表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
837/982

八百二十七話 幹部ではない主力

「さて、バレると思うか?」

「うん……実力者なら私たちの存在に気付いているかも……」

「ああ。まあ、バレたらバレたで堂々と確認出来るから良いけどな」

「そうだな。その方が返って好都合だ」

「……。えーと……別に尾行しないで直接聞いたら良いんじゃないかな……?」

「「「「…………」」」」


 ライたちは現在、神かもしれないという女性を尾行していた。

 なるべく見かりにくい位置を移動しているが、実力者ならライたちの存在に気付けるかもしれない。しかしその時はその時と割り切っての行動だった。──が、リヤンに指摘されて四人は黙り込んだ。

 それから数秒間口を噤んだライはリヤンのもっともな指摘に対して言葉を発する。


「ハハ、まあそりゃそうなんだけど……簡単に言えば気分の問題だな。なるべく急いで進めた方が良いのは分かっているけど、何かこういう時って尾行したくならないか?」


 曰く、気分との事。

 ライは場のノリで行動する事も割りとある。優先事項を無視してまで行動してしまう事があるのはライ自身も理解しているが、今回のように比較的安全な追跡などは気分で行動しているのだ。


「…………」


「……!」

「「……!」」

「「……!」」


 ──次の瞬間、その女性がライたちの方向を振り向いた。ライたち五人は慌てて物陰に隠れ、かんざしを輝かせた女性は心無しか少しだけ不満そうな表情をして再び歩み出す。

 この様子から、確実にライたちの事には気付いている様子。しかし反応を示さない。その事からしてもどうすれば良いのか分からないままだ。


「今、俺たちの方を見たよな……? 思い過ごしとかじゃなくて、ハッキリと」


「うん、確実に見たね。けど、無視した。逆に誘っているのかな……?」


「その可能性はあるな。此処には人通りが多い。私たちに尾行されているという事は、何か裏があると判断するのが自然。人通りがあると色々と厄介だろうからな」


「ああ。それなら誘われてやろうか。その方が良さそうだ。今の状況からしてもな」


「うん……。でも……バレてるならもう名乗り出ても良さそうだけど……」


 気付いているならそれに乗るのが早い。人通りが問題だと考えれば、それが解決出来る場所に誘い出せれば都合が良いのはお互いにとっての事。なのでライたちはその誘いに乗る事にした。

 そもそもリヤンの言うように名乗り出ればもっと早いのだが、ライたちに尾行をめるつもりはないらしい。

 何はともあれ、ライたちは女性の尾行を続けるのだった。



*****



 そしてそれから数十分後、随分と人通りの少ない場所に到達したライたちだが相変わらず女性は何も言わなかった。時折ライたちの方を見るくらいで、言葉を発しようとはしていない。


「一向に動き出さないな……。もう人も居ない……此方の方は何度か見ているけど、ただ静かに進むだけだ」


「ああ。人通りの少ない場所という訳ではなく、もしかしたら拠点か何処かにでも誘っているのか?」


 大きな動きの無い女性に対し、ライたちは少し違和感を覚え始めた。

 違和感と言えばこの女性の存在その物がそうなのだが、それとこれとはまた別問題の違和感である。

 単刀直入に言えばエマが言うように、拠点か何処に誘っているのではないかという事。ライたちもその線が高いなと判断し、意を決したライが物陰から出て女性の方へと向かった。


「仕方無い。俺たちから話し掛けるとするか。尾行されている事に気付いていながらそれを許すってのは流石におかしいからな。まあ、確かに拠点みたいに自分の得意な領域に誘い込んでいる線はあるし、何なら俺たちの尾行に気付いていない振りでもして気を遣っているのかもしれないけど」


「気を付けて。何をしてくるかは分からないから……!」

「何かあったら私たちが直ぐにでも出るぞ。まあ、ライにはその心配も無縁だろうがな」

「得体の知れない存在なのは変わらない。気を付けるんだ」

「……。全員で行っても良さそうなのに……。まあいいかな……。ライ……気を付けて……」


 ライの事を見送るよう、レイたちが物陰から様子を窺う。ライは背中越しに片腕だけを振り、その女性の元へと近付いた。


「……。アナタ……多分俺たちが尾行していた事に気付いていましたよね? 尾行しておいてあれですけど、聞きたい事があるのですが……」


 どの様に話し掛ければ良いか分からない。なのでライは無難な入りで女性に訊ねた。

 ライに訊ねられたその女性は振り向き、


「遅い……遅いですね! 一体何時まで待たせるのですか!?」

「……。…………はい?」


 そして返された、予想だにしなかった女性の言葉。

 思わず素っ頓狂な声が漏れてしまったライは二度三度と女性の方を見て質問を続けた。


「……。その様子、どうやら話し掛けられるのを待っていた雰囲気ですね。尾行した側が訊ねるのは恐縮ですが、一体何が狙いなんでしょうか?」


「狙いも何も、私は貴方に話し掛けられるのを待っていたのですよ!?」


「えぇ……。いや、気付いていたなら別に俺たちに話し掛けても良かったのに……」


「そうではありません! 貴方でなければ駄目なのです! "殿方"の貴方でなければ!」


「殿方……男性限定……?」


 女性の怒っている理由はよく分からない。しかし何やらライ。男性でなければ駄目な理由があるらしい。何も気を遣っていた訳ではないようだ。

 疑問を浮かべるライの言葉に返すよう、女性は言葉を続けた。


「……えーとですね……この街の女性は物静かな事が美しいとされるのです。それで、女性は自分から話し掛けず、男性から話し掛けられるのを待つのです。だから、仮に後ろに居る女性方が来ていても無視をしていましたよ」


「成る程……。この街のあり方ですか」


 曰く、この街の方針として女性の美的感覚が静寂という事。話してみたらそんな感じは一気に消え去ったが、確かに静かな様子の女性は凛として美しく感じた。

 ライと話した事でそれも終わったのか、女性はレイたちに向けて話し掛けた。


「それでは、後ろの貴女達も出て来て良いですよ。殿方と同じく私に何らかの用があって後を付けていたのでしょうからね。敵意は無さそうなので話くらいは聞いて差し上げます」


 どうやら話は聞いてくれるらしい。尾行されていた事自体には不満なども無いらしく、取り敢えず話し掛けて欲しかっただけのようだ。

 なのでライは単刀直入に訊ねた。


「ならお訊ねしますけど、貴女はこの街の主力……もしくはそれに相応する者ですか?」


「ええ、そうですね。アナタ達の思っている通り、私はこの街の……主力のような存在です。まあ、つもる話もある事でしょう。良ければ私のお城にご案内しましょうか? 抜け出して城下町に来たのは良いのですけど、ある程度の事は済ませてしまいましたからね。アナタ達が何者なのか、そこでじっくりお話を窺いたいところです」


 その返答は、思った通りのものだった。

 どうやらこの女性は本当に主力だったらしく、何でもないように返す。

 それはまあいいだろう。予想していた事だ。それとはまた別の疑問にライは小首を傾げて更に訊ねる。


「良いのですか? 俺たちを城なんかに呼んでしまって。今敵意が無くとも、豹変する可能性もあるのに」


「問題ありませんよ。裏の顔を隠している者はその様な事を言わず、ただ"良い人"を演じるだけですから。今のところ、アナタ達は問題無さそうです」


 それは自分たちが城に行っても良いのかという事。確かに何者か分からない者を自身の城に誘うのは危険だ。が、しかし。女性曰く、ライたちに裏の顔は無さそうであると判断したので良いとの事。裏の顔と言えば世界征服だがこの街は対象外。女性の思っているようにこの街にとって害は無いだろう。取り敢えず問題無いと本人がそう判断したのだから特に言及する必要も無さそうだ。


「そうですか。なら、それに乗りましょう。よろしくお願いします」


「ええ。折角街に来たのですから。話が終わったらゆっくりしていってください」


 なので女性の誘いに乗り、ライたちは城へ行く事にした。

 話を詳しく聞けるのは有り難い。当然断る理由も無い。それらを踏まえこの方が都合も良さそうである。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人と一人の女性は女性の城へと向かうのだった。



*****



『それっぽい人は見つからねえな。まあ、そう簡単に出会えたら苦労はしねえんだが……』


「見つからないのが前提だったが……やっぱこたえるもンはあるな」


「歩いているとバッタリ出会でくわす……的な感じも少しは期待したのですけどね……」


 ライたちが街の主力と出会い、城に案内されていた頃、モバーレズたちは同じ街"ヒノモト"で主力の捜索をおこなっていた。

 しかし見ての通り、一向に進展は無いようである。それも承知の上での行動らしいが、やはり思うところはあるらしい。


「バッタリと……か。確かにそれなら良いンだけどな。そんな都合良く事が起これば苦労はしないンだが……」


「ですよね……」


『ああ。取り敢えず、少なくとも今日一日は居るんだ。今日中に見つけられるのを祈る他ねぇ』


 半ば諦め掛けているが、本当に諦める訳にはいかない。情報収集の為に来たのだからある程度は集めたいところだろう。

 なので三人はめげず、そのまま歩き出し──


「……ん? あ、モバーレズ。それに斉天大聖、ユニコー……ン、じゃなくてユニコか。三人もこの街に来ていたのか」


「……! ライ!? ーか、お前たち! お前たちも来ていたのか!?」


 ──その時、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人とモバーレズ、孫悟空、ユニコの三人が出会った。

 ライたちの方には一人の女性もおり、その女性にモバーレズたちは話し掛ける。


「それで……誰だそいつは? 見た事ねェツラだが、新しい仲間が増えたのか? か、また女の仲間か」


「ああいや、さっき知り合った……? って感じだな。仲間という訳じゃない。道案内をしてくれているだけさ」


「成る程な」


 モバーレズから見れば新たな仲間に思えるらしい。しかし違うのでライが詳しく説明し、女性は頭を下げてモバーレズたちに話し掛ける。


「初めまして。ライさん達のお知り合いのようですね。私の名は──と、その前に。丁度ライさんたちと私のお城に行こうとしていたのです。名前や立場は改めてそこで行いますので、良ければアナタ達も来ませんか?」


「へえ。アンタの城……アンタの城!? て事はお前、この街の主力か!?」


 "私のお城"。それを聞いた瞬間、モバーレズは二度見して女性の姿を改めて視界に収め、驚愕の表情を浮かべながら訊ねた。

 そんなモバーレズの反応を見やり、女性は言葉を続ける。


「え? はい。そうですよ。それで、どうですか? 私のお城に共に行くのは」


「どうも何も、俺たちはアンタを探していたンだ。聞きたい事があってな。返って好都合。こちらから頼むぜ。いや、頼みまス」


「聞きたい事……? ライさん達もその様ですからね。……ええ。まあ、取り敢えずお城に行きましょう」


 モバーレズたちの目的は元々、今現在目の前に居る主力。なので同行する事に断る理由はなかった。

 モバーレズたちは女性の言葉からしてライたちにも何か目的あるという事は分かっており、おそらくそれが百鬼夜行の事というのは理解している。なので今後も行動するに当たって、ライたちや女性と共に城へ行く以外の選択肢は無いだろう。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンと女性。そしてモバーレズ、孫悟空、ユニコが加わり、計九人の主力たちが城に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ