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八百二十五話 購入した着物

 着物選びが始まってから数十分後、ライたちは自分の着物を選び終えて再び集合していた。全員が片手に購入した荷物を持っており、問題はなさそうな雰囲気である。


「皆色々と選んだみたいだな。早速着替えたいけど……流石に此処じゃ問題がありそうだな」


「うん。着替える場所も無い訳じゃ無いけど、数が少ないからね。他のお客さんも居るし、私たちは五人だから別の場所で着替えた方が良いかも」


「ふむ、それならついでに宿を探そう。どの道、最低一日はこの街に滞在する予定だ。探して置いて損は無いだろう」


「ああ。その方が後からこの街を探索するにしても楽に行動を起こせるようになりそうだ」


「うん……」


 しかし此処で着替える訳にもいかない。試着室などもあったが、人数が人数。ライたちは五人居るので時間が掛かってしまうだろう。なのでライたちは一先ず今日の拠点にすべき宿を探す為に行動を起こす事にした。


「他の建物……宿屋もさっきの呉服屋と同じような感じなら直ぐに見つかるんだろうけど、どうだろうな。この格好は目立つから早いところ着替えたいところだ」


「うん。宿屋なら高い建物を探せば良いのかな? この街の建物は全体的に低い物が多いから分かりやすいかも」


「そうだな。塔のような物も無く、高い建物は限られている。宿屋に暖簾のれんがあるかどうかは分からないが、取り敢えずそれっぽい建物があったらそこに入るとしよう」


 ライ、レイ、エマの言葉にフォンセとリヤンも頷いて返す。

 取り敢えず宿屋があればいい。なのでそれらしい建物、なるべく大きな建造物を中心に探す事にした。

 ライたちはザッザッと土を踏み締めて歩き、あまり大きな動きはせずに周りの様子を探る。ある店は団子屋のような飲食店に刀などをメインに扱った武器屋。民衆円劇場。店とは違うが高台には城もあり、発展はしている方だ。


「そう言えばこの街にも城はあるんだな。屋根には瓦を使っていたり形が縦長だったり他の街にある城とは少し違うけど、建っている場所から見ても城だよな?」


「そうだね。それなら幹部……もしくは王様みたいな人が居るのかな?」


「ああ。私もそう思っていたところだ。この世界に置いての城はその様な物。謂わば権力の象徴だからな。その様な人物が居ると見て良さそうだ」


「ああ」

「うん……」


 そんな城を見やり、ふとライは指摘する。城があるという事は相応の者も居る筈。それはレイも考えており、同じくエマたちも思っていた。

 此処の街が王政かどうかは分からない。しかし城がある以上、権力者が居るのは決定的。後々は顔を合わせる事もあるかもしれない。


「よっ! 伊達男のあんちゃんとべっぴんな姉ちゃんたち! その服装から観光客だね? どうだい! あっしの店に寄ってみるのは!」


何言ってやがんだ(てやんでい)この阿呆が(べらぼうめい)! オイラの店に決まってんだろう!」


阿呆(べらぼう)はおめぇでい! 商売の邪魔をしねえでくれ!」


 ライたちが周りを見ながら歩いていると、何だか難しい言葉での言い争いが引き起こされていた。と言っても客引きの為に争っているのだろうという事は見て分かる。


「……。やっぱり早いところ宿を見つけるか……観光客だからよく誘われるよ」


「うん。そうみたいだね……。本気の言い争いじゃなくて親しい人達の軽い小競り合いって感じだけど……話し掛けてくるのは目立っている証拠だもんね……」


「ふふ。確かにこれを見せられては買わざるを得なくなるかもしれないな。見世物としての言い争いだが、勢いがある」


「まあ、店側からしたら買って貰った方が良いのだろうが、強引に買わせようと言う魂胆じゃないのは好感が持てる。案外謙虚な町民性のようだな」


「うん……」


 やはり服装は変えた方が良い。それを改めて感じさせられたが、それと同時に町民性は悪くない者達という事もうかがえられた。

 今現在のこれは一種の見世物のようなもの。本気の喧嘩ではないので見ていて楽しさもある。自然と商品に手も伸び兼ねない。それが狙いなのだとしたら中々の商売人だろう。


「っと、こんな事をしている場合じゃないな。二人には悪いけど此処は去るとしよう。ゆっくりと街を見て回るのはまた後だな」


「うん。申し訳無いけど今は宿を見つける事が目的だもんね」


 二人の商売人には申し訳無さもあるが、目的が目的なので一先ずは離れる事にした。

 まずは宿を見つける。そしてこの街に合った服、すなわち着物を着る。ライたちは会釈のみをしてその店を離れた。


「おいおい、行っちまうのかよー。しょうがねえ、また今度あっしの店を贔屓ひいきにしてくれ~い!」

「アイツじゃなくて是非ともオイラの店を頼むぜ~い!」


「ハハ……明るい性格だな。この街の人」

「うん。また後で来てみようか……」


 離れると分かっても笑顔で返す。その商売根性は素直に感嘆の意を示せるものがあった。

 何はともあれ、ライたちはその店を離れて宿探しの続きに移る。


「……ん? あ、あれがそうなんじゃないか? 宿って書かれているし」


「あ、本当だ。暖簾じゃないんだね。看板かな? えーと……"日の宿"?」


 移った直後、直後と言っても数分は歩いたが、ライたちは宿らしき建物を見つけた。

 他の店と違って暖簾ではなく看板に"日の宿"と書かれており、そこが宿屋である事は一目瞭然だ。


「特に客指定とかはないな。よし、じゃあ彼処に行くとしようか」

「うん。落ち着く雰囲気の宿だね」

「ああ。これで着替えられるな。目立つのは避けられる」

「そうだな。これでゆっくりと街を探索出来そうだ」

「木の素材その物……良い雰囲気……」


 探し物が見つかったなら話は早い。ライたちは早速その宿に入る事にした。

 宿屋を探し始めて数十分。案外早くに一息吐けそうである。



*****



 ──"ヒノモト・宿屋・日の宿"。


「畳にローテーブル。そして座布団だっけ。全体的に小さく纏まった部屋だな。この扉は障子にふすまって言うんだっけか。確か"シャハル・カラズ"でも似たような物を見たな」


「そうみたいだね。受付の人はそう言っていたし、色々と私たちの街と文化が違うみたい」


「ふふ、悪くないではないか。この小さく纏まった感じ。嫌いじゃない」

「ああ。良い部屋だ。まあ、今までにも悪い部屋には出会った事も無いが、此処もそうだな」

「うん……。畳の匂い……干し草かな……? 好きな感じ……」


 宿屋の中に入ったライたちは手続きを終え、指定された部屋に来ていた。

 各々(おのおの)は感想を述べ、総意なのは小さく纏まった部屋。だが悪い感じはなかった。

 旅立った当初に立ち寄った街や"シャハル・カラズ"の景観とほぼ似たようなもの。正式名称は知らない物もあるが、悪い部屋ではなかった。


「よし、じゃあ取り敢えず着替えるか。街の探索もしたいしな」


「うん、じゃあ後でね」


 取り敢えずは着替える方向で動き出す。

 この部屋は一つの部屋ではなく幾つかの部屋で一部屋という事になっている。なので男女別に着替える事も出来るのだ。

 ライとレイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は一先ず離れ、購入した着物を身に付けた。


「どうかな?」

「良いんじゃないか? 似合っているよ」

「本当? ありがとう。ライも似合っているよ!」


 二人が購入した着物。ライは灰色を下地としてあまり目立つような物ではなく黒い帯を着けるというシンプルなものだった。レイはレイに合わせた青を下地にした物。花をモチーフとした絵柄が書かれており、全体的に明るいイメージを与える物だった。

 レイはそれを見せてライに感想を聞き、その返答に対して嬉しそうに返す。

 その横でエマとフォンセも会話を行う。


「少し動きにくい召し物だな。この着物という代物は。袖が長くて足元の丈も長い」


「もし戦闘になった場合、基本的に魔術をもちいて戦う私は問題無いが、ライ、レイ、エマ、そしてリヤンは大変そうだな」


 此方では似合うかどうかではなく、戦闘に対しての話し合いをおこなっていた。

 魔術が主体のフォンセは兎も角、物理的な力を扱うライ、レイ、エマの三人。そして幻獣・魔物の力を使う場合は物理主体で戦うリヤンは確かに戦いにくそうな雰囲気だ。


「でも二人も似合っているよ。二人のイメージにピッタリ!」


「そうか?」

「まあ、レイがそう言うなら」


 戦闘は捨て置き、レイは二人の着物を褒める。

 エマが購入した着物は黒の下地に黄色と赤の花模様。まさしくヴァンパイアであるエマに合わせたような色合いだった。血溜まり、もとい池に居る鯉の着物は気に入っていたようだが選ばなかったらしい。

 そしてフォンセの着物はシンプルに黒と白の色彩であり、絵柄になっている蝶はその色も相まって幻想的な美しさを醸し出していた。どうやら龍や虎は居ないらしい。


「勿論、リヤンもとっても可愛いよ!」

「……そう……?」


 そしてレイは視線を移し、リヤンの着ている着物に着目した。

 リヤンの着ている着物は水色を主体とした物であり、月を模した柄だが兎は居ない。大人しく美しいという事からリヤンのイメージに良いものだった。しかしエマ、フォンセと同じくレイに見せた物は選ばなかったようだ。

 ともあれ、レイたちの着物は何もこの街の貴族が着る十二単じゅうにひとえではない。普通の街娘の着物である。ライも正装のような着物ではなく街に居る人々が普通に着ている物。これなら街に紛れる事が出来るだろう。


「よし、じゃあ取り敢えず街の探索に向かうか。幹部の有無の確認が優先だな」


「うん。この服装も戦いには向かないかもしれないけど、案外自由が利くから動きに不自由は無さそうだしね!」


「そうだな。動きにくいと言ったが、普通に行動を起こす分には問題無い。まあ、戦いには不向きだからなるべく戦闘は避けたいところだがな」


「ああ。平和そうな街並みだが……この街だからこその懸念や不安もある」


「うん……。百鬼夜行の事とか……」


 各々(おのおの)でこれからの行動を話す中、フォンセとリヤンの告げた言葉にライたちは頷いて返した。


「ああ。ぬらりひょんが言っていたからな。"シャハル・カラズ"に似た街から来たって。この街の発展から見てぬらりひょん達──百鬼夜行が牛耳っていた訳じゃ無さそうだけど、何らかの関係性がある……もしくは此処が故郷なのかもしれない」


「うん。魔族の国に居たり"終末の日(ラグナロク)"に参戦してたりで今この街に居るのかは分からないけど、危惧はしていた方が良いかもね……」


「百鬼夜行が居たら戦わざるを得ないかかもしれないな。まあ、ヴァイス達のようにおおやけに出て悪事を働いている訳ではないが、それでも因縁があるからな」


 ぬらりひょん率いる百鬼夜行。と言っても"終末の日(ラグナロク)"以降はその行方を眩ましているが、此処が故郷であるのなら居る可能性はあるだろう。

 こらから街の探索をするつもりではあるが、その時の為に備えて置いて損は無さそうである。


「幹部の存在以外にも、百鬼夜行の事について調べてみる必要はありそうだな。いざという時があるかもしれない。って言うかいざという時は割りと頻繁に来るからな」


「うん」

「「ああ」」

「うん……」


 街の探索ついでに、百鬼夜行の事も気に掛ける事にしたライたち五人。戦闘が行われるかどうかは向こうの出方次第だが、百鬼夜行が居るとなれば高確率で争いは避けられないだろう。

 普段の服装から着物に着替えたライたちは、改めて"ヒノモト"の街を探索するのだった。

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