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八百九十一話 支配者たちの行動

 ──全世界に放たれた生物兵器の兵士達と合成生物(キメラ種)は無闇矢鱈な破壊活動を行っていた。


「オイオイ、ついに奴等の魔の手が伸びてきたな。俺たちにまで挑むっー事は、この世界を相手にしようとでも考えてんのか?」


「シヴァ様。魔の手というのは、つまり私たちの手という事になってしまいますよ」


「そう言う揚げ足取りは止めろよな。要するに敵の侵略活動が本格的になって来たって事だよ」


 魔族の国、支配者の街"ラマーディ・アルド"。

 そこに攻め込んで来た生物兵器の兵士達を見やり、支配者のシヴァと支配者の側近であるアルモ・シュタラは何でもないように話していた。

 事実、主力達が攻めて来た訳ではない。それならどうとでも対処出来るのである。


「んじゃ、取り敢えず街への侵入は防いどくか。世界各国が本当にこうなってんなら、近いうち……数時間後に支配者同士で会議でもした方が良いかもな。んな事してるよりさっさと本元を叩いた方が良いんだけどな」


「そうですね。生物兵器の兵士達はプログラムされたかのような行動しかしません。早いところ消滅させるのが材料になってしまった方々への救いにもなるでしょう」


 まだこの街でしか現場を見ていないが、おそらく全世界で今のような騒動が起きているのだろうと二人は推察する。

 その根拠は無いが、主力達が来ておらずそれでも構わずに暴れている現在。既に出された指示の元で動いていると考えるのが妥当である。


「じゃ、早速(けしか)けるか」


 次の瞬間、シヴァが城から創造の力を使い、街の出入口に向けて山を形成した。

 一先ず直接手は下さず、生物兵器達の動向を止めようと考えているようだ。

 事実、生物兵器の兵士達は突如として形成された山を登る者、迂回する者に分かれて速度が落ちた。後はそこを突いて各々(おのおの)けしかけるだけである。


「話は聞いていたな? じゃあ各個で撃破して来い。俺は一先ず他の国の様子を見てくる。基本的に破壊するタイプのお前たちの能力で不死身の生物兵器を完全消滅させるのは難しいかも知れねェが、俺が帰って来るまで持ち堪えりゃそれで良い」


「ええ、分かりました。シヴァさん」

「了解。分かりました。シヴァ様」

「ハッ、俺たちの災害魔術も不死身が相手じゃ形無しか」


 シヴァの言葉に伴い、重力の災害魔術を扱うウラヌス。洪水の災害魔術を扱うオターレド。地震の災害魔術を扱うズハルが姿を現した。

 確かにズハルたちの能力では細胞一つ残さずに生物兵器の兵士達を破壊するのは難しいかもしれない。なので目的と言えば他国の様子を見に行くシヴァが帰って来るまで持ちこたえ、この"ラマーディ・アルド"に入れない事である。

 動きを止めるだけなら広範囲に力の及ぶ災害魔術は打ってつけだろう。

 ズハルたちは了解して散る。シヴァはシュタラに視線を向けた。


「街の護衛はお前が居れば大体何とかなるよな。取り敢えず兵士数万人頼む」


「飲食店で注文するみたいに言わないで下さい。数万人規模となると私も結構魔力を消費するのですから。全体魔力の0.1割は使いますよ」


「全然じゃねェかよ」


 それだけ告げ、シュタラは人災。即ち人間の災害魔術をもちいて無数の兵士達を創造。刹那に全ての出入口へ配置した。

 シュタラが居れば味方兵士を繰り出す必要も無い。敵が数で攻めるなら此方も数で攻めるという事だろう。


「じゃあ行ってくる。昼……いや、夕飯までには戻るぜ。それまで街の全てはお前に任せる」


「了解しました。お気を付け下さいね。シヴァ様。と言っても世界で五本の指に入る実力者のシヴァ様に心配は無用ですね」


 シュタラに街の警備を含めた全ての統制を任せ、シヴァはその場から消え去るように移動した。

 本来ならこの様な状況の時に国のトップが一人で行動するのは危険だが、シヴァにその心配は皆無である。

 シヴァ率いる魔族の国。そんな国での、本当の意味の戦闘が始まった。



*****



 ──"幻獣の国・支配者の街・トゥース・ロア"。


『あの軍隊は生物兵器の群れか。圧巻な光景だが、もう見慣れたな。数ヵ月前に見たばかりだ』


『そうだね、ドラゴンさん。だけどどうする? この街は私たちだけで何とかなりそうだけど、他の街に派遣する? 多分他の街も攻められているよね』


『フム、そうした方が良さそうだな。何やら胸騒ぎがする。野生の勘は残して置くに越した事はないな』


 シヴァたちを始めとした魔族の国全体が動き出している時、幻獣の国でも同じように動き出そうとしていた。

 幻獣の国は他の国と違い、街の数に比べて主力の数が少ない。主力だけなら魔物の国とほぼ同じだが、幻獣の国の場合護るべき街の数が国の過半数を自然が占めている魔物の国よりも多いので色々と問題が生じるのだ。

 それならばと幻獣の国支配者のドラゴンは側近である魔法の神を謳われる黒龍ジルニトラの言葉に返し、この街に居る他の主力。孫悟空、沙悟浄、猪八戒の三人とこのジルニトラを派遣しようと考えていた。


『そうと決まればジルニトラ。斉天大聖せいてんたいせい捲簾大将けんれんたいしょう天蓬元帥てんぽうげんすい。頼めるか? もし了解してくれるのなら数的にガルダ、フェンリルは大丈夫と判断して、ニュンフェ、ワイバーン、フェニックス、ユニコーンの元に行ってくれ。ついでにドレイクや四神たちにも協力要請を頼む。今回は大きな山場となるかもしれないからな』


『オーケー。他の主力たちに協力するのと別の場所に居る主力を呼べば良いんだね。任せて。元々この街はドラゴンさんだけで大丈夫そうだもんね』


『ああ、俺も問題無い。つか、俺たちが探していた時は全く情報を掴めなかったのに帰った瞬間出てくんのかよ』


『まあ、それに関しては運が無かったと割り切るしかないだろう。結果的に向こうからやって来たんだ。それならそれにあやかるとしよう』


『ブヒ、そうだね。実際、悟空が行った"ヒノモト"でも色々と収穫はあったんだし、無駄にはならないからね』


 それについて言及し、ジルニトラたちは了承する。

 実際のところ、支配者の街は支配者が居れば十分だろう。魔族の国のように多数の主力が居る訳ではないので行動出来る範囲は限られており、ドラゴン自身も別の場所に行く事は出来ないが攻め込まれている現状を打開しなくてはならない。故に三人と一匹は了承と同時に飛び去り、一匹でも大丈夫であろうガルダとフェンリル以外の主力が治める街に向かった。

 仮に他の街には攻め込まれていなかったとしても、その報告が新たな情報となる。なのでデメリットは無かいのだ。


『……。さて、生物兵器の兵士達は細胞一つ残さずに消し去らなくてはならないか。そう考えるとガルダやフェンリルとて荷が重そうだが、何とかしてくれるだろう』


 ドラゴンは全ての主力を信用している。だが、そんな主力達の力を持ってしても生物兵器の兵士達を撲滅出来るかどうかと問われれば返答に迷いが生じるだろう。

 それ程までに生物兵器の兵士達は厄介な存在なのである。

 しかし傍観している訳にはいかない。ドラゴンは羽ばたき、本物の"世界樹ユグドラシル"の一部だった大樹から飛び立った。


『一先ず街には入れぬよう気を付けるか……──カッ!』


 飛び立つと同時に下方へ向け、一気に業火を吐いて集う生物兵器の兵士達を焼き払った。

 支配者クラスの者による炎。その破壊力は計り知れず、一瞬にして生物兵器達は細胞一つも残らずに消滅した。


『森や山は焼かぬように気を付けなくてはな。数が多いのは面倒だ』


 呟きながら飛行し、下方の様子をうかがって更に続く。

 ドラゴン率いる幻獣の国。その国も魔族の国と同等、戦争の火蓋が切って落とされた。



*****



 ──"魔物の国・支配者の街・メラース・ゲー"。


『本格的に動き出したようだな。奴ら。果たして余を何処まで楽しませてくれるか……期待は出来るのかの』


『偵察に行ったニーズヘッグとブラッドの安否も気になるな。まあ、アイツらなら死ぬ事は無いと思うが、それにしても生物兵器の兵士如きで魔物の国を落とそうと考えているとはな。笑止千万だ』


 魔族の国、幻獣の国の一方。魔物の国でも支配者の街"メラース・ゲー"に生物兵器の兵士達が攻めており、支配者であるテュポーンは少しは楽しみの様子。幹部であるアジ・ダハーカはあの程度の戦力で何が出来るのかと呆れていた。

 実際、幹部の質は世界最強の人間の国と比較しても劣らぬ魔物の国。不死身とは言え生物兵器如きは相手にすらならないのだろう。


『テュポーン様が手を下すまでも無い。私だけで十分だ』


 次の瞬間、アジ・ダハーカが千の魔法の一つ、炎魔法を滝のように上から降り注がせて放ち、"メラース・ゲー"を囲んでいた兵士達を全て消滅させた。

 不死身の肉体。その純粋な強度も常人よりも遥かに高いのだが、魔物の国のNo.2が相手ではそれも無駄に終わるようだ。


『なんじゃ、つまらぬの。期待も出来ぬ相手か。やはり余がニーズヘッグやブラッドの代わりに出向けば良かった。……いや、もう行くか?』


『良いんじゃないですか? この国には護るべき街という街は無い。それに対して主力の数はそこそこ。森が焼き払われるくらいなら私一人で修復可能。仮に騒ぎの場所に主力が居るなら、テュポーン様直々で解決した方が早いですからね』


『フム、そうだろう。良し、久方振りの暇潰し。楽しんでくるかの』


 アジ・ダハーカによって容易く焼き消された生物兵器の兵士達を見やり、退屈そうにため息を吐くテュポーン。それならばと、テュポーン本人は暇潰しに根源の場所に行こうかと考えていた。

 テュポーンなら微塵も心配は無いだろう。故にアジ・ダハーカは同意し、テュポーンは翼を広げて城の外へと飛び出す。

 魔物の国でも魔族の国や幻獣の国のように戦争が始まっているが、本人たちの様子から問題無さそうな雰囲気だった。



*****



 ──"人間の国・ヒノモト"。


「つまり今、全世界がこの街のように襲撃されていると考えて宜しいのですね?」


「ああ、構わないよ。全世界への宣戦布告をしたンだ。当然じゃないか」


 ヴァイスの目的を聞いたアマテラスは訊ねるように話、ヴァイスは何でもないように返す。

 全世界への宣戦布告は、ヴァイスがみずからの口で言うようなものではないらしいが、その事に関して言葉を続ける。


「各国の主力達は察しが良いからね。飲み込みも早い。私たちが作り出した生物兵器の兵士達を見れば全員がおのずと何をされたのか理解出来るだろうさ。まあ、確実に役不足にはなるンだろうけど、私もこの街を終わらせたら全世界に乗り出すつもりさ。だからそれまで時間を稼いでくれれば世界は手中に収まるよ」


「ハッ、勝つ事を前提として話しやがるな。確かに俺たちは人間の国の幹部や側近じゃねえが、そいつらに劣っているつもりも無ぇ。あまり舐めるなよ?」


「舐めていないさ。認めているよ。だからこそ合格を言い渡したンだ。君達は優秀。だから他の生物が生物兵器になったとしても君達は生き残るよ」


「寧ろそれが心外だな。合格を言い渡したという事は、(イコール)私たちが貴様より下という事になる。無意識のうちに貴様は舐めているという訳だ」


 ヴァイスは既に生物兵器の兵士達を世界各国にけしかけた。その事からして他の国の者たちは何が狙いか理解するだろうと考えているようだ。

 自分たちを完全に下に見ているヴァイスの言葉にスサノオ、ツクヨミは構え直し、再び迫った。


「んじゃ、此処でテメェを切り捨てて全世界の平和とやらでも取り戻してやろうか!」

「聞いた話じゃ首謀者は貴様のようだからな。始末する……!」


「ああ、問題無いさ。この後で四神達もやらなきゃならないンだ。此処で足止めを食らっている暇は無いのさ」


「やはり舐めていますね。私たちを……!」


 左右から切り込み、それらをヴァイスは如意金箍棒にょいきんこぼうで受け止める。

 その下から対象以外に影響を及ぼさない熱波が噴き出し、ヴァイスの身体を浮き上がらせた。そこを突き、ツクヨミとスサノオは跳躍してヴァイスの身体を貫く。


「……」

「ハッ、当たったな。……だが、どういう訳か手応えが無ぇ。確かに肉を貫いた感覚はあるんだけどな」

「スサノオに同じだ。フム、どうやら厄介な身体をしていると考えるのが妥当か」


 天羽々斬と刀でヴァイスの肉体は確かに貫いたが、鮮血は噴き出し肉を切った感覚があるにもかかわらず手応えが無いのを訝しげに思う二人。

 ヴァイスは肉から刀を抜き、着地して言葉を続ける。


「フフ、見たら分かるだろう。私は異形の姿をしている。そして多数顕在する生物兵器の兵士達。その事から推理したら分かる筈だよ」


「成る程。貴方は既にあの生物兵器と同じ身体になっていましたか。それなりに腕は立ちますから厄介ですね」


 遠回しにヒントを与え、いち早くアマテラスが理解する。

 着地したツクヨミとスサノオも苦虫を噛み潰したかのような表情をしており、今目の前に居るヴァイスがかなり面倒な存在である事を全員が理解した。


「さて、降参するならこれ以上は何もしないけど、どうやらそういう雰囲気でも無さそうだ。さっきも言ったけど、全世界を相手にする為にも君達には沈んで貰うよ?」


「ハッ、敵は強大って事か。まあ、何とかなるんじゃねえの」


「その根拠の無い感覚には呆れるが、そうでも考えないとやっていられないか。私もたまには馬鹿になろう」


「さて、どうやって消滅させましょうか……」


 ヴァイスは仰々しく両手を広げ、笑いの表情を作って話す。対するアマテラス、ツクヨミ、スサノオの三人は歯噛みしつつも構え、まだ諦めていない面持ちで向き合う。

 人間の国、魔族の国、幻獣の国、魔物の国。そんな世界に四つしかない大国にてヴァイス達の選別活動が完全に始動した。

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