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八百八十四話 人間の国の支配者

 ──"パーン・テオス・ゼウスの部屋"。


 ライ、リヤンとゼウスの元に現れたグラオは先を促す。


「どうしたんだい? 折角こんなに主力が揃っているのにやる気があるのは僕だけじゃないか。まあ、ゼウスの存在の大きさからして仕方無い事だとは思うけどね」


「皆が皆アンタみたいに戦闘狂って訳じゃないからな。俺の場合は必要な戦い以外はなるべく避けたい」


「うん……。私もライの為に戦いたいだけだから……本人が望まないならそれに従うだけ……」


「我はただ面倒なだけだな。全ての結果も知っている。無論、それなりに疲弊する事もな。そんな事をして何になるというのだ」


「やれやれ。君達は確かな力はあるんだけど、如何せん非好戦的だなぁ。ゼウスはて置き、君達は短い人生なんだからその人生を思いっきり楽しまなきゃ勿体無いじゃないか」


 一人好戦的なグラオだが、ライたちの様子を見て肩を落とす。

 ライたちは、もとい、ライたちもヴァイス達と同じように侵略者である。しかしあくまで周りへ及ぼす被害は少なく、最小限に留めての侵略活動をおこなっている。なのでヴァイス達とは根本的に違うのだが、力のある者がそれを使わない事に対してグラオは不満なのだろう。


「けどまあ、ゼウスは本を閉じてくれたみたいだし、少しはやる気を見せてくれるのかな?」


「さて、どうだろうな。それは全知の我でも分からぬ」


「分からないも何も、君の気持ちの問題だろう!」


 グラオは窓際から踏み込み、一瞬にしてゼウスの眼前に迫った。同時に拳を打ち出し、座り続けるゼウスのその顔を狙う。


「いきなり仕掛けてくるとはな。予想外だ」


「嘘はいけないよ。その動き、僕が此処に来た瞬間から僕が此処でこれなら何をするのか、全てが終わるまで全てを知っている様子だからね!」


「後半の部分は動きなど関係無さそうだがな。まあ、お前の言う事は確かに合っているな」


 拳は座ったまま最小限の動きで避け、グラオの仕掛ける追撃もかわす。

 グラオの攻撃を避けながら何事無いように椅子から立ち上がり、ゼウスはグラオに視線を向けた。


「一旦距離を置かせて貰おう」

「……!」


 次の瞬間、連撃を仕掛けていたグラオの身体が急に後退り、そのまま窓際まで追いやられる。

 グラオは何とか外へ飛び出さぬようこらえ、笑いながらゼウスに視線を向けた。


「優しいね。ゼウス。今の瞬間だけで僕を倒す事も殺す事も封印する事も出来た筈。それをしなかったという事は、君は僕を生かしてくれたって訳だ」


「全てが即死で終わったらつまらぬだろう。ただでさえ退屈な戦闘。あくまで程好い疲労程度に抑えるなら、善戦しているように見せ掛けた方が暇潰しに向いている」


「成る程ね。君にとって僕達は白紙の存在って訳か」


 万物を思いのままに出来る全知全能のゼウス。故にグラオ、もとい原初の神にして混沌を司る存在であるカオスすら即死で終わらせる事は可能だった。が、この戦いを暇潰しと考える為に手加減し、殺さぬように善戦を描くのがやり方らしい。

 確かにゼウスは白紙の本に自分の物語をつづるのが良いと言っていた。なので今回の戦闘を白紙の本に見立て、自分で盤面を動かして行くようだ。


「さて、君達も戦うつもりなのだろう。早く仕掛けてくると良い。出会った瞬間に全てを終わらせる野暮な真似はせぬ」


「ハッ、随分と舐められたものだな……!」


 グラオをいなしたゼウスは次にライとリヤンへ視線を向ける。戦いは面倒だが時間潰しにはなる。なので通常の戦闘を演じてくれるらしい。

 ライはそんなゼウスに向けて力を込め、一先ず仕掛けてみる事にした。


「取り敢えず、力量を測ってみるか……!」


 同時に踏み込み、先程のグラオと同様一瞬にしてゼウスの眼前に迫る。秒も掛からずに迫ったライは拳を構え、次の刹那にそれを放った。


「測る必要性は皆無だ。そもそも測らせぬからな」


「……!」

「……!?」


 そして次の瞬間、ライの眼前にはリヤンが立っていた。

 ライは慌てて拳を床に叩き付け、この部屋を崩壊させて塞き止めた。


「悪い! リヤン!」

「うん……大丈夫……。けど……瞬間移動させられたみたい……」

「俺が瞬間移動をさせられた……?」


 ライは止めた瞬間リヤンに謝罪し、リヤンの言葉を聞いて怪訝そうな表情をする。

 ライに宿る魔王の力はライが意識せずとも、自分に都合の悪い全ての異能を防ぐ。瞬間移動など自分が使う場合は防がないが、リヤンの前に移動させられるのは危険だろう。つまりライにとっては不都合である。故に本来なら自動的に抑えられる筈なのだが、今回はゼウスによって移動させられたようだ。

 ライはゼウスを一瞥し、質問するように言葉を発した。


「多分アンタは俺の……というより魔王の力を知っているよな? その事からするに……魔王の力を無効化したのか?」


「ああ。全知全能なんだ。無効化を逆に無効化する。それくらいは雑作も無い」


 即答だった。

 どうやらゼウスは魔王の力を無効化して不都合な方向にライの身体を瞬間移動させたらしい。

 魔王すら及ばぬ全知全能の領域。その所業。ライとグラオを相手にしたゼウスは再び椅子に座り、崩壊した部屋を一瞬で戻し本を開いた。


「時間潰しにはなるかと思ったが、どうやらそう言う訳ではないらしいな。まあ知っていた事だが、お前達では……いや、過去未来現在。無限に顕在する多元宇宙を含めた全ての次元に置いても我に及ぶ者は存在せぬ」


 パラッとまた本を一捲り。

 曰く、ゼウスに及ぶ者など存在しないとの事。全知全能のゼウスが言うならそれは本当にそうなのだろう。

 ゼウスは白紙の本を読みながら言葉を続ける。


「いや、まあ居ない訳ではないな。聖域に今も存在する勇者が一人。そしてたった今考えた事で浮かんできた者が三人。割と存在するな」


 そしてその様な事を話したからか、そんなゼウスと渡り合える存在も居るという事が分かったらしい。

 聖域に居る勇者は兎も角、他に三人居るとの事。順当に考えるなら他の支配者達だが、その詳細は不明のままである。


「勇者と勇者以外の誰か三人ね。まあ、その三人が誰なのかは今はいいや。取り敢えず余裕があるみたいだけど、此処まで舐められちゃ引き下がる訳にはいかないな……!」


「ハハ。じゃあ僕もライに便乗しようかな!」


「無駄と分かっていて来るか。まあ、確かに二人掛かりならチャンスはあるかもしれぬな」


 余裕を見せるゼウスに向け、ライ。そしてグラオが肉迫した。

 グラオの場合は二人同時に相手取る事も考えているかもしれないが、兎にも角にも二人で攻める事でダメージだけでも与えようという魂胆なのだろう。

 やられっぱなしなのはライもグラオも頂けない。互いは敵同士だが、利害の一致という訳だ。


「オラァ!」

「そらっ!」

「……」


 ライが正面から拳を放ち、グラオが背面から蹴りを打ち抜く。それをゼウスは一瞥もせずに本を読みながら椅子を動かして避け、ライの拳とグラオの蹴りが衝突する。同時に二人は裏拳と回し蹴りを放ってゼウスにけしかけ、またもやゼウスは椅子を少し動かすだけでかわした。

 それによって周囲は砕け木塵が舞い上がる。刹那に光速の連撃を仕掛け、ゼウスを狙った。


「当たらないな……!」

「やっぱり強いね。ゼウス……!」


「何処から何が来るのか全て理解しているのだ。ただその場所を離れれば良いだけ。容易い所業だな」


 拳に足。掌に膝。あらゆる箇所をもちいた肉弾戦を仕掛けるがその全ては椅子に座ったまま最小の動きで避けられる。

 試しに椅子を狙っても避けられてしまい、全ての攻撃はゼウスに掠りもしなかった。


「もういいか? まあ、無駄という事は理解しているみたいだがな。しかし、まだ続けるか」


「ハッ、もういいかって質問しておいて一瞬で答えに辿り着いているんじゃねえか。やっぱり全知ってのは厄介な相手だな……!」


「そうだね。全ての攻撃が当たらないや」


 依然として椅子に座りつつ、既に返答の知った質問をするゼウス。ライとグラオは疲れてはいないが精神的に少々来ており、少し辛そうな雰囲気だった。

 そんなゼウスは本を閉じ、


「さて、そろそろお帰り願おうか。暇潰しにはならないようだ」


「「……っ!」」


 そのまま二人の身体を吹き飛ばした。

 二人は部屋の端と端に飛ばされ、激突して血を流す。本来ならこの程度で傷を負わないのだが、全能の力をもちいてちょっとした事でダメージを与えられるようにしたのだろう。


「……私も……やらなきゃ……!」


 そんな二人の様子を見たリヤンは神の力を込め、軌跡を見せぬ為ゼウスの元に瞬間移動で迫る。同時に挟み込むよう、その神の力を放出した。


「"神の手(ゴッド・ハンド)"……!」


 神の力から手を形成し、それでゼウスを挟み込むようにけしかける。同時にゼウスは再び本を開き、微動だにせずリヤンの身体も吹き飛ばした。


「……ッ!」


「ソール・ゴッドの子孫。リヤン・フロマか。奴の力には遠く及ばぬな」


 それだけ告げられ、リヤンはライの上に落下する。ゼウスの部屋は何事も無かったかのように修復。そのまま静寂が包み込み、本を捲る音のみが静かに響き渡った。


「……っ。何で動作の度に本を閉じたり開いたりするのかは分からないけど、本当に戦うつもりは無いんだな……ゼウス……!」


「まあ、本は予備動作のようなものだ。それに、戦ったところで意味がないと既に理解しているだろう。捕らえるのも面倒。殺すのも楽だが面倒。自由に行動すると良い」


「随分と適当な支配者みたいだな……まあ、これからどうなるのか行動によって変わる未来の分岐も含めて全てを知っているアンタからすれば確かに大した事じゃないんだろうけど……!」


「成り行きで支配者になっただけだからな。面倒な事はなるべくしたくないのが心理だ。まあ、我は見逃すと言ったが他の者たちは捕らえるつもりで行動を起こしている。これから何をするも自由だが、捕まらぬ方が良さそうだ」


 どうやらライたちを捕らえるつもりは無いらしいが、他の主力達はそうもいかなとの事。割と適当な存在のゼウスだが、全知故の苦悩というものもあるのかもしれない。

 ライたちから興味が失せた様子のゼウスは今一度白紙の本を読み進める。


「やれやれ。確かに今のゼウスには勝てなさそうだな。先代よりもかなり力があるみたいだ。僕にも他の目的があるし、ライ達(この目的)は後にしようかな」


「グラオが引き下がる程か……。まあ、今までも戦いたいと言ってはいるがグラオは結構戦闘を放棄しているけど。だけど、確かに今の俺たちじゃ手も足も出ないな……此処は大人しく退いた方が良さそうだ!」


 ゼウスの言葉は尤も。おそらく今のライたちやグラオでは到底及ばぬ力を秘めている事だろう。全知全能なのだからそれも当然だ。

 なのでグラオは窓から飛び降りて別の目的とやらの為に去り、ライとリヤンもゼウスの部屋から外に出た。


「ああ、賢明な判断だ。だが、我は見逃しても主力たちや兵士たちはどう出るか……お前達には分からないだろう」


「……!」


 その瞬間、部屋の外には兵士達がおり、兵士達と共にレイ、エマ、フォンセの三人とアテナ、ヘルメス、ヘラの三人が居た。


「……え!? こ、此処は……!?」

「おや? 何故レイとライたちが居るんだ?」

「それは此方の台詞だな。何故レイとエマ、ライたちが?」


「成る程。そう言う事か」

「その様だね。ゼウス様の気紛れか」

「巻き込まれる身としては面倒なものよの」


 その言動からするに突如として場所が変わった様子であり、レイたちは困惑。ヘラ達は冷静に思案していた。

 だが両者共に大凡おおよその状況を理解しており、レイ、エマ、フォンセの三人は一つの気配を感じてヘラ達を余所に大きく反応を示した。


「……! この気配……! もしかして……!」

「……っ。どうやらその様だな……!」

「やはり居たか……!」


 いずれも強者の筈のヘラ達の存在すら霞む程に強大な気配。直ぐ近くにある部屋からそれを感じたレイたちは、本能がこの場を離れなければいけないと判断した。


「そう言えばヘラって……まあいいかな。それよりライ……これって逃げた方が良いのかな?」


「ああ、そうだな。ヘラ達三人は何とかなるけど、それとは別の一人……この国の支配者がかなり厄介だ。今の状態で支配者……ゼウスを相手にするよりはヘラ達三人を一人で相手にした方が勝率が高い程にな……」


「その言葉からするにライはもうゼウスに会ったという事か……ライがそこまで言うんだ。本当に厄介な存在という事だろう」


「その様だな。なら、神々の女王を謳われるヘラが居たのは驚きだが、今はそれどころじゃない。ヘラ達は軽くあしらって何処かに逃げるとするか」


 レイとエマは初対面のヘラも気に掛けるが、この国の支配者の存在が第一優先であるが為にヘラ達は意に介さず一旦退くという案に賛成した。

 ライたちが撤退するのは珍しい事だが、相手の力量などはわきまえている。なので不利とあらば逃げに徹する堅実さも持ち合わせているのである。


「という事で、ゼウスは追って来ないみたいだしアンタから逃げればそれで良いか!」


「「「……!」」」


 ライが先陣を切り、魔王の力を解放して肉迫。そのまま拳を放ち、前方をヘラ、アテナ、ヘルメス。兵士達ごと吹き飛ばした。

 この星が崩壊する勢いで放った拳だが前方が吹き飛んだだけの様子を見るに、ゼウスが崩壊する世界を即座に修正したのだろう。しかしヘラ達が吹き飛ぶのを阻止しなかった様子を見るに、星の崩壊を止めるなど最低限の行動しか起こさないようである。


「さて、取り敢えず何処に行くかだな」

「そうだな。どうせゼウスには見つかってしまう。先にヘラ達を仕留めるか?」

「うーん。悩むな。まあ、その時の事はその時考えよう。レイたちには色々と話したい事もある。一先ずはこの城内に居ても問題無さそうだしな」


 人間の国の、世界最強の支配者、ゼウス。その力を目の当たりにしたライと、その存在の強大さを理解したレイたちは一先ず撤退するが、城内には留まるつもりらしい。グラオの事についても話さなくてはならない以上、まだまだやるべき事は多々あった。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は人間の国"パーン・テオス"にて主力達やゼウスと出会う。しかし世界最強の国の征服も、どうやら一筋縄ではいかなそうである。

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