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八百四十三話 斉天大聖、ユニコーンvsぬらりひょん

『伸びろ、如意棒!』

「ほっほ。速いのう。亜光速は出ておる」


 孫悟空が如意金箍棒にょいきんこぼうを亜光速で伸ばしてけしかけ、ぬらりひょんは跳躍してそれを避けて如意金箍棒の上を駆けて行く。

 孫悟空は如意棒を振り回して棒の上を駆け抜けるぬらりひょんを振り払う。空中に舞い上げられたぬらりひょんはその場で回転して着地し、次の瞬間にユニコーンが突進していた。


『はあ!』


「時速数十から数百キロの突進。角によって破壊力と貫通力は上がっておるが、幹部と言えど所詮は馬。大した事はないの」


『ハッ、だが隙は生まれたぜ!』

『ええ、それが狙いですから!』

「それも問題無い」


 ユニコーンの突進は軽くかわし、次の瞬間に迫っていた孫悟空の如意棒をぬらりくらりと躱す。

 突き、振り上げ、振り下げ、横薙ぎ、持ち手を変えて逆方向からの薙ぎ払い。ぬらりひょんはそれらを揺れるような、つ最小限の動きでそれらを避けて行き、刀で弾いて斬り上げた。


『剣術はそれなりなんだろ? 別におごっている訳じゃねえが、俺相手にお前じゃ力不足だろうよ』

「そうじゃな。既にワシの存在にも気付かれてしまっておる。このままやると数十分も持たんじゃろう。だから色々と策は講じておる」


 その刀は躱した孫悟空だが、ぬらりひょんとの実力差は理解している。それは孫悟空がぬらりひょんより弱いのでは無く、その逆。ぬらりひょんよりも強過ぎるのだ。

 だからこそ孫悟空はぬらりひょんでは到底自分に及ばないのではないかと気に掛けていた。しかしぬらりひょんにも何らかの策はあるらしく、孫悟空から距離を置いて様子を窺う。


『策か。ハッ、それがあると知ってて易々と使わせる俺じゃねえ。教えない方良かったんじゃねえのか?』


「その点に関しては問題無い。言ったじゃろう? 儂らは既に一月ひとつき前からこの街、もしくはその近隣に居たとな。全てではないが、幾つかの策は既に整っておるからの。そうでなくては自分の行う事を話さんじゃろう」


『それでもみずから話すのは気になりますけどね。何かの策があると分かればそれに対する警戒は必然的。成功率が下がりませんかね。……まあ、策というもの自体がハッタリで変に警戒させるのが目的かもしれませんけど』


 ぬらりひょんが考えているという策。それが嘘か真か、真偽は不明だが既に準備は整っているとの事。

 それを教えるのも問題かもしれないが、教えても良い程に順調という事だろう。それなら孫悟空とユニコーンものんびりはしていられなかった。


『んじゃ、取り敢えず百鬼夜行の頭はぶっ飛ばすか。何かの策があったとして、それは自分が捕まったり動けなくなったりした場合を想定していないだろ。あくまで捕まらない為の策って事だ』


「フム、半分は当たりじゃな。儂は捕まるつもりなど毛頭無いが、無いからこそ、確かに自分がそうなる事を想定はしておらん」


『なら話は早い』


 それだけ告げ、孫悟空は一気にぬらりひょんの元へと駆け出した。

 ぬらりひょんは孫悟空の言うように自分が動けなくなるような事態になる事は想定していないらしい。しかし失敗する事を計画に入れないのは当然である。その計画を失敗させる為に、孫悟空はけしかけた。


『"妖術・分身の術"!』

「……」


 孫悟空は自分の髪の毛を三本抜き、妖力混じりの息を吹き掛けて三人の自分を生み出す。そのまま四人でぬらりひょんを囲い込み、本体は如意金箍棒にょいきんこぼうを片手に携え、他の三人は素手で攻め入る。


『オラァ!』

『そら!』

『ほらよ!』

『ダラァ!』


「数は増えたが、動きは変わらぬ。先を読めば容易く避けられる所業だ」


 上から叩き付けられる如意棒を飛び退いてかわし、背後から来る二人を跳躍で避ける。空中に向けて放たれた正面からの拳は空中で身体を捻って回避した。

 全てを避け切ったぬらりひょんは一歩歩くと同時に加速し、目にも止まらぬ速度で三人の分身を消し去った。


「流石に本物はかなりの強者つわものか」


『分身一つでも一国の軍隊に匹敵する実力はあったんだがな。……いや、一国というのはおかしいな。この世界では支配者を含めて幹部や側近の総称を一国の軍隊という事になる。それじゃ過剰戦力だ。そうだな……一国にある、それなりに発展した一つの都市の軍隊に匹敵する……が正しいか』


「それくらいなら生物兵器の兵士一体に崩壊させられるじゃろ。主の分身一つはもう少し強いと思うぞ」


『そのもう少し強い存在を容易く消し去れる実力は面倒だけどな』


 本人以外の全ての分身を一瞬にして消し去ったぬらりひょんに、孫悟空は苦笑を浮かべていた。

 本体よりも圧倒的に力が劣るとしても、それなりの大きさを誇る一つの都市が有する軍隊並みの力を持つ孫悟空の分身。そのレベルの存在が容易く消される現在、やはりぬらりひょんにも相応の実力はあるのだろう。

 百鬼夜行の主力の中では妖術なら九尾の狐。腕力なら酒呑童子。その両方を備える百鬼夜行の最強が大天狗と、ぬらりひょんは主に奇襲や罠を張るなどのような策略が得意であり、純粋な実力は主力の中でも四番手程である。にもかかわらず軍隊並みの実力を誇る孫悟空の分身を消し去るなど、伊達に総大将はやっていないという事だろう。


『ま、話している暇は無い。さっさと片付ける!』


「暇が無いのは儂も同じじゃ。色々とあると言ったじゃろう? という事で、儂としても早いところ片付けるとしよう」


 孫悟空は世界を揺るがし兼ねない、現在進行形で揺るがしているヴァイス達について調べる為。ぬらりひょんは何らかの理由によって消え去るかもしれない百鬼夜行の存亡を賭けて。互いに暇がなく、刹那に二人と一匹は駆け出した。


『オラァ!』

「正面から受けるのは儂じゃ無理じゃな」

『それで先程から避けているのですか。……まあ、避けられているだけかなりの実力なのでしょうけど』


 如意棒は横に逸れてかわし、その先に突進したユニコーンの一撃を跳躍して躱す。それと同時に天を舞うような動きで回転し、広範囲に斬撃を放った。


『何だよその技』

「演芸……とでも言っておくかの」


 斬撃は全て如意棒で叩き落とし、着地したぬらりひょんに向けて突き出す。ぬらりひょんはそれも避け、足音一つ立てずに孫悟空の懐へ踏み込んで刀を斬り上げた。

 孫悟空はそれを仰け反って回避し、如意棒を地面に突き刺しその如意棒を軸に回転して回し蹴りを放つ。ぬらりひょんは飛び退いてその一撃からまぬがれ、背後から迫るユニコーンの姿を一瞥して更に距離を置いた。


『おや、バレてしまいましたか。折角無言で仕掛けましたのに』


「無言でも足音はあるじゃろう。それに気配もそのまま。確かに斉天大聖の相手をするだけで手一杯じゃが、迫る主くらいには気付ける」


『それは残念』


 ぬらりひょんは孫悟空の相手をしつつ、ユニコーンの気配にも当然気付いていた。

 ユニコーンはこの中で自分が一番弱いという事を理解している。だからこそ奇襲などと言った戦略をおこなっているのだが、やはり同じくその様な手法を得意とするぬらりひょんには通じないらしい。


一対一サシで挑んでも攻撃はかわされるからな。やっぱ数で押した方が良いかも知れねえな。簡単に消されちまうが、隙は生まれるかもしれねえ』


 それならばと孫悟空は髪の毛を数十本抜き、また妖力の含んだ息を吹き掛けて分身を生み出す。

 分身の術を使うに当たって髪を多めにしている孫悟空に髪の心配は無い。無限ではないが、かなりの分身は生み出せる事だろう。


「一気に数が増えたな。流石に軍隊×二桁の相手は少し骨が折れる。そもそも主力の時点で一つの都市が誇る軍隊は優に超越しとるからの。こりゃ大変じゃ」


『ハッ、本当にそう思っているのかは分からねえが、取り敢えず少しは有利になったかな』

『いや、元々有利だろ。事実、一太刀も受けていねえ』

『相手にも当たってねえけどな』

『それを言うなよ』

『それも事実なんだからしゃあねえ』

『取り敢えず相手をぶっ飛ばすんだろ。さっさとやろうぜ』

『好戦的じゃねえか。俺』

『まあ俺だしな。それに、ヴァイス達について色々と聞き出さなくちゃならねえ』


 ぬらりひょんの反応を見やり、孫悟空たちが話し合いをしながら囲み込む。

 口では軽いが決して油断はしていない。先程の分身たちが消されたのは今の分身たちの記憶にも残っているからだ。囲み込む孫悟空たちの中にはユニコーンも混ざっており、何時でも動き出せる態勢に入っていた。


八岐大蛇ヤマタノオロチでも居れば良かったのじゃがな。既に野生に帰ってしまっておる。はてさて、一体どうするか」


『随分とわざとらしい口振りだな。ま、何らかの策は既に終えているらしいし、余裕があるんだろ』


 八岐大蛇ヤマタノオロチ。前に百鬼夜行が復活させた山容水態の龍神だが、既にリヤンによって和解している。もう百鬼夜行に協力する事は無いので八岐大蛇ヤマタノオロチが来るという線は無かった。

 しかしそうなるとこの数の差を覆せる強大な戦力は思い付かないだろう。策というものは罠なのか戦力なのか不明だが、それを実行させるよりも前に孫悟空たちとユニコーンはけしかけた。


「出し惜しみをしている暇も無さそうじゃ。早いところケリを着けるか」


『『『…………!』』』

『……!』


 ──次の瞬間、ぬらりひょんの言葉と共に"ヒノモト"の街が大きく揺れた。

 それに反応した孫悟空たちとユニコーンは停止して辺りを見渡す。その間にも攻めた方が良いかもしれないが、揺れが大きく狙いが定まらないのだ。しかし孫悟空はそれならと跳躍してぬらりひょんの頭上に移動し、一気に囲い込んだ。


「さて、儂も移動するか」

『『『…………!』』』


 その分身たちの僅かな隙間を移動し、ぬらりくらりとその場から立ち去るぬらりひょん。流石に全員とは相手をしていられないのか、気付いた時には数百メートル先にまで移動していた。


『チッ、逃がしたか!』

『まだ距離はそう離れてねえ! 一気に畳み掛けるぞ!』

『ああ!』


 それを見兼ねた孫悟空たちはそんなぬらりひょんの元へと突き進み──


『『『……っ!?』』』


 ──頭上から降り注いだ何者かによって阻止された。

 それはおそらく手。何故おそらくなのか、それはその大きさもあるが、兎に角白く、隙間が多かったからだ。

 巨人というには腕が少し不自然。しかし大きさは巨人並み。ぬらりひょんはそんな巨人? の肩? の上にいつの間にか立っており、下方の孫悟空たちとユニコーンに向けて言葉を発する。


「折角じゃ。説明をしておこう。今から戦う相手に情報を漏らすのは得策ではないが、コイツは儂ら(・・)がこの(・・・)一ヵ月で(・・・・)作った(・・・)存在(・・)じゃからの。この世界での戦死した者は星の数程に居る。その無念や怨念を集めてこの形にした。何の伝承も無いこの者を知るよしも無かろう。この者は──"ガシャ髑髏ドクロ"。と、そう名付けた」



 ──"ガシャ髑髏ドクロ"とは、戦死した者達の怨念が集って生まれた巨大な骸骨である。


 伝承はなく、飢餓によって死した者の怨念もあるが為に人を握り潰して食す可能性はある。


 人の怨念からなる巨大な骸骨、それがガシャ髑髏ドクロだ。



『ガシャ髑髏ドクロ……? 確かに聞かねえ名だ。それに作った、か。怨念を集めて作った存在。大した情報にならねえのは本当みてえだな』


「フッ、巨人族とかとは少し違った巨大な存在による戦闘。しかと目に焼き付けると良い。伊達に隠していた"策"ではないからな」


『秘策にしてはあまり強くは見えませんけど、本人がそう言うのなら厄介な存在なのでしょうね。心して挑んだ方が良さそうです』


『ハッ、そうだな。何も分からねえからこそ、その分警戒が必要だ……!』


 ぬらりひょん達百鬼夜行が作ったというガシャ髑髏ドクロ。全てに置いて不明なこの存在を相手にするのは少しばかり大変そうである。

 孫悟空とユニコーンが織り成す総大将との戦闘は、死者の怨念が集ったガシャ髑髏ドクロが出現する事で昂進こうしんするのだった。

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