八百七十六話 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンvs海神
「さて、全員揃ったところで……纏めて吹き飛ばすとするか」
「……!」
「「……!」」
「「……!」」
六人が向き合い、ポセイドンがトライデントを横に大きく薙いで爆発的な衝撃波を放出した。
ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人はそれを見切って躱し、次の刹那に五人の背後から太陽系程の範囲が消滅する。
その消滅によって消え去った海は即座に戻り、ライたちは構わずポセイドンに迫り行く。同時にライが拳を握り締め、自身の全力に魔王の二割を纏った状態で加速した。
「オラァ!」
「数秒振りだが、相変わらず重い拳だな」
ライの拳はトライデントで受け止め、ポセイドンの背後の海が大きく揺らいで消滅する。その間にレイが迫り、ライの背後から飛び掛かるようにポセイドンを斬り付けた。
「やあ!」
「少年を囮に確実な一撃を入れると言ったところか。此処に来た時間を考えれば、話し合いなども無く純粋に信頼のみでそれを実行している。良い仲間だな」
「ハッ、それを容易く受け止めるアンタに言われても嬉しくないな」
「同感だよ……!」
勇者の剣もトライデントで受け止め、軽く押し出して弾き飛ばす。それを利用してレイは距離を置き、ライも飛び退くように跳躍して離れた。
「"魔王の風"!」
「"神の風"!」
「少しは力が貸せるか?」
「……!」
そんなポセイドンの上から三つの声が掛かり、強大な風魔術と神聖な風。圧縮された嵐のような暴風雨が降り注いだ。
フォンセとリヤンが破壊するだけならその風だけで世界を終わらせる事も可能だが、エマが加わる事でより破壊力を上昇させていた。
「フム、相変わらず悪くない攻撃だな。まあ、悪くないだけだが」
「「「…………っ」」」
しかしそんな風ですらポセイドンは容易く掻き消し、そのまま上に衝撃波を飛ばして三人を吹き飛ばした。
そこに向けてライとレイが迫り、拳と勇者の剣を打ち付ける。
「よっと!」
「はあ!」
「態々受け止めていたらキリが無いな」
そんな二人が迫りきるよりも前にポセイドンがトライデントを薙ぎ、震動を引き起こして衝撃波を周囲に放出。そのまま二人を吹き飛ばした。
「まだまだァ!」
「震動すらをも砕くか」
だがそれくらいでやられるライではない。ライは震動を拳で粉砕して進み行き、同時に今一度拳を叩き付けてポセイドンを殴り飛ばした。
拳によって殴り飛ばされたポセイドンはそまま海を抉りながら直進して波を巻き上げ、一瞬にしてその姿が見えなくなる。次の刹那にはライとの距離を詰め寄り、正面からトライデントを突き刺した。
「フッ……!」
「……っと……!」
ライは物理的な力も無効化出来るが、流石に太陽系の範囲や数光年を消し飛ばすトライデントは難しいところがあった。故にそのトライデントは躱す。
防げるには防げるのだろうが、無傷で防ぐのは困難かもしれないという事である。と言うのも、ライの物理的な無効化は惑星や恒星破壊規模なら無傷で耐えられるが、今のライは太陽系規模は少し傷を負うだろう。
ライの全力は魔王の七割に匹敵するものなのだが、力の破壊範囲と自分の耐えられる範囲もほぼ同じなのである。
一割なら街を破壊する規模の範囲。
二割なら都市を破壊する規模の範囲。
三割なら大都市や山河粉砕規模の範囲。
四割なら大陸破壊規模の範囲。
五割なら惑星破壊規模の範囲。
六割なら恒星破壊規模の範囲。
七割なら太陽系破壊規模の範囲。
八割なら銀河系から銀河団破壊規模の範囲。
九割なら宇宙破壊規模の範囲。
十割なら多元宇宙破壊規模の範囲。
それらはライの力と魔王の力を合わせる事で更に何倍、何乗クラスの強大な力となりうるが、この様にライ自身の全力を七割に匹敵するものとした場合、太陽系破壊規模の範囲であるトライデントでは傷を負ってしまうのである。
「そら!」
「フム……!」
躱した瞬間に回し蹴りを放ってポセイドンの脇腹を打ち抜き、そのまま吹き飛ばして海面にクレーターを形成させた。
そこに向けてフォンセとリヤンが力を込め直し、次の刹那にそれを放つ。
「"魔王の爆発"!」
「"神の爆発"……!」
放ったのは明確にダメージを与えられたと言える、超新星爆発に匹敵する二つの力からなる爆発術。ライ、レイ、エマにも影響が及ぶが三人なら何とかなるだろう。防御の術が特に無いエマもライとレイが居るので無問題である。
一瞬にして数光年を熱と衝撃が包み込み、半径数光年の海が蒸発する。しかしライとレイの背後は無事だった。ライとレイの背後に兵士達が転がる島もあるので、兵士達も含めて無事という事である。
「出来るだけ周りは巻き込まないのかと思っていたが、成る程。確かに防げば巻き込まない結果になるな」
「ああ。ま、アンタも咄嗟に防ぐだけは防いだみたいだな。さっき受けた時より外傷が少ないや」
超新星爆発に匹敵する爆発を受け、無傷ではないにせよそこそこの傷しか付いていない様子からポセイドンはトライデントで爆発を防いだ事が分かった。
周りの海はまだ消えたまま。防ぎはしたがトライデントの力は発動しなかったようである。
「んじゃ、このまま仕掛けるか!」
「やれやれ。休ませてくれても良いだろうに」
それならばと、ライは肉迫してポセイドンに追撃。ポセイドンは少し息が上がっているが特に問題無く構え、次の瞬間にライとポセイドンが正面衝突を起こした。
既にライたちとポセイドンは何度も激突している。この空間に来てからの時間にすればほんの数分だが、最上級の実力者同士の抗争と考えれば息が上がっていても何ら不思議ではなかった。
「少し疲れているみたいだな。なら、俺はもう少し本気を出してアンタを徹底的に打ちのめす!」
「フム、そう言えば魔王の力はまだ温存しているのだったな。面倒だ。我ももう少し本気を出そう」
衝突の刹那にライは魔王の力を三割に高め、ポセイドンはトライデントを片手に力を込めた。同時に拳とトライデントが放たれ、ポセイドンの頬を拳が。ライの脇腹をトライデントが捉えて互いを勢いよく吹き飛ばした。
「……っと、少し掠ったか。やっぱりトライデントは強力な武器だな」
「わざとらしい褒め方だな。トライデントのみを褒めるとは」
「ハハ、アンタが強力なのは分かり切っている事だからな!」
吹き飛ばされた次の瞬間に二人は迫り、軽口を叩きながら相手を叩く。
自身の全力に魔王の三割を上乗せした拳を放ち、それをトライデントでいなして牽制。同時にそのトライデントを振るい、震動と津波で仕掛けた。
それをライは砕き、連続した神速の攻撃を放つ。ポセイドンがそれを全て受け、トライデントを振り回して攻め入る。そんな目にも止まらぬ神速の二人による鬩ぎ合いが行われ、そこにレイが迫った。
「やあ!」
「フム、来たか」
「オラァ!」
勇者の剣の効力によって海を歩けるようになったレイはライの手助けをするように強襲。ライとレイの二人を相手取るポセイドンだが徐々に押され始め、それを打破する為次の行動に移ろうとした矢先、ライとレイは飛び退いて距離を置いた。
「"魔王の咆哮"!」
「"神の啓示"……!」
「……!」
その刹那に上空から二つの白と黒の光線のような力の塊が放出され、ポセイドンの居る場所から数キロを爆発させた。
超新星爆発では辺りに及ぼす影響が大きい。なので威力は近く、範囲を抑えた一撃を放ったのだろう。
「ほら!」
「……! いつの間に……!」
それを受けてまた少しダメージを負ったポセイドンをライは蹴り上げ、上空に舞い上げる。上空からはエマが風の力を纏って嗾け、舞い上がるポセイドンとすれ違い様に放出して風の爆発を引き起こした。
「オーラァッ!」
「……ッ!」
風を受けて怯みを見せたポセイドンの下からライが跳躍し、足を突き出して蹴り抜く。そのまま更に上空へと舞い上げてライはポセイドンの上に向かい天空の海に入る。そこから急加速して依然として舞い上がるポセイドンを追い越し、落下するように拳を放ち、下方と左右からレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人も攻め入った。
「少しマズイな」
そんな五人が来るよりも前にポセイドンはトライデントを薙ぎ払い、巨大な震動を引き起こして辺りに破壊の余波を撒き散らす。レイたちはそれによって吹き飛ばされたがライが拳に力を込め、そのままポセイドンを殴り付けた。
「これでどうだ!」
「……ッ!」
そのまま殴り飛ばし、ポセイドンの身体を勢いよく落下させる。同時に着水。巨大クレーターが海に造られ、そのままポセイドンの姿が見えない位置にまで到達した。
「追撃を仕掛けるか!」
「私も行く!」
「ああ……!」
「無論だ!」
「うん……!」
そのクレーターに向けてライたち五人は進み、光を超えられないレイとエマはライが抱えて加速する。そのまま数十光年を一瞬にして到達し、強い気配を探りポセイドンを見つけて五人は散った。
「左右と上下。一人は正面からか」
無論、ライたちが分かるようにポセイドンもその気配を掴める。それはライたちも大前提。故に構わず五つの方向から攻め入り、ポセイドンは全方向に集中してトライデントを振るった。
「フッ……!」
「……!」
「「……!」」
「「……!」」
そして、先程よりも強い衝撃が辺りを包む。それにライたちは吹き飛ばされたが海中で何とか止まり、次の瞬間に周りから海の水が消え去った。
「さっきより力を上げたか? ……いや、一応俺が魔王の三割を纏った時と同じ力か。純粋にぶつかり合いが少なかったからその力をあまり実感出来なかったってだけか」
「まあそんなところだな。多勢が相手だと自分の本来の力も半減してしまう。吹き飛ばしてくれるのは我からしても有り難い事だ」
「成る程ね。ま、関係無いけどな」
ポセイドンの力は先程上げてから変わっていない。純粋に集中する時間が少ないので少し力が劣ってしまっているという事だろう。
しかしポセイドンが強者である事は承知済み。なのでライたちは構わずに構え直した。
「どちらにしてもアンタを倒す事には変わらないんだからな!」
「うん……! 立場的に言えば完全に私たちが悪役なんだけどね……!」
「目的が目的だからな。それも当然だろう。まあ、戦闘の余波で海を消してくれるのは有り難い。実力不足の私がこれ以上足を引っ張る訳にはいかないからな」
「確かに海が消えるのは良いな。これ程の深さとなると浮力や水圧で自由に動けないから、消え去るならそれに越した事は無い」
「ポセイドンも自分で海を消してるから……この空間に私たちを召喚した理由が殆ど無くなっちゃってるね……」
「やれやれ。それなりに攻撃しているつもりだが、やはり大したダメージは与えられていないか。それも仕方の無い事だが、そろそろ本当の本気も視野に入れておくとしよう」
各々で言葉を交わした次の刹那、ライ、レイ、エマがポセイドンに肉迫し、フォンセとリヤンが距離を置いて力を込めた。
「オラァ!」
「やあ!」
「ハッ!」
「フム……」
ライの拳を正面から掌で受け止め、レイの剣をトライデントの柄で受け止める。エマの天候術は水を用いて消し去り、三人の身体を弾き飛ばした。
「"魔王の弾丸"!」
「"神の光弾"」
そこに向けてフォンセとリヤンが魔王と神の力から形成した弾丸を撃って襲撃。ポセイドンはそれらを水の膜で防ぎ、全てを背後へと受け流した。
「海神としての水の力も多用し始めたな」
「うん……本当に力を入れてきているね……」
距離を置く二人はポセイドンの力を思案し、次の瞬間に背後から声が掛かった。
「近距離と遠距離。バランスが良いな」
「「……っ!」」
同時に吹き飛ばされ、深海にある大陸程の大きさを誇る岩礁に叩き付けられる。
見れば空と化した海底を落下途中だが、岩礁などのちょっとした海の陸のような存在もあるようだ。
「そら!」
「……!」
そんなポセイドンの背後からライが迫り、手足を用いて連撃を嗾ける。ポセイドンはそれを受け、同時に鬩ぎ合いが織り成された。
一挙一動。一撃一撃で無限の海界空間が大きく揺らめき、戻りつつある海水を全て消し去りながら互いに少しずつダメージを負っていく。
「埒が明かないな。こうなったら一気に六割くらい使うか……!」
「何故それを態々口に出して言うのか気になるが、遠回しに我も同じくらいの力で来いと言っているようだな。ならばそれに乗ってやろう」
「ハッ、物分かりが良いな」
魔王の力を更に込め、六割に引き上げる。それに便乗、というよりその挑発に敢えて乗ったポセイドンは同じように力を引き上げ、周りの空間が歪んだ。
それは比喩ではなく、二人の力によって本当に空間が歪んだのである。同じタイミングで周りが弾け飛び、次の刹那に二人の体勢が変わっており、既に何百回という衝突を織り成していた。
ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人が織り成すポセイドンとの戦闘。それは更に力を上げる事で決着に向かうのだった。