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八百二十二話 美の女神の街・終結

 ──"人間の国・某所"。


『そっちは見つかったか?』

「いいや、手掛かり無しだな。此処に来て早三週間……何も見つからねェや」

「本当に百鬼夜行の情報はあるのでしょうか。そもそも居ないのでは……」


 人間の国、落ち着いた街並みの場所にて、モバーレズ、孫悟空、ユニコーンが人化した姿のユニコの三人が未だに百鬼夜行の情報を収集していた。

 しかし何も情報は掴めておらず、百鬼夜行が本当に居るのかすら分からない状態が続いている様子だ。


「だが住人も……何も知らないって訳じゃ無さそうなンだよな。百鬼夜行って名を聞いたら全員が訝しげな表情をしていた」


『その事からするに、存在はしている……だが、姿だけは見せていないという事か』


「難しい問題ですね。存在している以上、この街を離れる訳にはいきませんが……だからこそ見つからないというジレンマ。どうするべきでしょうか」


 大地を踏み締め、木造建築物の様子を見渡しながら進む三人。服装もこの街に合わせた着物となっており、街に馴染み違和感無く進む事が出来ていた。

 人間の国なので魔族であるモバーレズや幻獣である孫悟空、ユニコの存在は少し心配だったがどうやら問題は無いらしい。


『けどまあ、この着物ってのは少し動きにくいな……。まあ、俺の戦い方は基本的に如意棒か妖術だから機敏性はあまり必要としていないが……モバーレズ。刀を扱うお前は少し辛いんじゃないか?』


「ハッ、問題無ェよ。此処は一度来た事がある街だからな。その時着物を来ているし、俺の着ている着物は機敏性も重視している。袖も案外邪魔にならねェし、もし百鬼夜行に会っても関係無ェな」


「着物……優雅さを追求した静なる美を象徴とする衣服……。私も好きですよ」


 街へ紛れる為に身に付けている衣装だが、孫悟空は普段の軽装より動きにくい事を気にしていた。

 袖などが長く裾も長い。機敏性を重視している孫悟空にとっては気になるところなのだろう。対するモバーレズとユニコ。モバーレズは一度着た事があるらしいので気にしておらず、ユニコも着物を気に入っていた。


「まあ、長居をするのはあまり良くなさそうだな。この三週間で百鬼夜行について色々と聞いて回ったからな。俺たちの事も少しは噂になっているみたいだ。特にこの街には観光客以外黒髪が多い。お前たちは結構目立っている。ンで、百鬼夜行は良くない印象が受けられる。そンな奴等を探していたら、そりゃ嫌でも目立っちまうな。この街に来てから来週で丁度一ヵ月……他の班からは報告もねェし、自体は難航しているみたいだ。俺たちもそろそろ別の場所にった方が良さそうだな」


『その様だな。心なしか怪異の目で見られる機会が増えている様な気がする。数十年前まではこの街その物を外部から閉ざしていたみたいだが……最近は観光客も増えているらしいぜ。上手く紛れ込めると思っていたんだが、流石に三週間の聞き込みは長かったか~』


「そうですね。まあ、そんな外部から閉ざしていた街に……何年か何十年か前、モバーレズさんがどうやって観光に来たのかは気になりますけど……それは黙認しておきましょう」


 モバーレズたち三人がこの街に来てからは三週間が経過している。その三週間でこの街の者達にあまり良い印象は受けられていない百鬼夜行について聞き回っていた事からしても、そろそろ怪しまれ始めていると三人は実感していた。なのであと一週間でこの街からつらしい。

 ヴァイス達の手掛かりを探す為の百鬼夜行捜索。モバーレズ、孫悟空、ユニコの三人によるその行動は依然として続いていた。



*****



 ──"フィーリア・カロス"。


 ライたちとアフロディーテによる戦闘が終わり、既に二日が過ぎていた。

 というのも、"フィーリア・カロス"の街は大きく崩壊してしまったのでそれの修繕などをおこなった事でこの程度の時間が過ぎたのだ。

 と言ってもこの街は一度崩壊した。魔法や魔術を使ったとしても、二日でほぼ修繕が完了しているのは流石のものだろう。


「次はアレを彼処に持って行け。これはそれ。それは此処。彼処には何やかんや。後は適当にな」


「人使いが荒いな……。てか、街の住人は飲み込みが早過ぎないか?」


 そんな現在、完治したアフロディーテはライたちに指示を出して街の補修を急がせていた。

 確かにライたちが主な原因ではあるが、アフロディーテも関係している筈。しかしライたちが攻めて来なければこんな事になっていなかったので文句などは言わず手伝っていた。

 そんなライは街の住人の飲み込みの早さ早はて置き、それ以外にもう一つの事が気に掛かる。


「てか、侵略者の俺たちに修繕を任せてくれるんだな。ある程度の指示は出しているけど、基本的に俺たちの自由で直しているから楽で良い」


 それはライたちの行動を許可している事。

 今までは幹部の街にて戦闘が起こり、その街が崩壊した場合はライたちが手伝おうとしても断られる事が多かった。もしくは簡単な作業のみだったりする。

 少なからず自分たちも関係しているので手伝えない事が逆に不満だったが、アフロディーテにそんな気は無いらしくライたちにとっては有り難かった。

 アフロディーテはゆっくりと歩み出し、軽く笑いながら二つの質問に返す。


「そうだな。話しておくか。どうせ暇だからの。さて、先ず一つ目。住人達の適応力だが、それはまだわらわが催眠を掛けている。宝帯は砕けたが、意思の弱い住人への効果は妾の美しさだけで持続中だ。……そしてこの街の修繕だが……お主たちの噂も聞いていてな。と言っても表面上だけで事実かどうかは定かではないが、基本的に悪意を持つ事は少ないらしいから任せただけよ」


 曰く、住人が意に介していないのはまだ催眠途中にあるからとの事。そしてライたちに修繕諸々を任せているのは信用に値すると判断しているかららしい。

 アフロディーテの耳にもライたちの情報は伝わっている。それだけなら本来は悪い情報しか伝わらない筈だが、幹部なのである程度の詳細は伝わっているのだ。だからこそ手伝わせているのだろう。

 アフロディーテは更に続ける。


「まあ、他の幹部共は"幹部として~"等の理由や、プライドなどから断っているのだろう。わらわもそう言うのは嫌いじゃないが、楽を出来るなら今のようなやり方が一番よ」


「成る程ね。まあ、破壊したのには俺たちも大きく関わっているし、今までは手伝わせてくれる所が少なかったから丁度良いさ。自分たちの尻拭いは自分で出来る」


 アフロディーテは他の幹部と根本的に違うらしい。

 他の幹部の場合はライたちに敗れたとして、多少は親しくなる。だが街の事は自分たちの力で行う者だけだった。

 要するにアフロディーテの場合は自分が楽を出来れば良いという考えが先行しているので関係無いのだろう。


「フム……しかしまあ、たった二日で壊滅した街を戻せるとはな。破壊だけではなく創造の方面でもこの力か。巨大な城は撤去したし、特に文句も無いかの」


「ハハ。それは良かった。アンタの事だからどんなに修繕しても許してくれないと思っていたからな」


「無論よ。許すつもりなど毛頭無いが、時間が経過している事以外に住人達の違和感を取り除けるからの。中々良い仕事をしたと褒めて遣わそうぞ」


「そりゃどうも」


 許すつもりが無いらしく高飛車な態度は変わらないが、ライたちの能力や街の修繕に関しては大目に見てくれたらしい。

 ライは瓦礫を運びつつ、白亜の道を舗装する。その近くではレイたちも作業をしていた。


「エマたちを操った事に対しては何も思っていないみたいだね……」


「まあ、私たちは侵略者なんだ。仕方の無い事だろう。アフロディーテが行っていたのはあくまで防衛だ。受け継いでいる宝帯も砕いてしまったし、私とリヤンが元に戻ったならそれで良いさ」


「確かにそうかもしれないが、少々複雑な気分だな。立場上、敵に情けを掛けられるのはあまり良くないが」


「私は気にしてないよ……。国からしたら私たちが悪役だもん……」


 仲間が操られたのは事実。なのでレイとフォンセには、立場的に仕方無いと理解はしているが少しばかり思うところがあった。エマとリヤンは気にしている様子ではないが、レイたちの心境は複雑だろう。

 そんな中、アフロディーテが優雅な足取りでライの近くから四人の元に近寄った。


「そうだ、主ら。勝負は終わった。そして街の修繕も済んだ。後はくつろぐと良い。泥塗どろまみれで汚いからの。この街にある黄金の風呂にでも浸かって汚れを落とすと良いだろう」


「え? あ、はい……」


「フン……」


 それだけ告げ、アフロディーテはこの場を離れる。唐突な申し出だったのでレイは空返事をしてしまったが、アフロディーテは特に指摘せずライの元に戻った。そもそもライの元に戻るのは少しおかしいが、互いにリーダーという立場からして積もる話もあるのだろう。


「何だったんだろう……」

「……。詫び……のつもりか? 悪役は私たちの方だと言うのに、案外律儀なんだな」

「……。まあ、何はともあれ言葉に甘えるとするか。罠が仕掛けられている可能性もあるが……問題無いと思う」

「うん……」


 何はともあれ、それをアフロディーテなりの気遣いと受け取ったレイたちは寛ぐ事にした。

 ライとアフロディーテはまだ何かを話しているので、レイたちがライに休むとだけ伝えて黄金の風呂とやらに向かうのだった。



*****



「──それで……何故ライとアフロディーテも居るんだ? ライは一向に構わないが、アフロディーテ。貴様……」


「フフ……。良いではないが。此処は美しき街"フィーリア・カロス"。美以外にも愛や性などを主張とする街だ。男と女。裸同士で付き合うのも悪くなかろう」


「貴様が言うと卑猥に聞こえるな……」

「うん……」


「俺はアンタに男女で別れているって聞いたんだけどな……」


 天井もタイルも全てが輝く黄金の湯殿からなる風呂にて、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン。そしてアフロディーテの六人が集っていた。

 なんでも本人曰く、アフロディーテの司っている事柄も相まり混浴は寧ろ推進している事らしい。なのでライも誘ったようだ。

 因みにライが居る理由は、アフロディーテにレイたちとは別で風呂に誘われていたからとの事。しかしライ本人は混浴と聞かされていなかったらしく、混浴だと知ったのは湯船に入ってから。アフロディーテが敢えて此処に誘ったようだ。


「ライと話していた事って混浴の事だったんだ……」


「確かに私たちにも男女別とは言っていなかったな。奴の狙いは始めからこの事か」


 ライたちが混浴をするのは今に始まった事ではない。ライ自身に下心がないので本人たちも気にしていないが、アフロディーテは断られるかもしれないと考えて全員に混浴の事を話していなかったらしい。


「まあ、他の客は居ないようだから別に構わないが……一つだけ許せない事がある」


 そんな湯船に浸かりつつ、フォンセはアフロディーテの方を見て言葉を続けた。


「何故お前がライの近くに居るんだ? お前、どちらかと言えばライの事は気に食わない対象だった筈だが……」


「なに、気にするな。ロクな男と会った事が少ないからな。中々良い男と判断して近寄っているだけだ」


「……アフロディーテ。アンタ少し近寄り過ぎだよ……」


「それを聞いて気にしない方があり得ないが……!」


 ライの腕を掴み、胸を押し当てて不敵に笑うアフロディーテ。ライは少し引いており、痺れを切らしたフォンセはライとアフロディーテの間に割って入った。


「フフ、いておるのか? 見たところ、お主達は皆が純粋……そろそろ色を知っても良いだろうに」


「そういう問題ではない。お前は敵だったのだからな……!」


 フォンセは立ち上がり、ライを庇うように立ちはだかる。アフロディーテも立ち上がってフォンセの胸に自身の胸を押し当て、上から威圧しつつ挑発するように言葉を発した。


「やれやれ。風呂場で敵も味方も無いだろうに。若いうちから楽しみは知っておいて損は無いぞ」


「そう言う事はお前に教わる必要は全く無い」


「フフ……別に良いではないか。いずれは知る事になるんだからの」


「性を司っているとは言え、随分と卑猥で変質な女神だな。そう言えば、その出生も切り落とされた男の神の生殖──」

せ!! それは先代アプロディーテーの逸話であってわらわではないが、同じ名を持つ事から気にしているのだ!!」


 徐々に白熱し、湯船の湯が二人の力で波を打つ。レイはそんな二人を引き離すように入り込んだ。


「ちょ、ちょっと二人とも……! 確かにライの側に居るのは嫌な気分だけど……折角戦い終わったんだから争わないで……」


「じゃあ、私たちでライを囲めば良いだろう。丁度四人。四方を囲める」


「うん……」


「フム、そちらの方が不純な気もするがの。しかし、これ以上突っ掛かればあらぬ事を言われるやも知れん……」


「あらぬも何も男性の──「止めよ!」から生まれたのは事実だろうに」


 色々と問題はあったが、一先ずライを囲むようにレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人が集ってアフロディーテからライの身を守った。

 アフロディーテは何か言いたげだったがフォンセによって止められ、何とか場が落ち着く。


「……。狭いな……レイたちは良いのか? 女性は異性に裸体を見られるのを嫌うらしいし、触れるかもしれない距離に居るのは苦痛じゃないか?」


「いや、別に問題は無いな」

「ああ。全く問題は無い」

「……。……うん……」

「何でこうなっちゃうかな……」


 ライは今の状況を気に掛けているが、二人が即答で返し、リヤンも同調するように頷いていた。

 唯一レイは恥ずかしそうにしていたが、アフロディーテに迫られるのが嫌なのは同じらしくこの場の状況を受け止めていた。


「折角の混浴だと言うのに触れ合わんのはつまらぬのう。まあ仕方無い。わらわが勧めた湯。今回は妾が引き下がるとしよう」


 それを見たアフロディーテは退屈そうにしていたが、状況が状況なので特に言及はしなかった。

 何はともあれ、"フィーリア・カロス"での湯も悪くない。ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンとアフロディーテ。六人は暫し湯でくつろぐのだった。



*****



 ──"フィーリア・カロス・近隣"。


 数時間程(くつろ)いだライたちは"フィーリア・カロス"の街から移動し、街が遠くに見える位置にある道まで来ていた。

 五人は振り向き、"フィーリア・カロス"を視線に収めて言葉を発する。


「色々あってあまり観光は出来なかったけど、綺麗な街だったな。住人達も明日には戻るらしい」


「気が付いたら三日が過ぎていたって言うのも問題だけど、街が消え去るよりは良いのかな?」


「まあ、アフロディーテと側近達が何とか纏めるだろう。あまり気にする事は無さそうだ」


「そうだな。元はアフロディーテが蒔いた種。私たちには関係無い」


「……私たちが来た事が原因だと思うけど……棚に上げて良いのかな……」


 美しい街。その名に恥じぬ美しさは確かにあった。問題が立て込んだ事もあってゆっくりは出来なかったが、また改めて来てみるのも良さそうである。


「さて、行くか。残りの幹部は後少し。もう一踏ん張りだな」


「うん!」

「「ああ」」

「うん……」


 何はともあれ、美しい街"フィーリア・カロス"での問題は全て解決した。これにて倒した幹部の数も更に増え、残る幹部も僅かだ。それを終える為、ライたちは先を急ぐ。


 まだ旅は終わらない。幹部を倒したとしても支配者が残っており、支配者を倒したとしても残っている事は多々ある。加えてヴァイス達との因縁も残っているので先は短いようで長いだろう。


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン。五人の行き進む旅は終わりに向けて続くのだった。


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