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八百九十二話 ライ、フォンセvsグラオvs神々の女王と神の伝達係

 ──"人間の国・支配者の街・パーン・テオス"。


「オラァ!」

「そらっ!」

「くっ……!」

「"魔王の炎(サタン・ファイア)"!」

「ゼウス様が居るからって好き勝手に暴れているな……!」


 人間の国"パーン・テオス"にあるゼウスの城にてライ、グラオ、ヘラが拳を放ち、フォンセが魔王の炎魔術を放出してヘルメスがツッコミを入れながらハルパーで粘っていた。

 今の衝突で世界が消滅していたが、ぶつかった瞬間にゼウスが修正した事で当人のダメージはそのまま。周りには何の影響も無く戦闘が続く。


「ハハ。やっぱり良いね。君達。楽しいよ!」

「俺は楽しくないけどな!」

「同感だ! "魔王の雷(サタン・サンダー)"!」

「貴様ら……! 一番デメリットがあるのは私たちだ!」

「ヘラ様に同意だな」


 グラオがライに向けて蹴りを放ち、それを避けたライが同時に回し蹴りを打ち付ける。それを飛び退いてかわしたグラオに向けてフォンセが魔王の力からなる雷魔術で牽制。それも避け、ヘラがグラオ。ヘルメスがフォンセとライに迫って衝突を起こす。

 五人は弾き飛ばされ、即座に立ち直ったライが踏み込んで加速。グラオに拳を突き出したがそれを片手で受け止められ、ヘラに向けてライを放り投げられる。ライとヘラは衝突し、そのまま城の壁を打ち砕いた。


「くっ、邪魔だ!」

「そりゃ悪かったな」


 壁の瓦礫に倒れ伏せるライの下敷きになったヘラが蹴りを放って退け、それを避けたライが軽く謝りながら距離を置く。それと同時にヘラが迫っており、掌底しょうてい打ちを放った。

 それをライは受け流すように流動させ、そのまま腕を掴む。同時にグラオへとヘラを放り投げた。


「俺の代わりにヘラを返すぜ!」

「私は物か!」

「遠慮しておくよ!」

「それも腹が立つの……!」

「おっと、グラオは逃がさぬぞ。"魔王の壁(サタン・ウォール)"!」

「あらら」


 軽快な言葉と同時に放られた事に対してヘラはツッコミを入れるが成す術無く投げ飛ばされ、ライの言葉に返答したグラオが避けようとした瞬間フォンセが魔王の魔力から壁を形成して阻止。今度はヘラとグラオが衝突して吹き飛ばされた。


「やれやれ。ヘラ様は丁重に扱って欲しいものだ」

「悪いな。俺の目的が目的なんで、最終的には意識を奪うつもりだ。アンタもな?」


 ヘラをぞんざいに扱う様子を見たヘルメスは呆れたようにハルパーを振り抜いてライにけしかけ、それをライは紙一重で避けて言葉を返す。

 同時にヘルメスの腕も掴み、今度は放らず床に叩き付けた。


「……ッ!」

「頑丈な床だな。いや、砕かれた瞬間にゼウスが直しただけか」


 叩き付けた衝撃で床は揺れるが砕けず、そのまま持ち上げて振り回す。次の刹那に連続して床へと叩き付け、手を離すと同時にヘルメスの腹部へ蹴りを打ち付けた。

 それによって今度はヘルメスが吹き飛ばされ、城の壁に激突して粉塵を巻き上げる。


「よっと!」

「今度はアンタか!」


 そんなライの上からグラオのかかとが振り下ろされ、ライは腕を交差させて防ぐ。その一撃で床が沈んで砕け、次の瞬間に修復される。ライは両腕を開いて弾き、空中のグラオに拳を叩き込んだ。

 それを受けたグラオだが特にこたえず吹き飛ばず、少し距離の置いた場所で立ち止まってライの様子を窺った。


「良い一撃だね。けど、まだ魔王の力を纏っている訳じゃないんだね。威力はそれなりだけど、僕には少し痛みを与える程度だ」


「十分だろ。惑星破壊規模の攻撃を受けても無傷のアンタに痛いって感覚を与えるならな。まあ、確かにこのままじゃ決着は付かなそうだけどな」


 それだけ言い、ライは魔王の力を解放する。纏ったのは魔王の一割。まだライは自身の全力も出していないが、早いうちに魔王の力に身体を慣らしておく事で長期戦に備えたのだ。


「取り敢えずこれくらいかな。これならさっきよりは戦えるだろ」

一噌いっそこと本気を出せば良いのに。温存でもしているのかい?」


「ああ。まあそれもあるとは思うけど、何となく力を出したくない感覚なんだ。多分魔王の影響なんだろうな。魔王はジワジワと相手を追い詰めて行くのが性分なのかもしれないからな」


 ライとしても出来る事なら決着は付けたいと考えている。だが魔王の力があるからこそ、それが上手く行かないのだろう。

 ヴァイス達を何度も逃がす事も踏まえて魔王の力がそうさせている可能性は高い。それは理屈のようなものではなく、魔王の存在その物による現象とでも考えておくのが良いだろう。


「まあ、僕的には楽しめる時間が長くなるからそれはそれで良いんだけどね。手応えが少なくなるのは残念だけど、今の言い方だと徐々に力も上昇させるって事で良いんだよね?」


「まあな。何だかんだ言って俺は最終的には自分の意思で本気を出せている。魔王の力による影響はあるけど、あくまで宿っているだけだから自分の意思も貫けるみたいだ。戦闘が激化する事か何かが条件ではあるみたいだけどな」


 魔王の力を説明するとキリが無い。あらゆる矛盾はこの世の理不尽が詰まった魔王の力によるものだと決まっているからだ。

 そうなるとやる事は一つ。より戦闘を激化させ、ライの意思で本気を出せるようになるまで戦うだけである。


「という事で……グラオ、ヘラ、ヘルメス。アンタら三人。此処で打ち仕留める!」


 刹那、ライは光を超えて加速し、直線上にて丁度纏まっているグラオ達の眼前に迫る。グラオとヘラはそれを避けたが壁の瓦礫によって身動きが取り難くなっていたヘルメスは反応出来ず更に吹き飛ばされ、城の外へと放り出された。


「当たったのはヘルメスだけか。そんなヘルメスも万全なら避けられただろうし、俺の全力に上乗せしていない一割じゃこんなものだな」


 ライは現在使っている自分の力を感じ、全力じゃなければ高が知れていると実感する。しかし今ならこれでも十分だろうと割り切り、改めてグラオとヘラに向き直った。


「さてと。ヘルメスは多分直ぐに戻ってくるかな。だけど構わず相手にするよ」


「「……!」」


 振り向き様に踏み出し、一瞬にしてグラオとヘラの前に躍り出たライはそのまま回し蹴りを放つ。二人はそれを避け、グラオが正面から拳を。ヘラが背後から掌底しょうていを繰り出す。それをライは横に逸れるだけの最小限の動きでかわし、拳をグラオ。蹴りをヘラに叩き付けて弾く。

 今回は当てるのが目的。二人の距離を数メートル離すと同時に跳躍し、そんな二人の元に魔力の気配が迫った。


「"魔王の衝撃(サタン・インパクト)"!」


 無論、それはフォンセの魔術である。

 ライの動きを予測してグラオ達の行動も読み取り、確実に当てられる場所でその魔術を放つ。

 フォンセはそれを簡単におこなっているが、実際はかなりの技術が必要な技だろう。


「ハハ、良いね。そうこなくちゃ! やっぱり戦いは満たされるよ!」


「……っ。厄介な存在しかおらんの……! 人数はたったの三人だが、全方向に注意を向けなくてはならぬ。油断も隙も無い……!」


 衝撃波を受けたグラオとヘラは大した傷は負っていないが、ヘラには少し効いたようだ。

 元より衝撃波は表面ではなく内部を傷付けるモノ。表面上大した傷が無いのは当然だろう。


「よっと!」

「……!」


 その瞬間にライが迫って二人に蹴りを放ち、グラオは紙一重でかわし咄嗟に反応出来なかったヘラは吹き飛ばされた。しかし距離は離されたが立った状態で何とかこらえ、ライに視線を向ける。


「言っている側からこうじゃ。やはり本気を出した方が良いのかもしれぬな……!」


「……!」


 次の瞬間、本気を出すと告げたヘラの姿が消え去り、ライの腹部に発勁はっけいの一つである寸勁すんけいを放ち、内部から肉体を破壊する。

 それを受けたライはその場で停止したままだが、元より寸勁は吹き飛ばす技ではない。見た目に反してかなりの衝撃がライの身体を駆け巡っている事だろう。


「まだだ!」


 しかしライは直ぐに動き出すだろう。それを理解しているヘラは即座に動きを変更し、ライの身体を伝って回り込むように背後へ移動。同時に最小の動きで腰に手を当てて力を込め、ライの頭を引いてへし折るような動作を行う。そのまま引き倒し、バランスの崩れたライに向けて力を込め、今度は両手で発勁を放つ。

 それによってライの身体は少し進み、次の刹那に純粋な腕力によって生み出される掌底しょうてい打ちで殴り飛ばした。


「はあ!」

「……へえ?」


 様々な武術を掛け合わせたかのようなヘラの体術。それらを受けたライは何でもないように反応を示し、殴り飛ばされた先で着地。身体を軽く動かして言葉を発した。


「広範囲の破壊はせずにダメージを与える技術か。参考になるよ」


「これでも駄目か。純粋な力も事乍ことながら、その耐久力が凄まじいな」


「……。そう言えば、俺って元々普通の魔族だったんだよな。まあ、人間って思い込んでいた期間の方が魔族って自覚した期間より長いんだけど」


 ライの強さにはその攻撃力もあるが耐久力の高さにもある。

 魔王の力によって強化されている部分は強いが、魔法や魔術のような異能を無効化する魔王の性質と拳や足。武器類などの物理的な力を無効化するライの体質。耐久面は根本的には違うものであるが、攻撃面は魔王とほぼ同じ。考えてみれば一番不思議なのは魔王の存在ではなく、魔王の側近だった者の子孫とは言え普通の魔族にもかかわらずこのような力を宿したライ自身だろう。


「まあいいや。今更それを考える必要も無いしな。取り敢えず今は主力を倒してゼウスにリベンジするだけだ」


 だがそんな事を考えるのは色々と面倒。なので深くは考えず、今やるべき事に集中した。

 やるべき事は全ての主力を倒しての征服を達成する事。外で街の護衛をしているアテナは一先ず置いておき、ゼウスを倒す為にもヘラに向き直る。


「……。成る程。今なら更に力を出せそうだ。俺の感情によって魔王の力を完全に操れるのか? 要するにやる気の問題か」


 今の自分なら様子見ではない本来の力を出せるとライは判断した。

 魔王という存在の性質上、自分でも意識しないうちに手を抜いてしまう現状。それを打開するのは自分のやる気という事。もはや魔王という概念に囚われているが、半年以上旅をしてようやく力を自由に操れそうである。


「それじゃ、もうアンタとは決着を付けるか。ヘルメスが戻ってきても、アンタを倒しさえすればどうとでもなる」


「舐められたものだな……と言いたいところだが、そう言う訳にもいかないな。ハデスやポセイドンを倒した事も踏まえれば私より実力はある」


 魔王の力を更に上げ、自身の力も上昇させる。ヘラはそんなライの言葉に返そうとしたが人間の国のNo.2とNo.3を倒した事実があるので純粋な実力では確かに劣るだろうと考えていた。

 しかし、だからと言って引き下がる訳にもいかない。神々の女王を謳われているだけあってその辺の気概はあるのだろう。


「僕無しで盛り上がられるのも困るな。しれっと混ざるかな……!」


「……。フム、私は待機してヘルメスでも待つか」


 ライとヘラが向き合う中、グラオも参戦するように踏み込む。フォンセはそれに混ざらず、戻ってくるであろうヘルメスの方に集中する。


「オラァ!」

「そらっ!」

「はあっ!」


 ──そして次の瞬間、フォンセの近くでライ、グラオ、ヘラの三人が正面衝突を起こした。



*****



「……。フム、来るか」


「ラァ!」

「ハハ!」

「くっ……!」


 そんな衝突の直後、ライ、グラオ、ヘラの三人は城の最上階に位置する一つの部屋にその部屋の床を砕いて到達した。そこでは既に来る事が分かっていた様子のゼウスが椅子に座っており、相変わらず白紙の本を読んでいた。


「おっと、また戻って来ちゃったか。まあ、ヘラを倒したらどの道ゼウスが次の相手だし、かえって好都合かな。グラオが連れて来た兵士達はレイたちが何とかしてるから問題無い。……となると、また再戦しようか。ゼウスさん」


「まだ挑むか。まあ、お前がこれからどんな行動に移るかは分かっているがな。だからこそ気が滅入る」


「全能なら俺たちから戦意を奪えば良いんじゃないか? やろうと思えば……いや、思っただけで実行出来るだろ?」


「そうだな。確かに可能だ。だがそれをする理由が無い。別に戦いたくないという訳では無いからな。民の意見はなるべく尊重したいのだ」


「成る程ね。俺の意見を尊重してくれるからそう言ったやり方はしない訳か。改めて考えてみたら矛盾点や違和感に気付けるかもしれないけど、それはしなくて良いか」


 ゼウスが全知全能の力をもちいて全ての現象を即座に解決しない理由は分かった。その言葉にも不可解な部分は多々あるかもしれないが、一先ず相手してくれるなら良いとライは特に言及しなかった。


「完全に私を無視しておるの……! ゼウス! 妻がやられているのにお主も無視か!?」


「……。ああ、すまなかった」


「ハハ、賑やかで良いね」


「……。考えてみたら、ゼウスとヘラと言い、ハデスとペルセポネと言い、何で先代が夫婦関係だっただけで今も関係を持っているんだ?」


 ゼウスの部屋に来たライたちは改めて向き直る。ライの脳裏には新たな疑問も浮かんだが、今はそれを訊ねなくとも良いだろう。そのうちゼウスが教えてくれるかもしれない。

 何はともあれ、支配者の街"パーン・テオス"。下層から戦闘の余波で再びゼウスの部屋に到達したライたちは戦闘を続行するのだった。

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