八百四十八話 生物兵器の応用・新たな主力
『……!』
『『『…………!』』』
孫悟空とぬらりひょんが戦う中、ガシャ髑髏の巨体による広範囲高威力の一撃が振り下ろされた。
ユニコーンと分身の孫悟空たちはそれを避け、ガシャ髑髏の腕を走るように迫る。
『全身が骨……血肉も無さそうですし、弱点はあるのでしょうか……』
『取り敢えず骨なら砕けば良いんじゃねえか?』
『ああ。巨体っても巨人族とそう変わらねえからな。大した相手じゃねえや』
『骨だけの分、ダメージは通りにくくても一撃一撃も巨人族や他の巨大生物に比べたら軽いからな』
ガシャ髑髏の一撃は広範囲。そして確かな破壊力も秘めている。そもそもの存在が骨なのでダメージの実感が湧かない。だが孫悟空たちにとっては大した事が無いらしく、攻撃は軽々と躱して妖力を込め直した。
『『『"妖術・巨人の術"!』』』
『…………』
『『『オラアアアァァァァッ!』』』
込めると同時に巨大化させ、正面と左右の三方向からガシャ髑髏の頭を殴り付ける。殴打されたガシャ髑髏の頭蓋骨は砕け散り、背後に飛ばされるように倒れ込んだ。
その衝撃は凄まじく、ガシャ髑髏の一撃によって先程盛り上がった大地が弾け飛ぶ程のものがあった。孫悟空たちはそれ程までの威力で吹き飛ばしたという事だろう。
『やったか?』
『ま、んな訳ねえよな』
『だろうな。この程度でやられるんじゃ、ぬらりひょんの奴が秘策として残していた意味がねえ』
確かな手応えはあった。事実、ガシャ髑髏は粉砕した。まだ身体の大部分は残っているが、頭を砕いたのだ。
本来ならそれで終わりそうなものだが、如何せん脳も何も無い。なのでどうやって身体を動かしているのか分からないが、確かに視線で孫悟空たちの姿を追っていたのでガシャ髑髏にとっても頭は中枢なのだろう。
そんな中枢を砕いたにも拘わらずまだ倒していないと確信する孫悟空の分身たち。その予想通り、ガシャ髑髏の身体は起き上がり、
『……』
『……。再生しやがった……』
『なんだ、コイツ。まるで生物兵器だ』
『強ち間違ってねえかもな。ぬらりひょんが作ったって言ってたしよ』
『分身とは言え、孫悟空さんたちの攻撃を受けて再生しますか。これは長期戦になるかもしれませんね……』
その肉体、いや、骨体を再生させた。
それを見た孫悟空たちはもしかしたらこのガシャ髑髏は生物兵器の一種なのではないかと推測し、ユニコーンが厄介さを改めて理解する。
もしガシャ髑髏が生物兵器なら身体の大きさからして巨人の生物兵器を彷彿とさせるが、それはそれで細胞一つ残さず消滅させる事が難しそうである。孫悟空本体はぬらりひょんと交戦中。此処に居るのは分身とユニコーン。イマイチ決定打に欠けるからだ。
『あのガシャ髑髏……骨を砕いても再生すんのか。もしかして生物兵器か?』
その一方で、ガシャ髑髏の様子を見ていた本体の孫悟空も生物兵器かどうかを気に掛けていた。
もしガシャ髑髏が生物兵器だとすれば、それを作り出しているヴァイス達の手懸かりがより明確になるかもしれない。なので面倒とは思いながらも当初の目的に近付けるので期待もしていた。対するぬらりひょんは笑って返す。
「半分は正解じゃな。訂正を加えるなら、生物兵器ではないという事じゃ」
曰く、生物兵器ではないとの事。孫悟空は小首を傾げ、軽く笑って返答する、
『……。へえ? 言ー事はなんだ。アレについて詳しく教えてくれるのか?』
「まあ、教えても構わぬ。知ったところで今までの戦闘と何ら変わりはないからの。簡単に言えば、儂が得た生物兵器の情報からの応用じゃよ。妖力によって怨念を集め、生物兵器と同じようなやり方で作成。儂らがヴァイス殿達と一時的に協力していたのはその情報を得る為じゃ。流石に本物の生物兵器に兵士としては及ばぬが、儂ら妖怪特有の妖力と魂に干渉する力で通常の生物兵器よりも遥かに優秀な個体を生み出した」
『ハッ、成る程な。確かに生物兵器だが、明確な生物兵器とは言えねえな』
ガシャ髑髏は、ヴァイス達の生み出す生物兵器の技術を応用して作り出した存在らしい。
生物兵器のように生身の肉体を改造するのではなく、元々あった魂などに妖怪の力で干渉する事によって作り出された妖怪。肉体が無い分通常の生物兵器より兵士としては扱いにくいが、妖力と怨念が使われているからこそ性能で言えば生物兵器を凌駕しているようだ。
『んじゃ、それなりの力に不死身の再生力を身に付けているって考えて良さそうだな。ガシャ髑髏にはよ。俺たちとユニコーンは大丈夫なのか?』
「さあの。それは儂にも分からん。じゃが、ある程度苦戦してくれなくては儂が困るからの。生物兵器を消し去れるお主の進行は此処で止めておく」
『面倒だな。俺がぬらりひょんを倒すまで持ち堪えてくれると良いんだが』
相手が生物兵器となると話は変わる。一体だけでもそこに主力クラスが居なければ都市を壊滅させる力を有する生物兵器。ガシャ髑髏がそれに近い存在であり、性能だけでも上回るなら苦戦は必至。孫悟空は何とか手助けをする為、ぬらりひょんに構え直した。
『早いところ片付けたいが……まだ少し時間は掛かりそうだな……耐えてくれよ、アイツら……!』
「フッ、儂に勝利する事は既に前提か。確かに実力は劣るが、下に見られるのはあまり良い気分じゃないの」
既に二人は臨戦態勢に入っている。なので孫悟空は如意金箍棒を振り回し、ぬらりひょんが紙一重で躱して刀を薙いだ。
決着を急ぎ過ぎては問題が生じる。なので孫悟空は冷静に対処する。二人とガシャ髑髏との戦闘も依然として続くのだった。
*****
『……っ。やはり精鋭揃いの百鬼夜行……一筋縄では行かぬか……!』
『ハッ、そう言うテメェら山本五郎左衛門の手下も大したもんだよ……!』
孫悟空、ユニコーンを初めとして他の主力の戦闘が続く最中、百鬼夜行の妖怪達と山本五郎左衛門配下の妖怪達による戦闘は終わり掛けていた。
宴会の席は当に消え去り、お互いに負傷者多数で刀や弓に火縄銃と言った武器を構え続ける。終わりに向かってはいるが、まだ終結した訳ではない。なので両軍の妖怪達は相手に仕掛けた。
『フフフ……此処に主力は居ないと考えているのかな? 大天狗や九尾、酒呑童子程ではないけど、僕もそれなりにやるんだよね……!』
『なにっ?』
『……!』
そんな中、百鬼夜行の幹部であり、それなりの力を誇っている河童が空気中の水分を水に変換させ、鉄砲水で山本五郎左衛門配下の妖怪達を撃ち抜いた。
的確に急所を突く水弾は一発で複数の妖怪達を撃ち抜いて意識を奪い取る。殺していないのは水神だった頃の慈悲が残っているのかもしれない。
『名付けて、"水鉄砲"! ……ってそのまんまかな!』
『『『…………!』』』
ふざけ半分ながらも的確に撃ち抜き、意識を奪って行く河童。相手の妖怪達はたじろぎ、徐々に後退して行く。
『河童かぁ。元・水神ですら最高幹部になれないなんて、百鬼夜行の層は厚いんだね』
『……! 君は……?』
『私? 私は魃。もしくは"魃"って呼んで。山本五郎左衛門一派の幹部よ』
──"魃"とは、その名が示すように干魃を司る神である。
その姿は美しい女性の姿から猿のような姿と様々であり、存在するだけで干魃を引き起こすと謂われている。
疾風のような速度で動き、その場に干魃を引き起こす存在。それが魃だ。
『魃……! 成る程ね。水神の僕にとってはこれ以上に無い強敵だよ……!』
『フフ、貴方は頭の皿が涸れると死んじゃうんだっけ? それなら有利なのは私ね。まあ、まだ残っている水を扱われたら少し面倒だけど』
元・水神である"河童"と干魃の神"魃"。両主力には張り詰めた空気が迸り、周りの妖怪達も百鬼夜行、山本五郎左衛門配下問わず緊張が走る。
──そしてその緊張は、次の瞬間に打ち破られた。
「よっと」
「あら、神様の類いでしょうか」
『『……!?』』
──近くに来ていたライとアマテラスによって。
通り掛かったライは河童を軽く蹴って吹き飛ばし、アマテラスが魃を自身の炎で焼き払う。周りの妖怪達は唖然としたが、次の瞬間には意識を失っていた。
「何となく仕掛けたけど、多分争っていたからこれで正解だよな? えーと、俺が蹴ったのは多分河童……それで、アマテラスが焼いた少女は……何だ? 妙にこの辺の温度が高いから、アマテラスが感じた神の感覚からして温度か何かを司る神かな」
「その様ですね。しかし河童に何らかの神。周りの妖怪達は捨て置き、この二人はまだ意識を失っていないでしょう」
何をしていたのかはよく知らない二人。しかし争っている雰囲気だったので何となく攻撃したが、河童と魃ならまだ意識があるだろうと向き直った。
『イテテ……いきなりだね……。……って、君はよく他の主力を争っていた子供じゃないか!』
『もぅ~なんなのぉ。……って、あ、貴女まさか……天照大御神!?』
予想通り起き上がった河童と魃は自分に攻撃した相手、ライとアマテラスの存在を確認して驚愕の表情となる。
一応目的を知っている河童は兎も角、魃からしたらアマテラスの存在は不測の事態だろう。
「あの河童とはお知り合いですか、ライさん?」
「うーん……俺自身は河童に会った事が無いな。けど、河童が百鬼夜行の準主力に居るのは知っているよ。あっちの少女はアマテラスを知っているみたいだけど、知り合いか?」
「いえ、知りませんね。先程も言ったように神気を感じますので神の類いである。……と言うのは分かりますけど、何の神かは何とも……。大方、太陽神か天候神の一種でしょうか? それにしても神気はそこまで高くないので、下級から中級の神と考えるのが妥当でしょう」
河童と魃の反応を見やり、ライとアマテラスはそんな二人について考える。
ライは河童と会った事は無いが、百鬼夜行の準主力に居る事は知っているので一旦置いておく。問題は神であろう少女、魃について。
干魃を司る魃はアマテラスの存在知っている。最も、アマテラス元々有名なのだが、そう言う意味ではなく、干魃の根源である太陽の神。所謂魃の上位種なので知っているのだ。
魃は、そのように自分を知らないライとアマテラスに少し怒りながら返した。
『さっきから失礼ね! 私は魃よ! 魃! 本当に人間って嫌だわ! 勝手に頼んで置いて用済みになったら直ぐに処刑しようとしたり、存在するだけで害になるからって閉じ込めようとするし!』
「……。何か分からないけど、苦労しているんだな。まあ、確かに魃の伝承にそう言うのはあった気がするけど。取り敢えず悪かったよ」
「失礼しました」
魃の主張にライとアマテラスは申し訳なくなり謝罪する。魃は神であるが、神だからこそ色々と苦労もしているのだろう。
『ちょっとちょっとー。僕の事は無視ー? 酷いなぁ。確かに僕は地味だけど、一応僕も元々は神様なんだよー?』
「あー、そう言えば居たな」
『気を付けてよー? 僕じゃなかったら怒っていたかもしれないんだから』
そんなやり取りを横に、ハブられている感覚の河童は軽い口調でツッコミを入れる。
その口調と様子から無視されている事は然程気にしていないようだが、一応準主力なので取り敢えず会話には参加して置こうという考えなのだろう。ライとアマテラス、そして魃はそれを聞いて構える。
「まあ取り敢えず、アンタらは争っているみたいだけど、アンタら二人とも立場的に言えば俺たちの敵だよな?」
『うーん、そうなるのかな。僕は明確に敵って言えるけど、魃。君はどうなの?』
『勿論敵だよ! さっきから何なの貴方達!? 不意討ちするし、無視するし、私は神! 天照はいいとして、元・水神と少年はもう少し神様を敬いなさい!』
『「すいませーん。反省してまーす」』
何はともあれ、敵ではあるらしい。
そしてライたちも、ただふざけていた訳ではない。この場に居る河童と魃。そして至るところに転がる意識不明の妖怪達。その事から大まかな状況は理解し、ライとアマテラスは向き直った。
「……って事だな。他の皆の手助けに行くより前に、目の前の敵を倒すか」
「そうですね。何か大きな骸骨のようなモノも遠方に見えますし、早いところ終わらせましょう」
『あれ? もしかして僕って侮られている? 一応元・神なのに……酷いなぁ』
『フン。太陽神も元・水神が相手でも私は勝つよ。負けないんだから!』
コント染みたやり取りが終わり、ライとアマテラス。河童と魃は純粋な構えから臨戦態勢に入る。
孫悟空、ユニコーンがぬらりひょん、ガシャ髑髏と争っている中、ライとアマテラスは新たな主力と準主力に出会うのだった。