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八百六十六話 人間の国・海に囲まれた街

「成る程。リヤンの出生にはそんな秘密が……まあ、確かに辻褄は合うな。リヤンが生まれたのは十数年前。しかし神は数千年前に消え去っている。神の少なくなった力によって数千年遅れで"フロマ家"に宿った神の子孫……神の力ならそれもおかしくはないな」


 朝食を摂っているライたちから夢の内容を聞き、自身は何も食さぬエマは成る程と頷いていた。

 神の力によって数千年もの年月が経てようやく生まれた神の血族。リヤン・フロマ。神の消滅した時を考えるとその出生には矛盾があったが、何故そうなったのかは理解した。


「まあ、疑問点を突き詰めればそれに終わりは無いけどな。少なくとも、リヤンの出生は分かった。それと、夢の中でだけど勇者と神の戦いも終わったな」


「うん。私の持つこの剣も、本物のご先祖の剣だったよ。見守るって言っていたけど……今も見ているのかな……ご先祖……」


 今回の夢での収穫は上々。神話や伝承、お伽噺では分からない過去が分かった。

 しかしそれはあくまで過去の出来事。今回はその出来事がそのままリヤンの誕生に繋がっているので神妙な雰囲気だったのである。

 そしてその様な話をしているうちにライたちは朝食を終える。その後様々な準備を終え、思考を切り替えた。


「さて、取り敢えず今は目的がある。いずれは聖域にも行ってみたいけど、今は目的を遂行しなくちゃな」


「うん。ご先祖にも会いたいけど、そのうち行けるかもしれない聖域より、目的について考えた方が良いかもね」


「ああ。ヴァイス達もあれ以降めっきり見なくなった。今でも時折何処かの街が襲撃されるが、確実に頻度は落ちているからな」


「そう言えばそうだな。何かの準備でもしているのだろうか……」


「……。けど……良からぬ事は考えているよね……」


「ああ。それも踏まえて行動しなくちゃな」


 聖域に勇者に神。気になる事は多数あるが、先の事より今の事に目を向ける五人。

 世界征服とヴァイス達。百鬼夜行の騒動は終わったがその両方を何とかしなくてはならないのでライたちは早速旅に戻る事にした。


「そろそろ次の街が見えても良さそうだけどな。"ヒノモト"を出てから結構な速度で移動したし、距離的には幾つかの街を越えている距離だ」


「そうだね。けど、歩いても歩いてもまだまだ森の中……あ!」


「……!」


 その道中、レイが森の奥にて出口のような場所を見つけた。

 此処は整備されていない森なので元々出入口など無いが、要するに開けた場所に出たという事である。

 森を抜けた先の開けた場所。考えられる線は二つくらいだ。


「新たな街か、はたまた海とかみたいな場所か。山間部か。取り敢えず何処かには着いたのかもな」


「うん。早速行ってみようか」

「ああ。まあ、森でなくなると日光が直に来るからそれが嫌だな。この傘には本当に世話になりっぱなしだ」

「ふふ。さて、次はどんな所か気になるな」

「うん……」


 出口が見えたと同時にライたちは少し早足でそちらに向かう。そして光の差す元に辿り着き、薄暗い森の中を抜け、ライたちの視界が開けた。それと同時に映り込んだモノは、


「……!」

「此処は……」

「海……」

「……の街か……!」

「広い……」


 ──海の街。海の上に築かれた巨大な都市だった。

 遠目なので細かい部分はよく分からないが、賑わいは見せており確かに発展している街のようだった。

 沿岸部から巨大な大橋が架かっており、そこから街へと無数の人々が行き交う。街の形は円形であり、一つの島がそのまま街になっているようだ。


「港町っぽいな。漁業は盛んみたいだ。珍しいな海に囲まれている街なんて」


「そう言えば今までに海に囲まれた街に行ったのは少なかったね。囲まれたというより遠目に見えたりだったから」


「ああ。確かに何故少ないんだろうな。と言っても私が見た世界はまだまだ狭いが、体感では少ないように思える」


「ふふ、海にも様々な魔物が居るからな。人間や魔族も、海を整備出来る者は限られている。だから人の手が行き届いていない事が多いんだ。海から魔物が攻めてきたら平均的な街の兵隊では対処するのも大変だろうしな。まあ最も、私自身も海。流水を苦手としているが」


「綺麗な街……」


 各々(おのおの)の感想を言い、フォンセは他の街に沿岸部が少ないのを気に掛ける。

 エマ曰く、それは利点と同時に危険も多いからとの事。確かに海の近くに街を構えれば漁業を営む事が出来、海自体の美しさから工夫次第では観光客も多く来る筈。工夫すれば大抵の街にも観光客は来るが、海があるというだけで大きなアドバンテージとなり、確かな利益は得られるのだが、海にまで整備が行き届いていないからこそ魔物に襲われる可能性もあるという事だ。


「じゃあ取り敢えず、街の方に行ってみるか。此処から得られる情報は本当に目立つものだけだからな」


「うん。結構賑わっているのかな? 此処まで声は聞こえないけど」


「まあ、行くに越した事は無いだろう」


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は遠目から見るだけでなく街の方向へ行く事にした。

 遠目から見ても分かるように大きく、海に囲まれた街。五人は山を下り、そのまま進むのだった。



*****



「此処は──"タラッタ・バシレウス"か。賑やかな街だな。やっぱり港町みたいだ」


「争いとかも無さそうだし、雰囲気も悪くないからね。平穏な街なのかな?」


 海に囲まれた海の上に顕在する街──"タラッタ・バシレウス"。

 遠目から見た通り港町っぽさがあり、やはり漁業が盛んのようである。周りは海なので特別な感覚があるが、街では農業なども普通に行われている。まさしく浮島を街にしたようなものだろう。

 海から街に水を引いており、魔法道具の一種で海と街を繋ぎ海水を浄化して作られたであろう大河が流れていた。その水を生活用水や農作物に与える水として使っているようだ。

 乗り物は船が多く、漁船から観光船も大河と海を忙しなく行き来する。


「"タラッタ・バシレウス"……ふむ、いつぞやの"アヴニール・タラッタ"を彷彿とさせる名だな。まあ街の名の一部が同じだけなんだが」


「……! そう言えばそうだな。確か"アヴニール・タラッタ"も海の近くにあった街だ」


 "タラッタ・バシレウス"の様子を見やり、ふとエマは海底に沈んだ都市、"アヴニール・タラッタ"を思い出していた。

 その街が発展していた事と滅びた理由は分かるが、如何様な商業をおこなっていたかなどは分からない。なのでこの街と何か関連性があるのかも分からないが、二つだけ分かるとすれば同じ人間の国にあり、同じ名を持つという事くらい。その話を聞き、リヤンは小首を傾げてライたちに訊ねた。


「"アヴニール・タラッタ"……? 確か……ライたちがレヴィアタンと会ったって言う街だよね……?」


「ああ。そう言えばリヤンに概要は話していたけど、詳しくは話していなかったか。えーと"アヴニール・タラッタ"って言うのは──」


 それからライたちは"タラッタ・バシレウス"の小さなお店にて休み、リヤンに"アヴニール・タラッタ"の事を詳しく話した。

 と言ってもライたち自身が知っている事も少ない。レヴィアタンの事についてはある程度話してあるので、海底に沈んでいた街の景観などを説明しているのだ。

 無数の窓がある高層建造物の立ち並ぶ街並み。"アヴニール・タラッタ"は今居る"タラッタ・バシレウス"よりも、今までに寄ったどの街よりも発展していた。それが数千年にレヴィアタンによって消された。何とも言えぬ壮大な話である。


「あ、それなら私も気になる事があるな。前にも言った気がするけど──」


 ──ついでにレイは、幻獣の国で見た森林都市についても話す。

 既にレイが見た全ての情報はライたちに教えているが、海底都市"アヴニール・タラッタ"とついになっているかもしれない街。決して無関係という事はないだろう。


「へえ……。海底にそんな街があったんだ……。森林都市の方も発展していたんだよね……何でその二つの街だけが発展していたんだろう……」


「確かに……たまたま通り掛かった場所にあっただけだからその二つしか見ていないかもしれないけど、もしかしたら他にもあるのかな?」


 海底都市と森林都市。現代よりも遥かに発展しているだろう二つの都市。その存在にリヤンは小首を傾げて呟く。

 レイの言うようにライたちが通った場所にたまたまっただけであり、もしかしたら他にも発展した街があるのかもしれないとも考えられる。が、何の手懸かりも情報も無い今、考えていても仕方無いとライは気を取り直した。


「まあ、海底都市も森林都市も過去に何かがあったのは事実。今は"アヴニール・タラッタ"じゃなくて"タラッタ・バシレウス"だ。海底都市と此処が似ているように、デメテルが居た"エザフォス・アグロス"と森林都市も何か関連性があるのかもしれないと思ったけど森林都市についての情報は得られなかった 。此処なら名前の共通点もあるし、色々と分かるかもしれない。……それと、本題は幹部や主力の捜索なんだけどな」


「うん。そうだね。今はこの街が重要だもんね」

「ああ。謎解きはまたの機会にしよう」

「そうだな。その方が良さそうだ」

「うん……」


 何も掴めないなら、手懸かりを探すのが一番。なのでライは此処、"タラッタ・バシレウス"を探索する事にした。

 元々幹部や主力のような存在には注意をしなくてはならない、なのでそれらをこなす為に動き出したという事だ。

 レイたちもそれに続き、小さな店からライたち五人は発つ。


「海に囲まれた港町で、街中を大河が流れている。けど、ただの港町じゃなくてその水を大いに利用しているみたいだな」


「うん。魔法道具って誰が作っているんだろうね。とてもじゃないけど、生活用水にはあまり向かない海水を色々と利用出来るように変えるなんて」


「塩分と細菌などを取り除いているだけのようだが、それだけでもかなりの用途があるな。浄水の重要性は思っている以上だからな」


「確かにそうだな。綺麗な水があるだけで生活がぐっと良くなる。衛生面も改善され、利点が多い」


「街の景観も良くなるからね……。人も来るから街の経営も良い方向になるかも……」


 石畳の道を進み、周りの様子を窺うライたち五人。

 周りが水だからか夏の気候にしては涼しく、海からやって来る潮の匂いが含まれた浜風がライたちの肌を撫でて髪を揺らす。蒼く広い海には船がおもむき、漁に出る。大河には観光船が行き交っており、見ているだけで楽しくなる感覚だった。

 呼び込みをする魚屋。武器屋。家具などの日用品を売っている店。海の近くだからこそ風雨に強い造りの建物であり、遠方。街の中心部には巨大な城がそびえ立っていた。


「海に近い環境だから建物には工夫されているみたいだけど、あの城……異様に目立つな。まあ、権力者が居るのはほぼ確実なんだろうけど」


「うん。街を見て回るのも良いけど、やっぱり何かありそうなお城に行った方良いのかな?」


 その城を見やり、そこに行ってみるかどうかを話し合うライとレイ。城は権力の象徴。意外と城のある街自体は世界的に見れば少なく、王政の街か主力の居る街くらいにしか城は無いのだ。

 ライたちの目的からして城のある街にはよく行くが、実は主力達以外の街にも色々と行っている。その事から考えても城のある街は基本的に何かがあるのだ。


「じゃあ、城の近くにでも行ってみるか。中に入れるかは分からないけど、外観だけでも何か分かるかもしれない」


「そうだね。今は情報収集がメインだから特にやる事も無いし、行ってみるのも良いかも」


「だな。街を見て回るだけなら城に向かっても出来る。賛成だ」


「ああ。右に同じだ」

「うん……」


 街に辿り着き、ライたちの目的が決まる。"アヴニール・タラッタ"関連など色々気になるが一先ずはて置き、ライたち五人は"タラッタ・バシレウス"の探索を始めるのだった。

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