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八百五十六話 勃発

『妖怪達の群れ。それと争うのが同じ妖怪達の群れを率いる総大将にしがない妖怪の俺か』


「謙遜するでない。嫌味にしか聞こえんぞ。お主がしがない妖怪ならこの世に存在するほぼ全ての妖怪は存在価値の無いモノとなってしまう」


「囲まれているというのに余裕で御座るな。まあ、実力からして当然か」


 山本五郎左衛門とその部下の妖怪達を前に、孫悟空とぬらりひょんは余裕のある面持ちで話していた。

 実際問題、ただの妖怪は二人にとって敵ではない。山本五郎左衛門の実力はよく分からないところだが、孫悟空以下である事は三人が理解していた。


『オイ、どっちをやる?』

『神仏の斉天大聖を殺せば泊が付くが……百鬼の総大将を仕留めるのも悪くねえ』

『どちらを仕留めても利点しか無いな。クク、楽しみだ』

『食えば俺の妖力も上がるかも知れねえな』


 しかし当の妖怪達は眼中に無い事にも気付かず余裕の態度で誰を襲うか話し合っていた。だが実力が分からないからこそ恐怖も無い。ある意味幸せな者達なのかもしれない。

 そんな山本五郎左衛門の部下達は百鬼夜行の妖怪達に比べて少々品が無い。本当に無法者達を適当に集めただけの寄せ集め兵士なのだろう。妖怪達は二人に向け、血走った目でけしかける。


『どちらにせよ早い者勝ちだ! 先手は貰い受けるぜ!』

『させるか! 俺の邪魔すんなら逆にテメェを殺すぞ!』

『黙ってろテメェら! 俺に任せときゃ良いんだよこういうのは!』

『テメェが名声を得たいだけだろ!』


 ある者は刀を。ある者は斧を。ある者は鎚にある者は自身の爪や牙を。

 何はともあれ、妖怪達は様々な武器をもちいて攻め入っていた。


『ま、取り敢えず雑魚を片付けた後じゃなきゃ主力とは戦えねえか。ドサクサに紛れてぬらりひょん共々ぶっ飛ばす』


「それを本人に聞こえる位置で言うものかの。まあいい。ワシとしても二人の主力を消せるかもしれぬと考えれば悪くないからの」


『『『…………』』』


 対する孫悟空とぬらりひょんは、次の標的をお互いに定めたまま妖怪達の群れを通り過ぎ、先陣を切って仕掛けていた妖怪達の意識を刈り取った。

 そのまま山本五郎左衛門と残っている無数の妖怪達を前に、二人は一気に加速する。


『大将の首、貰ってやるよ!』

「成る程。"大将"と言う事であの者とワシの両方を指定した訳か」

『どうだろうな?』


 加速と同時に妖怪達は吹き飛ばし、孫悟空とぬらりひょんはせめぎ合いを織り成した。

 妖怪達が吹き飛んだ理由はその戦闘によって生じた余波によるモノ。二人は争いながらも妖怪達を減らして山本五郎左衛門に迫っており、次の瞬間にでも頭を取りそうな雰囲気だった。


『オラァ! そして、伸びろ如意棒!』

「……!」

「同時に狙うか」


 ぬらりひょんには拳を放ち、山本五郎左衛門には如意金箍棒にょいきんこぼうを打ち付ける。

 孫悟空にとっての敵はぬらりひょんと山本五郎左衛門の率いる妖怪達の群れ全て。なので適当に仕掛けても全く問題が無い状況にあるのだ。

 しかしぬらりひょんは拳をかわし、山本五郎左衛門は如意金箍棒にょいきんこぼうを避けた。亜光速の神珍鉄を避けられる実力は確かなものという事だろう。

 背後の妖怪達はそれによって吹き飛んでいるが主力クラスのぬらりひょん達には当たらず、くぐり抜けて孫悟空の眼前に迫った。


『テメェらで潰し合ってな!』

「「……!」」


 孫悟空は自分が狙われている事を即座に理解し、伸ばした如意金箍棒を立てて跳躍。そのまま空へと移動した。

 それと同時に妖力を込め、下方に向けて込めた妖力を放出する。


『"妖術・業火の術"!』

「そのままの名じゃな」

「その様で御座るな」

『『『ギャアアアァァァァッ!』』』


 空中から放たれた炎の妖術。それを受けた妖怪達は燃えて消え去り、ぬらりひょんと山本五郎左衛門の二人は刀を薙いで風を起こし、正面から防ぐ。

 半数近くの妖怪達はそれによって消えたがまだ残っている。近接戦は不利だと判断して矢などで仕掛けているが、あくまで牽制程度にしかならないだろう。


「フッ、部下の妖怪達はまだ居るぞ……!」

『ハッ、次から次へワラワラと。幾ら消しても湧いてくんな』

「妖怪というのはそう言うものじゃよ。主らも分かっておろう」


 半数は消したが、まだ潜んでいたのか数十体の妖怪達が姿を現す。孫悟空は如意金箍棒にょいきんこぼうに掴まりながら面倒臭そうに呟き、その言葉が聞こえていたのかぬらりひょんは達観していた。

 妖怪達には攻撃を受けていないが、増えるとなると少々面倒である。そして次の瞬間、そんな妖怪達は暴風と炎に焼き払われた。


『遅れてすまない、総大将。我らも参戦するとしよう』


『酒呑童子は何処ぞで眠っておるようじゃがな。まあ、相手が英雄神と強者つわものの剣士二人。それも仕方の無い事よ』


「ほう、来てくれたか。大天狗に玉藻たまもまえよ。百鬼夜行の者たちも連れてきてくれたようじゃな」


 無論、その存在は大天狗に九尾の狐玉藻(たまも)まえ。既にぬらりひょんの、というより別の戦場に向かっていたのだが、強い気配を感じたので水田近くのこの場に来たという事だろう。

 その後ろには百鬼の群れもおり、今にも全面戦争が行われそうな雰囲気だった。


『来てみたら……何か大変な事になっておりますね……』


『……! お、ユニコーン。俺の分身は消えたみたいだが、向こうは片付けたようだな』


『ええ。……と言っても貴方の分身が大半を担ってくれましたのですけど』


 大天狗と九尾が来た瞬間、タイミング良くユニコーンもやって来た。しかしこの場の異様な雰囲気に気圧けおされており、気が滅入っている面持ちである。

 しかしそれも当然だろう。山本五郎左衛門率いる妖怪達の群れに総大将ぬらりひょん率いる百鬼夜行。今まさにこの街で妖怪達による大戦争が行われようとしていたのだから。


『にしても壮観な眺めだな。こんな事なら沙悟浄や猪八戒を連れて来て最強妖怪決定戦でもやりゃ良かった』


『貴方はお気楽ですね……。そんな悠長な事言っていられませんでしょうに。私たちの戦力は私たちだけなのですから』


『それなら問題ねえよ。従順な兵士は俺自身が増やせるからな』


 妖怪達の群れと群れ。孫悟空はその光景を眺めながら感心しており、ユニコーンはそんな孫悟空に呆れていた。

 しかし孫悟空には分身の術もある。残りの髪の毛もまだまだ。その余裕は数の差はあまり関係無いという事の表れだ。


ー事で、"妖術・分身の術"!』


 髪の毛を数十本抜き取り、妖力混じりの息を吹き掛けて再び自身の分身を生み出す孫悟空。

 数百の妖怪達に対してたった数十人の孫悟空だが、力が劣るとは言え一つの都市の軍隊に匹敵する実力は有している。それが数十人と考えれば主力である孫悟空とユニコーンの存在からしても他の妖怪達以上の力になるかもしれない。不安要素があるとすればぬらりひょんと大天狗、九尾の狐に山本五郎左衛門くらいだろう。


『よっしゃー! 行くぜ!』

『こんな祭詞は久々だぜ!』

『ったく。同じ俺なのに明る過ぎるぜ』

『そう言うお前は冷静過ぎるじゃねえか』

『どちらにしても同じ俺だ。誰が先に消えるか勝負だ』

『やってやろうじゃねえか!』

『何故そうなる』


『……。賑やかだな。しかし自分を増やしたか。まあ構わない。他の者たちは分からないが、私たちなら分身の一つくらいは大した事無い』


『そうじゃな。まあ、面倒なのは変わらぬがの』


 増えた瞬間、分身の孫悟空たちは即座に主力や兵士達の元に向かって加速した。大天狗と九尾は悠然とたたずんでおり、迫り来る孫悟空たちを意に介していなかった。

 その間にも孫悟空たちは雨のように降り注ぎ、妖怪達を次々と打ち倒して行く。


「行動は迅速で御座るな。拙者も行くか」

『『『オラァ!』』』

「確かに本物よりは劣るようで御座る。本物と相対した事は無いが」


 このままでは部下の妖怪達が倒されて行くばかり。部下を大事にしているのかどうかは分からないが取り敢えず兵を減らさぬ為にも山本五郎左衛門は孫悟空の分身たちに向き直った。

 同時に孫悟空たちは拳を振り下ろし、山本五郎左衛門は刀を薙いでそんな孫悟空たち三人を切り捨てる。それと同時に妖力が漏れ、両断された髪の毛が現れた。


『オイオイ、頭を取りに行った奴等がやられたぜ』

『ま、ぬらりひょんにも簡単にやられてたんだ。そうそう勝てるかよ』

『山本五郎左衛門も実力は一つの軍隊を凌駕しているのは確かみてえだな』


 三人の孫悟空を簡単に打ち消した事から山本五郎左衛門の実力が一つの街に居る軍隊以上である事は確実。主力なのだから当然かもしれない。しかしそうなると、やはり主力クラスを相手にするには此方こちらも主力クラスでなくてはならないという事の証明だった。


『隙ありィィィ!』

『ねえよ、んなもん』

『……!』


 その様に話している孫悟空たちに向けて一体の妖怪が飛び掛かり、次の刹那に殴り飛ばされていた。

 分身だとしても孫悟空は孫悟空。主力クラスには本体やユニコーンが挑まなくてはならないが、逆に言えばそれ以外なら分身だけで十分という事である。


『ハァ!』

『ハッ!』

『撃てェ!』

『構えろ!』

『迎え撃て!』


 その一方で、百鬼夜行と山本五郎左衛門の部下達による戦争も行われていた。妖怪達が刀や弓矢、妖術に火縄銃などをもちいて争い合い、見る見るうちに辺りへ粉塵が舞い上がる。

 此処は水田の近くで道自体は少し狭いが近辺には林もあり、小さな山もある。正面からのぶつかり合いに奇襲、強襲、闇討ち。ありとあらゆる方法で攻める事が可能な地形だった。


『騒がしくなってきましたね……今に始まった事ではありませんけど!』

『ぐわっ!』


『そうだな。ハッ、良いじゃねえか』

『ぐへっ……!』


 様々な場所で行われている戦い。ユニコーンは妖怪を蹴り飛ばし、孫悟空は如意金箍棒にょいきんこぼうで薙ぎ払いながら敵陣に斬り込む。

 ぬらりひょん。大天狗。九尾の狐。山本五郎左衛門。孫悟空にユニコーン。激化する戦闘はより一層激しく、大きくなって行くのだった。



*****



「……。どうする? 参加するか?」

「……。どうしましょう。盛り上がっていますね……」


 ──そしてそんな戦いを物陰、厳密に言えば茂みから眺める二人──ライとアマテラスがやって来ていた。

 二人は気配などを辿りながら此処まで来たようだ。しかしそこまでは良かったのだが、状況が状況なので中々参加出来ない様子だった。

 別に突然現れても良いのだが、百鬼夜行と山本五郎左衛門達の関係も気になるところ。自分たちが参戦してさっさとこの場を終わらせてしまおうか、悩みどころである。


「……あ、ライ……!」

「姉貴じゃねえか」

「おう、どうしたンだ? お前らこんな所で……っても、まあ大方の検討は付くけどよ」


「レイ! モバーレズ!」

「スサノオ。アナタ達も来ていたのですね」


 そんな物陰のライたちに向け、少し負傷している様子のレイ、モバーレズ、スサノオが声を掛けた。

 声を掛けたと言っても三人の気配は掴める。本当に偶然通り掛かったのだろう。ライはレイたちを見てふと気に掛ける。


「その傷……見たところ刀による切り傷か。それで此処には一人の主力が居ない……となるとレイたちは酒呑童子と戦っていたんだな?」


「うん。少し怪我しちゃったけど、軽い掠り傷だから平気だよ」


「そうか? いや、けど一応応急処置はしておこう。"回復ヒール"」

「あ、ありがとう。ライ……」

「お、サンキュー」

「まあ別に要らなかったが、痛みは気になるし回復しておくか」


 気になったのはその傷。ライは即座に応急処置用の回復魔術をレイたちに使い、三人の傷を治療した。

 フォンセやリヤン程の回復力は見込めないが、時間が経過しているからか三人の傷が驚異的な回復力で治り始めており、応急処置だけで何とかなるくらいになっていたので幸いだった。


「さて、後は攻めるかどうか……」


 気になる傷は治した。故に残すは本題。孫悟空、ユニコーンに百鬼夜行と山本五郎左衛門一派。その戦いに参加するかどうかだが、


「お、ライにレイ。そしてモバーレズ、アマテラス、スサノオじゃないか」

「皆も此処に居たんだ……」


「ライ、レイ、エマ、リヤン。そしてモバーレズやアマテラスたち。集まっていたんだな」

「やはり強い気配は全員が感じていたという事か」


「エマ、フォンセ、リヤン。……へえ。皆も此処に来たんだな」

「アナタたちも此処に……ツクヨミ」

「よう、兄貴」


 ──どうやら考える必要は無さそうである。今現在、全部の主力がこの場に揃ったのだから。

 それならばとライは隠れるのを止め、立ち上がって一息吐く。そして口を開いた。


「……。んじゃ、もう攻めた方が良さそうだな。話を聞くなら捕らえてからでも良い。数百……いや、数千か。そんなに居ると全員捕らえるのは無理かもしれないけど、主力達くらいは抑えられそうだ」


 その言葉に触発され、レイたちとアマテラスたちも立ち上がった。


「そうだね。早く決着を付けよ!」

「そうだな。夜も遅い。早く終わらせるか」

「エマにとっては夜更けも関係無いんじゃないか? まあ、早く終わらせるのには賛成だがな」

「うん……」


「なら、私たちも仕掛けましょうか。早く街の平穏を取り戻したい事ですし」

「だな。ま、俺的には戦えりゃ良いんだけど」

「やれやれ。主力との戦闘の後なんだ。もう少し休みたいところだが……これを終わらせて休むとしよう」


 よって、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人とモバーレズ。アマテラス、ツクヨミ、スサノオの三人は物陰から前線へ向かう事にした。

 孫悟空たちと百鬼夜行、山本五郎左衛門一派。彼らの織り成す戦闘に、ライたち主力全員が参戦する。

 これにて"ヒノモト"の街に集っている全主力が揃うのだった。

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