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八百七十八話 海に囲まれた街・終結

 ──"タラッタ・バシレウス・城の中"。


「……ッ! む……此処は……」

「よっ。目覚めたか。ポセイドン」

「「「お気付きですか!? ポセイドン様!」」」


 ライが目覚めてから一日後。ポセイドンがようやく目を覚ました。

 ベッドに居るポセイドンは周りを見渡し、近くに居るライと兵士達を見やり、大凡おおよその事を理解した。


「フム……どうやら我が敗れてしまったようだな。致し方無いか」

「……。いや、あの時点ではほとんど引き分けみたいなもんさ。あれから経過した時間は四日。俺が昨日目覚めて、アンタが今目覚めた」


 状況を理解し、決着を推測したポセイドンは敗北を認めるが、ライが誤解の無いように訂正を加えた。

 そう、決着自体はほぼ引き分けで付いた。なので一日早く目覚めただけではライも腑に落ちないのだろう。

 そんなライの言葉にポセイドンは返す。


「……。いや、我の敗北だろう。この状態を見るに、我もお前達に治療を施されているからな。加えて我が目覚めたのは一日遅かった。故に我の負けだ」


「断言するのは早いんじゃないか? ほら、俺の方が一足早く治療された可能性もあるんだ」


「それは無かろう。目撃者には兵士達も居る。兵士達が脅された様子もなく、純粋に我の復活を喜んでいる。治療時間に差があったとしてもほんの数秒程。それだけで一日遅く目覚めるという事は無い。故に、我の方が大きな傷を負い、打ち負けたという事だ」


「……。そうか。大したものだよ。ちゃんと理由を付けて負けを認めるなんてな」


 ポセイドンの言葉に反論は出来ない。本人が言ったように、ライが眠っていた間の事はその通りなのだろうから。

 それならばと、ライも変に謙遜せず、勝利を受け取る事にした。


「分かった。じゃあ今回は俺の勝ちって事にしておくよ。この場でポセイドン(戦士)の言葉を否定したら逆に失礼だ。ただの嫌味になるからな」


「そうしてくれ。謙遜で情けを掛けられるのはあまりいい気分ではないからな」


 一先ずこれにて話は切り上げる。傷自体は完治しているが、念の為ライはポセイドンを安静にさせる事にした。

 そして部屋から退室し、外で待機していたレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人に向き直る。


「ポセイドンは目覚めたよ。それと、今回の戦いは俺の勝ちって事にしてくれるらしい」


「そうなんだ。良かったね。……で良いのかな? じゃあこの街からは離れるの?」


「ああ。昨日を含めて結構この街には滞在したからな。まあ、俺が目覚めたのが昨日なんだけど」


 ポセイドンとの決着が付き、ライたちの勝利という事になった現在。それならばこれからの行動は一つ。この街"タラッタ・バシレウス"を出て、次の主力が居る街に行くのが妥当だろう。

 この街の滞在時間は意識を失っていたとはいえそれなり。基本的に一つの街には一日二日しか滞在しないが、四日というのは中々だった。

 ポセイドンの様態も確認し終えたのでこのまま此処を去るのが良いと判断する。


「取り敢えず、もう街を出るとしようか。俺と同じく怪我が酷かったというポセイドンは安静にしておくとして、兵士達に報告でもしておけば良いだろう」


「うん、そうだね。立場的には私たちは侵略者だし、ひっそりと去った方が良いのかも」


「そうだな。もう全て終えたこの街に滞在する理由も無いし、私たちはライたちよりも体感時間は長くとどまっているからやる事も無い」


「ああ。目的達成も間近。まあ、幻獣の国だけは手付かずだが、頃合いを見れば良いか」


「うん……」


 ライの言葉にレイたちも同意し、もうこの街を離れる事にした。

 因みに現在の時刻は正午の少し前くらい。今この街をつとして、それなりに先へ進められる時間ではある。なので行くのが最善策だ。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は一先ず、青を基調としたポセイドンの城を出るのだった。



*****



 ──"タラッタ・バシレウス"。


 城から出て数十分後。ライたちは"タラッタ・バシレウス"の街並みを眺めながら進んでいた。

 相変わらず活気のある人々に海の近く故の潮の匂い。現在の夏という季節からして、海に囲まれたこの街にはこの街の者ではない観光客の姿も結構あった。


「そう言や、結局"アヴニール・タラッタ"についてはよく分からなかったな。掴んだ情報は精々この"タラッタ・バシレウス"と姉妹都市だったってくらいだ」


 そんな街を眺めている時、ふとライは"アヴニール・タラッタ"の事を気に掛ける。

 "アヴニール・タラッタ"が海の底に沈んだ理由やそこに住んでいた住人のその後などは分かっているが、一番気になる都市の発展については何も分からなかった。


「そう言えばそうだね。あんなに発展している街だから何かはあったんだろうけど、それ関連が分からないや」


「確かにそうだな。まあ、行き過ぎた魔法や魔術で世界が崩壊するんだ。科学が発展しても同じ感じなのだろうさ」


 どうやって"アヴニール・タラッタ"があの様な発展を遂げたのかは分からない。しかし発展し過ぎたが為に崩壊したという事は分かる。

 直接滅ぼしたのはレヴィアタンだが、それ以前に様々な問題は抱えていた事だろう。記録によると勇者に封印された筈のレヴィアタンを起こしたのもその街の住人の所為と書かれていた。なので何も分からなくともいずれは滅びていた定めだったのだろうと結論付けた。


「ハハ、確かにそうかもな。発展すれば便利だけど、それに伴った不便も出てくる。世界を征服した暁にはその点も踏まえて上手くやるとするか」


 発展は物事に置いて重要な事柄。なのでライは否定せず、その発展を崩壊に繋がらぬよう考える事にした。

 元々"アヴニール・タラッタ"の場合は特例中の特例であるような事柄によって崩壊したとも言える。なのであまり深く考えない方が良いのかもしれない。

 ライたち五人はそこで話を切り上げ、今度はあまり深刻な話はせず談笑しながら働く人々や観光する人々で賑わう"タラッタ・バシレウス"の街を進む。


「改めて見ると、かなり広い街だな。海に隣接させているから土地もかなりあるって訳か」


「うん。埋め立てる訳じゃなくて街を海の上に造っている船みたいな感じだね。陸地と繋げているから波にさらわれる心配も無いみたい」


「もし災害などが起こっても避難経路はあるという訳か。まあ、その災害その物みたいなポセイドンが収めているから、並大抵の事は問題無いのだろうがな」


「そうだな。自然災害くらいじゃビクともしなさそうだ」


「うん……」


 この街の造りは、改めて見るとかなり特殊なものである。海の上に土地などなく街その物を造り上げるというのはかなりの技術と人数が必要だろう。

 その事から考えるに姉妹都市というだけあってこの"タラッタ・バシレウス"も高い技術力を誇っているようだ。


「お待ち下さい! レイ様!」

「……?」

「「……?」」

「「……?」」


 そして先を進む途中、城の方から兵士達が少し早い速度で姿を現した。

 統制は執れているようだが、一体何の用なのか。レイとライたちは小首を傾げる。


「お進みになるなら是非、最後におもてなしをしたかったのですが……それはもう要らぬ様子。しかし何せかつての恩人の子孫。敵であったとしても、勇者様に言えなかった御礼を……!」


「あー……。別にいいよ。私が救った訳じゃないからね」


「いや、そんな訳には……!」


 目的は分かった。どうやら兵士達は改めて勇者、その子孫のレイに感謝を示したいらしい。

 救ったのは勇者なのでレイは関係無いのだが、兵士達にとっては関係している事柄のようである。

 周りの人々は怪訝そうな表情でライたちを見ており、かなり目立っているという事は分かった。


「あと、私の事は内密に……! ほら、一般の人達に知られたら色々と困るから……!」


「はっ……! 失礼しました……!」


 周りの様子を窺い、周りに聞こえぬよう小さな声で耳打ちするレイ。

 確かに勇者の子孫が居るとなれば大パニックが起きてもおかしくない。なのでそれは避ける為、あまり目立つ行動はしたくないのである。

 勇者の存在はこの国、この世界にとってかなりのモノ。それを理解している兵士達も了承し、ライたちは一先ず"タラッタ・バシレウス"の街の出口に向かった。


「此処なら大丈夫かな。目立つには目立つけど、街中よりはマシかも」


「そうだな。兵士達はレイに用があるみたいだし、俺たちは先に──」

「待ってライ! 私を一人にしないで……!」


 この兵士達の相手は少し面倒。なので冗談半分で先に行こうとしたライに向け、レイは腕を引いて必死に懇願した。

 やはりレイも兵士達の相手は大変と考えているようだ。ライは軽く笑い、レイと兵士達に向き直る。


「ハハ、冗談だよ。冗談。それで、兵士達に聞きたいんだけど、後は何が目的なんだ? 過去の感謝はこの街に来た時に聞いたし、ポセイドンの仇を討ちたいって訳でも無さそうだ。まあ別にポセイドンは生きてるけど」


 ライの疑問は尤もだった。

 兵士達は御礼を申したいと言っていたが、既にこの街の城で感謝の意は示されている。なのでこれ以上やる事も無い筈と疑問に思っているのである。

 兵士達は頷いて返した。


「ええ。しかし、前述したようにもう御行きになるのならと、今一度改めて祖先たちの礼をしたいと思った次第です。敵同士ですが、今回の件とは別件で御礼を申したいと思います」


「「「改め。勇者様! 数千年前、有り難う御座いました!!」」」


「い、いえいえ……。と言うか、勇者の事は内密にって言ったのに……」


 キーンと耳鳴りがしそうな程の轟音にライたちは怯み、同時に勇者の事をこんな大音量で告げていいのかとレイは苦笑を浮かべた。

 何はともあれ、言いたい事が言えたのもあり兵士達は敬礼をしてその場を離れた。


「ハハ……嵐のような人達だったな……」

「ああ。けどまあ、悪意は無いみたいだ。本当に感謝を伝えたかっただけなのだろう」

「ふむ、祖先の恩をずっと忘れず、現代まで感謝をし続けるとはな。義理人情が厚いんだな」

「そうみたいだね……」

「あくまで私のご先祖様の恩なんだけどねぇ……」


 去った兵士達を見届け、悪くない気分で"タラッタ・バシレウス"から出るライたち五人。

 数千年を経て出会った祖先の恩人の子孫。義理堅く人情に溢れる街の兵士たちは、悪くない存在だろう。ポセイドンの元に直ぐ様戻った様子を見るに、主の事も想っている事が伝わってきた。


「……。じゃあ、取り敢えず先を行くか。まだまだ人間の国は続くからな」


「土地も世界最大級だもんね。広くて見所も多いや」


「ああ。まあ、飽きはしないがな」

「ふっ、そうだな」

「うん……」


 街の外に出てから数十分。"タラッタ・バシレウス"を見渡せる高台に移動し、海に囲まれた人間の国No.2の主力が居る街を見下ろした。

 相も変わらず遠目から見ても活気に溢れており、海の青も相まり美しい街が見下ろせる高台はある種の絶景スポットだろう。


 一年に近い数ヵ月続いたであろう長く、短い旅路。そんな旅路も、明確に短いと言えるようになって来た今日この頃。ライたちは目的の為、先に進む。



 短くはなったが、まだ旅は続く。しかしライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人が行って来たこの旅にも明確な終着点が見えて来る。

 ライの目的、世界征服。それに同行するレイたち四人。終わりに近付く旅はもう少しだけ続くのだった。



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