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八百八十二話 人間の国の主力

 ──"パーン・テオス・城内"。


「……。何で城の中に神殿があるんだよ……」

「うん……」


 城の方へと侵入したライたちは、入り口から少し進んだ先にある、城に似付かない神殿の前で立ち往生していた。

 そこには白亜の柱が立ち並んでおり、白く巨大な長方形の建物という印象がある。世間一般が連想する神殿その物という形が織り成されていた。

 それだけなら良いのだが、前述したようなそれが城内に健在している。先を急がなくてはならないライたちだが、流石に気になるようだ。


「それは私を信仰する者達が建ててくれた神殿だ。何となく城の中に置いてある」


「……!」


 そして次の瞬間、頭上から一つの声が掛かった。見れば神殿の上に一人の女性がおり、ライたちを見下ろしていた。

 何故彼処(あそこ)に居るのかは分からないが、その女性の為に造られたという神殿。その事からしても神の一人。オリュンポス十二神の一角だろう。


「一応念の為に聞くけど、アンタは?」


「おやおや。礼儀の無い子供だな。自分から名乗らず先に私に名を聞くか。まあいい。名乗るだけ名乗るとしようか。私は"アテナ"。この国の主力さ」


「成る程。その神殿か」



 ──"アテナ"とは、オリュンポス十二神の一角である戦いの神にして守護神、処女神を謳われる女神である。


 生まれついた時から防具を纏っていたと謂われ、戦い、知恵、守護を司る存在である。


 戦いを司る存在ではあるが、その戦いはあくまで守護の為のモノ。荒々しい戦いはせず崇高な存在とされる。


 守護神であるが為に人が怪物などを討伐する際には自身の防具を貸したりなどの一面も見られると謂われている。


 戦い、守護、知恵を司るオリュンポス十二神の一人、それがアテナだ。



「見た事の無いな。お前達。何やらコソコソしていたし、簡単に考えれば侵入者か」


「……ま、そう思ってくれても構わないよ。事実だしな」


 防具を纏った姿のアテナは白亜の神殿から飛び降り、その髪をなびかせてライたちの前に降り立つ。

 その顔は整ったものであり、その艶のある髪は金に近い色合いの茶髪で背部まで届く長さを有している。青く凛とした瞳は真っ直ぐにライたちを見つめ、片手には槍。もう片手にアテナを象徴とする"アイギスの盾"を構えて警戒を高めていた。


「フム、あっさりと侵入者である事を認めたな。それなら相応の覚悟はあると見た。一先ず捕らえ、詳しい話を聞こうか」


「アンタがこの街の主力か? まあいいや。取り敢えず、ただで捕まる訳にはいかないな。ほら、薄々感付いているかもしれないけど、俺たちの目的はロクなものじゃないからさ」


「それを聞いたら益々(ますます)捕らえなくてはならないな!」


 次の瞬間、アテナは神殿の元から一気に加速して迫り、ライの眼前に槍を放った。


「はあ!」

「……!」


 その槍はライではなくレイが受け止め、足元がその衝撃で砕け散る。同時に鞘に収まったままの勇者の剣を薙ぎ、アテナの身体を弾き飛ばした。


「中々の力と反応速度だな。その女剣士を始めとしてお前達、ただ者ではないな? 私の一撃を受け止められる者など主力クラスくらいだ」


「さあ、どうだろうね。けどこの状況……侵入者は私たちだけど、正当防衛になるかな?」


「なる訳無かろう!」


 数言交わし、アテナが髪を靡かせながら再びレイの元へと迫った。どうやら標的をライからレイに変えたようだ。レイは勇者の剣で応戦し、槍の剣尖と鞘がぶつかり合う。


「鞘に収めたままか。舐められたものだな……!」


「別に舐めてはいないけど……剣を使うと少し問題があるからね……!」


「それ程までの破壊力という事か……!」


 切り伏せ、かわし、突き、薙ぎ払い。せめぎ合いながら攻防を繰り返す。刹那に二人の身体は弾かれ、レイとアテナが向き合った。


「どうする、レイ。私たちの手伝いは要るか?」

「うーん。今はいいかな。他にも強い気配を感じるから……フォンセたちは先に行ってても良いよ」


 レイとアテナの戦闘を見やり、手伝いが要るかどうかを訊ねるフォンセ。しかしこの城には他の気配もあり、それを気に掛けるレイは先に行く事を促した。


「そうか、分かった。じゃあ私たちは先に行こう」


「そうだな。レイ。相手も主力だ。気を付けてくれ」


「ああ、気を付けろよ。レイ」

「頑張って……」


 レイの言葉に従い、ライ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は神殿を抜けた先へと向かう。


「させるか……!」

「それをさせないよ……!」

「……っ。邪魔だな……!」


 それを阻止しようと槍を構えて駆け出すアテナだが、レイが横から剣をもちいてその動きを止める。アテナは飛び退き、槍を構え直してレイに向き直った。


「まあいい。どちらにせよ、抵抗するという事はやましい事があるという訳だからな。先ずはお前を捕らえ、その後でアイツらを狙うか……!」


「まあ、さっきライも侵入者ってちゃんと認めていたからね。疚しい事があるのは確かにその通りかな」


「そう言えばそうだな。ロクな目的ではないとも言っていた。やはり早いところ捕らえなくてはならなそうだ……!」


 疑惑は確信に変わる。しかし元よりレイは、というよりライは自分でその様な事を言っていた。それも踏まえ、アテナはさっさとライたちを捕らえようと行動に移る。

 城の中にある奇妙な神殿の前でアテナと出会ったライたち。始まった戦闘にはレイが残り、ライたちは先に進むのだった。



*****



「それにしても広い城だな。神殿を抜けたは良いけど、まだまだ先がある」


「ライや私が何ともない事を考えれば幻覚とかでもなく、純粋にかなり広い構造の城って考えるのが妥当だな。兵士達に見つからぬよう移動するのも一苦労だ」


「まあ、広い分隠れる場所が多いのは良いな。面倒ではあるが確実性もある」


「うん……。けど……相変わらず強い気配が漂っているね……」


 レイとアテナを残し、白亜の神殿を抜けたライたちはそこそこの速度で駆け抜けながら城内を進んでいた。

 余計な戦闘を避け、出来るだけ目立たず不意を突く為にも兵士達から姿は隠しながら行き、城の感想を述べながら青い絨毯じゅうたんの敷かれた廊下を行く。レッドカーペットではないのは珍しいが、この様な事もあるのだろうと構わず進む。


「此処は大広間っぽいな。一際大きな絨毯にシャンデリア。彫刻に銅像に鎧に絵画。イマイチ統一性は感じないけど、互いが邪魔をしないでしっかりした部屋になっている」


「兵士達も相変わらず居るが、まだ気付かれてはいないみたいだな」


「その様だな。落ち着きもあるし、アテナとのいざこざによって生じた音は聞こえていないのか?」


「そうみたいだね……。結構距離はあるから……このお城の広さがその要因になったのかな……」


 渡り廊下を抜けた先は大広間のような場所。ライたちは柱や物陰に隠れながら迅速に移動し、そこに集う兵士達の様子からまだ事態には気付かれていない事を理解する。

 確かに距離はあるが、誰一人気付かないのもおかしな話である。しかし罠という気配もなく、本当にライたちの存在に気付いていないだけのようだ。


「まあ、何にせよ気付かれていないなら好都合だな。早いところ気配の近くに行くか」


「「ああ」」

「うん……」


 それなら好都合とライたちは先を急ぎ、兵士達に見つからぬよう真っ直ぐに、


「知った気配があったと思ったら、お前達か。侵略者──」

「──よっと」

「……ッ!? いきなりか……!?」


 ──進もうとした瞬間、目の前に人間の国の主力であるヘルメスが現れた。が、次の刹那にライは拳を放って殴り飛ばした。

 何か言葉を返そうとしたヘルメスは成す術無く吹き飛び、幾つかの柱を粉砕して消え去る。


「えーと……今何かが居たような……」

「妖精みたいなものだ。守護精だろう」

「ああ、そういう事だな」

「うん。そうだな」


「オイ、お前達。主に情報役だが、一応私も主力の一人だ。あまり舐めるな……!」


 リヤンがそんな存在を一瞥して小首を傾げ、エマが適当に流してフォンセと吹き飛ばしたライはそれに同意するように頷く。

 しかし主力。ただでやられるヘルメスではなく即座に迫ってハルパーを突き刺した。


「ハハ。さっきもう主力と出会ったからな。面倒な相手はスルーしたかったんだ」


「随分と正直だな。まあ、確かにこの国の主力の中では一番多く私と戦っているからな」


「そう言う事!」


 ヘルメスの腕を掴んでハルパーを防いだライ。二人は互いに数言交わし、刹那にライが回し蹴りを放ってけしかけた。

 ヘルメスはその蹴りを避け、蹴りの衝撃で周囲に風が巻き起こる。それと同時にヘルメスは大声を発した。


「兵士たち! 侵入者だ! 即座に捕らえよ!」


「「「はっ!」」」


 声を上げて数秒後にライたちは囲まれ、周りには武器を携えた兵士達が集った。

 ライ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は背中合わせに構え、エマがライとフォンセ、リヤンに向けて言葉を発する。


「囲まれてしまったな。まあ何とかなる相手だから問題無いか。ライたちは先に行っていてくれ。数が多いから、少し片付けておく。どういう訳か、まだ強い気配がするからな。他にも主力は居そうだ」


「一人で大丈夫なのか? 兵士達はて置き、不死身にも傷つけられるハルパーを携えたヘルメスも居るぞ?」


「なぁに。問題無いさ。多勢には対策があるからな」


 この城にはまだ主力のような強い気配がする。だからこそエマはライたちに先を促したのだ。

 そんなエマの身を案じるライたちだが、エマには何らかの考えがある様子。三人は頷いて返した。


「そうか、分かった。気を付けろよ、エマ」

「じゃあ、先に行ってるぞ。後でレイたちと共にな」

「頑張って……」


「ああ、任せておけ」


 次の瞬間に踏み込み、ライたちは加速してヘルメスと兵士達の間を抜ける。

 ヘルメスはヘルメスで残ると告げたエマに注意を向けており、今回はライたちを見逃した。


「意外だな。先には行かせないとか言うのかと思ったぞ。まさかだんまりとはな」


「私は自分の実力をわきまえているからな。ヴァンパイア。お前の相手だけでも骨が折れそうだ。他の仲間が居たんじゃ、勝率はゼロになってしまう」


 ヘルメスは狡猾。故に場の状況を読み、最善の策を取る存在である。

 敵に回すと考えれば狡猾な実力者程やりにくい相手は少ないだろう。


「そうか。それなら遠慮無くやらせて貰おう」

「そう何度も敗北する訳にはいかないさ」


 周囲を一瞥するエマとハルパーを構えるヘルメス。ライたちを先に行かせ、レイのように主力との戦闘が始まった。



*****



「それにしても、少し主力の人数が多くないか? 二人とかなら今までもあったけど、他にも気配を感じるからな。過去最多かもしれない」


「ああ、そうだな。それに、いずれも強力な主力だ。一番強い気配の場所はそれなりに離れている。果たして何人が生き残るか」


「事実だよね……その言葉……。確かに何か違和感がある……。まるで……強大な存在が居るかのような……」


 大広間を抜けたライたちはまたもや長い、今度はレッドカーペットが敷かれた渡り廊下を進み、この城に入ってから、入る前から感じ続けている強い気配を気に掛ける。

 アテナ、ヘルメスとの鉢合わせ。加えて感じる他の気配。それらを考えるだけでも多くの主力がこの城に集っているのが事実。それはあまり良いものではないだろう。


「部屋が見えてきたな。他にも道は続いているけど、どうする?」


「無論、行くしかないだろう。あの部屋からも強い気配を感じるからな」


「うん……」


 渡り廊下を高速で渡り終えたライたちは一つの部屋を見つけ、ライは如何様にするか訊ねる。二人は即答で返し、ライ、フォンセ、リヤンの三人はその部屋へ突き破るように飛び込んだ。


「……。全く、騒がしいのう。部屋の扉は壊す為にあるのではないのだがな。それも、女性の部屋という可能性も配慮してノックくらいはして欲しいものだ」


「「「…………」」」


 そしてそこには、着替えている途中なのか半裸の女性がベッドに座っていた。

 女性は男性のライが居る事も確認したが特に羞恥心なども無い様子で衣服を着用し、改めて向き直る。


「さて、見たところ見た事のない存在だな。まあ、もう既に何者かは知っているのだがな。……侵略者達よ。私の名は"ヘラ"。一応この国の主力の一角だ」


「……。また大物の部屋に迷い込んだみたいだな……」



 ──"ヘラ"とは、オリュンポス十二神の一角にしてゼウスの妻。最高位に位置する女神である。


 結婚、母性、貞節を司る存在であり、結婚と出産、主婦を守護する女神と謂われている。


 美しい存在であるが非常に嫉妬深く、伝承では伝承内でのゼウスの浮気に激情して行動を起こす事も屡々(しばしば)あった。


 オリュンポスの中で情報収集の能力に長けており、浮気などには迅速に気付くと謂われている。


 オリュンポス十二神の一角にして嫉妬深い最高位の女神、神々の女王を謳われる存在。それがヘラだ。



「此処はアンタの私室って訳ね。俺たちの事は知っていたみたいだけど、それは俺たちの全ての目的を知っているって解釈して良いか?」


「構わぬ。そも、既にお前達を"侵入者"ではなく"侵略者"と申しただろう。当に戦闘へ身を投じるつもりだ」


「成る程ね。んじゃ、遠慮は要らなそうだな」


 神々の女王である嫉妬の女神、ヘラ。

 ヘラは既に戦闘態勢へと移行しており、ライたちも構え直した。

 人間の国"パーン・テオス"にある城に入ったライたちの前に次々と現れる人間の国の主力達。

 レイはアテナと。エマはヘルメス。ライ、フォンセ、リヤンの三人はヘラと出会うのだった。

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