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八百五十八話 目的

「お主……その禍々しき気配……!」

「ああ。まあ、何かは分からないんだろうけど、簡単に説明するなら……少し危険な存在だな」

「……!?」


 魔王の力を纏った瞬間にライは加速し、山本五郎左衛門が反応出来ぬ速度でその顔を打ち抜いた。

 流石の強度。山本五郎左衛門の頭は吹き飛ばなかったがその身体は吹き飛び、次の刹那には吹き飛ぶ山本五郎左衛門の上から拳を打ち付けたライによって"ヒノモト"の街が大きく揺れ、広範囲のクレーターが形成された。


「範囲を抑えてもこれくらいは陥没するか。やっぱり街中じゃ扱いにくいな」


「力を抑えた状態でこの威力か……いや、範囲を抑えただけで威力はそのままと考えれば妥当かもしれぬ……!」


 クレーターの底でライは自分の力加減について悩んでおり、吐血した山本五郎左衛門が起き上がって距離を置いていた。

 範囲を抑えたつもりだったが、山本五郎左衛門を倒すつもりの一撃だけで半径数百メートル程のクレーターが形成される。これでは幾ら大地があっても足りないだろう。本気なら宇宙があっても足りない程の破壊力。それも仕方のない事である。


「やっぱり普通に生身で攻めるか……それとも場所を変えるか」


「……!」


 それだけ呟き、山本五郎左衛門の懐に攻め込んだライは拳を腹部に叩き付けて打ち上げ、場所を空中に移動させた。

 空中でもある程度の余波は及ぶが、地上で戦うよりはずっといい。衝撃波も宇宙に逃がせば近隣の星や砕ける程度の被害で済む事だろう。


「アンタは飛べないのか?」

「無論だ……!」


 それなら風魔術などを使う必要もない。ライは跳躍だけで山本五郎左衛門の眼前に迫り、下方から一気に蹴りを放った。それと同時に更に上空へと舞い上げ、空気を蹴って移動。そのまま上から拳を打ち付け、上空から大地へと打ち落とした。

 山本五郎左衛門はそのまま勢いよく落下し、より一層大きな粉塵を舞い上げる。


「まあ、結局はこうなるよな。場所を変えても周りには被害が及んでしまうな……」


「それを考えるのは別に構わぬが……拙者を痛め付けながら考えるのはして欲しいもので御座るな……」


 粉塵の近くにライは降り立ち、空中に移動しても結局は下方を粉砕してしまう事を気に掛ける。

 何度も攻撃を受け、既に満身創痍の山本五郎左衛門は呆れるように話しており、それでも立ち上がって構え直す。


「しかし、手加減してくれているのは本当のようだ。本来なら拙者を一撃で打ち倒す力は有しているだろうに。情けでも掛けているのか?」


「いや、そうじゃないな。色々と話を聞きたいから生かしているけど……それじゃ確かに手を抜く理由にはならないな。一撃で意識を奪えるならそうした方が良いに決まっている……。うん。アンタとさっき戦った時に、アンタが言っていたように意図的に逃がす行為と近いのかもしれないな。本気を出せば簡単に勝てる相手にもかかわらず、もしかしたら俺も知らないうちに手を抜いているのかもしれない」


 ライの宿すヴェリテ・エラトマのみならず、ありとあらゆる魔王の伝承には本気を出せば簡単に勝てる相手にも手を抜いて対等のように戦う事がある。その理由は様々だが、ライはそんな魔王の総称のような力を有しているからこそ、意図せずに相手を逃がす。意図せずに手を抜いてしまっているのかもしれない。

 それはマズイと分かっているのだが、魔王を宿す事の宿命とも言えるのか本当に無意識下で手を抜いている可能性があった。


「手を抜かれているとしたら腹立たしいが、手を抜いている状態で拙者を圧倒するか。それも腹立たしい事で御座るな。自分の力に……!」


「そうか。まあ、その気持ちも分かる。けど、アンタって一応魔王なんだよな? なんか魔王っぽくないって言うか何て言うか」


 ライが手を抜いているかもしれない。それが不本意な事は理解しているので激昂する事は無い山本五郎左衛門だが、やはり思うところはあるらしい。

 しかしライはそんな山本五郎左衛門を見やり、魔王と謳われているのにもかかわらず魔王っぽくない事を気に掛けていた。対する山本五郎左衛門は笑って言葉を返す。


「フッ、本性というものはあまり他人に見せるものでは無いで御座ろう。一応今回は目的もあって来ているのだからな。此処で止まる訳にはいかぬ。手を抜いているなら好都合。その隙を突くだけだ……!」


「ふうん? ま、別にいいけどさ」


 返した瞬間に刀を薙ぎ払い、広範囲に斬撃を飛ばす。ライは自分に降り掛かる部分は砕いたがその余波が水田を進み周囲の木々が斬り倒された。

 そんな斬撃を砕いたライは一歩踏み込み、山本五郎左衛門の眼前に迫る。同時に回し蹴りを放ち、山本五郎左衛門はそれを刀で受け止めた。が、やはり次の瞬間には吹き飛ばされ、斬り倒した木々を貫いて進む。


「やはり相手にもならないか。このままでは目的が達成されないな」


「目的ね。アンタはいずれ分かるって言ってたけど、そろそろ話してくれても良いんじゃないか? このままじゃ目的の前に全てが終わるぞ?」


 山本五郎左衛門の目的。いつも通り既に側へと来ていたライはそれを訊ねた。

 いずれ分かると言っていたが、一向にその気配が無い。捕らえてからゆっくりと聞き出すのも良いが、それなら今聞いても同じだろう。

 山本五郎左衛門は少し考えた後、言葉を続ける。


「……。そうで御座るな。ならば教えておくとするか。別に教えたところで損は無い」


 どうやら教えてくれるらしい。

 それれ百鬼夜行の部下妖怪達は既に知っている事だが、ライを初めとした百鬼夜行を含めての主力達は知らない事。山本五郎左衛門は口を開く。



*****



「はあ!」

『フッ……!』


 レイが勇者の剣を振るい、大天狗が妖力によって強化された刀でそれを受ける。刹那にせめぎ合いが織り成され、斬撃が周囲を飛び交う。

 剣と刀がぶつかり合い、火花が散って周囲が切り崩れる。突き、薙ぎ払い、斬り下がり、迫って振り下ろし。互いに同じような動き、しかし目にも止まらぬ速度によって織り成される戦闘。


「そう言えば、酒呑童子に聞いても話さなかったけど、何でアナタ達は今回来たの? 目的があるのは分かるけど、態々(わざわざ)一度離れた自分の故郷に攻め込むなんて……」


『さあな。総大将が言うに後悔のないようにとの事。理由は総大将のみぞ知る』


 せめぎ合いの合間にレイは目的を訊ねるが、どうやら大天狗も知らないらしい。しかし後悔の無いような事を心掛けている事から、何時もより本気ではあるという事が窺えられた。


「"ウィンド"!」

『小賢しい……!』


 レイて大天狗の一方でフォンセと九尾もせめぎ合っており、フォンセが風魔術。九尾が妖力の塊で牽制し合い、辺りに大きな粉塵が舞い上がった。

 レイと大天狗。フォンセと九尾の狐。三人と一匹による戦闘はより激化し、互いの距離が互いの攻撃で離されて味方同士で背中合わせになった。


「やっぱり目的は分からないね。戦う事は確かなんだけど、雰囲気が違う……」


「ああ。その様だな。手法は変わらぬが、何時ものような余裕はあまり感じられない。いや、冷静ではあるのだがな」


 レイとフォンセの二人は大天狗と九尾の様子が依然として疑問のままだった。

 と言うのも、何処かは分からないが以前までの大天狗や九尾とは違うように感じているのだ。確かに"世界樹ユグドラシル"以来久々の再会だが、こうも印象が変わるモノなのだろうか。


『そう言えばわらわたちは、何故戦っておるんじゃろうな。あの者達の会話が聞こえたが……』


『何を言っている。それは当然……。……、……ああ、総大将が目的とする事柄の為だろう』


『……! そうじゃった。姿を消したままだからか、総大将の存在を忘れ掛けておったぞ』


『普通忘れるか……とは言いにくいな。私も一瞬思考から溢れ落ちた』


 そしてレイとフォンセの一方でそんな一人と一匹も疑問が残っているような雰囲気であった。

 一瞬一人と一匹は何かを忘れ、即座に思い出したかのような素振りを見せる。それに対してレイとフォンセの二人は相手に聞こえぬような声音で話す。


「……。何か様子がおかしいね。やっぱり。自分達のリーダーを忘れ掛けるなんて……」

「確かにそうだな。いや、元々勝手にあるじと思わせているだけらしいが……それでも忘れるのは違和感しかない」


 それは当然の疑問だった。

 新入りとかならばまだしも最高幹部の大天狗と九尾が"何か"──ぬらりひょんの存在を忘れるのは不自然。ぬらりひょんは既に最高幹部達を術中に掛けているので忘れる筈が無いからだ。

 だが大天狗と九尾はそれに対してこれ以上言及せず、二人に向けて再び迫った。


『思考に何かもやが掛かったような感覚だが……構わず仕掛ける……!』


『うむ。モヤモヤする時は好き勝手に暴れ、それを取り払うのが一番じゃ!』


「来たね……!」

「私たちも話している暇は無いか……!」


 何らかの違和感は感じているようだが、それでも一人と一匹は攻め立てる。レイとフォンセはそれに構え、勇者の剣と魔術で対抗した。

 レイ、フォンセと大天狗、九尾の狐。違和感の残る三人と一匹の戦闘は続く。



*****



「……。成る程な。ぬらりひょんの能力がね」


「そう言う事だ。故に、拙者たちはこれを機会に百鬼夜行を乗っ取ろうと考えている」


 戦闘が続く中、山本五郎左衛門が目的を聞き終えたライは訝しげなな表情をしていた。

 山本五郎左衛門が百鬼夜行を乗っ取る事は理解した。問題はその百鬼夜行の、ぬらりひょんの力についてだ。


「まさか、ぬらりひょんの相手に自身を主と思い込ませている力が弱っているなんてな。数千年も掛け続けたんだから、当然と言えば当然かもな」


 ──そう、ぬらりひょんの本筋とも言える自分の事を主と思い込ませる力が弱っているという事についてである。

 山本五郎左衛門がライに話した内容はぬらりひょんの力が弱まっている今、百鬼夜行の者達が次第に正気に戻りつつある隙を狙ってそのまま自分のモノにしようという事。何処からその情報を掴んだのかは不明だが、実際に行動に移っている事からして本当なのかもしれない。

 ぬらりひょんの百鬼夜行は数百年から数千年近くの時の中に顕在している。力が弱まる事があっても何ら不思議ではなかった。


「けど意外だったよ。アンタ程の奴なら力尽くにしても、もう少し正々堂々としているのかと思った。いや、まあ実際正面からぶつかっているんだけどな。能力が切れる前に挑むと思っていた……って事だな」


「フッ、確かに拙者もそれを考えたが、正面から攻めるだけでは天下を取れぬからな。時にはプライドを捨てる必要もある」


「天下って何の話だよ。……まあ、要するに世界征服みたいなもんか」


 ライは山本五郎左衛門なら正面から玉砕覚悟で挑むと思っていたが、どうやら真っ直ぐに進むだけではないらしい。天下を取るというのがどういう事かは分かり兼ねるが、ライは取り敢えず世界征服みたいなものだろうと判断する。

 仮にそれが目的なら確かに挑み続けるだけでは意味がない。その点はライも理解しているので特に言及はしなかった。


「それで、百鬼夜行を乗っ取るだけで何とかなると考えているのか? 現状を見ても無理そうだけどな」


「無論、その点はちゃんと考えているで御座る。最近はちまたを騒がせている侵略者組織があるらしいからな。そこに協定を持ち掛け、天下を取る」


「あー……前にも似たような事があったな……そうか、ヴァイス達の存在はこう言った者達にとっては良い存在なのか」


 考えている事はほぼ百鬼夜行と同じ様子だった。しかし山本五郎左衛門達が加われば確かに少しは変わる可能性もある。だが大きな影響は無さそうだ。

 後半の部分は山本五郎左衛門に聞こえないように話したのでヴァイス達との関係について指摘される事は無いだろう。


「まあいいや。取り敢えずアンタらの目的は分かった。けど、この場でやられたら同じ事。天下は取らせないさ(俺が世界を征服するからな)」


「フン、面白い。どちらにしてもぶつかる壁。此処からは本気を出す……!」


「へえ。まだ本気じゃなかったのか」

「ああ……!」


 ライの言葉に返し、山本五郎左衛門は妖力を高める。ライは依然として魔王の一割未満の力で構え直し、向き合った。

 山本五郎左衛門達の目的は分かった。百鬼夜行がどうなってもライには関係の無い事だが、面倒事が増えるのは変わらなさそうなのでその芽は摘む事にした。

 ライたちと山本五郎左衛門達の戦闘。アマテラスたちや百鬼夜行も依然として争っており、この戦いは続くのだった。

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