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八百三十五話 宝物庫

 ──"人間の国・ヒノモト・宝物庫"。


「これか?」

「それは違うな。妖刀"村正ムラマサ"だ」


「ならこれはどうだ?」

「それも違うな。それも妖刀。"正宗マサムネ"って言う刀だ」


「えーと……これですか?」

「違うな。……てか、見た目がお前の持つ"天叢雲剣あまのむらくものつるぎ"と全然違うだろ……。まあ一応説明はしとくか。天叢雲剣や俺の持つ"天羽々斬(あめのはばきり)"に匹敵する刀剣だからな。それは"天之尾羽張あめのおはばり"って俺たち三貴子みはしらのうずのみこの親父が持っていた武器だ。長さは1m以上の長剣で、"十束剣とつかのつるぎ"の一つだな」


「ふむ、それならこれはどうだ?」

「それは"神度剣かむどのつるぎ"。それなりの神が持っていた十束剣だが、今の俺たちが探している天叢雲剣じゃねえ」


「これ……」

「"布都御魂剣ふつのみたまのつるぎ"……これもまあまあ名のある神が持っていたが……確か支配者のような"人神ヒトガミ"とは違う人間にして神になった"現人神あらひとがみ"に渡ったな。で、なんやかんやあってこの"ヒノモト"に戻った……ーのかな。てか、本当に見つからねえなオイ」


 宝物庫内にてライたちとスサノオは、レイの持つ天叢雲剣について色々と調べる為にも既にスサノオ自身が所持するもう一つの天叢雲剣を探していた。

 だが進展はあまり無く、妖刀や神造の刀剣などかなり稀少な物はあるが天叢雲剣だけは見つからないようだ。スサノオは立ち上がり、軽く伸びをして言葉を続ける。


「結構探したが、中々見つからねえもんだな。自分の街だが、刀剣の類いが多過ぎだなこりゃ」


「そう言えばそうだな。この街って他の街よりも刀剣関連の武器が多い気がする。そう言った武器が有名なのか?」


 天叢雲剣を探してみて思ったが、名のある剣や刀が多いこの街。探している物が物なので探していれば必然的に目に付くのが多くなるのは分かるが、それにしても多い。加えてその全てが伝説や伝承に出てくる神話クラスのもの。ライは刀剣の類いがこの街では有名なのか気に掛かっていた。

 その言葉に対してスサノオは腕を組みながら返す。


「まあ、確かに有名だな。刀鍛冶はそれなりに居るし、その刀剣を外部にも送り出してこの街の資金源にもなっている。……ま、この戦乱の世だから当然武器としても優秀だが……鑑賞目的も多いらしい」


「へえ。金属加工の技術が高いのかもな。鑑賞用に武器が人気ってのも不思議な話だ。こんな世界でな」


 曰く"ヒノモト"には刀鍛冶が多く外部への出資としても刀剣が人気らしい。

 その切れ味や強度もる事(なが)ら、美しい刃紋はもんや透き通るような輝きなどから鑑賞用にも最適のようだ。


「まあ街としては外交の助けになるのは良い事だ。それはつまりこの街の刀剣を認めてくれているって事だからな。人間の国には鍛冶の神ヘパイストスも居るから、武器関連は激戦区なんだ」


「ふうん。確かにそうなのかもな。けど、他国に武器を出荷するのはこの国としても不利益が生じるんじゃないか? 国内での売買はあまり問題じゃない。まあ、内戦の引き金になり兼ねないけど、他国に送るよりはいいだろ。加えてヘパイストスの存在やこの街の事もあるから、国内での武器は潤っている。取り引きが主に国内のみで行われているなら激戦区にもなるが、外交に使っても良いのか?」


 武器というものは戦争の引き金になる可能性が高い物だが、それを販売する事で確かな資金源になるのも事実。国の経営の為にもそれなりの資金は必要。それを使っての交易は幻獣の国や魔物の国のように武器を扱う者が少ない二ヶ国以外の二ヶ国。人間の国と魔族の国ではよく行われているのだ。

 ともあれ、この街"ヒノモト"では刀剣の類いがかなり人気なのは分かった。しかしライはそれによって人間の国に何らかの問題が起きないのか気になっていた。

 スサノオは相変わらずの軽薄な態度で返す。


「まあ、その点に関しちゃ大丈夫だ。この国は侵略者関係で色々な問題に巻き込まれているが、最近はどういう訳か魔族の国や魔物の国のようなしょっちゅう戦争していた国が大人しいからな。さっきも言ったようにこの街で造られる刀剣は武器としても優秀だが、今は鑑賞用として売られる事の方が多いんだ」


「へえ。それは何よりだ」


 魔族の国と魔物の国が大人しいその原因はライたちにあるのだが、それを教える必要も無いだろうと黙認する。言ったところで何が変わる訳でもなく、もしかすればスサノオ達が敵になる可能性もある。なので言わぬが花だろう。

 ともあれ、肝心の天叢雲剣捜索だが、


「あ、これじゃないかな?」


「……ん? おお、それだ。天叢雲剣……草薙の剣!」


 ライとスサノオが話している中、黙々と探していたレイが目的である天叢雲剣を見つけ出していた。

 スサノオはそれに対して大きく反応を示し、嬉々として言葉を続ける。


「やっぱ剣士には分かるのかもしれねえな。さっきは親父の"天之尾羽張あめのおはばり"を見つけたし、引かれ合ってんのかもな!」


「アハハ……偶然ですよ。きっと」


 天叢雲剣を見つけたのはしくも同じ天叢雲剣を持つ剣士のレイ。スサノオはレイが剣士でその剣を持っていたからと感心していたがレイは謙遜する。

 何はともあれ、目的は見つけた。なので確認を取ったレイほ早速自分の持つ天叢雲剣と"ヒノモト"の納める天叢雲剣を見比べていた。


「えーと……見つけたのは良いですけど……特にどうと言う事は無いですね……。そもそも何の為に探していたんでしたっけ……」


「ああ。言われてみたら、そこまで真剣に探す理由は無いかも知れねえな。強いて言えばその天叢雲剣が偽物か本物かを明かすのが目的だが……瓜二つ。刃紋から質感まで同じ……二つとも紛れもねえ本物だ」


「そうなんだ。じゃあ何で倒された八岐大蛇ヤマタノオロチが出てきたんだろう……」


「それは分からねえな……八岐大蛇ヤマタノオロチは二体居たのか?」


 二本の天叢雲剣は確かな本物らしいが、それはそれとして特に何をしようと言う訳でもなかった。

 ただ単に真偽を確かめる行為なのでそれ当然なのだが、何とも言えない感覚である。しかし八岐大蛇ヤマタノオロチが二体居たのかもしれないなど新たな発見もあったので無駄ではないだろう。

 しかしそんな何とも言えない沈黙の後でライが思い出したかのように言葉を発した。


八岐大蛇ヤマタノオロチ……ああ、そう言えば百鬼夜行を忘れていた。確か百鬼夜行がレイたちの倒した八岐大蛇ヤマタノオロチを復活させた張本人だ。アイツらなら何か分かるかも……!」


「……! そう言えば……!」


「それもそうだな。奴らは何故彼処(あそこ)の街に八岐大蛇ヤマタノオロチが居た事を知っていたんだ?」


 そう、そんなレイたちが倒した八岐大蛇ヤマタノオロチは、百鬼夜行が魔族の国"シャハル・カラズ"に攻め込んだ時復活させた存在。もしかしたら何か知っているかもしれないとライたちは考えた。


「百鬼夜行か。俺はまだ会った事は無いが……その反応を見るに事実らしいな。それでこの街にそいつらが居るかも知れねえと……。ハッ、好都合じゃねえか。今夜見つけたら色々聞いてみようぜ」


 ライたちの反応を他所に、百鬼夜行について詳しくは知らないスサノオは今回の状況は好都合と告げた。

 確かに噂程度でもこの街に百鬼夜行の目撃証言があるなら、それが本当だとすれば色々と聞き出せるかもしれない。ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人も頷いて返す。


「ああ。それなら早いところモバーレズたちと合流して今度こそ夜に備えるとしよう」

「うん。仮眠とかはしておいた方が良いかな?」

「まあ、それでも良さそうだな。私は特に問題無いから街の地形でも覚えておこう」

「仮眠か。私は仮眠を取った方が良いかもしれないな。昼間から眠れるか分からないがな」

「私は……皆に合わせる……」


 目撃証言は夜中。なのでレイたちは一度仮眠を取る事にし、眠る必要の無いエマは地の利を覚える事にした。

 それなりに無駄な時間を過ごしてしまったかもしれないが、やはり全てが無駄に終わる訳ではないようだ。ライたちはより一層百鬼夜行について興味を示し、やる気に満ちていた。スサノオも完全に協力する方向で話が進んでいるので、仮にアマテラスやツクヨミが来れずとも十分な戦力は集った事だろう。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人はモバーレズたちを探しつつスサノオと共に行動を進めるのだった。



*****



 ──"ヒノモト・夜"。


 時刻は夜更け、草木も寝静まる時間帯にライたちは静まり返った"ヒノモト"の城下町にて待機していた。

 空から降り注ぐ月明かりに照らされた街並みは昼とはまた違った風情があり、吹き抜ける風によって木々がざわめきライたちの髪が軽く撫でられる。しかし月明かりによって建物や木々に影が掛かる街の雰囲気は何処か不気味なものがあった。


「まさか貴女達が夜警に協力してくれるとは。有難う御座います」


「フフ、気にする事はありませんよ。元より協力はするつもりだったのですから。今日はツクヨミさんも夜の業務は僅か。なので百鬼夜行を探す事くらいは容易いものです」


 分けられたチームはライ、レイ、エマ、フォンセ、孫悟空の五人を中心に残りのリヤン、モバーレズ、ユニコ、そしてスサノオと乗ってくれたアマテラス、ツクヨミの六人を分けた陣形。

 ライはアマテラスと共におり、レイはスサノオ、モバーレズと。エマがリヤンと一緒で、フォンセはツクヨミ。そして孫悟空がユニコ。基本的には二人組みでありレイ、モバーレズ、スサノオの剣士組みだけが三人という形になっていた。

 そんな中でライとアマテラスは夜の"ヒノモト"を歩きながら百鬼夜行を探索していた。


「さて、百鬼夜行は本当に居るのですかね。大々的に行動を起こしているなら目撃者が数人だけと言うのはおかしな話ですし」


「ええ。そうですよね。……もしかしたらですけど……妖物の中には姿形を変化させる力を持つ者も居ます。というより、大半は可能かもしれません。なのでその者達が敢えて私に報告した可能性も考えられますね……だとしたら何の為に……?」


「謎ですね。それならぬらりひょんが直々に出向けばバレるリスクも無いというのに」


「既に紛れ込まれている可能性もありますけど、何もしてこないので不気味ですね」


 探索での問題は、始めから言っていたように百鬼夜行の有無。もしかしたらただの噂の可能性があり、少なくともこの街には居ない可能性がある。

 しかし一方では不可解な点から既に百鬼夜行の妖怪と接触しているかもしれない懸念もある。実際のところの真偽は定かではないが、だからこそ募る不安も多いだろう。


「確かに。元々居ないならまだしも、目撃証言はある。嘘を広めるならもっと大々的に行う筈だから確かな事実の可能性が高い。だとしたら息を潜めているのかどうか」


「それらを踏まえて夜の"ヒノモト"を探索しますか」


「ええ、そうですね」


「はい。……あ、あと今更ですけど、別に敬語じゃなくても結構ですよ? 楽にしてください」


「そうですか? いや、そうか? ……んじゃ、そうするよ。俺的にもその方が話しやすいからな」


「ええ。常にかしこまった態度と言うものも大変ですからね」


 アマテラスに言われ、口調を直すライ。昼間に出会って現在時刻なので本当に今更だが、それが良いならライもそれに乗るだけである。

 何はともあれ、百鬼夜行の存在に可能性があるならそれを実行するのみ。ライたちとモバーレズたち。そして"ヒノモト"主力のアマテラス達は百鬼夜行の捜索を夜の街で行うのだった。

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