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八百九十三話 魔族の国と幻獣の国・国境の街の戦況

 ──"魔族の国・レイル・マディーナ"。


「……っ。さて……そろそろ……終わりか……? ……ハッ……ちょっと……苦戦したな……」


「「…………」」


「やれやれ……やっぱり大変だな……。まあ……相手にシャドウとゼッルが居るとこれも仕方無いか……」


「……っ。ダーク……さん……」

「やっぱ、キツいな……幹部二人を相手にするのは……」

「操られているだけってのは分かるが……十分過ぎる力だな……」


 魔族の国と人間の国の国境にある街"レイル・マディーナ"では、ダークたちとゾフルの決着が付こうとしていた。

 状況はゾフルが負傷しており、シャドウとゼッルも多少の傷は負っている。キュリテ、ザラーム、オスクロの三人は話す事は出来るが動く事が出来ない状態であり、ただ一人幹部のダークが膝を付きながらも戦意を失っていない様子だった。


「後はテメェを……やるだけだ……ダーク……さんよォ……。やっぱ……味方が相手じゃ本領は発揮出来ねェか……?」


「まあ……そう言う節はあるな……。我ながら面倒な性格だ……」


 肩で息をしつつ、弱った様子で身体を炎と雷に変換させるゾフル。ダークは立ち上がり、キュリテたちを庇うように向き直った。


「……まあ……一応主力を努めている存在……実力を買われて危険が多い国境の街を領地にしたんだからな……面倒だが……もう少し相手にするとするか……」


「クク……その意気だ……!」

「「…………」」


 向き直った瞬間にダークは踏み込み、光の速度でゾフルの眼前に迫る。

 だが次の刹那にはシャドウの影魔術によって拘束され、ゼッルの土魔術からなる土塊が隕石のように降り注いでダークの身体を打ち付ける。同時にゾフルが迫り、雷の半身でダークの身体に触れた。


「本来はテメェの速度を見切れねェが……味方が居る今は別だ……!」


「……ッ」


「ま、不本意ではあるがな……」


 触れられた瞬間に電流がダークの身体にほとばしり、全身を雷速で駆け巡って感電させる。

 雷くらいでは死なないが、既にそれなりのダメージを負っている状態での雷撃は中々に辛いものがあるだろう。

 ゾフルとしても出来れば一対一で決めたかった様子だが、今回の標的は全世界。決着を急がなくてはならないのでそう言う訳にもいかないのだろう。


「不本意ならやらなければ良いのに……面倒な奴だな……!」


「……ッ!」


 しかしダークは影魔術を引き千切り、拘束から抜け出してゾフルの顔に拳を打ち込んだ。

 そのままダークは拳を振り抜き、ゾフルの肉体を彼方まで殴り飛ばす。

 ゾフルは既に崩壊した街を更に進み行き、音速を超えて吹き飛ばされる衝撃波によって周りを巻き込みながら飛ばされる。次の瞬間に広範囲から粉塵が舞い上がった。


「まあ……弱った今じゃ意識を奪うまでは行けなさそうだな……戻ってくる前に雑魚共とシャドウとゼッルを何とかするか……面倒臭ぇ……」


 ゾフルの身体は吹き飛ばしたダークだが、まだ敵は残っている。生物兵器の兵士達は兎も角、シャドウとゼッル。立場的に同じな幹部も居るのでまだまだ終わりそうにないだろう。ダークが敗れるまでは。


「「…………」」

「……!」


 その瞬間、再び無言で放たれた影魔術と通常の魔術。それらをダークは拳で払い除け、踏み込むと同時に加速した。

 既に疲弊し切っているので出せる力は限られているが、それでも本来より劣る実力のシャドウとゼッルが相手なら相討ちには持ち込めるかもしれない。

 更に更に加速し、光の速度で迫って拳を放った。


「ラァ……!」

「「……」」


 その拳に影から作られた拳と魔力から形成された拳が衝突し、大地を粉砕して魔力の欠片が周囲に散った。

 しかし生身のダークとあくまで魔力であるシャドウ、ゼッルには差がある。純粋な力なら本来の状態でもダークの方が圧倒的に上だが、魔力から間接的にしか干渉しないので受ける衝撃はダークの方が大きいのだ。加えて既に疲弊している現在、ダークに掛かる負担はかなりのものだろう。


「……っ。やっぱり面倒極まりないな……! まあ、相手が相手だから当然か……!」


 衝撃によって痛む身体が更に悲鳴を上げるがそれを意に介している暇は無い。

 ダークは二つの魔術を振り払い、周りの生物兵器を消しつつ二人の懐へと入り込んだ。


「果たして操られている状態で意識は奪えるのか……。まあ、やってみなくちゃ分からねえか……」


 入り込んだ瞬間にゼッルへ拳を打ち付け、シャドウには回し蹴りを放つ。しかし二人は吹き飛ばず、少し進んだ先で同時に魔力を込めていた。


「……。オイオイ……これヤベ……」

「「…………」」


 ダークが呟いた次の瞬間、そんなダークを挟み込むように影魔術と魔力から形成されたてのひらが迫って押し潰した。

 その衝撃で砂塵が舞い、刹那に魔力が変形して無数の槍を形成。そのまま間に居るダークを貫いた。

 そして二つが消え去り、少し変形した地面の上には全身が砕け風穴が空いたダークが立ち竦んでいた。


「……ッハ……本当に……面倒だ……」


 大量出血と疲労によってフラ付き、口から血を吐いて倒れ込む。その直後、ダーク並みでは無いにせよ同じようにフラ付いたゾフルが姿を現した。


「……っ。やったのか……? シャドウとゼッルの傷がまた増えてんな……弱り切った状態で俺を吹き飛ばして二人にダメージ与えるとか……魔族の国幹部の三本の指に収まるだけはあらァ……」


 ゾフルも疲弊している。キュリテたちは相変わらず動けないので良いが、改めてダークの力に感嘆していた。

 しかしこの戦闘はゾフルの勝利。ゾフルは倒れたダークを回収しようと──


「…………。まだだ……まだ……やれるぞ……まあ……面倒だがな……!」


「……!? まだ……テメェ……!」


 ──した瞬間、完全に意識を失った筈のダークが起き上がり、朦朧とした状態で向き直った。

 その光景には流石のゾフルも驚愕し、思わず後退る。

 それもそうだろう。ダークの強靭な肉体がズダボロに崩壊している今の状態。常人や普通の魔族なら死んでいる程の傷を負っているのだ。仮にこれ程までの傷を負う事があれば、支配者クラスの者ですら意識は失うだろう。

 そんなダークが動き出した。ゾフルは冷や汗を掻きながら構え、操られているシャドウとゼッルも向き直る。


「……っ。もう、止めちまえよ! ダーク!!」


「……!」


 その次の瞬間、自棄になったゾフルは雷速で迫り、ダークの身体に触れる。同時に電流を流して炎で包み、痛みを与え酸素を奪う。それを数分間与え続け、最後に魔力を込めた。


「さっさと……意識を失いやがれ!! 失ってくれ!! "雷炎の悪魔ラアドショーラ・イブリース"……!!!」


 ゾフルに似付かぬ懇願するような叫び声を上げ、全身の魔力から形成した雷と炎でダークの全身を包む。放電と炎上によって崩壊した"レイル・マディーナ"の街は目映い光が包み込み、それが晴れた瞬間、周りには何も残っていなかった。


「ハァ……ハァ……」

「……」


 流石にゾフルも声が出ず、ただ息をするのみ。感電と炎上で焦げ、鮮血が蒸発する事で生じる鉄の匂いに包まれたダークは微動だにしない。


「……。まあ……どうやら」

「……!?」


 そしてその様な状態にあるダークから発せられた声にゾフルは身構える。話す気力は無いが、その疲れ切った表情から何を考えているかは大凡おおよそ理解出来るだろう。


「……今回は俺が負けちまったみてェだな……本当に……面倒だ……」


「「「ダークさん……!」」」


「……」


 そしてその望みは叶い、ダークが倒れゾフルが崩れるように座り込んだ。


「ハァ……あんな化け物染みた力だったか……全然勝った気がしねェ……。……オイ……お前ら……他の主力を拘束しておけ……ダークはより厳重に頼む……」


 その光景を見た瞬間にゾフルは安堵し、勝ち誇る事もなくただ休むように座り続ける。

 魔族の国国境の街"レイル・マディーナ"。そこを攻め立てたゾフルは疲弊したが街は制圧された。



*****



 ──"幻獣の国・国の外門"。


「さて、流石のニュンフェちゃんもおしまいかな? 主力二人が相手だと大変なんだよねぇ」


「「…………」」


「くっ……」


 その頃幻獣の国では、アスワドとラビアによってボロボロにされたニュンフェが片膝を着いてマギアを睨み付けていた。

 この様子を見るに、アスワドとラビアを呼んだ直後からマギアは手を出さなかったらしく、操られた幹部二人によってやられたと考えるのが妥当だろう。


「私は幻獣の国を護る幹部……貴女になんか、屈しません!」


「へえ。流石、誇り高いエルフ族の一人だねぇ。ニュンフェちゃん」


「私は貴女と違って自分の種族に誇りを持っていますからね……!」


「……! ふ、ふぅん。そう。別に関係無いよ。けど、ちょっと気に障ったかな? ニュンフェちゃんにだったかどうかは忘れたけど、前にも言ったように私は私を見て欲しいの。あまり言わない方がオススメだよ。貴女にとってもね……!」


 ニュンフェに種族の事を指摘され、ピクリと見て分かるように反応を示すマギア。やはりリッチという事を指摘されるのは許せないのだろう。

 本人曰く自分を見て欲しいとの事だが、種族越しでその者を確認するのも自分を見て貰えているという事では無いのだろうかと疑問に思う。


「そうですか。それは失礼しました。けど、エルフ族が誇り高いと言ったのは貴女ですからね?」


「それもそうだね。こっちこそごめんね」


 次の瞬間、マギアの背後からニュンフェ目掛けて光魔術が放たれ、縦横無尽に飛び交う光球がマギアを避けて迫った。

 ニュンフェは立ち上がると同時に疾風の如く消え去るような速度で移動してそれをかわし、背後の建物が光の爆発に包まれて消し飛ぶ。


「今は貴女より……アスワドさんとラビアさんを戻すのが先決です!」


「アハハ♪ ……やってみたら?」

「……!」


 その瞬間、マギアの威圧感が高まり、ニュンフェの背筋に悪寒が走る。次の瞬間にマギアはニュンフェの背後へと回り込んでおり、魔力を込めて構えていた。


「遊びは此処までかな。アスワドちゃんやラビアちゃんの操った状態での実力を見たかっただけだから……私がトドメを刺すね? "女王の刺突(クイーン・ピアシング)"!」


「……ッ! カハッ……!」


 同時に放たれた魔力の一突き。それが背部から肉体を貫通する。同時にニュンフェは吐血した。

 攻撃の前にマギアは色々と話していたがラビアの光魔術を避けた瞬間に魔力で拘束を施していた。故に避ける事も出来ず貫かれてしまう。

 マギアにニュンフェを殺すつもりはないので急所は外したようだが、大きな魔力によって貫かれたその傷は致命的だろう。


「……っ。ふふ……この……容赦の無さ……やっぱり……種族について……気に……して……いたのですね……?」

「……っ! 五月蝿うるさいよ! 早く意識を失って!」

「……ッ!」


 貫かれてもなお不敵な笑みを浮かべて挑発するニュンフェにマギアは大きく動揺を見せ、魔力を更に奥へと突き立ててニュンフェの肉体をむしばむ。

 魔力の槍は既に貫通しているのだが、魔力を少し動かす事で傷口を更に広げているのだろう。お気に入りを傷付けたくない主義のマギアにしては珍しい行動である。


「私はもうすぐ意識を失うでしょう……けど……一矢は報います……!」


「……!」


 そんなやり取りの刹那、空から複数の矢が降り注ぎ、その中の一本がマギアの肩を貫いた。

 リッチにして不死身のマギアにダメージは無いが本人は矢を見やり、キッとニュンフェに視線を向ける。


「成る程ね。レイピアでしか仕掛けていないなって思ったら……弓矢は全て空に放っていたんだ? 本当に"一矢"報いたね」


「ええ……エルフ族は……宣言した事は実行しますから……!」


「なら残念。この街を……この国を護る事は出来なかったんじゃない?」


「ふふ……」


 最後に小さく笑い、血みどろの姿で意識を失う。だがそれはそれで違和感が生じる。意識を失った事にではなく、笑った事に対してだ。

 ニュンフェは宣言した事を実行すると言っていた。それなら街を護り切れなかったのは失敗だろう。にもかかわらず笑みを浮かべる様子。それはおかしい。誇り高いエルフ族のニュンフェなら尚の事。

 それらを踏まえて考えた結果、マギアはハッとして周りを見渡した。


「あちゃ~。やられた。他のエルフ達と兵士達。もう居ないなぁ……」


 そう、ニュンフェがマギア、アスワド、ラビアの注意を引いていた時、他の護衛兵が既に移動を開始していたという事だ。

 ニュンフェのおこなっていた挑発もその為のもの。加えて矢を空から降らせる事で更に意識を誘導し、二重の警戒でマギアと兵士たちを引き離したのである。

 マギアもこれにはため息を吐いて肩を落とし、回収したニュンフェを優しく持ち上げる。


「ニュンフェちゃん。流石だね。……けど、貴女は捕まえたよ♪」


「……」


 ニュンフェの血に手を濡らし、その額に自分の額を当てて手にした事を実感するマギアは楽しそうに笑う。

 魔族の国と幻獣の国。その入り口とも言える街はヴァイス達の主力であるゾフルとマギアによって制圧された。

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