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八百七十三話 vs二体の魔物・決着

「取り敢えず、此処で貴女を倒しても良いよね……!」


『戯け……!』


 ライたちとポセイドンの戦闘が続行される時から少し巻き戻し、海が割れた直後。落下途中のレイは勇者の剣を携えてスキュラに構えた。

 スキュラは怒りをあらわにしたままであり、片腕と腹部の犬達。魚の尾をもちいてけしかける。


『噛み殺してくれる!』

『『『バウ!』』』


 尾で締め付けるように試み、犬達が牙を剥き出しにして攻め入った。レイは勇者の剣をもちいて魚の尾を切り裂き、犬達は尾を踏み台に跳躍して避ける。

 レイの大きさなら巨躯の身体であるスキュラの上に乗れる。なのでスキュラよりは自由に動けるのだ。


「えーと……なるべく傷付けたくないから……何処を狙えばいいのかな……」


 そんなレイは身体の上を走り、何処を狙うか考える。既に腕は切断しているが、おそらくそれは問題無い。犬達やスキュラの上半身を狙うのはなるべく避けたがっているようだ。


『舐めているのか貴様……!』

「別に舐めてないよ。貴女の為だからね」

『私の……? 一体何を……!』


 レイの狙いはスキュラの為。それを聞いたスキュラは小首を傾げて訝しげな表情をするが一瞬だけであり即座にけしかける。

 先程と同じように片腕、犬達、魚の尾をもちいた連撃。それらの攻撃をレイは全て避け、スキュラの身体を飛び回りながら改めて確認する。


「……。うん。大体分かったかな……要するに切り離せば良いのかな」


 レイは身体の構造を理解し、単刀直入に切り離す事に決めた。

 スキュラの身体は落下によって自由が利かない状態にあるが、レイは普通に動けている。加えてスキュラの動きはレイにとって遅過ぎるくらい。なので簡単に決着を付ける事が出来ると判断していた。


『切り離すだと……? させるか……!』

「やらせて貰うよ。貴女の為にもね!」


 切り離すと聞き、それを阻止するべくスキュラは剣を振り回して身体を走るレイを狙う。その全てをレイは一瞥もせずに避け切り、スキュラの腹部に勇者の剣を突き刺した。


「はあ!」

『ガァ!?』

『『『ギャウ!?』』』


 上半身と下半身の間に勇者の剣が突き刺さり、苦痛の声を上げるスキュラと犬達。レイは構わずに駆け抜け、剣尖からは真っ赤な鮮血が噴き出す。


『止めろォ!』


 現在進行形で身体を切り離されていく激痛に苦悶の表情を浮かべつつ、スキュラはそんな自分の身体ごと剣を突き立てる。

 勇者の剣によって生じる激痛で感覚が麻痺し、痛みがほぼ感じなくなっているのだろう。

 だが出血に激痛とダメージは残り続ける。スキュラは狂ったように自分の腹部に剣を突き刺し、自分の腹部を尾で打ち付け犬達に食い千切らせる。辺りは血にまみれ、それでもレイは足を止めない。


「これで……終わり!」

『ギャアアアァァァァッッッ!!!』


 同時に勇者の剣でスキュラの身体を上半身と下半身に切断し終え、歯切れの悪い絶叫がレイの耳をつんざき、犬達が血と唾液を飛ばしながら苦しむ。魚の尾はバタつき、片腕だけのスキュラは剣を捨てその片腕だけで自身の髪を引き千切り頭を掻き毟る。

 見るからにマズイ状況だが、暫く経て痙攣しながら動かなくなった。


「……。どうだろう……」


 レイが何かを待つ──その直後、スキュラの身体からドス黒いもやのようなモノが放出され、辺りはその靄に包まれた。それと同時に靄はレイの方に向かい、レイは狙いを定める。


「これが……最後かな!」

『────!』


 そしてその靄を斬り捨て、辺りがただの空に戻った。元は海だったのだが、それは一先ず置いておいて良いだろう。

 何はともあれ、これにてスキュラの姿は消え去った。そしてその場に残っているのは──


「う……ん……。此処は……? ……! って、ええ!? わ、私落ちて……!」

『ワン!』

『キャン!』

『バウ?』

『クゥン……』

『ワォン!』

『ハッ……! ハッ……!』


「大丈夫だよ。多分そろそろ海に戻るから」


 ──一人の美しい娘と六匹の可愛らしい犬たちのみだった。

 そんな一人と六匹を見たレイは笑い掛け、その少女は落下によって生じる風圧に苦しみながら訊ねる。


「あ……貴女は……!?」


「私は……あ、その前に落下を緩めなくちゃね。この剣にそんな力があるのかは分からないから……近くにある土塊に移動しよっか!」


 少女の質問に返す前に、レイは少女の両手を引き、犬たちを連れて近くのそれなりに大きな土塊へと移動する。

 ライたちの中でも一番常人に近かったレイだが、今では落下途中に空中を移動する事も可能となっている。土塊に少し細工を施して浮き上がらぬよう一人と六匹を連れたレイは改めて名乗った。


「私はレイ・ミール。貴女の名前は?」

「レイ。えーと、私はスキュラ(・・・・)。こう見えてニュンペーの一人なんだ!」


 ──そう、その少女、スキュラ。怪物ではない本来の姿である。

 レイの持つ勇者の剣には様々な力が秘められている。それをもちいる事でレイはスキュラに掛かっていた呪いを切り離し、元の"ニュンペー"に戻したのである。



 ──"ニュンペー"とは、下級の女神を示す言葉である。


 花や歌に踊りを好む若く美しい女神を示す言葉であり、長寿とされる。


 力は弱いが特殊能力を持っており、主に花を咲かせたり牧場の見張りに狩りの手伝い。そして水に恩恵を与えてその水を含んだ者に特別な力を授ける存在ともされる。


 しかし魔力で人々を狂わせたり人間の若者に恋をしたら連れ去り、自身の愛欲を満たすなど悪い伝承もしばしばある。


 力の弱い女神の総称、それがニュンペーだ。



 本来のスキュラは伝承では恋などもせぬ、というより恋愛に興味がない清純な女神。なのでポセイドンや兵士達を除いて唯一の男性であるライがさらわれる事なども無いだろう。


「よろしく。スキュラ!」


「うん! えーと……それで、聞きたいんだけど此処は? 何かずっと落下しているよね……それに、何か頭が痛くて何かが抜け落ちたようなそんな気分なんだ……。このわんちゃんたちも可愛いけどよく分からないし……」


「アハハ……えーと……説明すると長くなるかな……それに、あまり良い話じゃないから聞かない方が良いよ……?」


 スキュラは呪いによって理性を失い、誰がどう見ても完全なる怪物と化していた。なのでレイは聞く事をオススメしなかったが、スキュラは頭を振って言葉を続ける。


「うん……。良くない事が起きたってのは大体分かるかな……。けど、やっぱり聞いておかなくちゃ。女神が悪事を働いたなら、それを償わないといけないから……!」


「……」


 どうやらスキュラは既に覚悟を決めているらしい。下級とは言え女神だからこそその様な事柄に対する耐性があるのだろう。

 この意思を無下にする訳にはいかない。それならばと、レイは言葉を続けた。


「うん。分かった。じゃあ話すよ」

「うん……!」

「実は──」


 そしてレイはスキュラに概要を伝える。と言っても伝承で知っている範囲だけであり、ずっと此処の空間に居たこのスキュラが本当にその様な行動をおこなっていたのかも分からないのだが、それを前提とした上で分かりやすく説明をしたのだ。


「──って事なの。それで少しだけ特別なこの剣で治療したって訳」


「……。私が船を襲う怪物に……」


「あ、でもスキュラさんはずっと此処に居たからもしかしたら何もしてないかも……!」


「うん。ありがとう。レイ。けど大丈夫。もし本当に船を襲撃しているならちゃんと罪は償うから」


 ニコやかに笑い、スキュラはレイの言葉に返す。

 流石に怪物と化していた事はショックだったようだが、精神面には強いのだろう。加えて女神なので自分が怪物になっていた時の犠牲者などを調べる事は出来る。なので罪を犯していたとしたらそれを償う事も可能なのだろう。


「見たところ此処はポセイドン様の空間。じゃあ、私はこのわんちゃんたちを連れて帰るから。戻してくれてありがとうね! 貴女は帰る?」


「あ、大丈夫です。……って、え? 此処から帰れるんですか!?」


「ええ。ちょっと特別な方法をもちいて帰ります。それでは……」


「はい……。さようなら……」


 どうやら帰る方法があるらしく、それを聞いて驚愕するレイだがスキュラは軽く返してその場を離れた。

 何はともあれ、これにてレイとスキュラの戦闘が終わる。まだ海が戻るよりも前に決着が付くのだった。



*****



「さて、私を捉えられるかな? 浮く事が出来ても私程自由が利く訳ではないのだろう?」

小癪こしゃく……!』


 蝙蝠のような翼で自由自在に空を飛び回り、カリュブディスを翻弄する。

 あからさまに苛立ちを見せたカリュブディスはエマに向けて水を放出して仕掛けるが、その全てを避け切ったエマは死角へと回り込んで片手に風の力を纏った。


「動きが遅いな。海では脅威的と言われるお前も空中ではこの程度か」


『……ッ!』


 同時に風の塊を放ち、死角に山河を吹き飛ばす風を受けたカリュブディスは怯む。怯むだけで済んだのは中々だが、大きなダメージは負ったらしく怯んだ状態から暫く動かなかった。


「動かない。もしくは動けないなら構わず仕掛けるぞ? まあ、仮に動けても構わず仕掛けるがな」


『……ッ!』


 独り言のように言い放ち、分散させる海が無いからこその雷を放出した。

 雷撃によって感電したカリュブディスから目映い光が放たれ、周囲が雷光に包まれ雷音が轟く。半径数百メートルの範囲が一瞬にしていかづちの世界と化した。


『ガァ!』

「……ほう?」


 雷撃を受けつつカリュブディスは海水を放出して辺りに散らす。それによって雷を分散させ、いかづちの檻から抜け出した。


『死に晒せ!』

「悪いが溺死はしないんだ」


 同時にエマの身体を水で包み込むが呼吸など何の関係もないエマには効かず、その場で風を起こして海水を散らした。


「ふむ、カリュブディスの水は私に効かないか」


 そしてどうやらカリュブディスの海水はヴァンパイアの弱点である流水にはならないらしい。それならばとエマは蝙蝠のような翼を羽ばたき、加速してカリュブディスの懐に迫った。


「なら、さっさと倒してしまおう。大食い故の罰でこうなったなら、レイに頼めばその呪いが解けるかもしれないな。気絶させて連れ去ろう」


『……!』


 懐へと高速で拳を打ち付け、カリュブディスの身体を弾く。それと同時に風を纏い、少し距離の離れたカリュブディスの身体に打ち付けて破裂させた。

 それによって暴風が吹き荒れ、カリュブディスの身体が回転して吹き飛んだ。


「それなりの距離があるな。一緒に落ちている土塊にでもぶつけて意識を奪うか」


『貴様ァ!』


 吹き飛ばした先も元々海だった空。なので確かなダメージはあるのだろうが感覚による手応えはあまりない。なのでエマは一緒に降り注ぐ土塊に注目した。それと同時に加速し、両手に風を纏う。


「悪いがこれで終わりだ。早い決着だったな」


『勝手に決めるな……!』

「いいや、決定事項だ」


 風を纏い、その風に雨と雷を混ぜる。同時に念力のような力で圧縮し、カリュブディスの顔に近付けた。


「はあ!」

『……ッ!』


 次の瞬間にそれを放ち、カリュブディスの顔を撃ち抜いた。それによってカリュブディスは吐血し、そのまま意識を失う。

 同時にエマは倒れるカリュブディスの髪を掴み、辺りを見渡した。


「ふむ、レイの気配が近くにあるな。コイツも仕留めたし、一先ずそこに行くとするか」


 そしてレイの気配を感じ取り、そのままカリュブディスを引き摺るように飛行してレイの元に向かう。このまま放っておく訳にもいかないので一応カリュブディスを連れて行くのだ。

 何はともあれ、これにてレイとスキュラ。エマとカリュブディスの戦闘に決着が付いた。残る戦いはライ、フォンセ、リヤンの織り成すポセイドンとのものだけ。これにて人間の国、No.2との戦闘も決着に近付くのだった。

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