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八百十二話 一時的な決着

「こ……の……!」

「よっと!」


 隠し切れぬ怒りをあらわにして迫るアフロディーテに向け、正面から横に避けて脇腹へ蹴りを放つライ。それによってアフロディーテは吹き飛び、反転して壁となった街に激突した。


「……! 街が崩壊しておる……! 成る程……彼奴等あやつらの戦いによる余波でひっくり返ったのか……やはりかなりの実力者よのう……」


「まあ、お陰でアンタを吹き飛ばしてもあまり飛ばなくなった。それは良いかもな」


「ぬかせ、小童こわっぱが……! だが、この壁……街だった壁はわらわが利用してやろう……!」


 ライに押されている事への怒りは変わらないが、アフロディーテはそれならばとこの状況を利用する方向へ向ける。

 反射の力を展開し、自分の背後から半径数百メートルを切り出してライへ放った。


「成る程ね。念力みたいな使い方か」


 対するライは軽く腕を振るってその全てを消し去り、同時に踏み込んでアフロディーテとの距離を詰める。アフロディーテは反射の力を操り、街を周りに移動させ、緩衝材のような壁にした。

 直進するライはその壁を砕きながら進み、一瞬にしてアフロディーテの眼前に到達してその顔を殴り付けた。


「そら!」

「……ッ!」


 殴られたアフロディーテは顔がひしゃげて吹き飛び、街からなる壁を粉砕して遠方に砂塵を舞い上げる。ライはそれを追うように加速し、距離を詰めて追撃をけしかけた。


「食らうものか……!」

「……!」


 だが流石は幹部と言うべきか。迫るライに対して光弾を放って牽制し、光の爆発を起こして直撃させる。

 当然ライは無傷だがそれによってアフロディーテの姿を見失い、次の刹那に気配を感じたがそちらの方向から瓦礫が飛んで来ていた。


「そう言えば、アフロディーテは伝承でも色んなやり方で陥れたんだっけ」


 反射の力に光の力。それ以外にも様々。アフロディーテの伝承では巧みに罠を仕掛けると言うものもあり、それが反映された力だからこそあらゆる事を可能にしているのだと理解した。

 ともあれ、アフロディーテの気配は既に掴んでいる。なのでライは姿を消して街中を進むアフロディーテの位置を特定し、そちらに向けて加速した。


「場所は分かっている!」

「フッ……知られている事も分かっておるわ!」


 光弾を一気に放ち、街の一角を光の爆発で包み込む。それを砕き抜け、再びライはアフロディーテの眼前に拳を放った。


「先程から顔ばかり狙いおって……! 小癪こしゃくな!」


「……!」


 その拳をかわし、至近距離にて放つ光の爆発。それによって生じた煙の中からライは姿を現し、警戒は解かずに言葉を続けた。


「別に顔を中心に狙っている訳じゃないんだよな。偶々(たまたま)狙いやすい位置に顔があるだけで」


「お主は通り魔か何かか? だが、やはりその軽薄な態度……許せぬものよのぅ……!」


 それは、積極的に顔を狙っている訳ではないとの事。

 そう、ライは取り敢えず攻撃を仕掛けているだけ。何も美しさに自信があるならその美しさを砕き、心身共に苦痛を与えようなどという下衆な考えは持ち合わせていない。ただ単に攻撃しやすい位置にある攻撃しやすい箇所を狙っているだけなのだ。

 だがアフロディーテからすればその様な態度も気に食わないのだろう。更に瓦礫を持ち上げ、複数の光弾を生み出してライを睨み付けた。


「その肉体に直接怒りをぶつけたいところだが、しかし……お主にはどれ程の攻撃で堪えるのか分からぬからのぅ。噂に聞くと星を砕く攻撃も無傷……最低で太陽系から銀河系破壊規模の力は必要らしいが……」


「ハハ。流石に今までの事から大分俺の情報が伝わっているみたいだな。いや、まあ征服する身としては知名度が高まるのは良い事なんだけど、噂が独り歩きして極悪無慈悲な凶悪人って事になったりするのは避けたいな」


「フッ、もう既にそんなものだろう。事実、幹部を打ち倒して行くやり方は力ずくと見て良いだろうよ。それと、極悪なのか凶悪なのか統一せよ」


 刹那の瞬間に無数の瓦礫と光弾を放ち、目の前に居るライを狙うアフロディーテ。それによって連鎖するように爆発が巻き起こり、ライの身体が浮き上がって空中で更に爆発が起こった。

 その振動は街全体に伝わり、浮き上がっている街の欠片が沈んだ大地に降り注ぐ。その衝撃で辺りは粉塵に飲み込まれた。


「別にどっちでもないさ。まあ、世間一般からすれば侵略者って時点で恐怖の対象だろうけどな」


「侵略者以前に、先程の衝撃と爆発の中から無傷で姿を現すお主は元より不気味であるがのぅ。手応えが無さ過ぎて絶望的ぞよ」


 粉塵の中から無傷で姿を現したライに対しての言葉。確かにその通りかもしれない。強敵を倒した。もしくはダメージを与えたと思ったら平然と姿を現す。アフロディーテのみならず相手の視点からすればこれ程の恐怖は無いだろう。

 そんなアフロディーテに対してライは笑って返した。


「ハハ。そりゃそうさ。俺の目的とする世界征服とは違うけど、魔王というのはそう言う存在だからな。如何なる攻撃も通さず、敵を逃がさない。存在その物が理不尽にして恐怖の対象。真の英雄相手以外には常に幸運と運命が味方をする。仕舞いには真の英雄相手の時ですら幸運や運命という概念を捻り曲げて自分の味方につける。真の英雄相手以外に負ける要素は無いからな。その真の英雄だろうと勝てる可能性は薄いものだ」


「真の英雄という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしそうよのぅ。要するにお主の力は理不尽と言いたいのだろう。それも、運命を操る筈の神々ですら抗えぬ程の……のぅ?」


「まあ、そんなところだ。本人の受け売りだから間違いないと思うぞ? ……まあ、今の俺は異能無効の力以外は自分の力だけで戦っているけど」


「お主は魔王本人ではない。しかし魔王にも英雄にもなりうる資格がある……。そんな理不尽な魔王に真の英雄とやらの力が宿ればどうなるのか……考えたくもないものよ」


 魔王と英雄。この世界では馴染みの深い言葉であり、老人から乳飲み子まで知れ渡っていると言っても過言ではない存在。

 そんな存在が敵になっているというのは、侵略される側からすればたまったものではないだろう。


「まあ取り敢えず、俺の目的は幹部だからな。降参するならこれで終わりだけど」


「それはわらわが降参する事が無いと理解した上での言葉か? それとも少しでも降参するつもりであると考えておるのか? そのどちらにしても腹が立つのう」


「さっきから腹を立て過ぎじゃないか? 最高の美神って言われているけど案外短気なんだな」


「その態度が気に食わぬのだ……! 軽薄な態度に高い能力。わざと挑発しているという事は分かるが、それでも腹が立つのは仕方無かろう……!」


「そりゃごもっとも」


 光弾を放ち、目の前に居るライの周りを爆発させる。本来なら細胞一つ残さずに対象を消し去る力だがライには効かない。なのでアフロディーテはライの周りに反射の力を展開させた。


「……? これは?」

「フフ、わらわの反射術は他人に纏わせる事も出来ての。そして妾の光は妾の意思で自由に操れる……!」


 何が目的かとライが訊ねたその瞬間、アフロディーテが光を放ってライにけしかけ、その光によって生じた熱と衝撃が反射してライを包み込む。

 そう、アフロディーテの反射と光。それらは本人の意思で自由に操れる。本来なら反射される力を受け入れる事で反射の内側に通して閉じ込め、拒否する事でループさせているのだ。

 元々光なので他の反射術があればそれは容易く貫ぬける筈だが、アフロディーテの反射は透明にもかかわらず光すらをも反射させる。やはり神。様々な力が特別なのだろう。


「永遠に反射を続け、更なる力へと上昇する。無限に進化を続ける熱と衝撃に何処まで耐えられるかのう?」


「そうだな……耐えようと思えば永遠に耐えられるな。魔王の力がそう言うものだ」


「……っ」


 耐えようと思えば永遠に耐えられる。それだけ告げ、自身の周りを覆う無限反射の壁を粉砕して反射を続ける光をも砕いた。

 常人のみならず、達人クラスですら消滅し兼ねない光の力。ライにとってはそれも大した攻撃ではなく、容易く砕ける存在なのだ。

 それを見たアフロディーテには焦りの色が見え、飛び退くように距離を置いた。


「成る程。一筋縄でいかないどころか、今のままでは永久に勝てないという訳か」


「さあ、どうだろうな。アンタもアンタで全力じゃない。俺は今までに色んな相手と戦ってきたからな。大体分かるんだ。そもそも、その程度の強さじゃ幹部になんてなれない筈。まあ、催眠に反射。搦手からめてが多いから純粋な力を鍛える必要が無くなって今のそれが全力に近い力って可能性もあるけど」


「気に食わんな。力はあるが慢心はしない。加えて挑発混じりの言葉で誘う。わらわの苦手なタイプよ」


「それはアンタにも言えているだろう。俺とかみたいな特異体質に備えての工夫があって強力な能力にこだわらない。強い能力を持っていると慢心している人も多い。アンタにはそれがないからな。まあそれでも、さっさとアンタを倒してエマとリヤンは助けるつもりだけど」


 互いに油断は出来ない相手。抜け目なく慢心せず力が強い。純粋な力ではライがまさっているが、それでも敵は強者である。

 なのでライは軽薄な態度は取りつつ、決して隙は作らなかった。


「そうか。しかし、お主は大変仲間を大切にしている様子。それならわらわにも考えはある」


「……。へえ?」


 手中にあるエマとリヤンを利用するかもしれないという事は分かっている。なのでライは何時でも行動に移れるように両手をフリーにし、軽く足を開いて出方をうかがった。


「それは……こうじゃ!」

「……!」


 次の刹那に光弾を生み出し、上空に放って破裂させる。それによって目映い光が"フィーリア・カロス"を照らし、ライの視界が白く染まった。


「成る程な。逃げるって方向か……!」


 あらぬ方向に放った光。その事からライはアフロディーテが一時的に撤退すると考えて即座に気配を追った。

 既にこの場からは消えており、その速度は亜光速程であると理解出来た。


「一気に離れたな……彼処あそこは……さっき轟音が聞こえた場所……! レイたちが居る所か!」


 アフロディーテの移動方向。その気配の軌跡を追い、レイたちの方向へ向かったと判断して大地を踏み砕き、自身の速度を光へと変換して直進した。



*****



「……。また突然現れたな……ライを倒したとは考えられない。撒いて来たか」


「そうみたいだね……けど、何故かエマとリヤンも私たちから引き離した……」


 ライがアフロディーテの気配を探っている頃、アフロディーテはエマとリヤンを連れてレイ、フォンセの二人から距離の置いた場所に居た。

 レイとフォンセからすれば突然現れてエマとリヤンを引き離した存在。このまま戦わせる事を望むならばその行動はしない筈と考えていたが、アフロディーテがその疑問に答えるかのように言葉を発した。


「フフ……。少々マズイと判断しての。今日は引き上げる事にした」


「なんだと? しかし、引き上げると言っても街はこの有り様だぞ?」


「問題無かろう。街がひっくり返っただけなら、それを戻せば良いだけだ」


 それを言った瞬間、街全体に反射の力を使い、反転した街を元に戻した。

 倒壊した建物はそのままだが街の地盤は戻っている。やはりこれだけの力を有しておりなお、ライ相手には本気を出していなかったという事だろう。


「街が戻っているな。アフロディーテ。アンタの力か。俺に使っていたのは全力に程遠い力だったって訳だ」


「「ライ!」」

「無事みたいだな。レイ、フォンセ」


 街が戻ると同時にライが姿を現し、建物の上から飛び降りてレイとフォンセ、アフロディーテとエマ、リヤンの前に降り立つ。

 アフロディーテライの名を呼ぶレイとフォンセを余所にその姿を見やり、そのまま笑って返した。


「そうだな。わらわの力で間違いは無い。だが、今のままではお主に勝てぬと言っただろう? それは全力を出してもという意味が込められておる。故に、少しばかり作戦を考えて一時撤退する事にした。そうだな。再戦は明日あすにしよう」


「じゃあエマとリヤンを返せよ!」


「駄目じゃ。わらわに匹敵する。もしくは妾よりも力があるであろう者達。この者達を利用してお主らを相手取る」


「させるか!」

「私も!」

「同じく!」


 エマとリヤンを更に利用するつもりのアフロディーテに向け、ライ、レイ、フォンセの三人は勢いよく飛び出した。

 アフロディーテはそれを予期していたかのように飛び退き、建物の上へと移動してライたちを見下ろす。


「案ずるな。この者達はあくまでお主達と戦わせる存在。愛と美と性を司るわらわだが、この者達を慰み者にしようなどとは考えておらん。──そうだな。一応言っておくか。幹部として、のう? では……よくぞ来た、旅の者達よ。楽しむが良い。美しき街、"フィーリア・カロス"をの」


 それだけ告げてエマとリヤンを連れ去り、この場から立ち退くアフロディーテ。玩具などにするつもりは無いらしいが、仲間の心配というものはそれ以前の問題である。ライ、レイ、フォンセの三人は歯噛みをした。


「……。仕方無い。俺たちも一旦事を改めて考えよう。下手に動いてエマとリヤンに何かあったら取り返しがつかなくなる」


「うん……。少なくとも今のうちは何もしないらしいから……明日、改めて取り返そう」


「ああ。しかし、私たちの仲間に手を出したんだ。事を簡単に済ませる訳にはいかない……!」


 人は追い詰められた時、何をするか分からない。エマとリヤンはアフロディーテにとって人質のような役割も担っているという事だ。

 ライ、レイ、フォンセとアフロディーテ、エマ、リヤンの織り成していた戦闘は、勝てないと判断したアフロディーテが逃走する事で一時的に中断する事になった。しかしライたちにも考える時間が与えられるという事。この機会を逃す訳にはいかないだろう。

 人間の国"フィーリア・カロス"。到着してから数十分の戦闘は、中断という形で一旦、今日一日だけは終わりを迎えるのだった。

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