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八百八十七話 世界の状況

 ──"魔族の国"。


 人間の国"パーン・テオス"の城に続々と主力が集いつつある現在と同時刻。魔族の国、国境付近にて雷速で動く影があった。

 雷速は秒速150㎞から200㎞。故にもう既にその影は国境を抜け、魔族の国へと侵入していた。


「侵入者だ!」

「目で終えぬ……!」

「領主様や側近様たちと連絡を!」

「ああ! もう繋いだ!」


 人間の国と魔族の国の国境付近にある街──"レイル・マディーナ"。そこでは既に侵略者などに対する警戒が高められており、そこの街の主力たちとは連絡を取り合ったらしい。

 しかしその報告が完全に伝わるよりも前に雷速の影、ゾフルが"レイル・マディーナ"へと侵入し、何の脈略もなく街中で暴れ出した。


「ハッ! そう言や国境の街は俺の故郷だったか! 構わねェ!」


 片手を炎。もう片手を雷に変化させたゾフルはそれらを街に放ち、一気に焼き払う。

 この"レイル・マディーナ"は元々ゾフルが幹部の側近を勤めていた街だが、もう既に縁を切ったゾフルにそれは関係無い。構わず周囲を破壊する。


「動きが止まったぞ! 一斉に仕掛けろ!」

「「「はっ!」」」


 破壊活動の為に動きを止めたゾフルに向けて、遠距離からの銃や矢が一気に放たれた。

 街中なので大砲は飛んで来ないが、雨のように降り注ぐそれらを防ぐのは至難の技だろう。


「ハッ! 下らねェ!」


 無論、それは常人からすればの話。

 常人には程遠い力を有しているゾフルは全ての銃弾と矢を焼き防ぎ、放った者たちを感電させて意識を奪い取る。

 優秀かどうかはて置き、どちらにせよ生物兵器の材料に使うので生かしてはいるのだ。


「やれやれ……また面倒な奴が戻ってきたな……まあ、そのうち誰かしらは来るんじゃねえかと思っていたが……まあ、やるか」


「……!」


 次の瞬間、それらの炎を突き破り、雷速以上の第四宇宙速度で一人が迫り、ゾフルの身体を吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたゾフルは幾つかの建物を打ち抜きながら突き進むも何とか止まり、その人物に視線を向ける。


「ハッ、御出座しか。ダークさんよォ……!」


「久し振りだな。ゾフル。まあ……ゆっくりして行けよ。今なら取って置きのスイートルームがある……面倒だがそこに案内するよ……小部屋で石造りで鉄格子が出入口だ」


「ただの牢屋じゃねェか!」


 ──その人物、魔族の国"レイル・マディーナ"を治める領主にして魔族の主力である幹部の一人、ダーク。

 ダークはゾフルに取って置きの部屋を勧めるが一蹴され、二人が向き合った。


「んで、まあ、何が目的だ? 侵略か? 略奪か? 戦争か? 面倒だが相手をしてやるよ……」


「相変わらず無気力だな、テメェ。そうだな。答えるならその全てって訳だ」


 全身を炎と雷に変換させ、ダークに向き合った瞬間ゾフルが加速した。

 加速と同時に変化させたそれらを放ち、ダークの身体を炎で焼いて雷で感電させる。それに対してダークは片手を握り、


「今更その程度の攻撃が効くかよ……面倒臭ェな……」


 ──全てを拳圧で消滅させた。

 あれから更に鍛えた様子のダーク。シヴァ直々から支配者候補を謳われるだけあり、相応の力を秘めているようだ。


「ま、当然か。テメェも更に鍛えたようで安心したぜ。これで心置き無く暴れられる……!」


「はあ……。面倒だな……」


 今の攻撃はあくまで様子見。故にゾフルは返答しつつ身体を再び変化させ、ダークとの距離を一気に詰め寄った。

 炎と雷になれるというその能力からしても遠距離から攻め続けるのが最善策と思われるかもしれないが、実は違う。

 遠距離からの攻撃は先程のやり取りを見て分かるように容易く防がれてしまうのでゾフルが直接攻めた方が効率的なのである。

 それを面倒と返すダークはゾフルの動きを目で追って構え、臨戦態勢に入る。

 ダークとゾフル。まだ生物兵器も他の主力も居ないが、魔族の国での戦争が開始された。



*****



 ──"幻獣の国"。


『合言葉を言え……!』


「えー? 分からないなぁ。じゃあ"衝撃インパクト"!」


『『『……!?』』』


 ゾフルが魔族の国に攻め込む一方で、幻獣の国の門前にて合言葉を知らぬマギアが衝撃波を放出して門を粉砕させた。

 そこに居た幻獣たちはそれを受けて吹き飛び、幹部にしてこの門の見張りを勤める者──エルフ族のナトゥーラ・ニュンフェがそんなマギアの前に立ちはだかった。


「これはこれは……随分と物騒な入門ですね……貴女、リッチのマギア・セーレですね」


「せいかーい。でも、リッチって呼ばないでね♪ けど、エルフちゃん。貴女人間の国の"ビオス・サナトス"に居た筈だよね? 帰って来てたんだ!」


「ええ。この国は故郷ですので。ある程度の調査と報告も終わりましたからね。しかし、貴女が直々に私たちの拠点に出向いてくれるのは意外でしたよ。調査の意味が無くなってしまうのは兎も角、何らかの準備が整い、隠れる必要が無くなったと考えるのが妥当でしょうか」


「まあ、そんなところだね」


 今まで姿を眩ましていたマギアが姿を現した理由。それは十中八九ロクなものではないだろう。

 ニュンフェが指摘したように侵略の為の準備を終えたからこそやって来たマギアは、そんなニュンフェに向けて魔力を込める。


「だけど……良かったぁ!」

「……?」


 向き合った瞬間、マギアが何かに対して安堵する様子を見せる。ニュンフェは小首を傾げるが、ニュンフェが訊ねるよりも前にマギアは言葉を続けた。


「だって、エルフちゃんは幻獣の国で一、二を争うお気に入りだからね! うーん、種族名で言うのは嫌かな。やっぱりニュンフェちゃんで!」


「……。呼び方は好きにして良いですけど、今日の貴女……何だか気持ち悪いですね……」


「ひどーい。……なんてね。まあ、今日は少し感情を色々変えているかな。普段とあまり変わらないけど。お気に入りなのは本当だよ?」


 マギアの喜びはお気に入りであるニュンフェに会えたからとの事。妙にハイテンションだったのはそれもあるが、何故か感情を色々と変えているらしい。

 その理由は定かではないが、一先ず敵であるという事実は変わり無し。故にニュンフェはレイピアを構え、マギアに向き直った。


「それなら、さらわれるよりも前に切り伏せます!」


「あ、やっぱりそうする?」


 向き合った瞬間に踏み込み、疾風の如く速度でニュンフェは肉迫し、マギアにレイピアを突き立てた。

 それをマギアは魔力の壁で防ぎ、そのままニュンフェの身体を弾き飛ばす。


「……まだ呼ばなくて良いかな。さて、貴女も私の物になってね♪」


「断ります!」


 連れてきた主力はまだ使わない様子のマギア。その事を知らぬニュンフェは指摘せず、マギアの物になるという事のみを否定した。

 周りは幻獣の兵士たちが囲み、幻獣の国ではマギアとの戦争が始まった。



*****



 ──"魔物の国"。


『さて、一先ず此処等一帯を焼き払って炙り出すか』


 ロキが魔物の国の森に位置する上空にて呟いた瞬間、全身を発火させて一気に周囲を業火が包んだ。

 青々と繁った木々は見る見るうちに燃えて朽ち果て、瞬く間にほんのりと樹液の香りがする黒煙が辺りと空を飲み込む。

 森からは動物。おそらく主力以外の魔物だろう。そんな魔物達の苦しむ鳴き声が聞こえてくる。だが次第にその声は少なくなり、火の音と木の崩れる音が木霊こだました。


『随分と好き勝手やってくれるな。悪神ロキ。此処が魔物の国の領地であるという事は知り尽くしている筈だ。暫く眠っていたとしてもな』


『魔物の国の幹部、無駄と知りながら"世界樹ユグドラシル"をかじり続ける愚かな蛇ニーズヘッグか。成る程。大量に生き物を焼き殺した私の前に現れるなら適性者だな。死んだ魔物共を迎えにでも来たか?』


『どうだろうな。少なくとも、お前をこの場で葬り去る理由としては十分だ』


 そんなロキの前に現れた者、魔物の国の主力であるニーズヘッグ。現在は本来の蛇ではなく移動と戦闘に長けた黒龍の姿をしており、今すぐにでも戦闘へ移行出来る態勢となっていた。


『果たして本当に葬り去れるのか? 魔物の国では下から数えた方が早い主力の癖にな』


『フッ、あまり舐めない方が良いぞ。伊達に主力はやっていないからな。以前少年達に敗れ、実力主義のこの国は征服されたが……攻めて来たかつての同盟相手を相手にするのは心苦しいものがあるな』


『前の文と後続の文に関連性がないな。だが、その言葉が嘘というのは容易に分かる。だからどうしたという訳ではないがな』


『……!』


 会話の途中にてロキは片手を変換させた炎を放ち、空を飛ぶニーズヘッグを焼き払う。それをニーズヘッグは避け、一羽ばたきで加速して迫り、全身をもちいて突進した。


『いきなり仕掛けてきたか。やはり狡猾な奴だな、ロキ……!』


『会話などしている暇も無いからな。相手が自分にとっての敵である以上、隙があればそれを突いた方が良いだろう?』


『フッ、否定はしないさ』


 ニーズヘッグの突進は身体を炎に変えて流動させ、衝撃波が遅れて生じる。そして炎となったロキは風に巻かれて消えた。


『無駄だと言っただろう? 火その物である私にダメージを与えられるのはそれを無効化出来る存在しかないのだからな』


『それは嘘だな。やり方次第じゃ、別にある筈だ』


『さて、どうだろうな』


 火災が起きる魔物の国、森の上空。そこで相対するロキとニーズヘッグ。まだお互いに一人と一匹だけで他の兵士も主力も居ないが、此方でも戦争が始まった。



*****



 ──"人間の国"。


「此処で合ってるよな。人間の国の国境の街"セルバ・シノロ"から一番近くにある幹部の街──"エザフォス・アグロス"。何もねェ街だな。あるのは自然くらいだ。本当に幹部が居るのか?」


 至るところで侵略活動が始まる頃、人間の国の国境に近い幹部の街"エザフォス・アグロス"ではシュヴァルツが放浪していた。

 周りの様子を見て感想を述べ、片手に力を込める。


「ま、適当に暴れりゃ炙り出されるか。"破壊ブレイク"!」


「「「……!」」」


 次の刹那、空間に破壊魔術を使い、"エザフォス・アグロス"の街を破壊した。

 無論、全ての街を破壊した訳ではない。空間とある程度の建物を破壊し、先ずは目立つ事から始めたのだ。

 周囲には空間と建物の欠片が落下して道を破壊。連鎖するようにその他の空間と建物も砕け散り、人々の悲鳴で"エザフォス・アグロス"が包まれた。

 その効果はあり、街の兵士達が続々と姿を現した。


「貴様! 何をしている!」

「器物破損に怪我人多数!」

「これは罪になりうるぞ!」

「捕らえて事情を聞こう!」


「ハッ、雑魚がワラワラと。さっさと主力呼ばなきゃ、この街が崩壊するぜ! "破壊ブレイク"!」


「「「…………ッ!」」」


 集った兵士達は意に介さず、更なる破壊を引き起こして押し退ける。女子供問わず降り注ぐ欠片によって周囲は破壊され、


「"樹の支えデンドロン・ヒポスティーリクシー"!」


「……!」


 ──それが大樹によって防がれた。

 その存在を見やり、シュヴァルツは口角を吊り上げる。


「来たか、主力!」

「貴方を捕らえます。侵略者!」

「嫌だね!」


 そして姿を現したデメテルに向き直り、返答と同時に肉迫した。


「やれるもんならテメェで止めろ! "破壊ブレイク"!」


「……っ。いきなりですか……! "樹の守護デンドロン・フィラクス"!」


 肉迫と同時に破壊魔術を放ち、それをデメテルは樹によって生み出した守護壁で受け止める。それは砕かれるが内側のデメテルに被害は及ばず、シュヴァルツに構えた。


「交渉は不可能。力で抑えなくてはならないようですね……!」


「ああ、テメェは合格だ。後は少し俺を楽しませてくれよ!」


「成る程。侵略者かとは思いましたけど、過激派の侵略者は貴方でしたか……!」


 無数の木々を生み出して仕掛け、それをシュヴァルツは防ぐ。

 人間の国、国境に近い街から近い主力の街"エザフォス・アグロス"にて、シュヴァルツとデメテルの戦闘が始まった。



***** 



「さて、どちらから向かうかな。四神の居る島に人間の国の主力に匹敵する存在の居る街。顔見知りが居るって意味なら四神の方が良いけど、挨拶を先に済ませた方が良いかもしれないね」


 各々(おのおの)が戦争を仕掛ける中、街と島。そこを見下ろせる上空にてヴァイスはどちらに行くか悩んでいた。

 黄竜率いる四神の居る島も良いが、まだ会っていないという意味で"ヒノモト"も捨てがたいと言った面持ち。基本的に率直に決めるヴァイスからしたら悩むのは珍しい事だろう。


「うン。此処は無難に人間の国から攻め落とすか。グラオとシュヴァルツが行動を起こしている事を考えればその方が効率的だ。四神の実力はある程度承知しているし、数も理解済み。それなら下調べも兼ねて"ヒノモト"から行こうかな」


 そしてヴァイスにとっての長考する事数分。ヴァイスは一先ず人間の国を中心的に攻める算段を立てていた。

 四神の島には四神と麒麟、黄竜しか居ないが、"ヒノモト"は未知の領域。そもそも街という形を織り成しているので得られる情報量から考えてもその方が良いのだろう。

 ヴァイス、シュヴァルツ、グラオ、マギア、ゾフル、ロキ。過激派侵略者のヴァイス達一行は、全世界に向けての宣戦布告に向けて着々と準備を進めていた。

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