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八百五十九話 能力

「これが拙者の……全力だ!」

「……!」


 妖力を高め、全身に力を込めた山本五郎左衛門が叫びながら肉迫する。その片手には刀が握られており、刀も妖力によって大きく強化されていた。

 刀幅は一メートル程。しかし妖力によって強化されているので一振りで広範囲を切り裂ける力を秘めている事だろう。


「よっと」

「……!」


 次の瞬間、振り下ろされた刀をかわしたライが回り込んで腹部に膝蹴りを打ち付け、山本五郎左衛門の動きを止めた。


「そら!」

「……ッ!」


 それと同時に回し蹴りを放ち、大地の方へと叩き付けるように食らわせる。正面に飛ばしてはまた此処まで引き戻すのが手間。なので地面に叩き付ける事でダメージを与えつつそこまで距離を離さないやり方を形成させていた。

 叩き付けられた山本五郎左衛門を中心に地面が陥没して大地が浮き上がり、土塊が辺りに散る。そこから山本五郎左衛門は姿を現した。


「まさか全力を出しても軽くあしらわれるとはな……!」


「頑丈な奴だな。確かにさっきよりは格段に強くなっているや」


「軽くあしらわれると言っている矢先に称賛か。嫌味な者で御座るな……!」


「おっと、気に障ったなら謝るよ。一応純粋な称賛だったつもりだ」


 穴の底から即座に飛び出した山本五郎左衛門はライの言葉に少し腹立てており、刹那に刀を突き刺した。それをライは紙一重で避け、誤解の無いように訂正を加える。

 実際、山本五郎左衛門の能力は上昇している。それは確かな事であり、間違いはない。なのでライは純粋な称賛だったのだが、状況からして嫌味に聞こえたのだろう。


「構わん。今から仕掛けるのだからな……!」

「そうか。それは良い」


 謝罪は要らないとライに向けて返し、山本五郎左衛門は一気に刀を振り抜き横に薙ぐ。互いの距離は既に近い。故にこの一撃は確かにライを狙った。のだが、ライはもう一度(かわ)してそのまま流れるように回し蹴りを打ち付けた。


「……ッ! やはり主には当たらず、拙者には当たるか……!」


「そんな運みたいに当たる当たらないの問題じゃないさ。俺の意思で避けているんだからな」


「くっ……!」


 自分の攻撃が当たらない事を歯噛みする山本五郎左衛門に余裕のある面持ちで返すライ。

 そう、別に山本五郎左衛門の実力が無い訳でも運が無い訳でもない。純粋なライとの実力差である。言葉を返したライは即座に裏拳を放ち、その身体を弾き飛ばした。全力を出したにもかかわらず圧倒される自分自身に対して苛立つ山本五郎左衛門は吹き飛ばされながらも着地して向き直り、ライに構える。


「だが、拙者の実力はまだまだこんなものでは御座らぬ……! しかと見届けよ、拙者の実力を……!」


「ああ、分かったよ。じゃ、見届けるとしようかな」


 再び妖力と力を込め、ライに向き直る山本五郎左衛門。ライと魔王を謳われる存在の戦闘は依然として続く。



*****



「何処だ、総大将!」


 その一方で、未だに姿が消えたままのぬらりひょんを探してスサノオは辺りを奔走していた。

 自分の街なので無闇な破壊はしておらず、その足でじっくりと探している様子だ。


「……。そう言や、ぬらりひょんは他人に自分を主って思わせる力があるんだっけか。もう既に見過ごしている可能性もあるな。今は俺一人で行動しているのは変わらねえから俺の近くに居ないのは確かみてえだがな」


 探しつつ、ぬらりひょんの行動を推測するスサノオ。言葉の語彙力は無いが頭はそれなりに回る。なのでぬらりひょんの動向を思案しつつ可能性のある場所に向かっていた。


「となると林の中が怪しいな。人や妖怪は少なく、隠れる場所は多い。隠れる為だけに存在しているような場所だ」


 そうなると、本人が言うように林の中が一番最適な場所である。戦場となっているのは"ヒノモト"全域だが、最も熾烈しれつな争いが行われているのは主力たちの集う水田付近。そこから近く、人通りも少ない事を考えれば林の中に居ると考えるのが最も妥当だろう。


「……。だろ? ぬらりひょん」


「フム、見つかってしまったか。折角身を潜めていたのだがの」


 しばらく進んだ先にて、スサノオは木陰でくつろぐように座っているぬらりひょんに向けて話し掛けた。

 刀を脇に置いており、戦意の有無は不明。しかし戦う準備は出来ている様子である。

 スサノオはそんなぬらりひょんに向けて訊ねるように話す。


「身を潜めていた……ねえ? ー事はなんだ。もう戦うつもりは無いって事か?」


「いや、そう言う訳ではないのじゃがの。しかし、戦うつもりが無いとも取れるのは確かじゃ。ワシにも少し事情があるのでな」


「ふうん? 事情ね。それは知らねえから俺には関係無いって事で……取り敢えず仕掛けるぞ!」


「聞く耳無しか」


 ぬらりひょんの事情はスサノオに関係無い。本人の性格が自由なのでそうなる事を予想していたぬらりひょんは立ち上がって刀を構える。

 立ち上がっている間に仕掛けなかったのはスサノオの優しさなのかもしれない。対するスサノオは天羽々斬(あめのはばきり)を構え、ぬらりひょんから距離を置いて向き直った。


「もう余計な御託は要らねえよな?」

はなからそのつもりじゃろうに」


 向き直った瞬間にスサノオは踏み込み、天羽々斬を突き立てる。呆れているような口振りのぬらりひょんは剣尖を受け流すように刀でいなし、スサノオの懐に迫って刀を振り上げる。それをスサノオは仰け反ってかわし、ぬらりひょんに足を掛けて動きを止めた。

 バランスの崩れたぬらりひょんは倒れ込み、そこに天羽々斬が迫ったがそれを飛び退くように避け、立ち上がると同時に刀を槍のように放り投げた。


「刀で投擲とうてきか。ま、本来の用途と少し違うだけでおかしくはねえな!」


 その刀は紙一重で避け、背後の木に突き刺さる。避けたスサノオは片手に天羽々斬を携えて斬り込む。刹那にあらゆる方向から剣尖を仕掛けたがぬらりひょんはぬらりくらりと揺れるように動いて連撃を躱し、背後の木に刺さった刀を抜いて再び構え直した。


「実力にはやはり差があるの。これだから前線を離れておったと言うのに」


「ハッ、それだけが理由じゃねえだろ。お前の様子を見てりゃ、それくらい分かる」


「……。……ほう?」


 構えると同時にその実力差について言及するぬらりひょんだが、スサノオの返答した言葉にピクリと反応を示して動きを止める。

 その隙を突いてスサノオは天羽々斬を薙いだが今まで通りかわされた。しかしそのまま言葉を続ける。


ずお前の使える相手に自身を主と思わせる能力だが、対策をされているとは言えあまりにも使わな過ぎるのが疑問だった」


「ふむ」


 先ずスサノオが気に掛けたのはぬらりひょんの持つ自分の存在を主と思い込ませる能力について。剣と刀によるせめぎ合いを織り成しながらスサノオは続く。


「その力がありゃ、相手を翻弄ほんろうするだけじゃなく様々な使い道がある。お前が百鬼夜行を作った時みたいにな」


「そこは気付いておったか」


「当たり前だ。大天狗は兎も角、酒呑童子や九尾は自分勝手な存在だからな」


 指摘したのはぬらりひょんが積極的に能力を使わないのはおかしいとの事。更に続けるよう具体的な事を話す。


「取り敢えず、俺と出会った瞬間にその力を使っていたら簡単に不意を突けた。敢えて使わなかったかもしれねえが、今回は"それ"が理由で使わなかったていで話す。俺と出会ったその瞬間に力を使わなかった事からして──お前の(・・・)力が(・・)弱っている(・・・・・)って考えるのが自然か」


 それは、ぬらりひょんの能力が薄れているという事。

 山本五郎左衛門達はどうやってかその情報を掴んでいたが、少ないヒントで此処まで推測したスサノオは流石だろう。所々抜けている一面も見せるが、やはり知能は高いようだ。基本的に直感で動く為にその知能を御披露目する機会が無いと考えるのが妥当だろう。


「フム、そうじゃな。だから姿を隠し、少なくとも今回の戦いが終わるまでは百鬼夜行を継続させたかった」


「そりゃ残念だったな。俺にも義務がある。悪いが、百鬼夜行は今日で解散だ」


「ゆくゆくはそうなるかもしれんの。だが、今そうなるとワシが危うい。まあその気になれば逃げられるが、まだ百鬼夜行を継続出来ている今は逃げる必要も無かろう。また隠れるのも良いが、どうせ直ぐに見つかる。……やはり戦わざるを得ないか」


 ぬらりひょんは刀を構え直し、腹をくくってスサノオに向き直った。その様子を見ると戦いによってぬらりひょんの能力の効果が薄まる事もあるのだろう。

 だがスサノオにとってそれは好都合。百鬼の敵を減らせるのだから当然だ。ぬらりひょんの様子を窺い、スサノオも構え直した。


「そう言う事だ。俺に見つかった時点で逃げ場は封じたも同然。さっさと終わらせて貰うぜ!」


「それは困るの」


 ある程度戦ったがそれはあくまで様子見。だからこそ現在のぬらりひょんがどの様な状況にあるのかも分かったのだ。

 それだけ告げ、スサノオは今一度ぬらりひょんの眼前に迫り行く。


「そらっ!」

「……!」


 スサノオが天羽々斬(あめのはばきり)を振るい、それをぬらりひょんは受け止めずにかわす。そのまま回り込み、スサノオの首元に刀を掛けた。が、刹那にスサノオは天羽々斬でその刀を弾き、柄をもちいてぬらりひょんの腹部を打ち付け、そのまま剣を横に薙いで吹き飛ばした。


「オラァ!」

「……ッ! 斬られなかったのは幸いかもしれんの……!」


 吹き飛んだ理由は何とか鞘で天羽々斬の一撃を防いだから。しかし確かなダメージは入ったらしく、口から空気が漏れて少し咳き込む。その隙を逃すスサノオではなく、そのままぬらりひょんに向けて肉迫した。


「まだまだァ!」

「ぬぅ……!」


 そして、ぬらりひょんの身体に確かな一撃が入った。

 天羽々斬による縦斬り。それを受けて肩から切断したのだ。

 しかし肩と胴体が離れた訳ではない。流石に直撃は避けたのか、少し深く抉る程度のダメージで抑えていた。妖力も漏れており、後一撃でも入れれば影響が出てくる筈だ。


「見たところ後数撃か。このまま続くぞ!」

「させぬ……!」


 互いに迫り、天羽々斬と刀が正面から衝突する。だが肩の傷が痛むのか押し負け、スサノオはその身体に蹴りを打ち付けた。

 蹴られたぬらりひょんは仰け反り、そこに向けて再び天羽々斬が振り下ろされる。


「……ッ!」


「ハッ、どうやらダメージで動きがにぶっているみてえだな。そりゃそうか。見たところ既に戦ったような疲労もあるし、俺の前に斉天大聖辺りとり合ったと考えるのが妥当だ」


「……ううむ……ちとマズイの。これは困った」


 身体から漏れる妖力。流石に動けなくなる程ではないが、ぬらりひょんは冷や汗を掻く。それはおそらく痛みと焦りによる両方からなる冷や汗だろう。

 そしてその影響は、早速出始めていた。



*****



『『…………!?』』

「「……?」」


 先ず影響が現れたのは、百鬼夜行の最高幹部大天狗と九尾の狐の一人と一匹。レイとフォンセとの戦闘途中、突然停止した彼らを見やり、二人は訝しげな表情を浮かべる。

 そんな二人を余所に、一人と一匹の意識は徐々に別の場所へと向かっていた。


『私は何を……一体何故"ヒノモト"の水田付近に居る? 山で過ごしていた筈だが……』


『……! わらわは一体……。……!? いつの間にか身体が戻っておるぞ……! フフ……ホホホ……とうとう忌まわしき呪いから漸く解放された! ……と見ても良さそうじゃが、何故こんな場所に?』


 一人と一匹のぬらりひょんに出会う以前の一番古い記憶が呼び覚まされ、大天狗と九尾の狐は困惑半分で辺りを見渡す。

 そして互いは互いの姿を捉えた。


『む? お主……狐か。いや、九つの尾があるな。そうすると過去に封印された筈の九尾の狐、玉藻たまもまえか』


『誰じゃ、馴れ馴れしい。……む? その扇に烏のような羽。フム、天狗か。しかしその鼻。他の天狗共よりも圧倒的に高いの。さしずめ大天狗と言ったところか』


 一人と一匹は互いの存在を伝承程度の範囲では覚えているようだが、まるで初対面のように話す。

 その様子からするに出会ってからこれまでの記憶が抜け落ちているのだろう。ぬらりひょんと出会った事で共に行動するようになった大天狗と九尾の狐。当然と言えば当然だ。

 対し、その光景を見ていたレイとフォンセは警戒は緩めないが小首を傾げていた。


「あの様子……まるで今までの事を全て忘れているみたい……」

「……。ふふ、まさにその通りかもしれないな。敵である私たちの事など眼中に無いと言った雰囲気だ」


 普段なら何かの作戦かと警戒の一つもするが、今回は勝手が違う。本当に全てを忘れているようである。

 なので試しにフォンセは一人と一匹に向けて訊ねた。


「オイ、お前達。私たちの事は覚えているか?」


『『……!』』


 その言葉に一人と一匹はピクリと反応を示し、怪訝そうな表情でレイとフォンセに視線を向ける。そして口が開かれた。


『『誰だ? お主ら?』』

「決まりだな」


 これにてレイとフォンセに大天狗、九尾の狐と戦う理由は無くなった。一人と一匹は困惑しているが、上手く言い訳すればこの場は文字通り退かせる事も出来るかもしれない。

 ライと全力の山本五郎左衛門が戦闘を織り成す中、スサノオによってぬらりひょんの術は解かれた。それはまだ大天狗、九尾の狐を始めとした一部だけであるが、今度こそ本当に収束へ向かうかも知れない。

 "ヒノモト"にて行われている戦闘。それは終着にまた近付くのだった。

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