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八百二十三話 人間の国・独特な雰囲気の街

 ──"人間の国・????"。


『それで一週間経ったが……相変わらず情報は掴めないな。どうする? 今日で帰るのか?』


「まあ、そうなるな。と言っても今日一日調べて、この一ヵ月間みたいに何も起きなかったら明日の早朝につって感じだ。厳密に言えば、街を去るのは明日って事になる」


「この街の者達が百鬼夜行の存在を知っていたというのも情報と言えば情報ですからね。致し方ありません。私は一ヵ月間ずっと人化していたので早いところ元の姿に戻りたいところですけどね」


 木造建築物と青々と繁った街路樹。街を流れる川に挟まれた土の道にてヴァイス達の事を調べる為に百鬼夜行の捜索を行っているモバーレズ、孫悟空、ユニコの三人は一週間が過ぎた現在、そろそろこの街を発とうかと考えていた。

 だが現在の時刻はようやく日が昇り始めたくらいの早朝。今日一日は変わらず情報収集を行い、明日の朝に去るらしい。


「けどまあ、人通りが無いこの道も悪くねェ。この一月ひとつきで何回も見た道だが、なンーか、新鮮さがあるな」


『お前は本当にこの街を気に入っているんだな。確かに景観は悪くないが……一月も滞在する予定じゃなかったんだがなあ』


「それも仕方の無い事ですよ。状況が状況ですので。時折この街に流れ着く新聞でもライさんたちとヴァイス達の情報は流れて来るのですけど、百鬼夜行は何の噂もありませんね」


 鳥のさえずり、穏やかな夏の風。揺らぎざわめく木々。擦れる葉。流れる川。土を踏み締める三人の足音。それらも相まり、この街の環境は良いものだ。誰も起きていない時間帯という事もあって朝特有の静けさもあり、この街には落ち着く空間が形成されていた。

 それで百鬼夜行の情報が掴めれば万々歳なのだが、魔王の力でも無い限り自分に都合の良い事はそうそう起こらないらしい。三人は一向に進まない調査からそれを実感していた。


「こうなったら、この街の長にでも訊ねてみるか?」


『長?』

「その様な者がいらっしゃるのですか?」


 モバーレズが唐突に発した、街の長という言葉。それが初耳だった孫悟空とユニコは小首を傾げて訊ね、モバーレズは頷いて返す。


「ああ。この街は支配者直属の街じゃねェから幹部や側近のような立場の者は居ないんだが、幹部や支配者に匹敵する存在は居るンだ。まだ会った事はねェけど、多分、会えばお前たちも分かると思うぜ? なンたって立場的には神と同じだからな。寧ろ俺より斉天大聖。お前の方が話を通しやすいかも知れねェ」


『神か。基本的に神は自由気儘だからな。気が滅入る』


 モバーレズ曰く、この街は支配者直属の街ではないので幹部クラスは居ないが、幹部。もしくは支配者に匹敵する実力を有している神は居るらしい。しかし孫悟空からして、神という存在は自分勝手な者も多いと知っているのであまり会いたくなさそうだ。かつて天界に戦争を吹っ掛けた孫悟空自身もそうなので通じるものがあるのだろう。

 そんな態度を示す孫悟空に対して、モバーレズは笑って返した。


「ハッ、そう案ずるなよ。聞いた話じゃ謙虚な性格らしい。本人の伝承にもそう言うモノが多いからな。まあ、その神は今が初代なのか二代目なのか三代目なのかは分からねェけど」


『……。まあ、確かに長なら百鬼夜行についても知っているかもしれねえな。手掛かりが何もないのは事実。一ヵ月燻った現在。今更どうこう言ってられねえか』


「そうですね。当てがあるならそちらに向かった方が良さそうです」


 当てはそれしかない。それならそこに向かうのが一番だろう。あくまで百鬼夜行はヴァイス達への手掛かりの為にしか探していない。だからこそ時間は掛けていられないのだ。

 この一ヵ月は一つの街に居座れる期間の限界。なので何も掴めないなら潔く下がるのも手。この街の長が何も知らなかった場合、街を出るしか無いだろう。

 モバーレズ、孫悟空、ユニコ。早朝の静かな街にて、三人は次の行動を決めた。



*****



 人間の国"フィーリア・カロス"から一週間が過ぎたある日の朝。今日という日が始まってから日が昇り、数時間が経過していた。

 そんな穏やかな朝方、ライ、レイ、フォンセ、リヤンの四人はテントの中にて微睡みから目覚めた。


「おはよう……レイ……フォンセ……リヤン……」

「おはよー……ライ……フォンセ……リヤン……」

「挨拶……ご苦労……ライ……レイ……リヤン……」

「……。……おはよう……ライ……レイ……フォンセ……」


 今日の目覚めはまずまず。ライたち四人は眠そうな目を擦り、挨拶を交わして暫しボーッとする。

 ある程度頭が冴えてきたところでライはレイたちに話し掛けるよう言葉を発した。


「あれから一週間……今回は夢を見なかったな」

「うん……。けど、元々一週間から二週間くらいのペースだったからこんな日もあるんだね……」

「まあ、そう言う事もあるさ……。ふわぁ……」

「……。……うん……」


 まだ寝惚けている様子の四人は、今回夢を見なかった事を気に掛けていた。

 今までのペースからそろそろ夢の続きを見ても良さそうだが、夢を見る間隔が一、二週間と言うだけで決まってはいない。なのでまだ頃合いでは無いのだろうと判断する。

 その後完全に目を覚まし、テントの外へと四人は向かった。


「ふふ、起きたか。おはよう。ライ、レイ、フォンセ、リヤン」


「ああ、おはよう。エマ」

「おはよー、エマ」

「挨拶、ご苦労。エマ」

「……おはよう……エマ……」


 テントの外に出ると同時に掛かるエマの声。それに対してライたち四人は挨拶を交わした。

 そのまま何時ものように朝支度、朝食、テントの片付けなどその他諸々を終えて旅の準備を終えた。


「さて、残る幹部はそれなり。早いところ他の街にも行くとしようか。ヴァイス達も何らかの事を考えているだろうし、のんびりはしていられないな」


「うん、そうだね。……けど、基本的に幹部の街同士は結構離れているよね? それなりの速さで進んでも最短で一週間近く。あとは二、三週間くらいだから……。急ぐって言ってもどうやって?」


「ああ、勿論考えているさ」


 世界最強を謳われる人間の国の旅も終盤に差し掛かって来ている現在。ライはヴァイス達の事もあって旅のペースを少し上げる方向で話していた。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人もそれは理解しているらしいが、レイがどの様な方法で急ぐのかを訊ねる。

 自分たちの移動速度を上げる。今までのように闇雲に進まず目的地を決める。急ぐ方法は様々だが、厳密な方法が知りたいようだ。なのでライは頷き、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人を一気にかかえた。


「え? もしかしてこれって……」

「また、こんな感じか……」

「……。まあ、確かに手っ取り早い。当てが無くとも魔王の力が作用すれば都合の良い街に辿り着けるからな……」

「……。…………」


「そう言う事。前にもやったみたいに、飛ばして行くぜ!」


 刹那、四人を抱えたライは踏み込み、大地を砕く勢いで加速した。

 今までも何度かこの様な移動をしている。なのでレイたちはすんなりと受け止めたがその速度は凄まじく、大きな風圧に煽られて数秒間呼吸が苦しくなった。


「取り敢えず街に着くまでの辛抱だ!」

「……っ。自分でもこれくらいで動けるけど……運ばれる感覚は慣れないなぁ……!」

「ああ……特に私はこの中で素の速度が遅いからな……呼吸などは問題無いが、目が回る……」

「……自分で動くのと今のように進むの……何故こうも違うのだろうな……!」

「……っ。…………!」


 音速、第一宇宙速度、第二宇宙速度、第三宇宙速度、どんどん加速し、衝撃波を放ちながら鬱蒼と草木が生い茂る森の中を駆け抜けて行くライたち。主にライ。

 レイたちもこれくらいの速度なら戦闘時に出しているが、それとこれとは根本的に違うのでイマイチ慣れないのだろう。自分で動くのと他人に運ばれるのではこの違いが当たり前だ。

 ライたちが目覚めて一、二時間。その短時間で幹部や主力の居る街を探す為、ライたちは超高速で森の中を進むのだった。



*****



「……! お、何か街みたいなところに着いたぞ」

「……そ、そう……」

「……それは……良かったな……」

「う、うむ……」

「……。…………」


 走り出して数分後。街のような面持ちの場所が見え、ライは急停止してレイたちを優しく降ろした。

 レイたち四人は疲弊しており、ライの言葉には空返事で返す。そんなレイたちを余所にライは改めて街を見やり、率直な感想を述べた。


「この街……魔族の国にあった"シャハル・カラズ"に似ているな。……いや、モバーレズは"シャハル・カラズ"をとある街に似せたって言っていたな……。そのモチーフの街か?」


 ライの視界に映った街は木造の建築物が多く、道は石畳ではなく土その物があらわになっている物だった。

 街路樹には夏特有の青々しい葉が茂っており、花弁は無いが幾つか桜の樹も見える。

 街の中心には川が穏やかに流れており、賑わいを見せる街の人々は着物を着ており刀などの武器を携える者も何人か居た。


 ──そう、その街はまるで、魔族の国幹部のモバーレズが居た"シャハル・カラズ"にそっくりなのだ。

 それと同時にライはモバーレズの参考にしたという言葉を思い出し、この街が"シャハル・カラズ"の参考になったモチーフの街という事は即座に気付く。だからこそ、景観や独特の雰囲気に対して特に驚きはしなかった。


「街の名前は……。変わっているな。名前の間に区切りが無いや。──"ヒノモト"って言う街か」


 ──人間の国、落ち着く景観と賑わいを見せる、独特の雰囲気をかもし出している街"ヒノモト"。

 今までに寄った世界の全ての街と違って街の名に区切りの無い様子。街の景観は慣れている方だが、その名には新鮮さがあった。


「取り敢えず……行ってみるか、"ヒノモト"に。……それで、レイ、エマ、フォンセ、リヤン。大丈夫か?」


「うん……平気。落ち着いてきたよ。確かに"シャハル・カラズ"そっくり……。モバーレズさんは本気で再現しようとしたんだね」


「そうだな。私も目が回ったくらいだから問題無い。……して、はてさて、果たしてこの街に幹部は居るのか」


「まあ、この目で確かめてみない事には始まらなさそうだ。体調も戻った。探索する余裕はあるさ」


「うん……。どんな街か……楽しみ……」


 どうやらレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人の体調も戻ったらしい。元凶はライだが、やはり四人とも回復力が高いのだろう。それは何よりである。

 そんなレイたちも"ヒノモト"の景観を視界に収め、確かに"シャハル・カラズ"と瓜二つである事を理解していた。モバーレズに話は聞いていたのでモバーレズが憧れる此処はどの様な街なのか、他の街とは違った意味で楽しみのようである。


「よし、満場一致みたいだな。……んじゃ"ヒノモト"に行こう」


「うん」

「「ああ」」

「うん……」


 ライの言葉に返し、体調の戻ったレイ、エマ、フォンセ、リヤンが先を行くライに続く。

 人間の国、"フィーリア・カロス"をってから一週間。少し急ぐ為に高速で移動した結果の果てに辿り着いた街、魔族の国"シャハル・カラズ"のモデルになったであろう街"ヒノモト"。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は早速"ヒノモト"探索に移るのだった。

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