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八百八十九話 "ヒノモト"への襲撃

 ──"人間の国・ヒノモト"。


 ライたちとグラオ達。その他の主力達が行動を起こしている中、一番遅くに行動を起こしたのはグラオ達のリーダーであるヴァイス・ヴィーヴェレだった。

 四神たちと主力に匹敵する存在の居る街。どちらを襲撃するか本人なりに少し悩み、その結果に辿り着いたのはこの独特な雰囲気をかもし出す街"ヒノモト"。

 ヴァイスは土からなる道を進み、辺りを見渡していた。


「強い気配は三つ程。所々に漂っている妖気は以前に妖怪関連で騒動でもあったのかな。この三つは合格。この街の兵士達は剣士が多め。うン。まあ私一人でどうにでも出来る戦力だね」


 街の景観と気配から考察し、何があり誰が居るのかを思案するヴァイス。思案と言っても全て口に出しているので傍から見ればブツブツと独り言を呟きながら歩く奇っ怪な人物という印象だろう。

 加えて黒、灰色、白の不自然な髪に不思議な肌の色。あらゆる意味で悪目立ちしているが本人は全く気にしていないようである。


「さて、いきなり攻めるのも良いけど、どうしようかな。あまり下品なやり方は避けたいところだけど、そンな事を言っていても先には進まないからね」


 ヴァイスの悩みはその攻め方。無闇矢鱈に暴れ回れば確実に主力を炙り出せるが、本人の性格からしてその様なやり方はあまり好みではないのだろう。

 今までも適当に攻め立てる事が多々あったが、それは暴れ回る味方。約三名が居るのでその方がやり易かったからである。

 要するに一人しかいない今、どの様に攻め立てるかを考えているのだ。


「そうだね。此処はグラオたちにならって私に似つかわしくないやり方も遂行してみよう。こう言った体験も後々役に立つかもしれないからね」


 それだけ告げ、ヴァイスは片手に力を込めた。様々な力が宿っている今、ヴァイス自身の美学も何も無く、悩む事はあれど適当に暴れる事に抵抗はなかった。


「まあ、私は暫く高みの見物でもするけどね。"再生リジェネレイション"」


『『『…………』』』

『『『…………』』』

『『『…………』』』


 それはどうやら、ヴァイスが直接暴れるという事では無いようだが。

 生物兵器や巨人兵士達、合成生物(キメラ種)の封印していた肉片を取り出して再生。同時に展開。多くの生物兵器と合成生物(キメラ種)が一気に駆け出し街を蹂躙した。


「な、なんだアレは!?」

「人間か……!? それと生き物……!?」

「何が何だか分からないが! 一体!?」


 瞬く間に崩壊して行く街。それを見やり"ヒノモト"の住人達は逃げ惑い、何人かの兵士達が刀を構えて向き直った。


「あれが噂の侵略者か……!」

「アイツらによってこの国に顕在する様々な街が落とされたのか……!」

「武士として、侍として、自分の街は自分で護らなくてはならないな……!」


 "ヒノモト"の兵士は臆する事無く駆け出し、生物兵器の兵士達と巨人兵士。合成生物(キメラ種)を切り伏せて行く。

 しかし刀傷は即座に癒え、攻め行く侍達はことごとく返り討ちに遭ってしまう。だが怯まずに進み、無駄と分かりながらも足止めを行う。


「根性だけは大したものだ。これなら良い材料になるかもしれないね。いや、まあ他の街でも諦めずに挑み続ける兵士達は多数居たかな。基本的にどの街でも諦める事はしないね」


「「「…………!」」」


 次の瞬間、ゆっくりと歩きながら姿を現したヴァイスが通り過ぎ様に侍達の意識を奪い取り、材料として回収した。

 争いの続くこの世界。絶対的な安心がある場所を除き、大抵の街は相応の覚悟を決めて勝てない相手にも挑んでいる。

 ただ勇気を振り絞って仕掛けているだけなので特に優秀でもなく材料にしかならないが、この様な行動はヴァイスからしても称賛に値するのかもしれない。もっとも、既にヴァイスに他人を称賛する感情など残っていないが。普通の存在だった時の名残や敵を欺く為にその様な演技をしているだけである。


「また随分と矯激きょうげきな活動をしておりますね。街に攻め入り、謎の生き物を解き放つとは。命を絶つ覚悟は御有りと見ました」


『『『…………!』』』

「フム……」


 次の瞬間、何処からともなく高温の熱波が放たれ、不死身の生物兵器が細胞一つ残らずに消滅した。

 それを見たヴァイスは熱波の放たれた方向に視線を向けて向き合う。


「君がこの街の主力のようだね。そしてその神聖な気配。神の一人。それどころか、この街を治めている主神とでも言っておこうかな」


「フム、貴方。ただ者ではありませんね。元より普通の者がこの様な者達を引き連れる訳ありませんが。少なくとも敵である以上、始末します。既に行動に移っている現在、弁明の余地は皆無と思ってくれて構いませんよ」


「殺伐とした主神だね。まあ、ぬるくては主神が務まらないか」


 その者、天照大御神アマテラスオオミカミ──アマテラス。

 既に破壊活動を始めとした侵略行為をおこなっていたヴァイスは処刑される事が決定事項らしく、周囲に対象のみを焼き払う太陽が展開される。ヴァイスは特に動かずアマテラスの出方をうかがった。


「何も仕掛けて来ませんか。それなら、私から行きます!」


 次の瞬間、展開した太陽を解き放ち、灼熱の業火が生物兵器と合成生物(キメラ種)。ヴァイスを飲み込む。

 太陽は厳密に言えば業火とも少し差違はあるが、兎にも角にも放たれた数千度から数万度の熱。本来なら全てが蒸発する温度だが、ヴァイスは太陽に匹敵する炎はある程度体験済み。故に動かず、片手をかざして力を放出した。


「仕掛けはしないけど、防げはするね。これくらいなら問題無い。"完全な守護(パーフェクト・ガード)"」

「……!」


 太陽に匹敵する熱に向け、ヴァイスは自身の力を集めた守護壁で防ぎ、炎のみならず熱からも自身を守り切った。

 生物兵器の細胞一つ残さず消し去る数千度から数万度の炎は、流石のヴァイスでも熱いと感じるのだろう。なので念の為に防いだのだ。


「成る程。仕掛けなかったのはあくまで出方を窺う為という事ですか。その様な力を有しているのを見ると、攻撃方面でもかなりの力を扱える筈ですね」


「好きに考えると良いさ。仲間を引き連れず、一人でこの街に来た事を考えればおのずと答えは見えてくるよ」


「一人……あの兵士達は人数に数えませんか。まあいいです。今の相手は貴方ですからね」


 アマテラスから見れば敵の主力はヴァイス一人。当の本人もそう言っている。なので気にせず、アマテラスは複数の太陽を形成した。


「貴方の守護を打ち破るには生半可な力では無理な事。という事が分かりました。故に、容赦せず打ち消しましょう……!」


「容赦ね。けど君は始めから私を殺すつもりで行動を起こしていた。最初から容赦なンかしていなかったようだけど」


「ええ、そうですね。要するに、より徹底して貴方を殺めるつもりという事です」


 頭上に創られた複数の太陽。その大きさは本物よりも圧倒的に小さいが、ヴァイスが体感する温度と光量は本物と同じ。寧ろ小さいからこそエネルギーが圧縮され、本来の太陽よりも与える影響は大きいだろう。


「成る程。分かりやすくて良いね。それにこの力……受けるのは少し危険かもしれないけど、余計な巻き添えを無くして対象のみを焼き尽くせる炎は有効活用出来そうだ。優秀な素材を消し去らなくて済むからね」


「素材……それが何なのかは分かりませんけど、あまり考えたくありませんね。それに、私の炎を有効活用するという言葉も気になります。早いところ消滅させましょう……!」


 刹那、頭上に創られた複数の太陽が隕石の如く降り注がれた。

 光輝く隕石はその全てがヴァイスに命中し、重なり合い、混ざる事でより力を増して熱する。周りには何の影響も及んでいないが、光の中は太陽の数百倍には及んでいる筈。純粋に考え、生命が存在する事は出来ぬ温度だろう。


「さて、一気に焼き払いましたが……」


「それなりに熱かったね。けど、熱に耐性のある力を有していたお陰で耐えられたよ」


「無駄ではないにせよ、ほぼ効果は無かったようですね……!」


 ヴァイスにとっては少し熱い程度だった。

 しかし現在のヴァイスが有する様々な者の力。熱に耐性のある者も多く顕在している為、無問題に等しいのだろう。


「これくらいなら始めから防がなくても良かったね。けどまあ、この程度を耐えるだけでこの力を得られるのは有り難い」


「力を……得られる? 一体何を言っているのか気になりますが……そのままの意味ならもしや……!」


「察しが良いね。流石は主神。そう、つまりそれはこういう事さ」


 ──次の瞬間、ヴァイスは頭上に太陽を形成した。

 それだけならシヴァの創造神としての力を扱う事で生み出せるが、アマテラスに対しては確かな熱を感じるが周りは燃えていない。つまり、対象以外に影響を及ぼさぬ太陽がたった今創り出されたという事だ。


「私の力……! いえ、それよりも遥かに……!」


「合わせ技とでも言っておこうかな。普通の太陽でも良いけど、私自身様々な熱を扱える。それこそ蝋燭の火からビッグバンまでね。まあ、まだシヴァの力を完全に物にした訳じゃないからビッグバンクラスを創造出来るかは分からないけど、その様な様々な熱の力に君の力を合わせる事で対象のみを焼き払う太陽以上の高温が生み出せるのさ」


「……っ」


 力の組み合わせと応用。様々な力を有する、コピーしたヴァイスだからこそ織り成せた所業である。

 それを見て聞いたアマテラスは驚愕の表情を浮かべて歯噛みし、それでもヴァイスに向き直る。


態々(わざわざ)それを説明してくれるとは。余裕の表れですか……しかし、私一人では及ばないかもしれませんけど、私たちならどうですか?」


「……フム」


「オラァ!」

「はあっ!」


 その瞬間、ヴァイスの背後から二人の姿が現れ、月のように輝く刀を携えたツクヨミ。そして天羽々斬(あめのはばきり)を構えたスサノオがそれらを振り下ろしてヴァイスにけしかけた。

 ヴァイスはその気配を察知して避け、三人が視界に収まる場所に離れてその姿を視認する。


「フムフム、成る程。その刀は天羽々斬。つまり君は須佐之男命スサノオミコト。そう考えると主神は天照大御神アマテラスオオミカミ。そして月読命ツクヨミノミコト。つまり君達は三貴子みはしらのうずのみこ……という事かな? "ヒノモト"を治める神々は彼女達だったンだね」


「主神という事には御気付きでも、その存在は理解していませんでしたか。しかしそれは関係ありませんね。私たち三人が相手をします!」


「何か街に化け物が集まってるし何が何だかまだよく分かってねえけど、"敵"ではあるみたいだな」


「その様だな。しかし、姉上が手古摺てこずっているのを見るとかなりの強者つわものではあるようだ。油断ならないな」


 ヴァイスは刀から一人の正体を見抜き、その事から推測して二人の事も理解する。アマテラス、ツクヨミ、スサノオの三人は会話をしながらも警戒を高め、一足先にスサノオが踏み込んだ。


「向き合ってても意味がねえ! 俺が先陣を切るぜ!」


「もうアマテラスが先陣を切っていたンだけどね。まあいい。須佐之男命スサノオミコトの実力、見せて貰おうか」


 天羽々斬を携え、一気にそれを振り抜く。ヴァイスは懐から如意金箍棒にょいきんこぼうを取り出して構え、スサノオの一撃を受け止めた。

 それによって大地が割れ、周囲には砂塵が舞い上がる。同時に二人のせめぎ合いが織り成された。


「そらよっと!」


「フム……剣術はそれなり。私がコピーした時点でのザラーム・モバーレズやブラックよりは強いね。レイ・ミールとはほぼ互角かな」


「ハッ、何やら知った名前が出てきたな。だが関係ねえ! 俺は俺のやりたいようにやるだけだ!」


 様々な剣士と相対したヴァイスはスサノオの力をその者たちと比較して測る。と言ってもコピーした時点での力なので今よりはその者たちの力も劣っていたのだが、大凡おおよその目安にはなるだろう。

 しかしスサノオはそんなヴァイスの言葉を意に介さず仕掛け続け、天羽々斬でその身体を吹き飛ばした。


「中々の力だね。剛剣と正剣に力を入れて磨いているようだ」

「そしてそれを補うのが私という訳さ」

「フム、そうか」


 その刹那、ヴァイスの背後に回り込んでいたツクヨミが滑らかな動きで斬り掛かり、ヴァイスはそれを如意金箍棒にょいきんこぼうで受け止める。

 受け止めた瞬間にツクヨミは姿を水面みなものように揺らめかせてかすみのように消し去り、再び死角から斬り込む。それも受け止めたヴァイスだが、変幻自在なその動きは中々のものだろう。


「柔剣と変剣に力を入れている様子だね。確かにスサノオの荒々しさを補うような上品な剣技。だけど、剛剣、正剣、柔剣、変剣。その全てに私は臨機応変に対応出来ると自負しているからね。二人掛かりで攻めても意味が無いとはっきり言える。まあ、合格ではあるンだけどさ」


「合格? 私は何かに合格したのか。大した事では無さそうだが、その合格は取り消して貰おうか」


「ハッ、俺もメリットのある物なら貰っているが、テメェの合格はデメリットしか無さそうだな!」


 ヴァイスの合格に対して即答で断り、ヴァイスが全てに対応出来るという部分は無視してけしかける。

 前後でヴァイスに斬り込み、如意金箍棒を携えるヴァイスがその全てに対応する。元よりヴァイスはそれらを受けても即座に再生するのだが、力を見せる為にも敢えて受けているのだろう。


「私も仕掛けますよ。侵略者!」

「構わないよ。君地全員の力は優秀だからね」


 ツクヨミとスサノオに対応しつつ、仕掛けるアマテラスにも注意を向ける。ヴァイスは三人が相手だがまだまだ余裕の面持ちがあり、本人が言うように臨機応変に対応する。

 ヴァイスと相対するアマテラス、ツクヨミ、アマテラスの三貴神みはしらのうずのみこ。ヴァイス達の行う侵略活動はリーダーの参戦によって更に激化するのだった。

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