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八百七十七話 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンvs海神・決着

 魔王の六割を纏ったライと力を更に上昇させたポセイドンが向き合い、次の刹那に空気を踏み込んで加速した。


「オ━━」

「フ━━」


 同時に拳とトライデントを突き出し、


「━━ラァ!」

「━━ハッ!」


 光を何段階も飛び越えた速度で正面から衝突した。

 その衝撃波は凄まじく、空気すら消え去り空間その物が砕け、銀河系程の範囲が消滅した。同時に空気を周りの空気が埋めるように吹き荒れ、暴風となって元の位置に戻る。

 ライの全力と魔王の六割。それと同等のポセイドン。それらがぶつかり合って砕けたにしては範囲が狭いかもしれないが、互いの力が相殺された事によってこうなったと考えるのが妥当だろう。


「やあ!」

「……! あの衝撃波で無傷か……!」


 ライとポセイドンは互いの攻撃によって弾かれる。そこにレイが斬り込み、ポセイドンはトライデントで勇者の剣を受け止めた。

 かなりの広範囲を消し飛ばした衝撃波。それを受けても即座に攻め入るレイに感心していたが受け止めた瞬間に薙ぎ払い、レイを弾き飛ばす。やはり純粋な力ではまだポセイドンの方が高いのだろう。


「"魔王の炎(サタン・ファイア)"!」

「"神の炎(ゴッド・ファイア)"……!」


「次は炎か」


 そこに向けて太陽系を焼き尽くす炎が放出され、それを見やったポセイドンが水を放って相殺する。辺りは水蒸気に包まれ、その水蒸気を突き破るように風を纏ったエマが肉迫した。


「二つの強大な力からなる水蒸気か。これを借りるぞ」


「……!」


 纏った風の力でその水蒸気を自分の元に運び、それを掌に圧縮させる。同時に魔王と神の力が混ざった水蒸気の塊が形成され、それをポセイドンの身体に打ち付けた。


「念力のような力。この様なモノに対してなら私の手中に収められるのは良いな」


 次の瞬間に圧縮された水蒸気が破裂し、ポセイドンの身体を吹き飛ばす。

 ただの天候術の応用ではない力の塊。流石にこれは効いたらしく、力を上昇させたポセイドンにダメージを与えられ、未だ降り注ぐ岩礁や岩盤を次々と砕いて消え去った。


「思った以上の力だな……これがフォンセとリヤン、ポセイドンの力の欠片か……」


 今まで放っていた天候を圧縮した力とは比べ物にならない程の破壊の余波。

 それを放ったエマはエマ自身が驚愕とまではいかないが驚きの表情を見せており、凄まじい力だと冷や汗を掻いていた。


「念力をもちいる事で余波を我が物とするか。思わぬ力の応用だな」


「それを受けても傷自体は負っていないか。いや、外傷が目立たないだけで内部は傷付いているかもしれないな」


 そんなエマに向けて迫るポセイドン。エマは霧となってそんなポセイドンから逃れ、分が悪いと判断して一旦距離を置く。

 そこにライが迫り、ポセイドンに向けて拳を叩き付けた。


「……っ。成る程な。大体のやり方は理解した。要するに、お前が全体的な囮役。その隙を突いて他の者達が攻め込み、一撃を叩き込んだらまたお前が来て反撃を防ぐ。と言ったところか」


「よく理解しているじゃないか。確かにその通りだ。この中で一番肉体的な強度があるのは俺だからな。ヒット&アウェイの戦法を取るに当たって、俺が一番引き付け役に適しているのさ」


 ライたちの戦闘方法。それを理解したポセイドンは指摘し、ライが何でもないようにそれに返す。

 ライが率先して攻め込み、それによって生まれた隙をレイたちが突く。それがライたちの行うやり方。確かに確実な一撃を与える事が出来、互いに少しずつ休めるので長時間戦えるだろう。

 その種がバレたとしてもリスクは少ない。ポセイドンを相手にするには最適解な方法だった。


「てな訳で、このまま続行させて貰う!」

「構わぬ。それがやり方なのだからな。人数の差を最大限に利用して戦うのが正解だ」


 魔王の六割を上乗せした拳を放って迫り、それを紙一重でかわしたポセイドンがトライデントを振るい放つ。

 それをライは飛び退くように躱し、空気を踏み込んでポセイドンに拳を打ち付ける。その拳はしゃがんで避けられ、ライの下方から蹴りが放たれる。それを仰け反って避けたライは反転した状態で空気を蹴って加速。同時にもう一度拳を打ち込み、ポセイドンは飛び退いてそれを避けた。


「お互いに当たらないもんだな。結構強めにやっているんだけど」

「まあ、一撃一撃が重いからな。互いに避けるのは当然だろうさ」


 他人事のように言い放ち、拳や足をもちいたせめぎ合いが再び再開される。

 互いに一撃も貰っていない。精々拳と拳。拳とてのひら。拳と腕。拳と足。足と掌。足と腕などがぶつかり合う際に防御として使われるくらいだろう。

 それでもその余波で世界は揺らぐが、もう今更気にする事でもない。ライとポセイドンは拳とトライデントをぶつけ合わせ、少し拮抗して互いに吹き飛んだ。


「"魔王の波動サタン・ウェーブモーション"!」

「"神の波動ゴッド・ウェーブモーション"……!」


 吹き飛ばされたポセイドンの方向に二つの力から創られた衝撃の波が迫り、一気に加速してポセイドンの身体を捉えた。

 波によって衝撃が全身に伝わるポセイドンは怯み、そこに向けてレイとエマが迫り行く。


「やあ!」

「はあ!」

「……ッ!」


 次の瞬間には勇者の剣がポセイドンの前胴体を捉えて切り裂き、放たれた力の欠片を集めたエマがそれを圧縮して背後から強襲した。

 勇者の剣によって胸から腹部に掛けて斬り割れて出血。そして圧縮された力の塊で前方に押された。そこにはライが待機しており、魔王の力を更に上昇させた七割で構えた。


「今度はどうだ!」

「……ッ!」


 そのまま勢いを付けて拳を放ち、ポセイドンの顔が陥没した。

 その勢いでポセイドンは殴り飛ばされ、銀河系程の範囲を直進。まだまだ先の見えぬ無限空間だが障害物などもあり全てが海の海水を消滅させながら加速する。


「オラァ!」

「……っ。本当に速いな……!」


 このままでは何処まで行っても止まらない可能性がある。故にライは先回りして今一度拳を叩き付け、無理矢理急停止。先程の場所に狙いを定め、寸分狂わず殴り返した。


「"魔王の城(サタン・キャッスル)"!」

「"神の領域(ゴッド・リージョン)"……!」


 そしてその場で待機していたフォンセとリヤンが強固な壁。城を形成して吹き飛んで来るポセイドンを受け止め、辺りに大きな水流が巻き起こる。どうやら水が戻っていたらしいが城の中は水没しておらず、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人がそんな安全地帯にて傍観していた。


「ぐっ……いつの間にそんな物を造っていたんだ……? いや、どうやらたった今造り出した様子だな……」


「ああ。しかし、流石ライだな。どれ程の距離を殴り飛ばしたのかは分からないが、そこから此処までズレを起こさずに到達させるとは」


 その様に強固な城にぶつけられ、初めて呻き声を上げるポセイドンは城について思案していたが、その疑問自体は解決したようだ。

 フォンセは頷いて返し、かなりの距離離れていたにもかかわらずこの場に戻した事を感心していた。

 仮にポセイドンが吹き飛んだ距離よりも圧倒的に狭い惑星の大気圏から少し離れた場所だとしても、数センチのズレが数キロになる程。十万光年以上ある銀河系程の距離からズレを起こさずに戻したライはもはや言い表せる言葉が無い程の御業をおこなったという事だ。


「さて、流石にそろそろ倒れるか? ポセイドン」


「……フッ……いいや、まだだ。しかし、既に我は押されている。こうなったら久々に本気を出す他に選択肢は無さそうだな……」


「……! へえ? これは中々だな……」


【クク……オイ、俺の力を九割に引き上げろ。そうでもしなくちゃ勝てねェ。最悪死ぬかも知れねェぞ?】


 強固な城の壁から抜け出し、雰囲気が一変した様子のポセイドンを見た魔王(元)がライの精神世界で話し掛けて自分の力を九割にする事をオススメした。

 人間の国のNo.2。そんな存在が本気を出すと言ったのだから、ライでもそれくらいしなければ勝てないと判断したのだろう。


(ああ、そうしようか。それにしても九割か。以前戦ったハデス相手に使ったのが八割。九割の力を使うなんて、それこそテュポーン以来だな。……まあ、テュポーンの時は最終的に本当の全力を使ったけど)


【クク、アイツはそれくらいの実力者って事だよ。さっきも言ったように、そうしなきゃ勝てねェって断言出来るぜ?】


(魔王が断言する程か。じゃあ、そうしようか……!)


 魔王の言葉に従い、魔王の力を引き上げるライ。魔王の九割を纏い、更に力を込めてライは自身の全力。魔王の七割に匹敵する力から更に成長し、魔王の八割に匹敵する力となった。

 魔王の八割に匹敵する力と魔王の九割。それを扱う事により、ライはレイたちに忠告を促す。


「レイ、エマ、フォンセ、リヤン。その防壁。もっと強固に、もっと力を込めた方が良い。レイもこれから俺が向かう方向に勇者の剣を構えていてくれ」


「……。ああ、分かった」

「うん……」

「任せて……!」


 ライの言葉には即答で返す。現在のライの様子と声音から尋常で無い事は即座に理解出来る。故にそれに従い、魔王と神の力を今現在のフォンセとリヤンが出来る最大のモノに。レイは勇者の剣を構えた。


「血が騒ぐな。それ程の力を隠していたのか。我が本気を出せば伝承通りになる。この戦いが終わった時、どちらかが死んでいなければ良いな」


「……!」


 それだけ告げ──次の刹那にライの身体が吹き飛ばされていた。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンにその姿は見えず、既にポセイドンの姿も消え去る。


「いきなりか……よ!」

「ああ……!」


 吹き飛び、銀河系の範囲を進んだところでライは体勢を立て直して迫り来るポセイドンに拳を放つ。それをポセイドンはトライデントで受け止め、今さっき来た範囲が二つの力によって相殺されたにもかかわらず消滅した。

 このままでは色々と問題が生じる。主にレイたちと海面数十光年先に居る兵士達が。

 なのでライは秒速銀河系。秒速十万光年という速度で進み、付いて来るポセイドンを一瞥した。


「やっぱり付いて来れるか。なら、俺の考えている事も分かるな?」


「ああ。距離を置き、他の者達にとっての安全地帯で戦おうという事だろう? その様に面倒な事をせず、構わずに戦えば良いものの」


「分かっているならいいや。けど、ついに敵味方見境無くなったか。まあ、粗野で狂暴。俺に付いて来る時間を耐えるだけで十分か」


 秒速銀河系から秒速銀河団。即ち秒速数億光年の速度となったライとポセイドンが距離を置き、無限の海中を進みながら数分間移動した。

 そろそろ頃合いかとライは振り向き様に回し蹴りを放ち、けしかけた。


「そらよっと!」

「フン……!」


 その回し蹴りとトライデントが衝突し、周りの海は消滅。早速銀河団の範囲が消え去る。

 だが流石にそれ程の範囲が消えてはライとポセイドンにもダメージが及ぶ。ライの足は砕け、ポセイドンのトライデントにヒビが入り、それを持っていた腕が砕けた。


「ちと頑丈過ぎるんじゃないか? そのトライデント。こんな範囲が消え去っているって言うのに」


「フン、まあこの程度だろう。我の力によって強化されていなければ等の昔に砕けていた。……だが、我の力を持ってしても次で終わりそうだ」


「それは良かった。正直、今の一撃で片足は使い物にならなくなったし、全身にも重い衝撃が走っている。じゃあ、そろそろ終わりにしようか……!」


「それが良いな。終わらせよう……!」


 この場所に到達して数秒未満。たった一撃のぶつかり合いで自分達の"今の"限界を悟った二人は次の一撃に力を込め、集中力を一気に高めた。


「オ━━━━」

「ハ━━━━」


 そして限りなく0に近い時間集中し、溜め込んだ力を解放した二人は互いの眼前に迫る。ライは成長した自身の全力と魔王の九割を纏い、ポセイドンは自分の力を込めたトライデントを構え、


「━━━━ラァッ!!!」

「━━━━ァッッ!!!」



 正面衝突を引き起こした。



 そして次の瞬間────銀河団の範囲、その数百倍の範囲が消滅した。





*****



「……! 来る……!」

「「ああ……!」」

「うん……!」


 ライとポセイドンが移動してから数分後、魔王と神の力で形成した城の中にて兵士達を全員連れたレイたちはこれから来るであろう余波に備えた。──そして全てが消滅した。


「「……!?」」

「「……!?」」


 ──絶句。無理も無いだろう。全てが消滅。本当に全てが消滅したのだから。

 レイたちの範囲以外の全てが消え去り、強固な筈の安全地帯も消滅した。それでもレイたちが無事だったのは勇者の剣を構えていたからだろう。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は即座に頷き、リヤンが"テレポート"をもちいて全員をライたちの場所に転移させた。



*****



「ライ……! ライ……!」

「……ッ! レイ、エマ、フォンセ、リヤン……此処は……?」


 そしてどれくらいの時間が経過したのだろうか。ライは元居た城の寝室。ベッドで目を覚まし、心配そうに覗き込むレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人と視線が合った。


「ライ! 良かった!」

「わっ……」


 目が覚めると同時にライはレイたちに抱き付かれ、辺りを見渡す。既に治療は済んでおるらしく、隣には同じく治療を終え兵士達に名を呼ばれるポセイドンが横たわっていた。


「……成る程。ポセイドンとの衝突で意識を失ったみたいだな……。傷は癒えているけど……その様子を見るとかなりの傷だったようだな」


「うん……。あまり思い出したくないけど、両手は無くなっちゃってて片足も消えてて……胴体からは骨が飛び出してて……」


「……。いや、もういい。大体分かった。てか、よく生きていたな……俺……」


 興味本位で傷の状態を聞いたライだが、想像を絶する傷を負っていたと分かって聞くのをめる。目覚めた時の痛みは幻覚痛だったのだろう。それ程の傷を負っていたなら当然である。


「それで……ポセイドンはまだ起きないのか?」


「うん……。傷は癒したけど、ライよりも酷い怪我だったからね……。二人とも三日間は寝ていたよ……」


「寧ろよく三日で済んだな……」


 どうやらポセイドンもライと同じ状態。もう少し酷い状態だったらしい。その事からするにほぼ相討ちのような形で決着が付いたのだろう。

 何はともあれ、ライたちとポセイドンの戦闘に終止符が打たれる。後はポセイドンが目覚めるまで暫く"タラッタ・バシレウス"の城で待機するのだった。

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