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八百五十二話 リヤンvs大天狗・決着。フォンセ、月と夜の神vs九尾の狐・続行

『何の能力で来ても構わぬ。心して受けよう!』

「そう……」


 刀と扇を携えて一気に迫り、リヤンはそんな大天狗の進行を阻止するべく大地から複数の岩を生やした。

 それは比喩的な表現ではなく、本当に岩を生やしたのである。と言っても土魔術による応用。土魔術にけている者なら誰にでも造り出せる壁だ。


『これで阻止したつもりか? 舐めてないと言っていたが、随分と甘く見られたものだな』


 その壁は大天狗が斬り伏せ、一瞬にして崩壊させてリヤンの元へと迫った。


「それも作戦のうち……」

『……! 成る程、大きな岩だとは思ったが、意識をその存在に向ける為か』


 斬られた岩は砂のようになってサラサラと風に流され、大天狗の背後からは無数の剣が迫っていた。

 そう、大天狗の言うように大岩はただのカモフラージュ。大天狗が人間かどうかはて置き、人は小さな物より大きな物の方が視線で追いやすい。それ程目立つのだから当然だ。

 なのでリヤンは壁のような大岩を形成する事で大天狗の視線を逸らし、逸らさせ、既に作り出していた剣魔術からなる剣から意識を薄めたのである。


『だが……!』

「……!」


 その次の瞬間、大天狗は片手に持った扇を大きく振るい、風を巻き起こして自分の身体を空中へと舞い上げた。

 先程の剣魔術との距離から考えて、翼で飛ぶよりも既に振りかぶっていた扇の方が一瞬早い。だからこそそれをもちいる事でかわしたのだ。

 標的が居なくなった事でリヤンの放っていた剣魔術はリヤンの方に向かう。かと思いきや、リヤンは眼前に迫った剣魔術を更に操り天空へと避難した大天狗の元にけしかけた。


『まあ、これくらいで避けられるとは思っていなかった。あわよくば主にもダメージが生じるかと考えていたが、そう言う訳では無さそうだな』


 リヤンが自分の技を敵に利用されて傷を負う可能性も考えていたと言う大天狗だが、どうやらそれは淡い期待だったようだ。

 剣魔術からなる無数の剣は夜の"ヒノモト"を飛び交い、縦横無尽に動いて四方八方から大天狗を狙う。


『それなら正面から砕く他無いか。"妖術・防壁の術"!』


 そんな次の刹那、大天狗の周りに出現した円状の防壁によって囲んでいた剣魔術は砕かれ、大天狗が急降下して着地、地面に丸みを帯びた穴を空けてリヤンに迫る。

 妖力からなる防壁。それはみずからが突進すれば自身の攻撃にも影響があるのか分からないが、大天狗はそのまま防壁を纏った状態でリヤンの元に向かった。


『"妖術・防壁前進"! ハァ!』

「それ……元々あった妖術なのかな……」


 即興のような妖術を唱え、ただ真っ直ぐ突進する大天狗。リヤンはそれに対してツッコミを入れるが威力は本物。しかと構え、跳躍して避けた。


『……! 回避だと……!? 先程の構えはなんだったのだ!?』


「相手に反撃させると思わせる為のフェイク……」


 リヤンにはライのような無効化の力は無く、レイのようなあらゆるモノを切り裂く剣も無い。故に、態々(わざわざ)正面から受ける筋合いは毛頭無いのだ。

 跳躍したまま片手に力を込め、下方に向けてその力を放出した。


「全体を守っているなら……"重力ジャーディビーヤ"……!」


『……!』


 次に放ったのは魔族の国支配者の街"ラマーディ・アルド"支配者の側近ウラヌスが使う重力の災害魔術。

 別に妖力の防壁を砕けない訳ではないが、砕くのも手間。それならば防壁ごと内部の者にダメージを与えた方が効率的だろう。


『……ッ! 重力は防壁を貫く……確かにそうだな。そうでなくては私が地に足を付けているのはおかしいか……!』


 重力の影響は、例え防壁を張ったとしても及ぶ。そうでなくては自分自身が地上に居る事自体が矛盾となってしまうからだ。

 それなら自分の周りにある重力だけを残せば良いかもしれないが、防壁によって重力が弾かれるような事があればどちらにしても自分に影響が及ぶ。水より軽い球体の中に人が入ればそれが浮くように、重力が相手の場合は自分の周りだけ影響を無くす事はほぼ不可能と見て良いだろう。


『これなら術を解き、自身で攻めた方が良さそうだな……!』


 なので大天狗は防壁を解き、重力に圧されながらもリヤンの元に迫った。

 現在掛けている重力は通常の数百倍。そんな中を動けるというのは流石という他に無い。地上を動くだけならまだしも、そのまま空中に向かっているのだから大天狗の実力はかなりのものだろう。


『フッ……!』

「はあ……!」

『……っ』


 数百倍の重力の中で加速し、刀を突き立てて進む大天狗。リヤンはそれを見切ってかわし、足から風魔術を放出して蹴りを放った。

 大天狗はそれなりの速度となっているが、やはり重力の影響は大きく受けているようだ。普段なら躱せる蹴りが直撃し、そのまま大地へと落下して粉塵を舞い上げた。


「やっぱり動きにくいんだね……」

『当たり前だ。厄介な能力を使う……!』


 落下した大天狗の元に降り立ち、端整な顔で話す。リヤンの使った能力によってこうなっているので嫌味にも聞こえる言葉だが、大天狗は気にせず飛び退き距離を置いた。


「そこ……もう罠を張ってるよ……」

『……!』


 距離を置くと同時に着地する。その刹那に無数の剣が大天狗の元に降り注いでおり、反応し切れなかった大天狗はそれらに貫かれた。


「多分大丈夫だよね……。頑丈そうだし……」


『ああ。傷は負ったが、無問題だ。……しかし、成る程な。煩わしい重力を止める為にもお主に注意を向けさせ、連続した攻撃でその注意を散漫させる。私の身体が自由ではない今、連撃の後で近寄れば距離を置くと推測。その場所にあらかじめ罠を仕込んでいたか』


「よく喋るね……。けど……その通りだよ……」


 攻撃は受けた大天狗だが、その攻撃によって何をされたのか一瞬で把握する。要するに大天狗は、リヤンによって罠の方へ誘導されていたという事だ。

 ある程度の距離に魔力を散りばめていたのなら、離れている場所に魔術を出現させる事も可能。それによって大天狗が着地すると同時に発動するよう準備をしていたのだろう。魔術は何度か放っている。周りにも微量な魔力の欠片はあったという事である。


『そうなると他にも罠が仕掛けられていそうだな……。フム、もう少し楽しみたかったが、もう終わらせた方が良いかもしれぬ』


「……。そう……」


 致命傷ではないが、かなりの負傷ではある。ただの鉄から造られた刃物なら問題無い。無効化の能力は無いのでそれとは別に、そもそも通常兵器が効かない大天狗だとしても、リヤンの魔力からなる術はそれなりのダメージだろう。

 なので遊んでいる暇は無いと構え直した。


『しかし、此処で天上世界を焼き尽くす炎を放っては街が消え去ってしまうな。一応故郷。消し去りたくは無い』


「じゃあ……どうするの……?」


『そうだな。範囲を抑えてそれなりの攻撃を放つ。その直後に私は消える』


「勝たなくて良いんだ……」


『……。まあな。ちょっとばかし面倒な気配を感じてな。気にする必要は無い』


「ふうん……」


 どうやら大天狗が早めに勝負を切り上げたい理由は自分が不利になるからだけという訳では無さそうだ。

 その理由は定かではないが、一先ずリヤンはそれに応える事にした。


「じゃあ……私もそれなりに対応するよ……」

『それは有り難い』


 距離は置いたまま、リヤンと大天狗が向き直る。リヤンは神の力を纏い、大天狗は神通力を扇に集中させる。

 この街を破壊しないように調整はするが、手加減はしない。力を込め終えた二人は一気に解放した。


「"神の風(ゴッド・ウィンド)"……!」

『術名は……無いな!』


 神の力からなる風と妖力や神通力によって強化された暴風が同時に放たれた。

 二つの風は周りの建物を巻き込んで浮き上がらせる。いずれも住人は居ないようだが、後で修繕するにしても被害は多大なるものだろう。

 それでも街が吹き飛ばないように調整している風。本来なら世界が吹き飛び兼ねないが、よく抑えている方である。


「『……っ』」


 その風に煽られて砂埃が舞い、リヤンと大天狗は互いの姿が見えなくなる。気配は追えるが如何せん神の力と妖力からなる風。残った気配も自然に隠されてしまうだろう。

 そんな暴風は暫く留まり、次第に収まっていく。


「……。本当に居なくなっちゃった……」


 ──そして砂塵が晴れた時、リヤンの前には本人の言葉通り大天狗の姿は無かった。

 辺りはシーンと静まり返り、先程の暴風とは違い夜のそよ風が通り過ぎる。


「リヤン!」

「……! エマ……」


 その様に静まる中、上空から蝙蝠のような翼を広げたエマが降りて来た。

 そんなエマの様子を見る限り、どうやら天狗達は打ち倒したのだろう。降り立ったエマは周りを見渡して言葉を続ける。


「どうやら大天狗は倒した……いや、此処に居ない事を考えると撃退したようだな」


「うん……。けど……撃退とは少し違う……。何かを感じたみたいで……自分の意思で帰った……」


「自分の意思で……? ふむ、気になるな。大天狗程の者の事を考えれば、余程の事が無い限りは帰らない……。もしくは満足しなければ、か。此処の状況を考えるに、満足する程戦った様子は無い……。何かがあったと考えるのが妥当か」


「うん……。そんな感じ……。凄いね……一目見ただけでそこまで考えるなんて……」


「ふふ、見た目は幼いが、私には年の功があるからな。推察力は高いと自負している」


 此処に来るや否や、状況とリヤンの様子から見て大天狗がどの様な行動に移ったのかエマは思案する。

 答え合わせの結果的に大体は合っているとの事なのでエマは得意気に軽く笑っていた。


「……しかし、そうなるとのんびりはしていられないな。私たちも捜査に向かうとしよう」


「うん……」


 だがしかし、穏やかな会話を続ける訳にはいかない。大天狗程の者がその様な行動に移った時点で厄介な事が生じたというのは容易に考えられるからだ。なので二人は"ヒノモト"の街を再び探索する事にした。

 エマとリヤンが織り成していた大天狗、天狗達との戦闘。それはエマが天狗達に勝利、リヤンが大天狗を撃退する事で決着が付く。

 だがまだまだ謎は残っている。二人は決着直後、再びこの街の探索を開始するのだった。



*****



 ──"ヒノモト"。


『死に晒せェ!』


「やれやれ。完全に激昂してしまっているな」

「やはり私が原因か。まあ、何度も斬られたら怒るのも仕方無い」


 エマとリヤンの戦闘が終わる頃、フォンセとツクヨミの織り成す戦闘では激昂した九尾の狐が九つの尾から無数の妖力の塊を放ち、連続するように爆発を引き起こしていた。

 ツクヨミによって妖力の壁を突破され、身体に無数の傷を受けた九尾。自分の美しさを誇りに思っている九尾なら激昂するのも当然だ。


「しかし、このままでは街その物が消し飛ぶ。それは阻止させて貰うぞ……!」


『……!』


「やはり速いな、ツクヨミ」


 怒りに我を忘れている相手は戦いやすい。基本的に正面から打ち破れば良いだけなのだから。

 先程と同様に一瞬で加速したツクヨミは九尾の周りを駆け抜け、距離を置いた瞬間に再び切り刻み終えていた。


『……ッ! 何という速度……! 光の速度に匹敵している……いや、それ以上か』


「地上に降り注ぐ月の光も夜空を覆う星の光も光の速度だからな。それらを司る私ならそれ相応の速度も出せる」


『何とも滅茶苦茶な理論……だが、それを実行しているのが現在のお主……。月の光理論は分からぬが、光速なのはその通りのようじゃな……!』


「……。フム、今の攻撃で少しは冷静になったか。手強くはなるが、街の消滅が免れるならそれで良い」


 無傷の時に斬られれば怒り狂う。しかし既に負傷している時のダメージは冷静さに繋がる事もある。動物と言える九尾の狐だからこその感性だろう。

 動物も傷を負えば気性が荒くなるが、何も出来ずに返り討ちに遭えば怯えて警戒だけをする。知能の高い妖怪である九尾の狐は、前述したようにその警戒が冷静さに繋がるという事だ。

 ともあれ、冷静になれば余計な破壊はしないかもしれないが、手強くなる。なのでツクヨミと、フォンセは構え直した。


「さて、続きだ。次は激昂しない事を祈る」

『フン、戯け。わらわは同じてつを踏まぬ……!』

「やれやれ。相変わらず面倒な相手だな」


 フォンセ、ツクヨミと九尾の狐玉藻(たまも)まえ。エマ、リヤンと天狗、大天狗の戦闘に決着が付きライたちとレイたちが"ヒノモト"を進む中、此方の戦闘は決着に向けて激しさを増していた。

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