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八百六十一話 参戦

『女剣士……何やら思うところがある存在よ。主の力、見せてみろ!』


 それだけ告げ、酒呑童子しゅてんどうじは踏み込んで駆け出した。


「……。やっぱり記憶を失っていても根本的な性格は変わらないんだね……!」


『ハッ!』


 酒呑童子の動向を見やり、九尾と同等本筋的な性格は変わらないのだろうと判断したレイが勇者の剣で酒呑童子の一撃を受け止めた。

 それによってレイの足元が陥没してクレーターが形成され、辺りに小さな土塊を舞い上げる。その一方では九尾も行動に移っていた。


『鬼……酒呑童子か。構わぬ。纏めて吹き飛ばしてくれよう!』

「やれやれ。酒呑童子の存在はほとんど無視か。……取り敢えず、レイの邪魔をさせないようにするか。"魔力の壁(マジカル・ウォール)"!」


 レイもフォンセも酒呑童子の存在も気にせず放った妖力の塊。それをフォンセは魔力からなる壁で防ぎ、光の爆発が周囲を飲み込む。その粉塵を切り裂くよう、レイと酒呑童子のせめぎ合いが行われていた。


「相変わらず重い……!」


『フム、我の力が強くなっているな。負った筈の傷もあまり痛みは無い……どういう訳か肉体的な力が向上している』


 酒呑童子の一撃を受け止めたレイは相変わらずの重さに怯み、当の酒呑童子は九尾と同じく自身の力に驚きの色を見せていた。

 だがレイはそんな酒呑童子に先程勝利した存在。陥没した足元のクレーターは更に広がるがレイも力を込め、酒呑童子の身体を弾くように飛ばす。


「やあ!」

『……! 我が弾かれた……!? そう言えば先程も受け止めていたな。華奢な人間の娘の何処にそんな力が……?』

「そこっ!」

『……ッ!』


 弾かれた事に驚愕する酒呑童子へ向け、一歩踏み込んで距離を詰め縦に剣を振り下ろす。それによって酒呑童子の身体へ新たな傷を付け、その巨体を怯ませた。


「やっぱり頑丈だね……! 深くは抉り込めなかった……!」


『"やっぱり"……? 主と我は初対面の筈だが、その言葉はおかしいな。……いや、おかしいのは我の方かもしれぬ。形容出来ぬ思考の違和感。主は、主らはそれを突き止めるヒントになるかもしれないな』


「どうだろうね……!」


 レイの言い回しに違和感を覚える酒呑童子。

 そう、ぬらりひょんの記憶が無い今の酒呑童子からすればレイとは初対面。なので自身を知っている様子のレイを疑問に思うのは当然である。

 レイの仲間であると分かるフォンセにも同じく違和感を覚えている様子。しかしレイは面倒なので答えず、更にけしかけた。


『フム、主らは何かを知っておるようじゃな。まあいい。構わずに攻めようぞ』


 酒呑童子の言葉を聞いた九尾もレイとフォンセの存在を気に掛けるが、本人の性格からして面倒事には関わらない。構わずに妖力の塊を放出し続けた。


「埒が明かないな。適当に大技を放つ九尾にタフな酒呑童子。我関せずな態度で空から見回る大天狗。各々(おのおの)が好き勝手に行動しているが、そうだからこそ面倒臭い」


 九尾の攻撃をいなしつつ、状況を判断してその厄介さを思案するフォンセ。

 統制は執れていないが、互いに互いの心配を微塵もしていないので本当に形振なりふり構わないその戦法がある種の型となっており、厄介さを際立てていた。


「オラァ!」

「ぬぅ……!」


「ダラァ!」

「む……!」


「「……!」」

『『……!』』

『……む?』


 ──その刹那、水田の方からライと山本さんもと五郎左衛門ごろうざえもんが。林の方からスサノオとぬらりひょんが姿を現した。

 ついでに四人の背後からは土塊と岩盤が後を追うように迫っており、それがレイたちの居る水田付近に落下して粉塵を舞い上げる。おそらく戦闘の余波で吹き飛んだ大地の欠片だろう。

 ライとスサノオは自分の相手を吹き飛ばしつつレイとフォンセの姿を確認し、少し離れた場所に降り立ち改めて視線を向ける。


「レイにフォンセ! そして九尾、酒呑童子……上空には大天狗か」


「ハッ、勢揃いじゃねえか。つか、酒呑童子の野郎復活したのかよ」


「「ライ!」」

『……。主らも我の事を知っているのか?』


 レイとフォンセを確認して一先ず安堵。その後に大天狗達の姿を見、ほんのりと警戒を高めた。

 現在の状況は不明だが、周りにある破壊痕からして戦闘で見境が無い事は分かる。熱による痕からそれが九尾の仕業という事も大凡おおよそ理解したが、だからこそ疑問だった。


「なんか、いつもと少し雰囲気が違うな。容姿は同じだけど、違和感がある」


「そうか? 俺にはアイツらの何処が変わっているのか分からねえけどな。ま、今日が初対面だから元々違いってやつに気付けねえんだけど」


 ライの感じる違和感。初対面のスサノオはそれに気付けないが、確かな違和感はあった。

 そしてスサノオと相対するぬらりひょんを見やり、その状態から推測して言葉を続ける。


「……ふうん。成る程な。見たところ九尾は見境無く攻撃を仕掛けている。そして空を飛び回る大天狗はただ見学しているだけ。酒呑童子は一見普段通りに見えるけど、爆発の痕の中にある地面の亀裂からして九尾の攻撃を受けた形跡がある。そしてスサノオに押されているぬらりひょん……。山本五郎左衛門からある程度の情報は得たし、その事から推測すると……どうやら既に百鬼夜行はぬらりひょん以外群れの形を成していないって訳か」


「お前、状況判断能力高過ぎだろ……」


 この場の状況と山本五郎左衛門から聞いた話を照らし合わせ、大凡おおよその自体を推測するライ。その鋭さに思わずスサノオはツッコミを入れるが間髪入れず吹き飛ばされていたぬらりひょんと山本五郎左衛門が立ち上がった。


「やはり全ての術が解けたてしもうたか。完全に記憶が無くなっておるからおそらくワシに危害は加えぬかもしれぬが、敵しかおらぬこの状況……どちらにせよ儂が不利じゃな」


「……。お主がぬらりひょんか。御初に御目に掛かる。拙者、山本五郎左衛門と申しそうろう。率直に言うが、お主の群れ、拙者が貰い受ける」


「初対面で失礼な奴じゃな。だが、既に百鬼夜行は儂の群れではない。お主の力を持ってして従えるしか選択肢は無いぞ」


 ライとスサノオの事は一旦置いておき、二人は互いについて話し合う。と言っても山本五郎左衛門がぬらりひょんに対する宣戦布告をしただけだが、既に百鬼のおさではないぬらりひょんは軽く流し、大天狗達に視線を向けた。


「まあ、記憶があっても無くとも一筋縄では行かんだろうがの。儂の元最高幹部たちは今現在主が圧倒されとるライに、主よりも食い下がったからの」


「フッ、だからこそ引き抜き甲斐があるという訳で御座るよ」


 食い下がったのはあくまで少し前のライに対してだが、ぬらりひょんはそれを言わなかった。

 そもそもぬらりひょんはライの実力が以前とは比べ物にならない程に上昇している事を知っているのかは分からないが、ぬらりひょん程の者なら大凡おおよその気配から理解しているのかもしれない。何はともあれ、ライ、スサノオ、ぬらりひょん、山本五郎左衛門がこの場に現れ、レイたちと大天狗達の視線が集中する。


『あの者達は……会話を聞く限り大物の集いのようだな。ぬらりひょんに山本五郎左衛門の妖怪達。そして神である須佐之男命スサノオミコト。そんな神と対等に話す少年……』


 遠くの会話もはっきりと聞こえる仙術をもちいて聞き耳を立て、ライたちの様子を上空から窺う大天狗。

 出てきた名だけでも大きなモノであるが、大天狗は更に呟く。


『そうなると彼らは知り合い……ぬらりひょん、山本五郎左衛門、スサノオ。ライと呼ばれた少年……ライとスサノオは味方同士。ぬらりひょん、山本五郎左衛門は全員と敵という感覚か。そして記憶……ぬらりひょんによる何らかの力によって私や九尾達の記憶が消えた……ぬらりひょんの言葉からして、私達は部下だったという事か?』


 大天狗は出てきた情報を纏め、自分なりに立場などを考える。それによって互いの関係性がある程度見えてきたと言った様子だった。

 大天狗の予想は殆どが当たっている。それならばと、大天狗はぬらりひょんの元に降り立った。


『ぬらりひょん殿とお見受けする。私の名は知っているだろうが大天狗。単刀直入に聞きたいのだが、ぬらりひょん殿と私は仲間だった。もしくは主従関係だった……と考えて良いか?』


 小さな砂埃を立てて降り立ち、その瞬間にぬらりひょんと自分の関係を訊ねた。

 推測だけで大凡おおよその事は理解したみたいだが、最終的な確認を取っているのだろう。ぬらりひょんは言葉を続ける。


「そうじゃな。ワシが総大将。そして主ら三大妖怪は部下じゃった。が、厳密に言えば信頼のある関係とは違う。儂の能力によって主らは儂を総大将と認識していただけじゃからの」


『能力? 成る程。他人の家に上がり込み、主と思わせる伝承からなる力か。それによって私達を部下にしていたという訳か。しかし包み隠さず話すとは。意外だな』


「そうじゃな。それと、隠していても理由を追求されたら言い訳をするのが面倒じゃ。故に全てを話した。元より主に下手な言い訳は意味が無いのも分かっておるからな」


 大天狗の言葉に隠し事はせず、そのまま概要を話す。隠し通して味方に引き入れる事も出来そうだったが、大天狗の能力と性格を知っているからこそ隠しても無駄と判断したようだ。

 それを聞いた大天狗は更に続ける。


『フム、隠し事をしないのは好感が持てるな。しかし話を聞くに協力する義理は無いようだ。嘘を交えて誤魔化していたら敵と見なしていたが、今回は見逃すとするか』


「そうか。それは有り難いが、儂にも戦っている相手がおるからの。して、主は他の者達のように参戦するのか?」


『そうだな。ある程度は理解したが、まだ至らぬ点は多い。私もそろそろこの戦争に参戦してみるとするか』


 それだけ告げ、大天狗は妖力を込めて刀と扇を構え直した。

 分析の為に様子だけを見ていたようだが、ある程度分かったからこそ今度は実力を見てみるらしい。どういう理屈でそうなったのかは分からないが、完全に記憶を取り戻す為と考えるのが妥当だろう。


「さて、話は終わったか? 一応待っていたけど、謎はほとんど解けたみたいだな」

態々(わざわざ)待ってくれるとはの。律儀なものじゃ。スサノオも山本五郎左衛門も、女剣士に女魔術師も九尾も酒呑童子も大人しく待っておったか」


『ああ。お陰で我が何者だったのか、ある程度は理解した』

『そうじゃな。しかし今のわらわは自由の身。この自由を満喫するだけじゃ』


「私たちも色々知っておきたかったからね。都合が良かったよ」

「ああ。お陰で記憶喪失の理由も分かった。まあ、だからどうしたという訳ではないがな」


 ぬらりひょんと大天狗の会話はライたちにとっても興味深いもの。なので終わりを確認した瞬間にライたちは改めて向かい合った。

 レイとフォンセが戦っていた九尾の狐と酒呑童子。そこにライとスサノオ、ぬらりひょんに山本五郎左衛門、そして大天狗が加わった。一部を除いて戦う理由の無い戦闘は、本人たちの気紛れで続行されるのだった。

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