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九百二話 ライとグラオの戦況・新たな刺客

 ──"人間の国・支配者の街・パーン・テオス"。


「オラァ!」

「そらっ!」

「…………」


 世界各国の支配者が侵略者相手におもむき、そんな混乱に包まれる中。人間の国にある支配者の街でも侵略者を相手に支配者が──くつろいでいた。

 全知全能の無効化を宣言したライだが、相も変わらずその段階には行けない。グラオもグラオで一撃も当てられない状況。戦況は何も変わっていなかった。


「相変わらず当たらないな……!」

「全くだよ」


 ライは自分の力を引き上げて魔王の力を纏い、光の速度を超えてけしかけるが当たらない。グラオもその事に同意して仕掛け続ける。

 そんなライたちを前に、ゼウスは動かずに避けながら本を閉じて言葉を発する。


「そうだな。一つ教えて置こう。たった今ヘラとヘルメスがライ。君の仲間である魔王の子孫にやられたようだ。まあ、その魔王の子孫もほぼ相討ちのような形。現在は休息を取っている」


「へえ。流石だな、フォンセは。多少は疲れたみたいだけど、幹部二人を相手に一人で勝つなんて。やっぱり心配は要らなかったな」


「休息を取るくらいには疲弊しているみたいだけどね。まあ、勝ったのは事実だから特に何も言わないけど」


 ゼウスの話した事はフォンセとヘラとヘルメスの勝敗結果。

 フォンセの勝利にライは少し安堵した様子を見せ、フォンセも相応のダメージは負ったであろうという事をグラオが指摘する。

 しかし敵の戦力を減らせた事には変わらない。街の守衛をおこなっているアテナはて置き、残る主力は目の前に居るゼウスだけである。


「今の言葉を聞いて更にやる気が出てきたよ……ゼウス! 俺も、もう少し本気を出す……!」


「ハハ、良いね。じゃあ僕も、少し本気を出そうかな……!」


「ああ、構わぬよ。一先ずの目標は我の意思をお前達に向かわせる事だな。精々頑張ると良い」


 魔王の力を上昇させ、八割に引き上げる。ライ自身の全力と合わせるとかなりのモノとなっている事だろう。

 グラオもグラオで自身の力を引き上げてゼウスに構える。ゼウスはそんな二人を一瞥して軽く言い放ち、ライとグラオは一気に踏み込んだ。


「言われなくても!」

「やってやろうじゃないか!」


 刹那に拳を突き出し、ゼウスはそれを避ける。

 そんな二人の拳によって銀河団破壊規模の衝撃波が伝わったが世界に影響を及ぼすよりも前にゼウスが直し、拳も軽くかわした。


「成る程。この一撃で分かった。アンタが世界を修正して避けるまでに少し時間差があるな。まあ、だからと言って攻撃が当たる訳じゃないんだけど。……とは言え、その一瞬の時間差で怪我するかもしれないのに世界を優先してくれるなんて、優しい支配者様だな」


「案ずるな。その程度で傷を負う程にヤワではない。これから行われる全ての行動を遥か昔から知っているのだからな。我がお主を意識するよりも前に身体は既に動いている」


「へえ。そりゃ厄介だ」


 ゼウスは、"ライがゼウスを意識するよりも前"ではなく、"ゼウス自身がライの存在を意識するよりも前"に行動を起こせると告げた。

 確かにその様な力があれば如何なる速度を持とうと攻撃が当たる訳も無いだろう。それこそ多元宇宙を含めた全ての宇宙。全ての次元にて最高の速度の持ち主だったとしてもゼウスに攻撃を与える事は、絶対に不可能である。

 ライが見つけた世界修正から自身の行動までの時間差。それも全て無意味に終わってしまう事柄だ。


「じゃあ、やり方を変えなきゃ君に攻撃を届かせる事は不可能って考えて良いのかな?」


「いや、答えはNOだ。正しくはやり方を変えたとしても我に攻撃を届かせる事は不可能。という事だな」


「ハハ、大きく出たね。それなら不可能を可能にしようかな。僕にならそれも可能かもしれないよ」


「そうだな。結論から言えばお前達のどちらかは私に傷を負わせる。既にその未来も知った。つまり今はそれを待つだけという事だ」


「「…………!」」


 グラオの言葉に返すよう、ゼウスの告げた言葉。それを聞いた二人はピクリと反応を示す。

 そう、全知全能のゼウスは全知全能故に自分と相手がどうなるかの未来も知っているのだ。

 そんな全てを知った上での戦闘。それがゼウスにとって何の意味があるのか、気になるところである。


「へえ。アンタならその未来も変える事が出来ると思うけどな。変えないって事は変えないなりの理由があるんだろ?」


「まあな。しかし大した理由ではない。神として民の行く末を見届けようと考えているだけだ」


「行く末ねえ。けど、その行く末も見ようと思えば見える筈。見届けるのは本当だとして、既に理解している行く末を知ろうとしているのはまた別の理由だよな?」


「そうだな。単刀直入に言えば、我が未来を変えない理由は"今の状況と同じ"という事だ」


「成る程ね。"その方が良い暇潰しになる"からか」


 色々話したが要約すると、全ての答えはただのゼウスの暇潰し。

 現在ライとグラオを相手にしているのも暇潰しであり、さっさと決めないのも暇潰しである。

 ライはそれを改めて理解し、魔王の八割を纏った状態で再び力を込める。


「じゃあ、アンタの知るアンタに傷を負わせる未来。今此処で果たそうじゃないか!」


 同時に踏み込み、光の領域を何段階も飛び抜いて加速した。

 ライの魔王の八割に匹敵する全力と魔王の八割。それらが合わさる事で現在は魔王の八割の本気を纏うならこの全宇宙を崩壊させる事も可能な力を有している。

 ライの攻撃に対してゼウスは片手をかざし、肩を落として言葉を発した。


「フム、避けるだけなのはつまらぬな。ダメージにならなければ良い。だから受け止めてやろう」


「ハッ、本当に余裕があるんだな!」


 渾身の力を込め、腕力のみで宇宙破壊規模の攻撃に引き上げる。ゼウスは避ける素振りを見せず、ライは拳をそのまま放った。


「オラァ!」

「……」


 ──次の瞬間、宇宙が崩壊した。それと同時に全ての世界が元に戻り、ライの拳を受け止めたゼウスは変わらず白紙の本を開いた状態だった。


「……っ。ハハ、まさか本当に簡単に受け止められるなんてな。俺達はどうやってアンタにダメージを与えるんだよ……」


「それを教えてはそれこそ退屈だろう。後、誰一人、微生物一匹として死者を出さぬように世界は戻した。幾らでも攻撃すると良い」


 宇宙破壊の一撃を片手間で受け止めたゼウス。それを見せられては流石のライも冷や汗を流して苦笑を浮かべる。

 魔王の力は健在。今現在は宇宙破壊規模以上の能力でなければ全ての異能を無効化にする事が可能である。にもかかわらずこのゼウスの全知全能は無効化出来なかった。

 確かに世界最強の支配者を謳われているが、少し予想外の実力を有しているようである。


「やれやれ。アンタはどんな感じで倒すべきなんだろうな。まあ、それなら始めから戦うなって話だけど、世界征服を目的にしているから戦闘はけられない」


「避けられないのではなく、みずからで自らに枷を着けたからこそ避けようが無いという事だろう。お主に何があって世界を征服しようとしているのかも分かっている。別にそれは否定しない。何なら、その意思を尊重し、お主が失ったモノを蘇らせてやろうか? 世界の平穏。理想郷の創造。その望みも叶えてやる。それならば世界征服という目的も無くなるだろう」


「……!?」


 ライが世界征服を始めた切っ掛けは、子供心ながらに世界の平和を考えての事。だが一番の決定打となったのは、やはり親の代わりに育ててくれた祖母が処刑された事にあるだろう。

 人間の国では魔族の存在を良しとしていない。魔王に関する過去のしがらみから仕方無いと言えばそれまでかもしれないが、それ故に祖母は処刑され、ライ自身も処刑され掛けた。

 その街自体はライが自分の手で既に消滅させたが、仮に祖母が生き返り、ゼウスの力によってライの望む平和が訪れるなら世界征服をする必要も無くなるのかもしれない。

 ライは少し考え、返答する。


「…………。……──いや、世界平和は俺の力でどうにかするさ。それに、婆ちゃんが生き返るならそれはとても嬉しいけど……めておく。この世は廻っているんだ。地獄に行って、死後にも死後の世界がある事は分かった。輪廻転生もあるらしいからな。一人だけ特別扱いはしないさ……幾ら唯一の血縁者でもな……!」


 祖母の蘇生と世界の平和。確かにゼウスの力があれば現在のライが苦労して行うそれは容易い所業である。だがライはそれを断った。

 ライはこの旅で色々な世界を見てきた。ゼウスの力はそれが以前からそうだったと思わせる程の力を有しているが、だからと言ってライはそれに甘えない。確かに全てが丸く収まるかもしれない。だが、言葉に出来ぬ根本的な部分が引っ掛かっているのだ。

 その言葉を聞いたゼウスは"白紙の本を閉じ"、呟くように言葉を発する。


「……。そうか。それなら──自分と対話してもその考えが貫けるのか試すと良い」


「……? 自分と……?」


 ──次の瞬間、ライとグラオの前に異空間のような歪みが二つ現れ、一瞬後に消え去り二つの影が姿を現した。

 その者は黒い髪を揺らし、辺りを見渡していた。


「此処は……?」

「何処だ……?」


「……。成る程。"自分と"……ねぇ」

「へえ。……けど、それに僕は例外なのかな?」


 その者の姿は、ライとグラオに見覚えがあった。

 黒い髪に黒い目。一見すれば何処にでも居そうな少年。見た事があるというのは、そんな在り来たりな見た目からなるものかもしれないが、ライとグラオにとっての見覚えがあるというものはそれとは全く別物だった。

 特にライは毎朝下準備や川や水辺に寄る時見ている存在。──そう、その者、


「──ライ・セイブル。姿形が俺と全く同じ。違いと言えばその雰囲気くらいか」


「……!? なんだ……? 俺が居るぞ……!?」

「ハハ、何だこれ? そこに居る俺達って俺だよな?」


 一人は怪訝そうな表情で大きく警戒を高め、もう一人は高らかに笑う。

 そう、そこに立っていたのはライ・セイブル。即ちライである。

 しかしそれはライであってライではない。唐突に現れたそれを推測して踏まえ、改めて厳密に言えば、この世界に居るライとは別人という事だろう。


「そこの俺達……ってのは回りくどい言い方だな。異空間から出てきた俺はこの世界の住人じゃないな? ゼウス」


「ああ、そう思ってくれて構わぬ。この世に同じ人物は二人と居ないからな。お主の意思を確かめる為に我が異世界から連れて来た」


 ライの推測は当たり、やはり他のライ達は異世界から連れて来た存在らしい。

 この世に同じ人物が居ない。それがライ達が別世界の住人という証拠。多元宇宙には自分と全く同じ生活をしている者が居ると謂われているが、このライ達もそうなのだろう。

 そんなゼウスと近くに居たグラオを見やり、二人のライは言葉を発した。


「ゼウスにグラオ!? 何故お前達が生きている!?」

「ハハ、本当だ。その姿、まさにゼウスとグラオだな。てか、そこの俺と俺もゼウスとグラオを知ってんのかよ」


「……生きている……?」


 ライ達の言葉を聞き、この世界のライはピクリと反応を示す。

 "何故お前達が生きている"。その言葉が意味する事は、異空間から出てきたライ達の世界に居るゼウスとグラオは既に死しているという事。

 それについてこの世界のライは訊ねるように言葉を続けた。


「アンタ達……いや、アンタらが同じ環境なのか分からないから達って言って良いのかは分からないけど、アンタ達の世界の支配者や主力……グラオやゼウスは死んでいるのか?」


「ああ、少なくとも俺の世界では死んでいるな」

「ハハ、俺の世界でも既に居ないさ。と言うか──俺が殺した(・・・・・)

「奇遇だな。俺もだ。世界征服のついでにな」


「成る程。そう言う世界か……!」


 ライとライは即答で告げた。

 どうやらこのライ達の世界に置いてライは、かつての魔王がおこなっていたこの世界のライが嫌うやり方で世界征服を遂行したらしい。

 二人のライ達が世界征服を行おうと考えた経緯は分からないが、ある程度の流れはこの世界と同じだろう。ただ手荒なやり方を遂行したと考えるのが妥当である。

 ライとライの言葉を聞いて納得した此処のライ。そんな三人のやり取りを見届け、ゼウスは言葉を発した。


「……それと、一つ教えて置こう。この世界のライよ。この二人は────片方は仲間の誰とも出会わなかったライ。もう片方は仲間をみな失ったライだ」


「……な……!?」

「……。へえ?」


「「────……………………」」


 その言葉は、当たり前にその存在が居るこの世界のライの予想だにしないものだった。

 レイたちと出会わなかったライに、レイたちを失ったライ。つまり両方とも、たった一人で世界征服をおこなったという、魔王に最も近い存在という事。いや、もしかしたらもう既に魔王その物なのかもしれない。

 ライとライ。何を思ったか、ゼウスは別の世界線からライ達を呼び出し、この世界のライにけしかけるのだった。

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