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八百七十四話 海での鉢合わせ

「レイ。無事か」

「エマ! エマも無事だったんだ……ね……?」


 魔物との戦闘が終わり、レイとエマは合流していた。が、しかし、レイはエマの片手に持っている巨大な存在を気に掛ける。


「って、それ……カリュブディスだよね? 連れてきたんだ」


「ああ。取り敢えずコイツの呪いも解いてやろうと思ってな。レイならそれも出来るだろう? まあ、伝承からしても罰で呪いに掛かったのはコイツの自業自得だが、このまま放っておくのも色々と面倒だからな」


 巨大な存在、カリュブディス。エマが連れてきたカリュブディスを見たレイは呟くように話、エマは一応呪いを解いてやろうと考えていた。

 伝承では神の大切にしていた生き物を食してしまい、その罰として怪物の姿にさせられたと謂われている。確かに自業自得なのだが、何となく放っては置けないのだろう。

 そんなエマの言葉にレイは返した。


「うん、分かった。いいよ、エマ。じゃあ早速切り離すね……!」


「ああ、頼んだ」


 それだけ告げ、落下する土塊の上でレイは勇者の剣を振り下ろした。それと同時にカリュブディスの身体が切断され、またもや黒い靄のようなモノが出てきたがそれを切り捨てる。そしてカリュブディスは普通の女性に戻った。


「意識はまだ戻ってないみたいだね。どうするの?」


「そうだな……まだ近くにスキュラらしき気配がある。今のレイの様子から推測するに、もうスキュラの呪いは解いているだろう? それなら取り敢えずスキュラに頼んで何とかして貰おう」


「あ、そう言えばスキュラさんも出口があるみたいな事言ってた。うん、じゃあスキュラさんの元に向かおうかな」


 まだスキュラはこの空間から抜け出していない様子。なのでレイとエマはカリュブディスを連れてスキュラの元に向かった。


 ──そしてそれが、数分前の出来事。


 そこから現在に時を戻すとして、つまりもう既にスキュラとカリュブディスはこの空間を離れており、レイとエマ、大量の兵士達が落下途中の一つの土塊に居る状況。やる事もなく暇な二人は談笑していた。


「それでね~」

「ふむ」


 会話の内容は他愛の無いモノ。本当に簡単な内容で世間話みたいなものである。だが二つの戦闘が終わったのは事実。なので穏やかな時が流れる。その様にレイとエマの和やかな会話が続いており、その直後、


「「……!」」


 ──色鮮やかな爆風がレイとエマ。兵士達の居る土塊を飲み込み、凄まじい熱波と衝撃波が襲い来る。レイは咄嗟に勇者の剣をもちいて自分たちと兵士を爆発から護り、下方に視線を向けた。


「この力……ライたちの戦いの余波だよね? 微かな魔力と神聖な力からフォンセとリヤンが放った爆発ってのは分かるけど……」


「それもただの爆発魔術や爆発の力ではないな。この目映さ、勇者の剣で防いでいるにしても伝わるこの威力。超新星爆発に匹敵している……!」


 爆風を受け、魔力などの気配からフォンセ、リヤンが使った力だと判断するレイとそんなレイの守護越しからの衝撃を考えてその威力を推測するエマ。

 何の前触れも無い超新星爆発に匹敵する破壊の余波。レイが勇者の剣で防がなければレイ、エマも重症。兵士達は全滅していた事だろう。

 レイとエマはその事から何かがあったと推測し、互いに顔を見合わせて頷いた。


「これは確実に何かあったな。十中八九ポセイドンとの戦闘で」


「うん。私たちも参戦した方が良さそうだね。兵士達は……もう海も戻っているから問題無さそうだね」


「……。そうか。考えてみればもう周りは海面か。道理で少し体調が悪い筈だ。戦闘後はあまり動いていなかったから気付かなかったな」


 そう、既に此処は海に囲まれている。なのでエマの身体は少しずつ不調をきたし始めていた。

 今回の変化が遅かったのは戦闘直後はあまり動いていなかったから。動かなければ変化に気付かないのも当然である。

 何はともあれ、それでも行かない訳にはいかない。なのでレイとエマの二人は海が戻り浮島と化した土塊から海の中へと飛び込むのだった。



*****



「オラァ!」

「"魔王の刃(サタン・ブレイド)"!」

「"神の剣(ゴッド・ソード)"……!」

「フム……」


 そんなレイとエマの場所から数光年下の海中。魔王を纏ったライの拳とフォンセの魔王の力からなる刃。リヤンの神の力からなる剣とポセイドンの振るったトライデントが正面衝突を起こした。

 それによって周りの海が消え去り、衝撃波を散らして新たに空が形成された。しかしトライデントの力によってその場には即座に海が生まれ、変わらず深海数光年の場所にてせめぎ合いが織り成される。


「流石にこの実力者三人は少し辛いものがあるな。何とか上手い事出来ないだろうか」


「普通に善戦しているアンタがよく言うよ。俺たちは全力じゃないけど、アンタも全力じゃない。互いに使っている力は少しの本気。それで何十光年が消滅してると思っているんだ全く」


「自分の事を棚に上げてよく言うものだな。しかしまあ、善戦しているように見えるだけだ。人数の差を考えてみろ。一人相手に圧倒出来なくては幾ら人間の国のNo.2であったとして、神話クラスのお前達三人に勝てる訳が無かろうに」


「神話ってアンタも神話の存在だよな……」


 勝てないと確信を持ちつつも呆気からんと言い放ち、トライデントを構え直す。ライ、フォンセ、リヤンの三人はその場で向き直り、次の刹那にトライデントが振るわれ戻った海の範囲が消え去る。それから逃れた三人は三方向からポセイドンを囲い込み、同時に各々(おのおの)けしかけた。


「そらよっと!」

「"魔王の衝撃波サタン・ショックウェーブ"!」

「"神の衝撃波ゴッド・ショックウェーブ"……!」


「全てが重い攻撃だな」

「そう言いながら防ぐか……!」


 ライの全力に魔王の一割を加えた拳と魔王と神の力からなる衝撃波が放たれ、それらをポセイドンは一薙ぎで掻き消す。

 重い攻撃と称賛はしているがまだ防げる範囲なのだろう。ライ、フォンセ、リヤンはそこから更に仕掛ける。


「じゃあ俺も……俺たちも、もう一段階本気を出す……!」


「……!」


 次の刹那、光を超えた速度のその先を更に超えた速度でポセイドンの腹部に拳が打ち付けられ、その身体を大きく吹き飛ばした。

 光を超えた更なる向こう側の速度による緩急の変化に追い付き切れず吹き飛ばされたポセイドンは真っ直ぐ進み、既に到達地点に居たライが下方から蹴り上げた。


「此処が上か下かは分からないけど、取り敢えず海面に蹴り出すか!」


「……ッ!」


 背部を蹴り上げられ、一気に上昇するポセイドン。

 海の中なので今のように激しい戦いが起こると上下左右の感覚が無くなるが、溺れる心配の無いライたちにとっては無問題。そのまま蹴り上げられたポセイドンは秒速数光年の速度で舞い上がり、海面に飛び出した。


「むがっ!? (ポセイドン!?)」

「ふ……む……これなら……飛び……込む必要は無かったか……」


 そんな海の中にて、ポセイドンの姿を見切ったレイが大きく反応を示して水を飲み込み、弱ったエマが何処かホッとしたように上へと視線を向けた。

 ともあれ、ポセイドンが上昇して来たなら好都合。何処まで張り合えるかは分からないが、一先ずそちらに向かった方が良いだろう。


「……」

「ああ……」


 レイは指を上に向けてコンタクトを取り、エマが頷いて返す。

 因みに現在のレイは喋る事は出来ないが、勇者の剣の作用によって海の中でも行動を可能としている。空気が無いのは変わらないがそれによって窒息する事は無いだろう。元々呼吸の必要が無いエマは言わずもがな。流水なので弱ってはいるがそれによって命の危機に晒される事は無いだろう。


「さて、どうする?」

「アハハ……直ぐに戻ったね……」


 そして二人は海から飛び出し、すっかり元に戻ったエマとそれに苦笑を浮かべるレイがポセイドンの元へと肉迫した。


「……! 勇者の子孫とヴァンパイアか……その様子を見るにスキュラとカリュブディスは既にやられたようだな。成る程、上に居た伏兵という訳か」


 空中に浮かぶ、というより無理矢理浮かばされたポセイドンはその場でレイとエマの姿を確認し、手に持つトライデントを構えた。


「あれは……!」

「トライデント……! もう既にそれなりに本気を出しているみたいだな……!」


 トライデントを見やり、のんびりはしていられないと判断したエマは加速し、レイはエマの作り出した風に乗って眼前に迫った。


「その剣が勇者の剣か。その力、見ておこう……!」


「やあ!」


 広範囲を消し飛ばすトライデントが振るわれ、レイが勇者の剣を突き出して二つが衝突した。

 トライデントの威力は実証済み。レイとエマは実際には目の当たりにしていないが、伝承によってある程度は知っている。なので広範囲が消滅したかと思われたが、トライデントの威力を勇者の剣が相殺し、辺りに金属音だけが響いた。


「成る程。数光年以上を消し飛ばすトライデントだが、それを一撃で相殺するか」


「一撃でそんな威力を出すなんてね……」


 勇者の剣とトライデントが弾かれ、レイがポセイドンから離れるように落ちる。そんなポセイドンの背後からエマが片腕に風を纏ってけしかけた。


「私の攻撃では、レイの戦いやすい位置に貴様を運ぶのが精一杯だな」


「……!」


 同時にそれを打ち付け、竜巻のような暴風を引き起こしてポセイドンの身体を吹き飛ばした。

 ポセイドン相手では大したダメージどころかダメージにすらならないのだろうが、慣性によって真っ直ぐ吹き飛ぶ。そのまま小島の集合体と化した土塊の大陸に落下した。


「海底に向かったり上昇したり大陸に戻ったり、我ながらせわしないな」


「仕方無いよ。だってそう言う戦いだからね」


「そうだな。だからこそ貴様も私たちをこの空間に運んだのだろう? そうしなくては元居た世界その物が崩壊し兼ねないからな。宇宙全体という意味で」


 風と落下によるダメージは無い様子のポセイドンだが、海底から空に打ち上げられたりそこから大陸に落下したりという色々と厄介な事柄に対してため息を吐いていた。

 しかしレイやエマの言うようにこの世界の強者が戦うというのはそういう事なのだろう。その為に自分の空間を持つ者はそこで戦っているのだ。


「今更だけど貴方が来たって事は、ライたちもそろそろ来るのかな。取り敢えずそれまで足止めを優先しようかな……!」


「ああ。私では実力不足も良いところだが、持久戦には自信があるからな。時間稼ぎにはもってこいだ」


「フム、まだ勇者の子孫とヴァンパイアの実力は分からないが、相応の力はありそうだな」


 ポセイドンを舞い上げたであろうライたちはまだ来ていない。なのでレイとエマはライ、フォンセ、リヤンが来るまでの時間稼ぎをする事にした。

 そしてそんな二人の実力は分からない様子のポセイドンだが、確かな実力はあるだろうと考えているようだ。

 ライ、フォンセ、リヤンが織り成していたポセイドンとの戦闘。それによって地上に戻ったそのポセイドンはそこに居たレイ、エマと相対する。

 人間の国、No.2との戦闘。それはより混雑しつつも着実に収束へと向かっていくのだった。

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