ハハ、そう言う事なんじゃないのか? まあ、此処にはゼウスとグラオも居るからな。対戦相手には困らない」


 反感を買うかもしれないという理由で断念した、力に物を言わせた世界征服。どうやらこのライ達はそれを遂行したらしく、ゼウスによって呼び出された事を気に掛けていた。

 そう、何の理由も聞かされずに呼ばれた現在、ライ達にとっては迷惑なのだろう。


「……。じゃ、取り敢えずアンタらを殺せば良いんだな?」


「そうだろうな。グラオとゼウスは一度倒した存在……となると問題は俺だな」


「異世界の俺は随分と好戦的……殺伐としているんだな。まあ俺自身、レイたちのお陰で救われている事も多いし……出会わなかったり失ったりしたらこうなるよな」


 この世界のライに対し、異世界のライ達はかなり好戦的な様子だった。と言うのもそれはこの世界のライ自身も検討が付いている。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤン。仲間の存在。彼女たちが居たからこそライは自分を見失う事がなかった。簡単に言えば自己犠牲の思考が振り払われ、他人を頼る事も多くなった。

 それによって各国の主力たちとも親しくなり、全て自分の力で解決しようという、今目の前に居るライ達のような道を歩まなかったという事である。


「ハハ! だって、俺がもっと強ければレイたちを失う事もなかったからな! レイ、エマ、フォンセ、リヤン……皆が死んだ時、俺は赤い涙を流して一生分は泣いたよ! 婆ちゃんに続いて、大切な仲間たちを失ったんだからな! それも全て、俺がなるべく殺したくないという甘い考えを持っていたからだ! だからこそ敵対する者は全て殺した。世界征服を終えた後の世界に戦争の引き金になる存在は要らない……俺は真の世界平和を望んだんだ! だからこそ、常に笑顔を絶やさず、天国の婆ちゃんやレイたちに心配を掛けないように心掛けた!」


「俺は元々一人で世界を治めようと考えていたからな。かつての、俺の憧れである勇者がたった一人で戦ったように、元から俺の力だけで解決するつもりだった。仲間が居たこっちの俺とは色々と違うけど、俺の言葉には確かに同意見だ。一人で世界征服をする為には、圧倒的な力が居る。なるべく殺したくない。平和の為だからと言って犠牲を出す訳にもいかない。それじゃ駄目だ。割りと直ぐに俺は冷静な考えを得た。それで情けを消し去った」


「……。同じ俺だとしても、色々と事情があるのは分かった。けど、その私情を俺の世界に持ち込むなよ。この世界は俺が俺のやり方で征服する。アンタらと戦う理由は俺には無い」


 ライとライ。どちらも二人の世界での経験から、情けなどこの世に存在価値は無いという結論に至ったらしい。二人の言葉からするに主力と兵士。戦争の切っ掛けになりうる存在は全て始末したのだろう。

 同じように征服を狙う存在。ヴァイス達の行う選別は優秀な存在を選ぶ事だが、此方のライ達は逆。優劣関係無く、争いの引き金になる存在は全て消し去ったという事だ。

 しかしそんな事情、此方こちらのライには無関係。異世界の出来事などこの世界には持ち込んで欲しくないと言った雰囲気である。

 ライとライは漆黒のオーラを放出して構え、言葉を続ける。


「ハハ。遠慮するなよ。俺。どうせこの世界も醜い争いが続いているんだろ? この様子じゃ、多分ヴァイス達も生きているよな? それじゃ駄目だ。火種はどんなに小さくても、徹底的に、完膚無きまでに潰さなくちゃな」


「意見が会うな。仲間を失ったって言う俺。俺に仲間は居ないけど、争いは駄目な事だ。だから確実に潰して消し去り消滅させる。完全にな。これまた同意見って訳だ」


「ハッ、そんな事言っていたら征服後の世界の管理も色々と大変だろ。人や魔族。知能の持つ存在が現れればどんなに平穏な世界にも争い事は生まれてしまう。それを受け止め、改心させてこその世界征服だ」


 二人のライは、どんなに小さな争いの心も消滅させる事を目的として行動していたらしい。そうなると世界征服後が凄まじい事になるだろう。それはつまり、悪意を持った時点でライに殺される未来が確定するからだ。

 そんな、この世界のライの言葉に対してライとライは同時に言葉を発した。


「「──ああ、だからもう俺の世界に宇宙は無い」」


「……!」


 それは、唐突なカミングアウト。

 どうやらライ達の居た異世界。そこは、その宇宙(世界)その物が既に存在していない状態にあるらしい。

 考えるまでもなく宇宙を消し去った犯人はこのライ達だろう。生き物が居るから争いが起こる。それは自然の摂理である。だからこそ、その自然その物を終わらせる必要があったようだ。


「……。成る程な。てか、よくそれで俺達は生きていたな。まあ、漏れ出ているその気配から魔王の力は依然として宿っているらしいし、宇宙が消滅した空間でも生きる事は出来るんだろうけど」


「ハハ、そうだな。けど、俺は無の空間に居た訳じゃないな。この世界にもあるだろ? かつての神が居て、現在は勇者が居る聖域の存在。俺はそこで一生を終える為に生活していた」


「……。どうやらまた同意見みたいだな……。驚いたよ。俺も今は聖域に居る。宇宙を破壊する為に力を込めて終わらせたけど、何故か聖域だけは残ったからな」


「また興味深い話が出てきたな……聖域だって? 聖域って、多元宇宙も一瞬で崩壊させる魔王の力をもちいてもその存在が残るのかよ」


 異世界のライ達は宇宙を破壊した。それでも魔王の力が宿っている限り生き抜けるが、それとは別にこの世界にもある聖域にて生活をしていたようだ。

 そんなに設備が整っているのかは分からないが、聖域の存在に興味を引かれるこの世界のライは驚きと好奇心の狭間はざま彷徨さまよっていた。


「ああ。それには俺も驚いたな。まあ、勇者の姿は俺が来た時には既に無かっただんけどな!」


「俺もだ。まあ、見守る世界が消えたんだ。聖域に居る役目を終えたから勇者も消えたって考えるのが妥当かな」


「へえ……」


 聖域にライは居たらしいが、聖域に勇者は居なかったようだ。ライ達はライ達なりに推測しているようだが、その範囲を抜け出すにはまだ時間が掛かりそうな雰囲気である。

 それとは別に、ライとライは構え直す。


「さて、少し話過ぎたな。久々の会話で楽しくなっちゃったよ。魔王とはたまに話すけどな!」


「そうだな。少し長引いた。登場してから数分。暇潰しにはなっただろうさ。聖域は聖域で神聖な雰囲気は味わえるけど退屈だからな。……それで、アンタは俺の味方になるのか?」


「まあ、この世界の不甲斐ない俺に変わって俺が征服を終えるのは良さそうだからな。俺とアンタが戦う理由は無いけど、俺とアンタが組む理由にはなる。ついでにこのまま異世界征服と行こうじゃねえか!」


「俺は一人か。……と言うか、グラオとゼウスは会話にすら入って来ないのかよ」


「何だかややこしいからねー。面白そうだし、ゼウスの寝首を掻けるタイミングを待ちながらライ達の戦いを観察するとするよ。どうせなら参加したいけど、君達の事情は君達で解決しなくちゃね」


「我は本の続きを読む。お主はしかと自分と対話を終えるが良い」


 異世界のライとライは手を組んだ。仲間という関係ではないようだが、利害の一致で一時的な協定を結んだのだろう。

 今回の戦闘にグラオは参戦しないらしく、ゼウスと共に戦況を見守っている。やはり混沌を司る原初の神、カオス。ライに与えられた今回の試練、神として見届けようという気概があるようだ。


「やるしかないか。けど、なーんかやりにくいな。やっぱり俺が相手だからか」


「ハハ。まあ、同じ俺だとしてもその実力はアンタの方が劣るだろうさ。世界征服を終えている俺達にまだ途中のアンタ。ゼウスに傷一つ与えられていないみたいだし、その実力は高が知れている」


「そうだな。始めから結果は見えている。本来なら協力する必要性すら皆無の相手だよ」


 敵対すら二人のライを見やり、ライは肩を落として何とも言えない表情をする。何せ自分と戦うのは初めて。色々と気になるのだろう。

 対する異世界のライ達二人は、流石というべきか落ち着いた雰囲気。文字通り世界に敵が居ない唯一の最強の存在になったからこそ、その余裕が生まれているようだ。


「先ずは小手調べだ。いきなり全力は出さないから安心しろ、俺」

「まあ、"邪魔をする"(イコール)"始末する対象"だからどの道仕留めるけどな」


「魔王の性質は俺と同じ感じか……いきなり全力は出さず、ジワジワと力を高めて行く……」


 二人のライは魔王の力を一割纏い、この世界のライに向き直る。此方こちらのライは二人が相手なので三割の力を纏い、少しでも相手より力を出せるように構え直す。

 八割の力を纏っていたので今のまま行けば勝てたかもしれないが、今回は自分との対話。ゼウスが何を狙っているのかは不明だが、自分の知る自分とは別の自分の話を聞けるのは貴重な体験だろう。故になるべく拮抗するよう、三割の力を纏っているのだ。

 ──もっとも、八割の力を纏っていれば相手も相応の力で攻め立てたであろうが、一先ずそれはて置く。

 ゼウスによって呼び出された異世界のライ達二人。そんな二人はこの世界のライと相対し、グラオ・カオスとゼウス。二人の神が見守る中で、試練と呼べる三人のライ達による戦闘が始まった。

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