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八百四十四話 もう一つの妖怪達の群れ

「至るところで破壊音が響き渡っているな。この街も既に戦場になっているみたいだ」


「その様ですね……。私たちがおらずとも比較的平和だった"ヒノモト"が戦場になるなんて……しかし、時折見掛ける妖怪達は暴れていない様子。百鬼夜行の一部のみが争っているのでしょうか……」


「有り得るな。しかしそうなるとなんでだ? 戦争を引き起こすなら他の妖怪達も暴れさせて一気に攻めた方が良さそうなのに。戦争が目的じゃないって事か?」


 本人たちが言うように、至るところで行われている戦闘。その本人たち、妖怪達の宴を抜け出したライとアマテラスは"ヒノモト"の街を駆け抜けながら街全体の様子を窺っていた。

 その様子を見る限り、確かに戦闘は行われているようだが一部でしか行われていない事は分かった。

 しかしだからこそ、今回の百鬼夜行は戦争が目的では無いのかもしれないという懸念も生まれる。何故全体的に踊っているだけで攻めないのか、戦っている一部も気配からして主力や主力直属の部下であり、大半の妖怪達は何していないのか。故にライはもしかしたら戦争を起こしたい訳ではないのじゃないかという結論に至ったのである。

 だが、それならそれで新たな疑問も生まれる。


「そうだとすると百鬼夜行の目的が謎ですね……。何故なにゆえこの街に来たのでしょう……」


「そこが問題だ。いや、まあ別に戦争を起こさないならそれで良いんだけどな。それでも既に戦っている者たちが居るから一概に良いとは言えないけど」


 疑問は百鬼夜行の目的。本来の目的は世界征服に近い事柄だが、もしも戦争が目的では無いのなら本来の目的が達成される事は無いだろう。基本的に力で奪うというのが世界征服の基礎であるからだ。

 ライたちのように、ただで力で遂行するのを好まない侵略者はライたち以外におらず、ヴァイス達も百鬼夜行も以前までの魔物の国も力で全てを遂げようとしていた。なので戦争を起こすつもりが無さそうな現在の百鬼夜行は本当に目的が謎なのだ。


「まあ、それを考えても仕方無いか。推測するより自分の足で探して目で見た方が早いからな」


「そうですね。至るところで行われている、一部の者達による戦闘を優先にしましょう。何処から行きます?」


「そうだな……」


 百鬼夜行の目的は不明な点が多い。しかし今それを考えていても仕方無いだろう。推測や可能性の段階で誇張するのは問題がある。なのでライとアマテラスは一先ず現在起こっている問題を解決しようと考えていた。

 一番分かりやすいのは一部で行われている戦いの様子見。ライとアマテラスは街を駆けながら少し考え、


「それなら、拙者と一戦交えるのは如何だろうか。旅の少年に太陽を司る"ヒノモト"の主神、天照大御神殿」


「「……!」」


 ──考えていた次の瞬間、何処からともなく声が掛かりライとアマテラスの二人は歩みを止めた。

 この様に話し掛けて来る者は大抵ロクな者ではない。そう分かっているライはため息を吐き、声のした方向に視線を向ける。


「……。アンタ、誰だ? 見た事無いな。百鬼夜行のメンバーか? ……いや、一人で居るって事はどうやら違いそうだな。主力クラスなら一人で居ても何ら不思議じゃないけど、アンタの姿は本当に見た事が無い。偶然通り掛かった誰か……って考えるのが妥当かな」


「この一瞬であらゆる可能性を見出だすとはな。しかしそうで御座るな。そう思案するのが正しい。百鬼夜行とは何ら関わりは御座らんが、妖怪達を連れるという意味で共通している」


「へえ? そう言う事」


 気付いた時、ライとアマテラスの周りには百鬼夜行の妖怪達とは違う雰囲気の妖怪達が集っていた。

 この世界での妖怪の群れと言うと百鬼夜行が代表的だが、どうやらこの者も妖怪達を連れる長のようである。

 その者の見た目は普通の人間とあまり変わらない。月明かりによって黒の色合いが分かる髪はマゲを結い、かみしもというこの街の侍が着る正装を身に付けており、腰には刀を携えていた。その様子からするにどうやら侍のようだ。しかし侍が妖怪を引き連れているなど不思議なモノである。


「で、アンタは誰よ? 何が目的だ? 返答次第じゃ、アンタとアンタの連れる妖怪達が今夜消える事になるけど」


 そんな侍を前に、ライは挑発するように話す。

 本来は初対面の者にこの様な態度は取らないのだが、その者から滲み出る悪意がライへ自然にその様な態度を作らせていた。

 侍は笑って返す。


「フッ、これは失礼した。拙者の名は"山本さんもと五郎左衛門ごろうざえもん"。──魔王である」


「……!」


 ──"山本さんもと五郎左衛門ごろうざえもん"とは、妖怪達を引き連れる魔王の一人である。


 かつての魔王であるヴェリテ・エラトマや七つの罪を司る大罪の魔王達とはまた違った存在だが、確かに魔王と謳われる存在だ。


 その見た目は前述したように髷を結ってかみしもを着た侍のような姿であり、様々な国を渡り歩いたという逸話もあると謂われている。


 百鬼夜行とはまた少し違った、魔王と呼ばれる妖怪達のおさ、それが山本五郎左衛門だ。



「山本五郎左衛門……あまり聞かない名だな。百鬼夜行の方が多分知名度は高そうだ」


「その様子を見るに、拙者の事を完全に知らない訳ではないようで御座るな。有り難い事だ」


「何で感謝するんだよ。……まあ、俺は少しだけ幻獣や魔物、神々や妖怪には詳しいって自負しているけどな。本を読むのは嫌いじゃない」


「書物にて知ったか。そのよわいで大したモノよ」


 山本五郎左衛門は、ぬらりひょんや大天狗、九尾の狐に酒呑童子に比べたらあまり有名な妖怪ではない。百鬼夜行の群れに入らなかった妖怪達を引き連れているだけあって確かな実力も備えているのだろうが、それは他人を驚かす事にしか使わないとされているのだ。先程感じた悪意はそれによるものかもしれないが、詳しくは不明である。

 しかし先程はライやアマテラスと戦う気があった様子。故に今回は驚かす事ではなく、もしくはそれ以外があるとしても、一先ず一つ目は戦闘が目的のようだ。


「……と言うか、何でアンタはこの街に居るんだ? 観光とかなら別に良いけど、態々(わざわざ)今の時間に俺たち……いや、アマテラスを探し歩いているなんてな。百鬼夜行が来たのは偶然かもしれないけど、アンタ自身は百鬼夜行に便乗して来たように思える」


「鋭い少年だ。確かにお主の言うように本来は主神である天照大御神が目的だったが、少年にも興味が出てきた」


「そうかい。それは嬉しくないな。取り敢えず、アンタが望む事の一つ目は戦闘なんだろ?」


「無論だ」


 それだけ告げ、山本五郎左衛門、五郎左衛門は刀を抜いてけしかけた。

 ライとアマテラスは周りの妖怪達と五郎左衛門に向き直り、その瞬間に刀が振り下ろされる。


「まあいいや。他の皆は心配無いだろうし、俺は新たに出てきた不安の種を潰すとするか」


「ほう? 拙者の一太刀をよもや片手で、素手で受け止めたか。何足る芸当よ」


「まあ、自分に都合の悪い物理的な力や異能は受け付けない体質なんでな」

「何とも都合の良い体質だな。お主、さてはものの類いか?」

「そりゃアンタだろ!」


 振り下ろされた刀の刃を素手のままである片手で受け止めたライは刀を弾き、五郎左衛門の腹部に向けて蹴りを放った。

 その蹴りを受けた五郎左衛門は弾かれるように吹き飛び、地面を数回転がって砂埃を上げながら立ち上がる。


「重い蹴りで御座るな……。咄嗟に刀で防いだが、手が痺れる」


「今ので折れないなんて良い刀だな。普通の刀なら根元から折れてたさ」


「妖力によって強化しているからな。この世界の剣士は大抵がそうで御座ろう。実力があるなら魔力や妖力、その他の力をもちいて強化するのが定石よ」


「ああ、そう言えばそうだったんだっけ。確かに知り合いの剣士は魔力で強化していた。一番身近な知り合いがそれをしていなかったからうっかりしていたよ」


 ライの蹴りを受けた五郎左衛門は苦痛に顔を歪ませるが、ライはそれよりも折れない刀を気に掛けていた。しかし考えてみれば妖力で強化しているのが当たり前なので愚問だと気付く。

 今もこの街に居る知り合いのモバーレズ(剣士)を始めとして、この世界の剣士は鉄の脆さを持ち前の魔力や妖力、その他の異能で補っている者が多い。しかし一番親しいレイがその様な力を使って戦っていないので一瞬分からなくなったようである。


「身近な知り合いか。気になる言葉だが……訊ねる暇は与えてくれないか」


「ああ」


 そんな存在を気に掛けた瞬間、ライは五郎左衛門の眼前に迫って拳を放った。

 その拳は辛うじて避ける五郎左衛門だがライは同時に踏み込み、腹部に膝蹴りを打ち付ける。


「……ッ!」

「よっと!」


 膝蹴りで怯んだ瞬間に回し蹴りを放ち、五郎左衛門の身体を妖怪達の元に吹き飛ばした。

 群れている妖怪達はその衝撃で息を吹き掛けたホコリのように吹き飛び、高所から落下して意識を失う。それを受け、妖怪達も騒ぎ出した。


『『『ウオオオオォォォォ!!』』』


「凄いですね、ライさん……。魔王を謳われる存在を一方的に叩けるなんて……」


「ハハ。まあ、種類が違う魔王には旅先で何度か会った事と戦った事があるからな。魔王の扱いには慣れている方だよ」


「……。随分と物騒な旅をしているのですね……それで生き延びているとは……。やはり只者ではありませんか……」


 活気の溢れる妖怪達を他所に、アマテラスはライの実力に感嘆していた。

 この街ではそれなりに有名な方の妖怪。にもかかわらず軽くあしらえるライの実力には驚かされているのだろう。


『お前達! 我らを無視するでない!』

『五郎左衛門様もこの程度でやられる訳が無かろうに!』

『たかがガキと神が調子に乗るでない! 五郎左衛門様は魔王であらせられるぞ!』


「ふうん?」


 ──俺も魔王を連れているんだけど、とは言わず、ライは妖怪達を意に介さず一瞥していた。

 そんなライに妖怪達は激昂し、一斉に駆け出した。


『舐めやがって!』

『蹴散らしてやる!』

『瞬殺だ!』

『一気に仕掛けるぞ!』

『『『おう!!』』』


「よっと」


『『『ガッハァァアアァァッ!!!』』』

『『『グッハァァアアァァッ!!!』』』


 駆け出した瞬間に拳の風圧で妖怪達を吹き飛ばし、ライは未だに妖怪達の中から姿を現さない五郎左衛門の元に駆け出す。


「この中で一際強い気配。アンタは此処だな?」

「よく分かったな……とは言わないでおこう。少年程の実力者なら居場所の特定も簡単で御座ろうからな」


 気配で存在は分かる。故にライは妖怪達の中心にて拳を打ち付け、五郎左衛門が刀でその拳を受け止めた。

 拳と刀の余波による衝撃でまた周りの妖怪達は吹き飛び、それなりに離れた場所に居るアマテラスの髪が大きく揺れる。その近距離に居るライと五郎左衛門にも凄まじい衝撃波が伝わっている筈だが、それは本人たちが起こしたモノ。ライは涼しい顔。五郎左衛門は少し辛そうな表情でせめぎ合っており、徐々に大地が陥没してクレーターが形成された。

 その余波に飲まれながらも五郎左衛門は逃れ、ライに向き直るような態勢で立ち上がった。そのまま二人は睨み合う。


「てか、結局アンタの目的の詳細は分からないままだな。アマテラスに会いに来たのと百鬼夜行に便乗した。あと戦いが目的なのはその通りみたいだけど、何で来たのかは本当に不明なままだ。唐突に現れて、有無を言わず戦いを挑む。まるで侵略者か何かだな」


 ライは自分の立場を考えながら五郎左衛門に向けて言葉を続ける。

 何の前触れもなく唐突に姿を現した山本五郎左衛門。詳しい目的も話さず、ただ戦いに来たとしか言っていない。侵略者のような姿その物であり、あらゆる事柄に対して不明な部分が多かった。

 そんなライに向き合う五郎左衛門はフッと笑って返す。


「それなら主が自らの力をってして明かせば良かろう。天照大御神殿はまだ戦ってすら居ない。拙者の目的はいずれ分かる」


「そうかい。じゃあ、力尽くで聞き出すしか無いみたいだな。悪意は感じる。その悪意の正体、明かしてやろうじゃねえか……!」


 不明な点は多いが、本人から聞き出せば全てが解決する。実に楽な話だ。故にライは山本五郎左衛門に構え直した。

 レイたちと百鬼夜行が戦闘を繰り広げる中、ライとアマテラスは全くの別件である魔王、山本五郎左衛門と相対する事になるのだった。

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