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八百八十話 不穏な気配

「「……」」

「「……」」


 ──翌朝、ライ、レイ、フォンセ、リヤンの四人はテントの中にて目覚めた。

 人間の国No.2の実力者、ポセイドンが居た"タラッタ・バシレウス"をってから早三週間。ほぼ一ヵ月は主力の居る街に寄っていないという事になる。

 色々な街には寄っているが、やはり主力という存在の残り人数的にあまり寄れる機会が無くなったと考えるのが妥当だろう。


「おはよう。レイ、フォンセ、リヤン」

「おはよー。ライ、フォンセ、リヤン」

「挨拶、ご苦労。ライ、レイ、リヤン」

「……。おはよう……。ライ、レイ、フォンセ」


 一先ず目覚めた四人は常例通り挨拶を交わす。今日はそれなりの目覚めらしく、あまり眠そうな雰囲気ではなかった。

 しかし夢の内容は何時ものように、何時も以上に気に掛けている様子。四人はそそくさとある程度の支度をし、エマも居る外に出た。


「やあ、おはよう。ライ、レイ、フォンセ、リヤン。……ふむ、その様子、久々に夢を見たみたいだな?」


「ハハ、もう分かったか。ああ、取り敢えずおはよう、エマ」

「おはよー。エマ!」

「挨拶ご苦労、エマ」

「……。おはよう……エマ」


 エマは挨拶と同時にライたちの様子から大凡おおよその事を推察した。何処と無く寂しい夢ではあったが、気分自体は悪くないライたちは明るく挨拶を返す。

 何はともあれ、何時ものようにライたちは朝食の準備に取り掛かった。そして物の数分で終わらせ、簡易的なテーブルや椅子などを造ってそれに座る。


「成る程。子供たちを育てる決心をした勇者の妻か。かつての神がほとんどの事を伝承として伝えていたのは意外だったな」


「ああ、俺たちも同じような事を考えたよ。それで、何となくだけどもうそれに関する夢は見ない気がするな」


「ふむ、ライの何となくはほぼ当たるからな。ライが言うならそうなのだろう」


 朝食を摂りつつ、夢の内容を話すライたち。エマは興味深そうに聞いており、ライのもう見る事は無いという言葉に納得していた。

 ライの予想はよく当たる。なので直感にも関わらず信憑性は高いのだ。

 ライたちはその様な事を話ながら朝食を進めた。


「しかし、本当に何だったのだろうな。唐突なシンクロニシティ。そしてこの数ヵ月で見た夢の数々。人間の国に入ってからだ」


 そんな中、パンを摘まみながらフォンセが疑問を浮かべるように話す。

 そう、事の発端は人間の国に来てから。突拍子もなく見た夢。気になる事は多かった。


「確かにそうだな。魔王は何か知っているかと思ったけど、特に指摘も無いから本当に謎なままだ」


「うん。私の剣がミール家にとってとても大切な物って事も分かったけど、何で急に夢を見たのかは分からないなぁ」


「私も先祖の事が少し分かったけど……それだけ……」


「……。本当に謎が深い夢なのだな。私は話でしか共有していないが、確かに興味深い」


 謎は多い。しかし考えていても意味がないのも事実。なので夢の事はて置き、朝食を済ませて旅の支度も終えた。

 そして進み、人間の国を先に行く。


「そろそろ主力の居る街が見えてきても良さそうなんだけどな。三週間進んでも主力の街は見えないか」


「オリュンポスの数からしても残り僅かだからこそなのかな? 今までは普通に到達出来たけど……」


「だがまあ、ライたちが夢を見た時は決まって主力の街に辿り着いている。実際、近付いているんじゃないか?」


「そう言えばそうだな。何故か主力の街に行く時だけ辿り着ける。もしかして、私たちの進行具合と関係しているのか?」


「そうなのかな……?」


 主力の居る街を探しつつ、ライたちは今までの法則から推測する。

 そう、夢を見た時は決まって主力の居る街に辿り着く。ライたちが侵略を進め、何らかの事柄が進行する時に限って夢を見るのである。もしかしたら何らかの要因があるのではないかと考えていた──その時、


「……。噂をすればなんとやらって奴か? 一際大きな街が見えてきたな」


「うん。主力が居るかどうかはまだ分からないけど、今までに見た街の中で一番大きい街だね」


「ああ。豪華絢爛な街並みだが、程好く自然も残って全体的なバランスが良いな」


「城のような建物も見えるな。偉そうな人物は居るって事だ」


「うん……。何かは居るのかも……」


 ライたち五人は大きな街に到達した。

 あまりに事が上手く運ばれる。しかし見つけたなら選択は一つ。その事に苦笑を浮かべつつ、ライたちは街の方に向かった。



*****



 ──"人間の国・───・───"。


「さて、準備は整ったね。これで全世界に向けて宣戦布告するに当たって十分な戦力が揃った。後はタイミングを見計らってけしかけるだけだ」


「ハッ、ようやくかよ。待ちくたびれたぜ。大々的に行動する割には変な所が慎重なんだからよ」


「ハハ、そうだね。一人の戦力が居ないのは残念だけど、楽しみだよ」


「そうだな。仕方ねェからハリーフの無念は俺が晴らしてやるよ」


『あの者は悔いが無いように見えたがな。しかしまあ、この数ヵ月で全てのブランクは解消された。私もようやく本気を出せるという訳だ』


 此処は人間の国、"───・───"。

 そこにはヴァイス達が集っており、生物兵器の兵士達を始めとして全主力が集まっていた。

 本人達曰く、全世界への戦争。その準備が全て整ったらしく、遂に行動を起こすらしい。

 そんなヴァイス達の視線の先には数人の者が居た。


「悪いね。こンな扱いで。優秀な君達は特別待遇にしたかったンだけど、暴れるからね」


「当たり前です……! さらわれて機嫌が良い訳ありませんからね……!」


「ああ。ま、確かに待遇は良かったな! だが、俺はお前達を許すつもりはないぜ! そこんとこ夜露死苦!」


「相変わらず五月蝿うるせェ奴だな。つか、テメェら! さっさと魔法・魔術の厳重な拘束を解きやがれ!」


「元気だなぁ。皆。あ、アスワドさんはちゃんと人質っぽいかも……」


 ヴァイス達に"世界樹ユグドラシル"で捕らえられたアスワド、シャドウ、ゼッル、ラビアの四人である。

 アスワドはヴァイス達を睨み付け、賑やかなシャドウとゼッルも二人なりに抗議する。逆に基本的に明るいラビアはそんな様子を見てため息をいていた。


「フフ、気概があるのは良いね。出来れば大人しくして貰いたい気もあるけど、威勢がいいのは悪くない」


 そんなアスワドたちを見やり、ヴァイスは軽薄に笑う演技をしながら話す。様々な力を取り込んだ代償として感情は消え去っているが、元々は感情があった。なのでその様に見せ掛ける演技は出来ているのだ。

 人は感情を見せた方が話してくれる。それを知っているからこそ、その様に感情を見せているのだろう。


「さて、君達を捕らえてから早数ヵ月。ようやく出番が来たよ」


「唐突に話を変えますね。それに出番とは……ロクな話じゃないのは大凡おおよそ理解出来ますけど。解放してくれる訳では無いのでしょう?」


「まあ、間接的には解放という形になるかな。君達の思うような解放とは確かに違うけどね」


 曰く、アスワドたちには何らかの出番が来たとの事。それを全く良いものではないと確信しているアスワドは警戒しながら訊ね、それに返答するヴァイスはゆっくりと四人の元に近寄った。


「長い説明や前置きをしてもある程度の事は既に理解しているだろう。だから単刀直入に言おう。今から君達は私達の兵士だ。異論は?」


「あります。と言うか、何故異論を訊ねたのかが疑問ですね。アナタ達に協力する理由など皆無でしょうに」


「いいや、協力して貰うよ。私にはその術があるからね。拒否権は無いさ」


「「……!」」

「「……!」」


 次の瞬間、ヴァイスは兵士化を拒むアスワド、シャドウ、ゼッル、ラビアの四人にヴァンパイアと超能力からなる催眠術を掛けた。

 純粋な催眠術では色々と制約もある。なので二つの催眠を掛け合わせる事でより強力な催眠とし、四人を操ったのだ。


「さて、これで第一段階は突破かな。後は世界各国にけしかけるンだけど、この何人かは魔族の国にでも送り届けようか。仲間が無事だと思い、油断して寄ってくる可能性があるからね。まあ、そんなに油断する程甘くはないンだろうけど」


「それで、世界各国に攻め入るのは良いんだが、どうするんだ? 前の"世界樹ユグドラシル"での"終末の日(ラグナロク)"の時は、俺たちの実力は今より劣っていたが魔物の国や百鬼夜行との協力があっても得られた成果は少なかった。世界最強の人間の国を含む全世界に勝てるのか?」


「さあ、どうだろうね。しかし意外だね。君が弱気になるなンて。シュヴァルツ?」


「弱気になんかなってねェよ。純粋な疑問だ」


 いざ出陣という瞬間、シュヴァルツは疑問を指摘する。

 そう、以前の"終末の日(ラグナロク)"では様々な組織の協力があったにも関わらず得られた成果がアスワドたち四人。そしてヴァイスの新たな能力に間接的ではあるがロキの加入くらい。

 思ったよりも優秀な人材というものは多く、全ての主力を集め切るにはまだまだ掛かりそうという事である。

 ヴァイスは頷いて返す。


「まあ、疑問を浮かべるのは分かる。けど、今それは関係の無い事さ。返答するなら"分からない"。それだけだからね」


「勝てるかどうかは分からないか。確実性が無いのに挑むなんて、それこそ意外な気もするがな」


「フフ、何でだろうね。多分、私に宿るライ達や魔族達の性格が反映されているのだろうさ。不確定な事柄。続に言う無茶。それを行う感覚も強まりつつあるって訳さ」


「ふうん?」


 完全に納得した訳ではないが、力を得る代償と考えれば性格が変わる事もあるのかもしれない。

 実際のところシュヴァルツにとっては暴れられればそれで良いのでこれ以上言及せず、ヴァイスに付いて行き行動を開始した。

 アスワド、シャドウ、ゼッル、ラビアの四人が操られ、ヴァイス、シュヴァルツ、グラオ、マギア、ゾフル、ロキの六人は行動を起こすのだった。



*****



「綺麗な街だな。まあ、派手さで言えばアフロディーテの居た"フィーリア・カロス"の方が上だけど」


「けど、そことは綺麗の方向が違うね。白亜の彫刻みたいな建物や歩廊が連なっているよ」


「白を基調とした街か。街全体が神殿みたいだな」


「眩しくて目がチカチカするな……まあ、そこまで痛い色合いじゃないが……」


「綺麗……」


 ヴァイス達が行動を起こす一方で、ライたちは遠目に見えていた今までに行った街の中で一番巨大な街に入っていた。

 この街には白亜の物が多く、一つ一つの建物が彫刻のような代物に思えた。白は光を反射するので目が少し眩むが、然程さほどダメージは無い。煉瓦レンガの歩廊に美しい花や街路樹に噴水。白一色ではなくその様な明るい配色が心なしか好い気分にしてくれた。


「えーと、この街の名前は──」


 そしてライは看板のような物が無いかを探し、この街の名を確認した。



*****



「ところでヴァイス。全世界に戦争を仕掛けるなら、それなりの拠点が必要だよね? その点は考えているの?」


「ああ、無論さ。まあ、拠点というより最終的な目的地でもあるンだけどね」


 ライたちが街に入った時、行動を開始したヴァイス達が拠点となる街について話していた。

 グラオの質問に対してヴァイスは頷き、一つの場所に指を差した。


「拠点にして目的なのはこの街──」



*****



「「──"パーン・テオス"」」


 ──瞬間、ライとヴァイスの同じ言葉が同じ街の別の場所にて同時に発せられた。

 此処は人間の国、神殿のような街"パーン・テオス"。

 ライたちとヴァイス達はこの街にて各々(おのおの)の目的遂行の為に行動を起こすのだった。

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