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八百三十九話 百鬼夜行の宴

 雲が晴れ、明るい月に照らされた"ヒノモト"にて依然として躍り続ける妖怪達の中には、孫悟空とユニコが混ざり込んでいた。

 二人は素の状態で混ざっており、周りの様子をうかがう。


『案外バレねえもんだな。変化の術とかも使わず、何の変装もしてねえのに』


「そうですね。まあ、人間態の私はあまり見せていないですけど、貴方はその姿で百鬼夜行て一戦交えていますのに」


『ああ。特に俺は特徴的な黄金の輪っかも頭にしている。衣装はこの街に合わせた着物だが、色合いは赤と金。和装しているだけの孫悟空()のまんまなんだけどな』


 窺いながら二人は、自分たちが案外バレずに混ざれている事を気に掛けていた。

 ユニコーンとしての姿が有名であり、今現在は人化している姿のユニコは兎も角、基本的な服装が同じな孫悟空はバレない事が不思議だった。

 そもそもしれっと混ざっても誰にも怪しまれなかったのもおかしな話である。それ程までに躍りに夢中なのか、案外新たに加わった妖怪達が居るとかで目立たないのか、罠なのか、分からないものである。


「しかしそれなら反って好都合とも言えます。潜入調査がしやすいですからね」


『それもそうだな。周りが賑やかだから今みたいに互いに聞こえる声で話しても気付いている奴は一人も居ねえ』


 不思議な点やおかしな箇所は幾つかあるが、気付かれていないのならその事柄を利用した方が良い。当然だ。

 なので孫悟空とユニコはこのまま紛れて妖怪達と共に進む事にした。


「この群れ……何処に向かっているのでしょう? 百鬼夜行はその名の示すように百鬼(無数の妖怪)夜行(行進)するもの。ただ普通に歩いているだけなのでしょうか?」


『さあな。だが、案外そうかもしれねえな。目的も無くただ歩く。まあ今回は躍りながらだが、ただひたすら行進を続ける。それを見てしまえば死ぬ可能性もあるが、基本的には朝まで彷徨うろつくのが百鬼夜行なのかもしれねえ』


 百鬼夜行の、行進する目的。それは特に無く、ただ本当に歩いているだけである。

 ただ歩いてただ躍り、ただ通り過ぎる。この行動に何の意味があるのかは分からないが、二人はそれに付いて行く。


『まあ、そんな百鬼夜行だが、今さっきも言ったようにその姿を見ると様々な災いが起こったり最悪の場合死ぬって云われている……呪いでも振り撒きながら歩いているのか?』


「呪いを……。となると考えられる目的は仲間を増やす事。その街を無効にする事ですかね……。怨霊や死霊の類いと違いますが、死して妖怪になる事もあるらしいです。後は標的にした街を治める為に武力や兵力……取り敢えず戦力を減らすのが目的なのでしょうか……」


『仲間を増やす……か。確かにこの街では八百万はっぴゃくまん八百万やおよろず。無数の存在を意味している。仮に百鬼夜行がこの街の出身なら、百鬼とは名ばかりの無数の妖怪達による行進かもしれねえな。まあ、分類的には俺も妖怪だが』


 百鬼夜行の目的。考えられる目的は三つ。

 一つ目は前述通り何の目的も無く行進するだけという事。しかし見たら死ぬ。災いが降り掛かるとされる伝承から、人間を殺して無理矢理妖怪の群れに引き入れたりする事が目的かもしれない。それが二つ目。

 三つ目は二つ目に近いが、仲間に引き入れるなどはせずただ街の戦力を低下させているのではないかという事。

 考えようと思えば他にも様々な目的は思い当たるが、可能性が高いのがこの三つだった。


「ただの妖怪と神仏となった貴方では根本的に違うでしょうけど……確かに貴方の存在があるから私たちがすんなり受け入れられていた可能性もありますね。貴方にも妖力はあります。その妖力を感じ取った妖怪達が勘違いをする。合点はいきますから」


『色々考えてんな。しかしまあ、一概に否定は出来ねえ。だが、このまま付いて行っても進展は無さそうだな』


「そうですね。百鬼夜行の目的や行動について色々と考えましたけど、結局全てがあくまで"可能性"の領域を抜け出していません。これからの行動についても難しいところです」


 色々考え、様々な可能性を導き出したまでは良いが、それに確証が無い以上どうしようもなかった。簡単に言えばこのまま付いて行ったとしても何も変わらないのではないかという事である。


「フム、相変わらず中々に鋭いのう。だが、今回の目的はそのいずれでも無い。そうでなくては術を使い、この街の住人達を行動不能にはせんじゃろう」


『「……!」』


 一つの声が掛かり、孫悟空とユニコが振り向いた瞬間に小柄な老人がそんな二人の間を通り抜けた。

 それと同時に周りで躍り狂っていた妖怪達が反応を示す。


『『『総大将!』』』

『ぬらりひょん様!』


 ──そう、現れたのは百鬼夜行のボスにして総大将、ぬらりひょん。

 妖怪達の反応を余所に孫悟空とユニコは警戒を高め、ぬらりひょんが騒ぐ妖怪達を収める。


「皆の者はこのまま行進を続けておくと良い。ワシは少し話をして行く」


『分かりました!』

『仰せのままに!』

『オーケーイー!』


 堅い雰囲気と軽いノリ。反応は様々だが、妖怪達は孫悟空やユニコには特に言及せず躍りながら去って行った。

 そしてこの場には先程の賑やかさとは打って変わった静けさが広まり、ぬらりひょんが改めて二人に視線を向ける。


「よくぞ来てくれたの。斉天大聖に角馬ユニコーンよ。既に知っているだろうが、此処は人間の国にして儂ら百鬼夜行に居る大半の妖怪達の故郷。"ヒノモト"。楽しんで行ってくれ」


『ハッ、もう十分堪能したぜ。俺たちはお前達を探す為、この街に一ヵ月間滞在したんだからな。そんな一月ひとつきの間に探しても見つからなかったが……まあ、そのお陰でお前達に会えたから上々だ』


「それはご苦労。実は儂らもこの故郷に一ヵ月くらいは居たが……中々姿を現す機会がなかったのでな。今回は色々あって行動に移った」


『色々か。気にならない事も無いが、別に聞かなくてもいいか。取り敢えず、今回は能力を使わずに姿を現したから少しだけ時間をやる。目的は戦闘か?』


 孫悟空は真紅にして黄金の装飾を着けた神珍鉄からなる如意金箍棒にょいきんこぼうを取り出し、ぬらりひょんに行動を問うた。

 何時いつもは能力をもちいて何時の間にか居るようなぬらりひょんだが、今回は堂々と姿を見せた。既に紛れていた可能性もあるが、どちらにしても不意を付いては来なかったので話、つまり言い訳の類いの猶予は与えるらしい。

 元々孫悟空たちはヴァイス達に繋がる何かを探しての百鬼夜行との接触を図った。故に話を聞けるならいきなり噛まさなくとも良いのである。

 ぬらりひょんは如意棒を構えた孫悟空と戦闘態勢に入ったユニコを一瞥し、言葉を続ける。


「そうじゃな。一先ず今回の儂の目的は、前述したようにお主らの言うようなものではない。妖怪仲間を増やす事や、この街の戦力を削ごうとは考えておらん。……しかし、戦闘は拒否出来ないな」


『「……!?」』


 ──その刹那、ぬらりひょんの姿が孫悟空とユニコの前から消え去った。


『"仙術・正見の術"!』


 それと同時に孫悟空が自分たちへ正体を見破る仙術を掛け、ずっと目の前に居たぬらりひょんの姿を確認する。だが次の瞬間にはぬらりひょんが刀を片手に踏み出しており、孫悟空の眼前に迫っていた。


『成る程な。能力を使ってなかったのはこの為か……! 随分と面倒な真似をしてくれる』


「そうじゃろう? だが姿を消した訳ではなく、ワシの事をお主らに仲間であると思わせただけだったが……事前に敵が居たかもしれないという思考だけで術を使うのは流石じゃな」


『慣れてるって訳じゃねえが、常に警戒はしているからな!』


 刀を如意棒で受け止め、火花を散らしながら弾き飛ばす。ぬらりひょんはそんな孫悟空の機転の良さに感心していた。

 ぬらりひょんの能力は、何も姿を消し去る訳ではない。今まで"敵"と話していたなら何らかの違和感から能力に当てられた本人は"謎の敵"が姿を消したと錯覚するが、あくまでぬらりひょんは自身を仲間と思わせただけである。

 にもかかわらず孫悟空は即座に"正見の術"をもちいて探し出した。確かにこれはかなりのものだろう。何故なら、敵が居なくなった筈なのに僅かな可能性からその敵を探す為に力を消費したのだから。


『取り敢えず、戦闘は続行って訳だな。いいのかよ? 仲間の妖怪達を下げちまって』


「構わぬ。また直ぐに合流出来るからの」


「それなら……私も戦闘に移行しますか。あまり慣れてはいないのですけれどね』


 如意金箍棒にょいきんこぼうを振り回し、改めてぬらりひょんに構え直す孫悟空。当のぬらりひょんは刀を構え、相手の出方をうかがう。そしてユニコは人の姿から本領を発揮出来るユニコーンの姿に戻した。実に一ヵ月振りの本来の姿である。

 レイたちとエマたち。フォンセたちが敵の主力と相対する中、此方の孫悟空とユニコ、もといユニコーンは敵の総大将と相対した。



*****



『どうした? 飲まねえのか、姉ちゃんに小僧!』


「自己解決しているだろ……俺は小僧。酒を飲んで良い年齢じゃないさ」


「私も……お酒はたしなむ程度には飲みますけど、今は結構です」


『年齢だ? んな事関係ねえよ。俺たちの世界……てかこの街じゃ十五になったら成人なんだぜ!?』


『姉ちゃんも酒に弱いのか? 別にナニをする訳でもねえのに』


 ──至るところで主力たちが戦闘を繰り広げる中、ライとアマテラスは妖怪達の宴会に付き合わされていた。

 誘われたので情報収集も兼ねて付いて来たが、かなり陽気である。これが演技で酒を飲ませて罠に嵌める可能性もあるが、今現在の妖怪達の陽気さは素のようだ。


「大変な事になりましたね……。中々尻尾は掴めませんのに……」


「ああ。……まあ、何とかあしらえてはいるけど……何の情報も出てこないな。それに、コイツらは普通にこの宴会を楽しんでいるみたいだ。取り敢えず此方から話を聞いた方がいいかもな」


「はい。確かにそうですね。待っているだけでは始まりませんから」


 周りはかなり盛り上がっている。なのでライとアマテラスが会話をするくらいなら聞かれる心配も無く問題無いが、何の情報も得られないのは大問題だ。

 なのでライは近くに居た口が軽そうなほろ酔い状態の妖怪に訊ねてみる事にした。


「すみません。つかぬ事を伺いますが、今回百鬼夜行は何の為に集ったのですか?」


『ん? ああ、何か総大将が存分に楽しんで来いって言っていたからな。理由らしい理由はねえ』


「はぁ……成る程」


 一応敬語を使い、腰を低くして。それに対する答えは特に無いとの事。ある程度予想はしていたが、やはり主力クラス以外には機密事項なのかもしれない。

 少し考え過ぎかもしれないが、何の目的も無く行動するなどぬらりひょんがする訳無いとライは考えていた。


「ありがとうございました。ではゆっくり楽しんで下さい」


『ハッハッ! 言われるまでもねえ! テメェらも楽しめよ!』


 一先ず聞くには聞けたのでそれでいいだろう。なのでライは宴会の席に妖怪を戻して再びアマテラスと宴会を楽しむフリをしながら全体的な様子を窺った。


「妖怪達に目的は無いみたいだが、楽しんでいる事は確かだな。主力の姿は相変わらず見えないけど、他の場所にも明かりは見える……百鬼夜行も何体かに別れて行動しているみたいだ」


「その様ですね。此処に主力クラスは居ない。鬼や天狗、河童のような準主力すらおりませんね」


「そうだな……俺も百鬼夜行に会った事があるけど、百鬼夜行達が俺を知らない理由はそれもあるのかもしれない」


 二人は出された食物や飲み物に手を付ける。酒は飲まないが、それ以外にも色々あるので問題は無い。毒の確認もした。毒や有害物質は入っていない事が分かったので怪しまれぬように最低限の摂取をする。


「まあ、そうなると此処に用は無いな。隙を見て抜け出すとしよう」


「ええ。皆さんも酔っていらっしゃるようなので存外簡単に抜け出せそうです」


 情報を得られそうにない此処に居る理由は無い。なのでライとアマテラスが隙を見て抜けようと話していた──次の刹那、遠方にて轟音が響き渡り、幾つかの粉塵が連鎖するように舞い上がった。


『……!? な、なんだ!?』

『向こうか!?』

『向こうも宴会が盛り上がってるんだなぁ』


 それを見て聞いた妖怪達は様々な反応を示し、宴会が一時的に中断される。まだ何が起こったのかは分からない様子だが、ライとアマテラスの二人は何かを察して姿を消すように駆け出した。


「あの破壊……確実にレイたちと百鬼夜行の主力がぶつかったようだな」


「そうみたいですね。やはり既に他の主力達は出向いていましたか……。聞いた話では酒呑童子、九尾の狐、大天狗……そしてぬらりひょん……。名立たる妖怪達です……」


「ああ。あの破壊痕、全然本気じゃなさそうだ。急がないとな」


 夜の"ヒノモト"を駆けつつ、改めて百鬼夜行の戦力を確認するアマテラス。破壊音は止まず、辺りは次第に別の意味で賑やかになっていた。

 孫悟空たちが敵の総大将と出会っていた頃、移動を開始したライとアマテラス。二人が居なくなった事に妖怪達は気付かず、夜の街に破壊音と戸惑う妖怪達の声が響き渡っていた。

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