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八百三十四話 主力本来の拠点

「えーと……それで……その方が?」


「ああ、スサノオって言うんだ。名前くらいは聞いた事あるよな?」


「うん。というか有名だよ……」


 夜に備える為にも、ライは城内でレイたちを見つけてスサノオの事を話していた。

 渡り廊下で話す訳にもいかないので此処は和室であり、この場に居るのはレイ、エマ、フォンセ、リヤンのライの旅仲間四人。モバーレズたちも仲間だが、どうやら別の場所に居るらしい。

 そしてそんなレイたちの反応だが、主にレイが反応しており二度三度とスサノオの姿を見る。


おう、ライが言った通りだ。俺の名はスサノオ。一応この街で神をやっている。俗に言う主力ってやつだな」


「あ、はい。私の名前はレイと言います……」

「一応名乗っておくか。私はエマだ」

「そうだな。私はフォンセ」

「リヤン……」


 そんなレイの反応を他所に、相変わらずの軽薄な態度で返すスサノオ。それに返答するようにレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人も名乗った。一応念の為にフルネームではなく名前だけを教えたが、おそらくそれは杞憂に終わる筈だ。

 何はともあれ、レイたちにもスサノオの存在は教えられた。そしてそんなレイの腰に携えてある刀を見たスサノオは小首を傾げて訊ねる。


「その刀……見覚えがあるな……つか、この街の国宝だった気が……まあ街で国宝ってのも変な話だがな」


「刀……? こっちの剣じゃなくてですか?」


「ああ。刀の方だ。まあ、その剣の異質な気配も気になるっちゃ気になるがな」


 刀、天叢雲剣あまのむらくものつるぎを気に掛けるスサノオ。勇者の剣はよく注目されるが、天叢雲剣に注目されるのは珍しい事だった。

 無論の事、天叢雲剣も大変珍しい刀でかなり貴重な物なのだが、大半は勇者の剣が放つ気配に惹かれるのである。

 スサノオは天叢雲剣についての言葉を続ける。


「その刀……天叢雲剣だな? 八岐大蛇ヤマタノオロチの尾から出てきた刀だ」


「はい。確かにそうです。けど、スサノオさんの考えている物とは些か差違があるかもしれません。主に入手した経緯についてですけど」


「差違?」


 レイが持つ刀は天叢雲剣で間違いない。しかしその入手経緯は普通ではなく、本物かどうかも不明である。なのでレイは頷いて返す。


「はい。ええと、確かに八岐大蛇ヤマタノオロチを討伐して入手したのですけど……かの八岐大蛇ヤマタノオロチは既に貴方によって打ち倒されています。なのでこの刀……本当に天叢雲剣なのか調べてみようかと考えたままで……詳しくは何も知らないのですよね……」


「成る程な。八岐大蛇ヤマタノオロチの存在はあったが……既に俺によって倒されているから、お前は八岐大蛇ヤマタノオロチを偽物かもしれないと考えた。そしてそんな八岐大蛇ヤマタノオロチから出てきた刀も偽物かもしれないとな」


「はい」


 レイはコクリと小さく頷いて返す。

 そう、本来の八岐大蛇ヤマタノオロチは既にスサノオによって倒されている。封印ではなく討伐したのだ。なのでもう一匹の八岐大蛇ヤマタノオロチが居るのはおかしいだろう。

 その事に関してはレイも、レイたちも悩んでいたが結局分からず仕舞いで普通にこの刀を使っていた言う事である。

 それを聞いたスサノオは暫し沈黙し、レイと天叢雲剣あまのむらくものつるぎを見て言葉を続ける。


「んじゃ、見てみるか? 俺が倒した方の八岐大蛇ヤマタノオロチから出てきた天叢雲剣を」


「……!」


 その言葉にレイは大きな反応を示した。

 それもそうだろう。天叢雲剣はこの街で国宝とされている代物。そんな物をそう簡単に見せて貰っても良いのか、それが疑問だった。

 レイは驚きのあまり何も言葉が出なかったが、その様子から何かを察したスサノオは更に続く。


「ハッ。その様子……遠慮してんな? 気にすんな。俺が取って来た物だからな。自分の取って来た物に近寄れないのはそれこそおかしな話だろ? ー事で、国宝やら何やらでも俺なら無問題って事だ」


「そう言う問題じゃないと思うんですけど……」


 本人からするに、スサノオ自身が入手した物なので国宝だろうと何だろうと問題無いとの事。それとこれとはまた違う気もするレイだが、スサノオは構わずに笑っていた。


「ハッハッハ! 遠慮すんな! 結構厳重な部屋で見張りも何人か居るが、主力()が居れば多分何とかなるだろ」


「多分……かなり不安ですね……」


 根拠は無い様子のスサノオにレイは不安を感じていた。その近くのライ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は苦笑を浮かべており、お構い無しにスサノオは部屋の襖を開けた。


「行こうぜ。気にはなってんだろ?」


「まあ、確かに気にはなるな」

「ああ。国宝。興味深い」

「そうだな。見てみる価値はある」

「うん……」


「えぇ……。うん。確かに気にはなるけど……」


 そんなスサノオに続くよう、ライ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は興味津々に後を付いて行く。

 元よりライは好奇心旺盛。エマとフォンセは面白いモノを探している。リヤンは場の流れに合わせる。なのでこの中では常識人なレイもこうなる事は分かっていたが、疑問は無くならないようだ。

 何はともあれ、ライたちはスサノオの後に続いて国宝が置いてあるという宝物庫に向かうのだった。



*****



 ──"ヒノモト城・宝物庫"。


「結局付いて来ちゃった……良いのかな……」


「ハハ。スサノオもそう言っていたし良いんじゃないか? それに、扉の前には見張りの兵士も居るしな」


 城に似合わず鉄製の重鈍な、豪奢ごうしゃな扉の前にて、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人がスサノオの案内の末に集まっていた。

 レイは成り行きで付いて来てしまった事を気に掛けていたが、ライが何よりスサノオが居るのでどうとでもなると話して罪の意識を消し去る。何より本人の言うように見張りが居るので駄目なら駄目と告げられ、通されるのなら通される事だろう。

 因みに今はスサノオがその見張りに交渉している最中。かれこれ数分は交渉している様子だった。


おう、お前ら! 大丈夫だってよ! 一応俺に催眠とかが掛かってないか調べられたが、特に問題無いらしいから俺の意思ってのも証明出来た!」


「ああ、分かった。……というか、時間掛かってたのはそう言った取り調べとかがあったからか」


 そして許可が降りたらしい。取り調べのようなものがあったから時間が掛かっていたらしいが、特にそう言うものもないと判断されたらしくスサノオの権限でライたちも問題無く宝物庫に入れるようだ。

 それなら憂いはない。ライたちは宝物庫に関する幾つかの約束をし、スサノオと共に入って行く。


「やっぱり警戒はされているな。宝物庫だから当然か」


「うん。"中の物は持ち出さない"。"中の物を傷付けない"。"上記以外、この街にとって不利益になる事をしない"。かぁ。ただ天叢雲剣を見るだけならこれに当てはまらないよね、多分」


「大丈夫だろう。まあ、"この街にとっての不利益"というのはどの範囲までかにも寄るが、基本的には関係しない筈だ」


 条約は上記の通り。基本的に盗みなどを働かなければ問題無いものであり、ライたち自身も宝物には然程興味もないので問題無さそうだ。

 それからライたちとスサノオは兵士によって開けられた重鈍な金属製の扉を潜り、宝物庫の内部へと入った。


「……。此処が宝物庫……? なんか、思ったよりも暗いな」


「うん。貴重品なんだし考えてみれば当たり前だけど、全部木箱に納められているんだね」


「当然か。国宝級の物なのでがある時点でこれくらいはしなくてはな」


「となると箱の中にも何らかの仕掛けがありそうだ。二重構造は前提として、他にも色々とな」


「うん……」


 そこにあったのは、薄暗い蔵のような場所だった。

 おそらく宝物と思しき物は全て木箱に納められているらしく、入った瞬間に金銀財宝が迎える造りを考えていたライたちは肩透かしを食らったかのような反応だった。

 それに対してスサノオは笑って返す。


「ハッハッハ! それだよそれ! その反応! 外部からの奴でこの部屋に入った事があるのは少ねえが、大抵そんな反応するんだ!」


「そうなのか。てか、少ないにしても外部の人が宝物庫に入る事とかあるんだな」


「まあ、人付き合いは大事だからな。主力クラスもたまに来るが……それはあんま関係ねえな。ほら、さっさと天叢雲剣を探そうぜ」


「ああ。……って、探そうぜ? 自分でも把握していないのか……」


「まあな。刀にも色々あっからなぁ!」


 スサノオはライたちの反応に笑いつつ天叢雲剣を探す。

 たまに外部の者が来る事もあるらしいが、どう言った用件なのかは気になる。しかしそんな宝の一つである天叢雲剣が何処にあるかは分からないらしいのでライたちも手伝う事にした。


「宝物はある程度分けてあるのか?」


「ああ。金貨に銀貨……この街では大判小判って言う代物に加工しているんだが、それを中心にした場所。よくある宝石類を中心にした場所。刀……宝刀や妖刀を中心にした場所と結構細かく分類はされている。後は鎧とか勾玉まがたまとか鏡だな」


「へえ。本当に色々あるんだな。妖刀ってのは気になるが……取り敢えず宝刀や妖刀が中心にある場所を探せば良いんだな?」


「ああ。ま、天叢雲剣あまのむらくものつるぎの近くにはこの街で三種の神器って謂われている八尺瓊勾玉やさかにのまがたま八咫鏡やたのかがみとかと一緒の場所だから他の宝刀とかと少し扱いは違うな」


 宝物の場所は決められているらしいが、天叢雲剣は少しばかり違うようだ。

 それは三種の神器と謳われている神造の物の総称の一つであるからこそ、他の三種の神器と共にあるらしい。

 そんなスサノオの言い放った三種の神器という言葉にレイとリヤンの二人がピクリと反応を示した。


「あれ? 三種の神器って天界にあったんじゃないですか? 確か悟空さんが天界で見たって……」


「うん……。私も聞いた……。レイの天叢雲剣を見つけた時……斉天大聖が天界で見た事あるって……」


 それはレイたちが八岐大蛇ヤマタノオロチを倒して天叢雲剣を手に入れた時の話。その時に斉天大聖こと孫悟空も居合わせたのだが、三種の神器の存在は天界に居た時から知っていた。なのでレイとリヤンはそんな三種の神器が全てこの街にある事が不可解だったのだ。

 二人の言葉を聞いたスサノオは感心したような表情となって言葉を続ける。


「へえ? そりゃ貴重な話を聞いたみたいだな。っても、別に珍しい事じゃねえよ。知っているかどうかはて置き、俺たちの本当の拠点はこの"ヒノモト"じゃねえ。今回は侵略者関連の話題でこの国が危機に晒されているって事で此処を拠点にしているだけだ。基本的には数年から数十年の周期で本来の拠点と"ヒノモト"を往き来しているんだぜ?」


「そうだったのですか……」


 曰く、本来のスサノオ達主力は天界にある拠点とやらに身を置いているらしく、この"ヒノモト"の主力ではあるが本拠地では無いらしい。

 レイは侵略者という言葉に小さく反応を示すが何とかこらえ、小首を傾げて訊ねる。


「えーと……その本来の拠点って……聞いても良いですか?」


「ん? ああ、構わねえぜ。お前らも聞いた事があるかもしれねえが、"高天原たかまがはら"っー場所だ」


 "高天原"。それがスサノオ達の本来の拠点。

 それは雲の上にあるとされ、神々が産まれる地とされている場所。そこには海原や草原。天岩戸など地上と同様に様々な物があり、穏やかな場所とされる。

 今は侵略者関連で地上に居るだけで、本来はその"高天原"に居るという。三種の神器は神々にとっても重要な物なので孫悟空が見たというものはその時あったものだろう。


「へえ。興味深いな。高天原……確かに聞いた事はある」


「だろ? ま、その話はまた後でしてやるよ。今は三種の神器、もう一つの天叢雲剣を探すのが目的だ。話は探しながらしようぜ?」


「ああ、そうだな。……ってあれ? 本来の目的ってこれじゃなかったような……」


 スサノオの話を聞いたライも興味があるようだが、取り敢えず探しながらそれについての話をするらしい。ライたちは天叢雲剣を探すのに夢中になって本当の目的である百鬼夜行の事は上の空になっているが、それはまあいいだろう。

 ともあれ、レイの持つ物とは違う天叢雲剣。それの百鬼夜行はさておきながらそれについての捜索を続けるのだった。

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