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八百六十二話 四面楚歌

 ──"ヒノモト"。


 人間の国"ヒノモト"にて行われている戦争は、ぬらりひょんの能力が解けたにもかかわらず依然として続いていた。

 それはおそらく大天狗達と同じ理由だろう。記憶が無くなった事で何をしていたのか、何をすれば良いのか分からず暴れ回るしか出来ない状況という訳だ。

 それ以前に山本五郎左衛門配下の妖怪達とは元々戦っていた百鬼夜行の妖怪達。戦う理由が分からずとも戦わなくてはならないと行動を起こしているのだろう。


『『『ウオオオオォォォッ!』』』

『『『ウガアアアァァァッ!』』』


 百鬼夜行と山本五郎左衛門の部下。百鬼夜行と百鬼夜行。理由が分からぬ百鬼夜行にとっては、敵も味方も無く全員が敵という認識。

 山本五郎左衛門の部下達は元々操られていた訳ではないので敵を見定めているが、百鬼夜行の狂気にも近い雰囲気に近付けなかった。


『アイツら……仲間同士で潰し合ってやがる……』

『ぬらりひょんの能力が解けたのか……だが……』

『俺達も参戦したいがあんな所には行きたくない……』


 敵ははっきりと分かる。だが、その敵の威圧感は凄まじく山本五郎左衛門の部下妖怪達は後退るのが関の山。目的だった筈の百鬼夜行の潰し合いを恐怖しながら眺めていた。


『お前達も敵か! 殺してやる!』

『お前も敵か……! 殺す!』

『全員殺す! このもやを払う!』


『……っ。見ているだけでは始まらない……腹をくくるぞ……!』

『『『オ、オオ……!』』』


 全員を敵と認識しているからこそ、百鬼夜行の相手は苦痛のようだ。何処から攻撃が来るのか分からないのは通常の戦争でも同じだが、少なくとも敵地に入れば少しは弱まる。本来なら味方に当たるかもしれない攻撃はなるべく避けるからだ。

 しかし今回は自陣以外全ての場所で弓矢や銃弾、大砲が飛び交いあらゆる妖怪達が斬り掛かってくる。それも見境も何も無い。隙を突く事も出来ずにいなすだけで精一杯だった。


『はあ!』

『ウガァ!』


 刀と刀がぶつかり、正面から百鬼夜行の妖怪達が自身の傷も意に介さず斬り伏せる。記憶の喪失によって理性も失いつつある。故に少しのダメージでは怯みすらしないようだ。


『だらしないわね。いずれはこの百鬼夜行を手中に収めるんだから。もう少ししっかりしなさいよ』


『『『魃様!』』』


 そんな百鬼夜行の妖怪達に向け、幹部の魃が熱でけしかけその意識を奪い取った。

 やはり幹部。この様な状況でも臆さないのは流石だろう。そんな魃の熱とは別に、新たな熱が横から放出された。


「百鬼夜行に山本五郎左衛門の部下。どちらも捕らえますので悪しからず。最も、罪人と思しき方はその場で始末します」


『天照大御神……!』


 魃をも凌ぐ熱量のそれは、今この場ではアマテラス以外に放出出来る者はいない。フォンセやリヤンは別の場所に居ると知っているので魃は即座にその熱がアマテラスによるモノだと分かった。


「それにしても、恐ろしいものですね。特定の者に対する記憶が無くなっただけで此処まで狂うとは」


『記憶が無くなった……貴女も知っていたのね。何処から聞いたのかしら?』


「秘密です♪ 主神ですからね。色々知っていますよ♪」


 それだけ告げ、二人は熱と太陽を放出してぶつけ合う。膨大な熱は見る見るうちに"ヒノモト"の街を侵食し、百鬼夜行と山本五郎左衛門の部下。その全ての妖怪達に乾きを与える。


『ば、魃様……!』

『ひ、魃様……!』

『わ、我々にも影響が……』


『何よ。本当にだらしない連中ね。一々(いちいち)言葉を止めるず率直に告げなさい』


「厳しいのですね。自分の部下に。貴女の熱で苦しんでいますのに」


『それ。七割方貴女の所為だよね。間違い無く。だって……悔しいけど熱量では圧倒的に私の方が劣っているもの。今の焼き尽くす対象は私と妖怪達でしょうし影響は大きいわ』


 夜に出現した太陽によって力尽きる妖怪達。何人と何匹が現世にとどまり何人と何匹が天国や地獄、極楽浄土にされたのかは分からないが、及ぼす影響は凄まじいモノだろう。

 それはまさしく神々の戦い。天変地異を平然と引き起こす、存在その物が天災である二人。巻き込まれる側からしたらたまったものではない筈だ。


「やれやれ。私の出る幕は無さそうだな。残党狩りでもしておくか」


 その光景を見、アマテラスに付いて来ていたツクヨミは呆れるように呟いてその場から離れる。月と夜を収めるツクヨミからしても太陽の下で戦うよりは少しでも暗い場所の方が良いのだろう。

 アマテラスの放出している太陽は"ヒノモト"から近辺数十キロ以上を照らせる光量だが、少しでも力を出す為に主に物陰の妖怪達を捜索する。


「……。居たな」

『『『……!』』』

「先ず数人。数匹? まあいい」


 そして妖怪達を見つけ出し、その妖怪達が反応するよりも前に刀で斬り伏せた。と言ってもそれはあくまで峰打ち。殺生すべき存在としなくてもいい存在はまだ分からないので一先ず意識だけを奪ったのだ。その後の事はその後考えると言った感覚だろう。

 アマテラスと魃による熱のぶつかり合いを他所に、日光から逃れる妖怪達を見つけては意識を奪い去る。妖怪側からしたらこれ以上に無い恐怖の筈だろう。


「日光か……しかし私には影響が無いモノのようだな。アマテラスの気遣いか」


「うん……結構距離が離れているのに明るいね……」


 そんなアマテラスたちの場所から数キロ程離れた場所にてエマとリヤンがその様子をうかがっていた。

 既にエマたちは水田付近には居ない。街の方から続々とやって来る妖怪達を相手にしているのだ。

 記憶の混濁によって錯乱している百鬼夜行の妖怪達。幹部のような精神力を持ち合わせていないからこそ暴れる事でそれが解消されている。なのでこれ以上面倒事が起こらぬよう、エマとリヤンが足止めしているという事だ。


「確か百鬼とは名ばかりに百以上の妖怪が居るんだったな。となると此処に居る奴らはほんの一角か。なるべく殺さぬようにするのは大変だな」


「そうだね……。生物兵器の兵士達に比べたら数は少ないけど……それでも厄介……」


 次々と姿を現す妖怪達を見やり、その数自体はあまり問題ではないが捕らえる方向で進めるのが厄介なところだ。

 ともあれ、取り敢えず文句を言っていても仕方無い。エマとリヤンは改めて妖怪達の相手をする。


「オラァ!」

『伸びろ如意棒!』

『『『ぶちかますぜ!』』』

『相変わらず御一人で賑やかですね……いえ、今回は御二人でしたか』


 そして無論、モバーレズに孫悟空やユニコーンも妖怪達の相手をしていた。

 主力達をライとレイ、フォンセ、スサノオ。中心部をアマテラスとツクヨミ。外側をエマとリヤン。そして中心から少し離れた内側に居るのがモバーレズたちである。水田と森林や山に挟まれた形で周りが囲まれているので内側と外側に分かれているのである。

 此方でも妖怪達を相手にしており、戦況は当然と言うべきかモバーレズたちが圧倒的に優位に立てていた。


「上手く分断は出来ているみてェだが、主力の相手は大丈夫なんだろうな?」


『大丈夫なんじゃねえの? ライたちなら問題は無いだろうよ』


『ええ。私たちは私たちで暴走している百鬼夜行の足止めに集中しましょう』


「ま、そうだな。問題はねェか。ハッ、俺も主力に会いたかったぜ」


 主力と戦うライたち以外も問題は無い様子。実力から考えてライたち。エマたち。アマテラスたちにモバーレズたちが上の立場である以上、夜明けまでには全てが片付くかもしれない。

 主力たちの戦闘の傍らで織り成される妖怪達の戦闘。自体は大きくなりつつあるが、逆に収まり始めていた。



*****



「オラァ!」

「……ッ!」


「やあ!」

『フッ……!』


「"ファイア"!」

『"狐火(フー・ホォ)"!』


「ダラァ!」

「ぬぅ……!」


『……』


 そしてその主力たちは、全員が一斉にけしかけた。

 ライが拳を打ち付けて山本五郎左衛門を吹き飛ばし、レイと酒呑童子が正面衝突で衝撃を散らす。フォンセと九尾の炎がぶつかり合って大きな火災旋風を引き起こし、スサノオとぬらりひょんも正面からぶつかっていた。

 その様子を見ていた大天狗は空中にて扇を構え、一気に振るって暴風を巻き起こす。それによって岩盤が舞い上がり、ライたちが空中に飛ばされた。


『空中にある大地での戦闘か。酔狂なものだな』

「落下時間はほんの数秒だけどね」


 舞い上がり、先ずけしかけたのは酒呑童子。酒呑童子はレイに向けて刀を振り下ろし、レイはそれを受け止めその余波で足元が砕け散る。このままでは落下すると判断して二人は跳躍し、先程まで二人の居た足場は崩落した。


「空中でも問題無いな。飛べない事は無い。"風の刃(ウィンド・ブレード)"!」


『そうじゃな。……カッ!』


 一方で空中でも何ら問題視していないフォンセと九尾。フォンセが風魔術からなる刃を放ち、九尾が妖力の塊を放って迎撃。妖力の塊は風の刃で切断し、空中に衝撃波を散らした。


「問題無さそうだな。アンタはどうだ?」

「少し浮遊感を覚えるくらいで御座るな。拙者も問題は無い」

「そうか。それは良かったよ」

「容赦も無いか……!」


 空中の大地を蹴り砕き、山本五郎左衛門の懐に踏み込んで拳を叩き付けるライ。それによって周りの全員が落ちるよりも前に大地へ落下し、大きな粉塵と共にクレーターを形成した。


「ハッハ。やるじゃねえか全員がな! んじゃ、俺も魅せるか……!」

態々(わざわざ)乗る必要も無いじゃろうに」


 周りの様子を見やり、楽しそうにスサノオは自分も何かしようと周りに漂う土塊を足場に飛び交い、残像を残しつつ移動。刹那にぬらりひょんの背後へと回り込み、天羽々斬(あめのはばきり)を薙いだ。


「結局普通に仕掛けるのかの。先程の動きは無駄な動きじゃな」


「言っただろ? 魅せるってな。余計な動きを付ける事で何か凄い事してる感が出るだろ?」


「適当な者じゃ」


 薙いだ天羽々斬は受け止めたぬらりひょんだが弾かれるように近くの土塊に激突した。

 そのまま山本五郎左衛門に続いて全員が落下し、自分の相手に構えるよう向き直った。


「結局大天狗は大地を浮かせただけか。まだ直接手出しはしないのか?」


『フッ、それならわらわが参加させてやろう!』


 大天狗は大地を浮かせただけで何もしなかった。それに気に掛けるライを他所に、九尾が上空の大天狗目掛けて妖力の塊を放つ。妖力の塊は勢いよく飛び行き、着弾と同時に破裂した。


『フン、他愛無い。まさかこの程度では無かろう。さっさと仕掛けて来ぬか戯け者め!』


『やれやれ。キツイ存在だな。性格も良くない。ぬらりひょんの能力とは言え、一時的にこんな者と仲間だったとはな。だが、一連の流れで力の差は理解した。全員本気では無いのだろうがな』


 黒煙の中から無傷の大天狗は姿を現し、空中での戦いを見た感想を述べる。

 地上での戦いは既に上空から眺めていた。故に唐突に空中に投げ出された時の対応を確認したと言った感じだろう。それによって理解した大天狗は降り立ち、ライたちに視線を向ける。


『しかし、まあ参加するとは自分で言ったからな。此処から本格的に動き出すとするか。戦う相手は自分自身で決めているようだが、皆で潰し合うのが手っ取り早いだろう』


「「……」」

「「……!」」

『『……』』

「フム……」

「ハハ。確かにそうかもな」


 その言葉と同時に更なる緊張が走り、自然とレイ、フォンセはライの側に近寄る。大天狗が望むは一対一サシの戦いではなく、全員による攻防戦。それは確かに手っ取り早いだろうとライたちは構え直した。

 ライ、レイ、フォンセ、スサノオの織り成すぬらりひょん、山本五郎左衛門、大天狗、九尾の狐、酒呑童子との戦闘は味方同士のライたち以外、全員が敵の状態で続くのだった。

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