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八百二十六話 二組みの情報収集

 ──"ヒノモト・城近辺"。


「まさか、留守にしていたとはな。対応は悪くなくて、俺たちの立場からか面会までは順調だったが……その留守にしている主力が何処に行ったのかは城の者すら知らない程か」


『まあ、主力クラスってのは勝手な存在だからな。俺が言えた事じゃねえけど、そう言うもんなんだろ』


「そうですね。それに、お城で待機する事も提案されましたけど、自分たちで探した方が良いと判断して断ってしまいましたからね。悪くない人達でしたし、私たちが用事があると訊ねれば話くらいは聞いてくれる筈です」


 ライたちが着物を着終えて街の探索に向かうのと同じ頃、モバーレズ、孫悟空、ユニコの三人は訪ねた城から街に戻る途中だった。

 というのも、どうやら主力には会えなかったらしい。モバーレズたちはいずれにしても他国の主力なので無下に扱われる事は無いが、留守にしていたのなら仕方のない事である。

 その点は三人も割り切っており、押し掛けてきた身という立場的に考えて城で待たせて貰う訳にはいかず自分の足で探す事にしたのである。


『てか、本当に詳しいんだな。モバーレズ。"ヒノモト"について。少し立ち寄っただけでこんなに情報が得られるか普通?』


「ハッハ。まあ、俺は手際が良いからな。それに、自分の好みに合うモノは色々と調べたくなるもンだろ?」


「……。まあ、否定はしませんが……細かく調べ過ぎるのはどうかと……」


「問題ねェよ。つか、俺の持っている情報なンか大したものじゃない。何でも知ってたらとっくに百鬼夜行なンか見つけているからな。他人より少しだけ知っているってだけだ」


 笑いながら孫悟空とユニコの質問に返すモバーレズ。どうやら気になるもの、気に入ったモノは調べたくなるらしく、それによってこの街の事情が分かっているようだ。

 しかし流石に全てを知っている訳ではない。百鬼夜行の事は無論として、この街にはどの様な者が居るのかなどは分からぬままだからだ。

 主力のような存在が居る事は知っているが、その主力が誰なのかは分からないのがその証拠である。知っている事は神である事とその性格くらい。名前などは分からないようだ。


『成る程な。んじゃ、取り敢えずは当て無しで主力みたいな存在を探さなくちゃならねえって事か。特徴とかは知っているか?』


「いや、知らねェな。噂話のような感じだからな。性格とかは聞けるが、俺が来たのは大分前。まだ外からの侵入が許されなかった時だから詳しくは調べられなかった」


 モバーレズが"ヒノモト"に訪れたのは数十年前。その時はこの街が街を閉ざしていたので外からの観光客はおらず、聞ける情報も限られていたらしい。

 一体何故街を閉ざしていたのかは分からないが、何はともあれ当て無しで探さなければならないという事だ。


「ふむ……それを踏まえた上での行動ですか。大変な事になりそうですね」


「まあ、大変なのは今に始まった事じゃねェ。最終目標はヴァイス達の捜索。この一ヵ月の間で人間の国幹部の街にも現れているらしいし、百鬼夜行はあくまでついでだからな。ったく、俺たちの前にも現れりゃ良いのによ」


『現れる時は唐突。姿を眩ませば滅多に見せない。存在その物がかなり厄介なところだな』


 神出鬼没。それは既に理解していた事だが、ヴァイス達の存在はかなり脅威的なものである。百鬼夜行もヴァイス達の手掛かりの為に探しているが、此方も神出鬼没。この街に居るという主力に話は聞くつもりだが、内心モバーレズたちは不安そうだった。


「厄介でもやらなくちゃ世界の均衡が乱れる……いや、もう乱れ切っているか。だからこそ俺たち世界各国の主力が何とかしなくちゃならねェって訳だな」


『そうだな。俺が天界から招集されたのもこの世界を見つめ直す為。この宇宙全体でも此処の星だけは異常でな。天界の神々以上の実力者がちらほら居やがる。てか、世界の創造者であるカオスや宇宙を滅ぼせる各国の支配者。後はまあ、かつての厄災……かつての英雄。かつての創造兼破壊神。最重要な侵略者。そいつらは天界の神々が束になっても勝てる可能性が低過ぎる。何人かが手を組んだだけで崩壊するくらいだろうな。何とかそれだけは阻止しなくちゃならねえ』


「天界の事情はよく分かりませんけど、兎に角大変そうですね。と言うか、かつての厄災や英雄。神は既に居ないのではありませんか?」


『ああ……まあ、物の例えだ。要するにヴァイス達がそれに匹敵する存在。実力者って事だな。世界が傾いている事も踏まえ、危険極まりない』


 ユニコに指摘され、濁すように返す孫悟空。

 ユニコたち幻獣の国の者はライたちの事について知らない事が多い。なのである程度の事を知っている孫悟空は秘密にしているのだろう。

 立場的に言えば、一時的に協力しているだけで孫悟空にとってライたちは敵。魔王という存在がそれ程のモノなのだから当然だ。しかしまだ幻獣の国とライたちは争っていない。なので孫悟空は黙認したようだ。


「ふむ……確かに危険なのはそうですけど……何と言うか、違和感が……」


「ハッ、気にする事ァねェ。今重要なのは百鬼夜行とヴァイス達だからな。その為にも早いところ主力を見つけて情報を集めなくちゃな」


 その事に感付いたモバーレズが疑問を思い浮かべるユニコから話を逸らすように本来の目的について話す。孫悟空がライたちの敵になるかもしれないという事は分からない筈だが、ユニコたち幻獣の大半はライたちが世界征服を目論んでいる事を知らないので場の流れを読んだのだ。


「はあ……。まあ、確かにそうですね。違和感よりも前に、本来の目的を優先するべきですか」


「そう言う事だ。取り敢えず城下町に出て、さっさと主力を見つけて百鬼夜行の情報を収集するか」


 本来の目的があるのは事実。なのでユニコもそれを飲み込んだ。何はともあれ、やるべき事は決まっているのでその為に行動を起こす。

 モバーレズ、孫悟空、ユニコ。百鬼夜行を捜索する三人はそのまま下の街。城下町にてそれを続行するのだった。



*****



「特に情報は転がっていないな。どうやら幹部も居ないらしい」


「そうみたいだね。けど、街の領主は居るみたい。この街は今までの街よりも大きいし、幹部や側近じゃないだけでかなりの権力者なのかも……」


「そうだな。慕われているようだし、たまに居る勘違いした貴族や王族のような悪い者では無いようだ」


「まあ、そんな者達が稀だろうからな。貴族や王族も、余裕がある者と余裕の無い者が存在している。……しかし、この街の領主は気になるな」


「うん……」


 着物に着替え終えたライたちは"ヒノモト"の街にて情報を集めながら進んでいた。

 しかし大した情報は得られなかったらしい。一番大きな情報は幹部や側近のような主力はおらず、代わりに領主が居るという事。それだけでも十分な収穫ではあるが、ライたちからすればもう少し情報が欲しいところである。


「情報……情報か……。人が集まりそうなのは民衆演劇場……酒場……"居酒屋"って書かれているな。あと……だんご屋?」


「向こうに見えるお墓とかにも人は居るみたいだよ。居るのはお墓の方じゃなくて建物……"お寺"って言うんだっけ。そこを中心に集まっているね」


「後はまあ、現在私の歩いている大通りや城の方向くらいか。情報が転がっていそうな場所は多いな。あくまで転がって"いそう"だから本当に得られる可能性はそこそこだろうがな」


 ライ、レイ、エマの三人は人が集まりそうな場所を思い返し、果たして本当にどうなのかを考えていた。

 人が集まるなら、その人々が知る情報はそれなりにある筈。しかしあくまでこの街の者達なので外の情報にはあまり詳しくないだろう。この街の情報だけでも良いモノを得たいところである。


「取り敢えず、しらみ潰しに情報を探ってみる他無いな。何か手掛かりがあればいいけど」


「0ではないと思うけど、難しそうだね。特に百鬼夜行に至っては此処まで情報が一つも無いんだもん」


「まあ、"何か一つでもあれば良い"という感覚で行けば情報が少なくともあまりガッカリはしないだろう。何事も適当は大事だ」


「ああ。あまり得られない。そう考えて行動を起こした方が楽なのは事実だな」


「うん……」


 結論は、大した情報を得られないと前提として適当に聞いて回るというもの。意気込んで不発に終わるくらいならその様に適当な考えで動いた方が良い。確かにそうかもしれない。

 そう考えた上でライたちは行動を起こすのだった。



*****



「……。思った通りと言うべきか、予想通りと言うべきか。やっぱり情報は得られなかったな。まあ、気になる所はあったけど」


 それから数時間後、ライたちは聞くだけ聞いて回ったがやはり大した情報は得られなかったらしい。

 しかし聞いて回るうちに気掛かりの事があり、ライがそれについて呟きレイたちは頷いて返す。


「うん。百鬼夜行って聞いて訝しげな表情をした事……あと、私たち以外にも百鬼夜行を探している人達の存在……この街の主力については詳しく知れなかったけど、色々気になる事はあったね……」


「ああ。それと主力だが、この街の者達は全員が主体の名などは知っているだろうに何故教えてくれないのか」


「警戒しているのだろう。主力を倒して回るという侵略者が蔓延はびこる現在の人間の国。外からの者にそう教えられる訳が無い。……まあ、その侵略者で幹部や主力を倒しているのは紛れもなく私たちなのだがな」


 ライたちが気になったのは百鬼夜行の事を聞いた場合の街の者達の反応と同じ事を聞いていたという存在について。

 主力の情報を漏らさないのは現在のこの国の置かれた状況からして納得出来るが、百鬼夜行関連の反応には疑問点も多かった。


「……やっぱり此処は百鬼夜行の故郷だったのかな……。妖怪も伝承があるし……扱いでは神様みたいなのも居るから……」


「そうかもしれないな。今現在の情報を知らなくても、伝承か何かで知っていたならあの表情にも合点がいく」


 百鬼夜行に関する何らかの伝承があり、この街の住人は知っていた。それならライたちが"現在の百鬼夜行"の事を聞いても答えられないのは当然。そして百鬼夜行の存在自体は知っている事も納得が行くだろう。

 何はともあれ、探してみれば何かの情報はあるかもしれない。なのでライたちは改めて"ヒノモト"を探索する事にした。


「……?」


 ──そして動き出そうとした時、目の前からやって来る頭にかんざしを着けた女性が自然と視界に入った。

 何故かは分からない。格好は簪を除いたら普通であり、特別な気配も放っていない。まあ気配自体は自分の力でどうとでも出来るが、何故か気になったのだ。


「……」


 その女性はライと視線が合うと笑い掛け、優雅な足取りでその場を去る。

 そんな一連のやり取りを見やり、レイたちが小首を傾げて訊ねた。


「どうしたの? 何か気になる事があった?」


「先程の女性か……一目惚れ……は絶対に無さそうだな。……となると、何らかの気配を感じたのか?」


「確かに品のある雰囲気だ。活気のあるこの街とは、良い意味で違う。逆の雰囲気だ。あの髪飾りも高級そうだしな」


 レイたちが疑問に思うのも当然。ライが反応を示す時点で只者ではない事が確定していると言っても過言ではないからである。

 そんな三人とは裏腹に、リヤンは女性を見つめていた。


「あの人……多分……神様……」

「え?」

「「……なに?」」


 その言葉にレイ、エマ、フォンセの三人はピクリと反応を示して聞き返す。その疑問も束の間、ライはレイたちに向けて言葉を発した。


「……。リヤンの言っている事、本当かもしれないな。試しに後を付けてみるか?」


「……。うん、何も分からないよりは良いかも……!」

「ああ。どうせ何の当ても無いしな」

「ふふ、そうだな」

「うん……」


 当てが無いならその当てになりうる事を見つければ良い。少なくともあの女性は確実にただの人間ではないだろう。

 着物姿で情報収集をしつつ人間の国"ヒノモト"を探索するライたちは女性の後を付けてみる事にした。

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