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八百六十三話 夜明け

「オラァ!」

『『『……!』』』

「「……!」」


 各々(おのおの)の戦闘方法が大天狗によって決まったその瞬間、ライは大天狗、九尾、酒呑童子、ぬらりひょんに山本五郎左衛門目掛けて一気に加速し拳を放った。

 流石のライでも拳は二つ。足も二つ。精々距離の近い二人しか狙えないが、移動と同時に大地を踏み砕いて土塊つちくれを巻き上げ、その土塊を残りの者達へ放っているので数は全く関係無かった。

 大天狗達とぬらりひょん達はそれらを見切ってかわし、ライが拳の狙いを定めた者──山本五郎左衛門が腹部を打ち抜かれた。


「……ッ! あくまで本命は拙者か……!」

「ああ。敵は多いけど、本筋は変わらないからな。敵を変えた訳じゃないんだ。決着は付けるさ」


 ライの目的は、あくまで始めから戦っていた山本五郎左衛門。それはレイたちも同じだろう。全員で戦う機会はそれなりに体験している。だからこそ自分の決めた相手と戦う事で目的をより効率的に進めようと考えているのだ。

 腹部を殴り付けられた山本五郎左衛門は何十回目となるのか再び吹き飛び、数百メートル先で停止した。


「ま、多分直ぐに戻ってくるから……提案した本人にも挑むか」


『……!』


 小さく呟いて振り向き、次の刹那に光の速度で大天狗に迫るライ。大天狗は扇でそれを受け止め、背後に粉塵が舞い上がる。同時に飛び退いて宙を舞い、空中から扇を振るって今一度暴風を引き起こした。


「そらよっと!」

『蹴りの爆風で相殺したか』


 扇からなる暴風は蹴りの爆風で消え去った。それと同時にライは踏み込み、跳躍して大天狗の眼前に迫る。


「叩き落としてやるよ!」

『遠慮しておこう』


 そのまま拳を放つが避けられ、空中を蹴って回し蹴りも打ち込むがそれも避けられる。

 やはり空中移動も得意な大天狗。実力で言えば山本五郎左衛門よりも数倍強いくらいだが、機動性が高いので中々攻撃は当たらなかった。


「私たちも仕掛けなきゃ!」

「ああ。見ているだけという訳にはいかないからな!」


 先に行動へ移ったライに続くよう、レイとフォンセも駆け出した。狙いは自分たちが戦っていた酒呑童子と九尾。

 ライも言っていたように、全員で戦うにしても自分の相手は基本的に変えない。相手がどう出てくるかは分からないが、やる事は同じである。


「はあ!」

『フン、ならば我は纏めて討ち滅ぼすだけだ』


「"ファイア"!」

わらわも同じじゃな。邪魔者はみな葬り去ってくれよう!』


 レイが勇者の剣を振り下ろし、それを酒呑童子が刀で受ける。同時にせめぎ合いが始まり、高速の攻防が繰り返された。

 その一方でフォンセが放った炎魔術は九尾が妖力からなる壁で防ぎ、同時に妖力の塊を九つの尾に形成して放出する。それによって空中のライと大天狗。地上の全員を巻き込む大爆発が起こり、辺りが更地へと変わり果てた。


『フム、全員無事か。まあ当然かの。この程度で死ぬ程(ヤワ)じゃなかろうて』


「そう言えば、九尾はさっきから広範囲に及ぶ攻撃が多かったな。全員で戦う以前に、元々全員を相手取っていたようなものか」


 先程から九尾が放っていたのは、山を消し飛ばす程度の威力が秘められた妖力の塊。それを見境無く放ち続けていた現在、全員で戦う形式の戦いなど今更過ぎるのかもしれない。

 そこから更に続くよう、九尾は九つの尾を広げて妖力を込めた。


『さて、次は防げるかの。この妖力の塊一つ一つには山を吹き飛ばす力を有しておる。此処ら一帯のみならず、この"ヒノモト"の街は無論、そこから更に半径数十キロは消し飛ぶぞよ』


 込めた瞬間にその妖力を一気に放ち、辺りは目映い光に包まれる。次の瞬間には熱と衝撃が周囲を飲み込み、轟音と共に大きな煙が舞い上がった。

 そしてそこから土に汚れた程度のライたちが姿を現し、街一つを容易く消し去れる一撃にもかかわらず巻き込まれた範囲は数百メートル程度。その事からするに正面から消し去ったという事だろう。


『しかし、主らには無意味じゃったようだな』


「無意味じゃないさ。ダメージは無いけど、実際に地形は少し変わったからな。直撃してたら何人かは負傷していたんじゃないか?」


『ダメージが無ければ無意味も同義じゃろうて。そしてあくまで主は無事と言うか小僧。まあいい。大半は主が消し去ったのだろうからの』


「会話に水を差すようで恐縮で御座るが、横から行くぞ!」


「いいや。別に構わないさ」

『うむ。そう言う戦いじゃからの』


 ライと九尾と会話の横に、戻ってきていた山本五郎左衛門がけしかける。態々(わざわざ)言わなくても良い事の筈なのが、武士道があるからこそ言わずにはいられなかったのだろう。

 その刀を一人と一匹は避け、続くようにレイたちとぬらりひょん。大天狗達が攻め行く。


「はあ!」

『フン……!』


「九尾は向こうに居るな。なら、お前を狙うか。"土の槍(ランド・スピア)"!」

『ほぼついでか。まあ構わぬ』


「ダラァ!」

「ぬう……!」


 レイと酒呑童子は変わらずせめぎ合いを織り成し、フォンセが狙いを九尾から大天狗に変更。スサノオとぬらりひょんも変わらず攻防を繰り広げる。

 剣と刀が文字通り火花を散らし、四つの刀剣からなる金属音が辺りに響く。土魔術からなる槍は上空の大天狗を狙い、大天狗が縫うようにかわして行く。場は熾烈を極め、九尾を除いて範囲を抑えているが徐々に地形が変化した。


「同じようなせめぎ合いを延々と繰り返しているだけで御座るな。このままでは拙者の群れを大きく出来ぬ」


「それは良いな。今後の百鬼夜行がどうなるかは分からないけど、一つの敵対組織を潰してももう一つの組織が出てくるんじゃ埒が明かない。俺たちの目的の為には、邪魔なモノは排除して行かなくちゃな」


「目的か。その口振りからするにロクな目的では無さそうで御座るな。拙者も言えた事では無いから皆までは聞かぬが、どちらにせよ拙者が手に入れる……!」


 再び力を込め直し、山本五郎左衛門が加速してライに刀を振るった。それをライは紙一重でかわし、躱した方向に刀が薙がれる。それを仰け反って避けた瞬間に蹴りを打ち付け、山本五郎左衛門の身体を吹き飛ばす。

 しかし今度の山本五郎左衛門は数百メートルも行く前に止まり、刀を薙いで強襲。逆にライの身体を吹き飛ばした。


「へえ。キレが良くなっているな。全力って言っていたさっきよりも動きが良い。これからが本当の全力って感じか?」


「あの一撃でも肉は切り裂かれず、鈍器で殴られたように身体が吹き飛ぶだけ。頑丈な肉体をしている。して、主の言葉に返すなら……ああそうだ」


 それだけ告げ、ライとの距離を詰め寄って刀を振り抜く山本五郎左衛門。ライはそれを片手で受け止めて引き寄せ蹴りを放つが山本五郎左衛門はそれを躱し、刀を引き抜いて牽制。その間にも横から妖力の塊が放たれるがライは正面から砕き、山本五郎左衛門は剣尖で逸らして防いだ。

 ライと山本五郎左衛門の近くでは依然として他の主力たちも争っており、その戦況はより激しくなって行く。


「さっきよりも……貴方は弱い!」

『……ッ!』


「空中移動が得意なら、それを抑えれば良いだけだな。"(サンダー)"!」

『……!』


「純粋な力じゃ、俺が上だ!」

「その様じゃな……!」


 だが、戦況はレイたち主力が優位に立っていた。

 レイが酒呑童子の身体を斬り付け、フォンセが雷で空中の大天狗に仕掛ける。スサノオはぬらりひょんを斬り伏せ、次第に此方側が押していた。


「オラァ!」

「……ッ!」

『……!』


 その一方で、食い下がっていた山本五郎左衛門をライが殴り飛ばして九尾にぶつけ、一人が一匹を巻き込んで吹き飛ぶ。そこから更に追撃を仕掛け、山本五郎左衛門と九尾の身体を振り回し左右に分かつよう投げ飛ばした。


「……っ。先程よりも力が……!」

わらわを物のように……!』

「ああ。長い戦いも、そろそろ終わらせなくちゃって思ってな。此処からは少し本気を出す……!」


 ライは自身の全力に魔王の三割を纏い、この場を終わらせるべく力を込める。たかが三割。されど三割。漆黒の渦が包み込むその気配にぬらりひょんと相対する途中のスサノオは警戒を高めて向き直った。


「この気配……嫌な感じだな。何()ーか、この世の全ての不条理と悪意を詰め込んだみてえな気配だ……」


 それが、魔王の力。かつて世界を支配し、英雄に倒された存在。そんな三割でも、今のライと合わせれば宇宙一つも容易く砕ける程だろう。

 そしてその気配は、"ヒノモト"全域に伝わっていた。


「……! 何でしょう……この嫌な気配。胸騒ぎとでも言うのでしょうか……よく分からない"それ"が存在するだけで全身に鳥肌が立つような……」


「……。嫌な感覚。何か興が削がれそう……何なの、この気配……」


「……。闇か。この空よりも暗い感覚だ。夜を司る私にも理解出来ないな……」


『『『…………!?』』』

『『『…………!?』』』


 アマテラスと魃。そしてそこから少し離れた場所ではツクヨミが魔王の気配を感じて動きを止める。

 そしてそれは野生の感覚が鋭く残っている妖怪達にも届いているのか、狂気に包まれていた妖怪達の動きも停止していた。


「……。ライか。そろそろ終わりと考えて良さそうだな」


「うん……。妖怪達の進撃も無くなったし……終わるかもね……」


 慣れているエマとリヤンは一息吐き、街の方を見て少し休憩。此方はアマテラスたちのように警戒も何も無くのんびりと過ごせていた。


『……! 時折感じる嫌な気配ですね……何の気配なのでしょうか……』


『……。さあな。何だろうな?』

「ああ。全く分からねェな」


 そして気配を強く感じるユニコーンと、知っているので特に意に介さない孫悟空とモバーレズ。モバーレズは孫悟空が知っている事は知らないが、取り敢えず幻獣の国の面々には隠し通している事を知っているので言及しなかった。


「さて、アンタらも本気を出した方が良いと思うぜ? 命の保証は出来ないからな」


 魔王の力を纏い、戦闘意欲が高まり好戦的な性格となったライは敵対する妖怪の主力達全員に警告するよう告げる。命の保証が無いのは事実。ライなりの気遣いだろう。

 故に、その言葉にぬらりひょん達は返して構え直す。


「その様じゃな。その言葉は事実のようじゃ」

「末恐ろしい少年で御座るな。だが、それには乗った方が良さそうだ」

『フム……本気か。今の我の力でどれ程やれるのか。確かめてみるのも悪くない』

『思い入れのある街だが……致し方ない。天上世界を焼き尽くす炎を使うか』

『フン、ならばこの星諸とも消し去ってやろう』


 ライの言葉に応えるよう、ぬらりひょん達も妖力を高めて構え直す。大天狗と九尾の狐は範囲技には自身があるようだが、他の者達は分からない。しかし確かに構え直していた。


「此処は……ライ一人で十分かもしれないな」

「うん。私たちが手助けしても良いけど、必要無さそうだもんね」

「へえ? アイツはそんなに強いのか。確かに実力はあるからな。やっぱりアイツは面白いな」


 ライがやるならばと、今までは同時に仕掛けていたレイとフォンセは参加しない。範囲的にこの街のみならず星と銀河、宇宙に影響が及ぶかもしれない程の力。それならライの無効化で抑えた方が良いだろう。

 そして同時にぬらりひょん、山本五郎左衛門、大天狗、九尾の狐、酒呑童子はけしかけた。


「苦手なんだがの。遠距離攻撃は」

「同じく」

『フッ、構わぬ!』

『ハア━━ッ!』

『消え去れ……!』


 少ない妖力を込め、斬撃を飛ばすぬらりひょんと同じく妖力。しかし膨大な妖力を込めて斬撃を飛ばす山本五郎左衛門と酒呑童子。大天狗は妖力と神通力からなる轟炎を放出し、九尾は今まで以上に力の込めた妖力の塊を放出した。

 それを見たライは構え、


「……。やっぱり、全員本調子じゃないな」


 それだけ告げ、自身の全力に魔王の三割を合わせた拳を放った。

 その衝撃は一瞬にしてぬらりひょん達の攻撃の元へと到達し、魔王の力がそれらを飲み込む。そして──全ての衝撃が無効化された。



*****



「「……ッ!」」

『『『……ッ!』』』


 全ての攻撃が無効化された直後、余波が四人と一匹の元に到達して全身に強い衝撃を与える。それによって意識が刈り取られ、勢いよく吹き飛ぶ。


「"土の壁(ランド・ウォール)"!」


 そして吹き飛ばされた四人と一匹はフォンセが咄嗟に造り出した壁へと激突し、ガクリと項垂うなだれ動かなくなる。ライ、レイ、フォンセ、スサノオはそんな四人の元に駆け寄り、その身柄を拘束した。


「これで良し……と。後はどうするんだ? スサノオ」


「そうだな。先ずは姉貴たち他の主力と合流。残った部下妖怪達の拘束。……そして、さっきお前が見せたあの力について城で詳しく聞きたいところだな」


「そうか。まあ、それは仕方無い事だな。分かったよ。ある程度は話す」


「ある程度か。まあいい」


 ぬらりひょん達は拘束した。残るはその後の行動だが、まだまだ部下の妖怪達は残っているのでそれについても行動を起こさなくてはならない。

 そして、間近で見たスサノオはライの力についても指摘する。あれ程の力を見てしまったのだから気にするのも当然だろう。

 何はともあれ、今回の戦いは終わりを告げた。それと同時に東の空が明るくなり、朝の夏風と共に夜明けが訪れた。

 ライ、レイ、フォンセ、スサノオによるぬらりひょん、山本五郎左衛門、大天狗、九尾の狐、酒呑童子との戦闘はこれにて終わる。その後ライたちは夜明け間も無く行動を起こし、エマたちやアマテラスたちと合流するのだった。

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