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八百六十八話 水の街の城内

 ──"タラッタ・バシレウス・城の前"。


 一触即発の状況にて、ライとポセイドンを中心にピリピリとした空気が漂っていた。

 向き合うは征服を目論む侵略者と世界最強の国のNo.2。それも当然だろう。

 そんな中、先に口を開いたのはポセイドンだった。


「まあ、此処で話し合うのも色々と面倒だ。折角だから、城の中で話し合おう。お前達が来た理由は潜入が目的。城の中に潜んで情報収集でもしようと考えていたのだろう。故に、城の中に招待してやる」


「……」


 それは、城への誘い。

 見るからに怪しい。この城はポセイドンの物だからこそ、ある意味ではこの街よりもテリトリーとしての役割を大きく果たしている事だろう。

 だからこそ様々な罠などもあるかもしれない。そう簡単に付いて行くのは危険極まりない事である。

 故にライはその言葉にフッと笑って返した。


「そうだな。折角来たんだ。その誘いに乗ってやろうじゃないか」


 ──誘いに乗るという方向で。

 それは明らかに愚作。何が仕掛けられているのか分からず、敵の本拠地に易々と乗り込むのは危険過ぎるだろう。

 だからライはそのやり方を選んだとも言える。

 魔王の力がそうさせているのか本人の気紛れかは分からないが、敵の最も得意な方法で正面から打ち破る。そうする事で侵略されたという実感をより強めさせるのが目的だ。


「そうか。なら来い。案内してやろう」


 ライの意図には気付いたのかどうか、挑戦を受けるライの挑発を受け取ったポセイドンは兵士達を退かせて城の入り口である扉を抜けて進み、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人と退いた兵士達も後ろに付き続く。

 依然として周りには緊張が走り続けているが当のライとポセイドンからは緊張の色が見られず、何事も無いように城の中へと入った。


「此処がアンタの城か。全体的に青い装飾を施しているんだな。やっぱ海の神だからその辺を考えているのか?」


 城に入った第一印象は、青いという事だった。

 青いと言っても緑を青と呼ぶような色ではなく、全てが真っ青で不気味な印象を付けている訳でもない。青や水色と言った落ち着く雰囲気をかもし出す方の青である。

 青いカーペット、ブルーカーペットが敷かれており、水晶のように透き通った窓から日差しが差し込む。所々に大地をイメージしたかのような金などの装飾も施されており、海と陸を収める神を象徴しているかのような装飾だった。


「そうだな。確かにそれも目論見の一つではある。青という色には落ち着かせる効果や集中力を高める効果があって、仕事の方にも良い影響が及ぶのだ。故に全体を青く染める事でより仕事に専念出来るようにしてある」


「仕事熱心な事だな。けど、やっぱり今のところアンタの伝承通りの性格が見受けられないな。先代と差はあっても性格の近い存在が次の神に選ばれる筈。まあ、ハデスみたいな特例はあるけど、そんなハデスにも恐怖以外の一面があるって伝承は存在する。それが誇張された存在なら納得出来るんだけど、アンタは本当に伝承に伝わっているような存在には見えないんだ」


 青に囲まれた日差しの差し込む水のように明るい渡り廊下を進み、ライはポセイドンに訊ねるよう話していた。

 今までの幹部達は、基本的に伝承に見せていた顔を持っている。だが今回のポセイドンはその様な一面が見れない。それが疑問なのだ。

 探せばポセイドンが落ち着いていた存在であるという伝承も見つかるかもしれないが、今のところは見つかりそうにない。

 ポセイドンはライを一瞥して言葉を続け返す。


「そうだな。我は荒々しい海洋に例えられる事もあるが、本来の海というものは生き物や自然が暴れなければ静かな存在。今の私はそんな静寂。"凪"の中に居るという事だ」


「ふうん? あくまで今はって事か。このまま何処に行くのかは分からないけど、切っ掛けがあれば直ぐにでも本来のポセイドンになるって考えて良さそうだな」


「そう思ってくれて構わない。お前達も分かっているだろう。既に我らは臨戦態勢に入っているとな」


「ああ。俺たちも同じだからな。……と言うか、上階じゃなくて地下に向かってないか?」


 既にライたちとポセイドン率いる兵士達は何時でも行動に移れるような警戒をしていた。

 レイは手厚く歓迎し、その仲間であるライたちの待遇も悪くないが、恩と仕事は別。割り切れている様子を見る限りやはり手強そうな街である。


「さて、着いた、少し寛ぐと良い」

「……! 此処は……貴賓室か?」

「わあ……」

「ふむ」

「ほう?」

「綺麗……」


 城の中を少し進み、地下に向かい、ポセイドンによってライたちは一つの部屋に案内される。その案内された場所は──さながら海の中のような場所だった。

 周りはガラス貼りの構造であり、色鮮やかな珊瑚サンゴや熱帯に生息しているであろう魚がガラス越しに見えた。

 部屋自体はよく見る貴賓室のようなもの。部屋全体は廊下や大広間と変わらず青く、水晶のようなロングテーブルと無数の椅子が置いてあった。


「何の目的でこの部屋に? 見たところ牢獄って訳じゃ無さそうだ。まあ、ガラスからの景色を閉ざせば部屋全体の青だけが残って他の色が無くなるから精神的に追い詰める事も可能だけど」


「よくもまあ、そんな事を思い付く。精神的に追い詰めるのは相応の悪事を働いた者に対してくらいだろう。今は純粋にもてなすつもりだ」


「俺の目的は十分その悪事に該当していると思うけどな。てか、もてなして良いのかよ?」


 曰く、もてなす為にこの部屋に招いたとの事。裏があるかと勘繰ったが、ライの言葉に返さずポセイドンはテーブルの方へと向かう。


「まあ、細かい事は気にするな。気にするだけ面倒になる。我が良いと言うのだからそれで良いだろう。警戒して座りはしないか。食事も用意するつもりだったが、毒などの心配もするだろうから止めておこう。今はゆっくりと寛ぐと良いさ」


「今"は"ねえ。休憩を促すのもこれから行われるかもしれない戦闘に対してのものか。万全の状態にしてもアンタらに利点は無い筈だけど?」


「ああ、そうだな。だが、お前達のやり方が正面から打ち破るものなら、我らも逆にお前達のやり方を真似ようと思ってな。侵略者を正面から打ち破れば二度とその様な気を起こさせぬ事もあるだろう。最も、捕らえられたらどうなるかは支配者にしか分からないがな」


 どうやら本当にもてなしてくれるようだが、その後は戦闘に移行するつもりらしい。その言葉に嘘偽りがあるかどうかは分からないが、読心術には長けているかもしれない。なのでライは言葉を返した。


「そうか。じゃあ、ゆっくりと休憩はさせて貰うとしよう。英気を養うのは悪くないからな」


 それは休むという方向での話を受け入れるという返答だった。

 安全確認も兼ねてポセイドンの後にはライが行き、それに続くようレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人が椅子に座る。

 ロングテーブルから見える海底の光景は幻想的で落ち着くものがあるが、今の状況からして寛ぐ事はほぼ不可能に近かった。

 しかしポセイドンの言うように青は気持ちを落ち着かせる効果がある。心の底から落ち着くのは無理でもある程度は休めるだろう。


「食事は摂らなくとも、飲み物は飲むか? "タラッタ・バシレウス"で取れた新鮮な天然水にそれをもちいた紅茶やコーヒー。絶品だ」


「食べ物も飲み物も毒があれば危険ってのは変わらない気がするけどな。……まあ、今の俺には毒類も効かないけど。取り敢えず飲み物くらいは貰っておくよ。毒の調べ方も分かっているから問題無い。それに、朝食を終えてからまだ二、三時間しか経っていないから食事は遠慮していたさ」


 食事は警戒しているが、飲み物は受け取る。毒の有無はて置き、元々朝食から数時間しか経っていないので然程食欲があるという訳でもないのだ。

 それから数分後に飲み物が置かれ、ライたちはそれを貰い受けて寛ぐ。今の様子を見ても分かるように毒なども当然入っていない。本当にもてなしているだけである。

 周りに映り込む水槽のような光景は美しく、一瞬此処が敵地である事を忘れそうになった。


「……っと、随分寛いじゃったな。あくまで恩があるのはレイの先祖だけど、俺たちまで良いのか? と言うか、レイ以外にも知っている事とかあるか?」


「フム、遠回しな確認だな。案ずるな。全て知っている。まあこの街に関せぬお前達の事は我以外知らぬがな。恩があるからこそ勇者の子孫という事を報告しただけだ。……まあ、勇者は文字通り全世界の恩人なのだがな」


 出された飲み物は飲み干し、改めてライはポセイドンに色々と確認を取った。

 それはライが魔王の側近の子孫という事とフォンセが魔王の子孫という事。そしてリヤンが神の子孫であるという事を知っているかの確認。対する返答は知っているとの事。

 やはりポセイドンには色々と聞かされているようだ。実際ゼウスならライたちが何の子孫なのかを知っていてもおかしくないが、流石に人間の国のNo.2には情報を伝えているのだろう。しかしレイの事しか兵士達に教えていないのを見ると、恩義を果たす気概を見せただけという事だ。それ以外の余計な事柄は教える必要も無いのも事実である。


「さて、十分に休む事も出来ただろう。よって、たった今からお前達を敵と見なす」


「「……!」」

「「……!」」

「……へえ?」


 次の刹那、ポセイドンの言葉と同時に世界が流転し、海に囲まれた部屋が急激に変化した。

 周りのガラスは消え去り、涼やかな風が吹き抜ける。その事からするに場所は屋外。世界が青く染まり、ライたちの視界には波打つ海が出現した。


「海を創造した……というより、海の世界か」


「そうだな。此処が戦場となる、我の所有する一つの世界だ。海と大陸。構造は通常の世界と同じだが、その広さは無限。まあ無限の空間というものは案外この世界で生み出せる者も居るから今更だろう。要するに思う存分に戦えるフィールドという事だ」


「ふうん。随分と説明してくれるな。まあ得られた情報は海と大陸がある無限空間ってだけだけど。取り敢えず周りに影響が及ばない場所で戦うのは久々だな」


 海の波打つ音が響き、潮の香りが鼻腔をくすぐる。この感覚は"タラッタ・バシレウス"の沿岸を歩いていた時と同じ感覚だが、ポセイドンと兵士達の様子から自然に緊張感が高まりつつあった。


「兵士達も戦うんだな。レイとはやりにくくないか?」


「私情と役割は別だからな。それくらいはわきまえている。取り敢えず御託はいい。既に準備は終えているのだからな。さて、人間の国の大砦、ポセイドン。相手を致す」


 ライたちの居場所は小島のような場所。しかし広さは大陸程だろう。そこで兵士達が武器を構え、ポセイドンが臨戦態勢に入る。ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人も改めて臨戦態勢に入った。

 人間の国"タラッタ・バシレウス"にて暫し寛いだ後、ライたちとポセイドン達による戦闘が開始されるのだった。

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