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八百九十八話 フォンセvs神々の女王と神の伝達係・決着

「有言実行はする。"魔王の手(サタン・ハンド)"!」


「「……っ」」


 ヘラとヘルメスは素早い。故にフォンセは広範囲に及ぶ魔王の手を作り出して二人を掴むようにけしかけた。

 二人はその手から逃れるように飛び退き、左右からフォンセの元に迫る。


「ふむ、上手い連携だ。流石の主力と言ったところか。"魔王の蛇(サタン・スネーク)"!」


「……! 自身を護る蛇か……!」

「魔王の魔力から作り出された蛇……厄介だな……!」


 魔力を込め、魔王の力からなる無数の蛇を生み出したフォンセはその蛇をもちいてヘラとヘルメスを振り払う。

 全身に鞭を生み出したようなものだが、蛇と言っているだけあって意思があるように動き、牙のような部分も魔力から形成されていた。


「ふふ、これもまた魔王らしいだろう? みずからは手を下さず、自動的に敵を相手取る。自動防御と自動攻撃を兼ね備えた魔術だ。それに、何より蛇というのも魔王らしい」


「やっている事は純粋な魔力操作だが、単純だからこそ強力かもしれぬな……!」

「近接戦を中心的に行う俺たちじゃ迂闊うかつに近寄れねえか……!」


 フォンセはその場にとどまりながら魔力の蛇を操り、一気に放ってけしかける。ヘラとヘルメスはかわし、砕き、切り裂いて進み、フォンセとの距離を詰めるが更に放たれた蛇によってそれを阻止される。

 同時にフォンセ自身も動き出し、魔力を込めて二人に構えた。


「その速度、捕らえるのは面倒だな。上手く誘導するか。"魔王の世界(サタン・ワールド)"……!」


「「……ッ!?」」


 そしてその瞬間、城を覆い尽くす程の不穏な気配が生み出された。

 此処を始めとして城全体が漆黒に染まり、存在自体が恐怖対象となりうる世界が創り出される。この空間ではフォンセの力が無限に増幅を続けるものである。


「この力を使ったのは……いつだったかな。しかしまあ、此処は居心地の良い世界だ」


「何処がだ……! まるでこの世の全ての憎悪を集合させたかのような世界ではないか……! 気分が悪くなる……!」


「同じく……此処じゃ、好戦的な私を演じられないな……!」


 以前フォンセが暴走した時にのみ生み出した自身の能力を上げる空間。その時の記憶は薄れているが、フォンセは感覚を頼って同じ空間を形成させたのだ。


「やはりあの時程の力は出せないな。あの時は一瞬でその時点の全力の数億倍にはなれた。今は良くて今の数十倍か」


「これ程の力でまだ全力には程遠いか。やはり魔王の血縁。根絶やしにしなくてはならないかもしれぬな……!」


「この空間……障害物が無くなったのは私たちにとっても好都合か。魔力の障壁は邪魔だが、先程よりは攻めやすそうだ……!」


 フォンセの力を見やり、本気を出すヘラとハルパーを構えて攻める態勢となるヘルメス。同時に二人は踏み込み、光の速度を超えてフォンセの死角に攻め入った。


「本当に本気を出すみたいだな。それなら私も相手取る……!」


「「……!」」


 死角に向けて魔王の魔力からなる物質のようなナニかを放ち、それをもちいて二人を弾く。それはエレメントなどに干渉しておらず、感覚が近いのは鞭や紐状の存在だろう。

 その太い紐状の魔力を変幻自在に操り、先程の蛇のように仕掛けては狙いを定めた。


「相変わらず簡単には当たってくれないか。早く決着を付けたいんだがな」


「フン、戯れ言を。肉弾戦では私たちに分がある。間合いを詰めれば此方のものだ」


「この謎の物質? これも避けるだけなら簡単ではないにせよ可能だからな。隙を突けばやれる」


 フォンセを護る魔力を潜り抜け、ヘラとヘルメスが再び加速した。

 二人の動きには光を彷彿とさせる線が作り出され、次の瞬間にはフォンセの懐と背部へと迫っていた。


「これも厄介だな。"魔王の盾(サタン・シールド)"!」


「はあ!」

「ハッ!」


 咄嗟に魔王の魔力から強靭な盾を創造し、ヘラの掌底しょうてい打ちとヘルメスのハルパーを防ぐ。

 本気を出した事で恒星くらいは容易く砕けるようになったヘラの掌底打ちによって盾が波打ち、不死身すらをも切り殺せるハルパーによって薄皮が切られたような傷が作り出される。

 やはり主力。超新星爆発にも耐えられるであろう魔王の魔力から作り出された盾も長くは持たなそうである。


(確かポセイドンとハデスで銀河群や銀河団規模の破壊……それには及ばずとも、ヘラの攻撃なら太陽系は破壊出来そうだな。いや、ヘラの主体はあくまで相手の肉体特化。あまり広範囲の破壊は有していないかもしれない……。そうなるとその一撃一撃が超新星爆発に匹敵する威力になりそうだ)


 フォンセは高速で思考を巡らせ、ゼウス、ポセイドン、ハデスに次ぐ実力者かもしれないヘラの力を思案する。

 ポセイドンはトライデント。ハデスはバイデントを持ち出して本気だったが、生身でも銀河系くらいは破壊出来るだろう。それには劣るヘラの強さを考えると、広範囲の破壊は無い代わりに一点特化の力を有しているのではないかという結論に至った。


「はあっ!」

「……!」


 その様な事を考えているうちにヘラは魔王の魔力から形成された盾へと今一度仕掛け、その一撃で超新星爆発に耐えうる盾にヒビを入れた。

 本来ならヒビを入れるだけで計り知れない力を必要とする。それを平然とやってのけるヘラにもやはり主力として確かな実力はあったという事だろう。


(考えている暇は無いな。その隙に砕かれそうだ。主力二人が相手なのは少し辛いが、ポセイドンやハデス程の幹部では無かっただけマシだ)


 思考を切り上げ、魔王の盾を解放してヘラとヘルメスから距離を置く。その間にも紐状の魔力は放つが全て避けられ、フォンセは距離を置きながら力を込めた。


「先にどちらか一方を倒せれば……! "魔王の光束サタン・ルミナス・フラックス"!」


 次の刹那に両手へ魔力を込め、それを光線のように放出する。

 放たれた漆黒の光線は光の速度を超えて進み行き、二人を飲み込むように拡散した。


「危なかった……! 魔王の子孫が強化されている状態でのあの攻撃……彼女が創り出した空間()つゼウス様の力が無ければ世界は崩壊していた」


「その様だな。範囲は精々私たち二人を飲み込む規模だが、直線上にあった全ての存在が消滅しているのを見ると食らったら死んでしまうの」


「ふふ、案ずるな。殺すつもりはない。殺すだけならちょっと力があれば誰でも出来るからな。お前達なら避けられると判断して放たせて貰った」


「いい迷惑だ……!」

「同感です……!」


 魔王の魔力の一斉射出による破壊痕を見、息を飲んで冷や汗を流し、警戒する二人。

 魔王の力の空間によって強化されている現在のフォンセ。そんなフォンセから放たれる魔王の魔術はかなり危険な存在という事なのだろう。


「だが、気は失って貰う。"魔王の衝撃波サタン・ショックウェーブ"!」


 殺すつもりはないが、意識を奪うか敗北を認めさせなければフォンセの勝利にはならない。なのでフォンセは追撃するよう、魔王の魔力からなる衝撃波を放出してヘラとヘルメスを狙った。


「「……っ」」

「まだだ……!」


 二人はそれをかわすがそこにも既に魔王の魔力から創られた紐状の物質が迫っており、縦横無尽な動きで迫るそれらを二人は駆け抜け、跳躍、しゃがみ、切り伏せ、様々な動きで避けてフォンセに迫った。


「此方からも仕掛けさせて貰うぞ……!」

「さっきから仕掛けているけどね……!」


「ふむ……」


 紐状の魔力を周囲に放出しつつ、フォンセは動かずに迫るヘラとヘルメスに注意を向ける。その様子から何かあると二人は分かるだろうが、攻撃しなくては勝てないのはどちらも同じ。より速度を上げてヘラは腕を引き下げ、ヘルメスはハルパーを振り上げた。


「はっ!」

「はあ!」


「──……ッ!」


「「……?」」


 そして放たれた掌底しょうていとハルパー。その二つはフォンセに直撃した。それによってフォンセは吐血し、斬られた脇腹から鮮血が飛び散る。掌底の全身を駆け巡る余波によって目や鼻からも鮮血が散った。

 確かなダメージはあった。だが、本人からすればそれがおかしい。先程まで避ける。もしくは防ぐ事が出来ていた攻撃を態々(わざわざ)自身がダメージを負ってまで何かをしようと言うのか、疑問を頭に浮かべる。


「何が狙いだ? 魔王の子孫。私の攻撃にどれ程の威力があるか分からぬ訳ではなかろう」

「私のハルパーにもな。君の体質から一生では無いと思うが、ただの回復術では癒えぬような傷を負う必要があったか?」


 範囲は狭いが、一点特化故に広範囲の一撃よりも重く鋭いヘラの掌底と不死身をも殺し、中々癒えぬ傷を与えるヘルメスのハルパー。

 それを受ける理由など皆無に等しい。二人の疑問は当然だった。

 フォンセは笑って一言。


「なに……ただ側に来てくれれば……此方としても好都合だったからな……!」

「「……っ!?」」


 ──その瞬間、フォンセの近くに居るヘラとヘルメスは魔王の魔力によって拘束された。

 二人は気付くが時既に遅し。フォンセは既に魔力を込めていた。


「この距離なら、片方は落とせるな……! "魔王の拳(サタン・フィスト)"!」


「「……ッ!」」


 同時に放つ魔王の魔力から形成した拳。それを正面から受けたヘラとヘルメスは吹き飛び、魔王の空間にある漆黒の壁に衝突して波打つように歪ませたた。


「……っ。此処まで……か……」

「マズイな。後は私だけか……」


 それによってヘルメスは意識を失い、壁に弾かれるように地に伏せる。ヘラはそれを一瞥して即座に態勢を立て直し、力を込めてフォンセの眼前に肉迫した。


「魔術を使えば少なからず隙が生まれる……故に、仕掛けようぞ!」

「……さて、それはどうかな?」


 光を超えた速度で迫り行き、ヘラは全身全霊の力をてのひらに込める。

 対するフォンセは新たな魔力を込めており、二人の距離が一気に近付いた。


「"女神の愛撫デア・カージ・カイデヴォ"!」

「"魔王の掌底(サタン・パーム)"!」


 そう、ヘラが込めたモノは全身全霊。女神の力が具現化して掌底しょうていに上乗せされ、飛ぶ掌底が勢い良く放たれた。

 フォンセは魔王の魔力から掌を形成し、それをそのまま放つ。原理で言えばヘラの技に近いものがあるだろう。二つの世界を滅ぼし兼ねない掌底は激突し、神の力と魔王の魔力が相殺し合って周囲の空間をも歪ませる。

 そして次の瞬間、魔王の世界諸とも辺りは消し飛んだ。



*****



「便利なものだな。ゼウスの力は。私の世界越しとは言え、城には傷一つ付いていないか」


 先程の衝撃によって魔王の世界は消え去った。その中心から倒れ伏すヘラと片腕を負傷したフォンセが姿を現す。

 おそらくゼウスは現在の様子を、見えていなくても知っているだろう。だからこそ城は無傷のようだ。


「……ッ。流石に……少しキツいか……片腕が使い物にならなくなっただけで済んだのは幸いだった……。ライのお陰でヘラとヘルメス。二人とも既に疲弊していたからな……」


 ズキッと腕が痛み、それに伴って全身に激痛が走ったフォンセは膝を着く。

 そう、既にヘラとヘルメスはライによってそれなりのダメージを負っていた。だからこそフォンセもある程度余裕を持って勝利出来たのだ。

 ヘラとヘルメスが本来の力だったとしても勝てたかもしれないが、そうなっていたら今以上に負傷していたのは明白。片腕と全身に走る激痛のみで済んだのはフォンセにとっても幸運だった。


「少し休むか……兵士達も居ない。応急処置はしておこう……」


 魔力も大分消費した。なのでフォンセは応急処置を施しつつ、人目に付かなそうな場所に移動して休息を取る事にした。

 フォンセが織り成していたヘラ、ヘルメスとの戦闘。それは負傷したが二人の意識を奪う事で決着が付くのだった。

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