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八百三話 禁忌の技術

 ──"ハルブ・アドゥ・マウラカ"。


「生物兵器? それは確か、世界で禁止されている技術。アナタ達がまさか本当にその様な技術を扱うとは……」


「フフ、それはマギアの魔術があるからこその技術さ。全知全能を目指しているマギアは様々な力を扱える。材料となる物達を痛め付けるのも、強化するのも、回復させるのも自由自在さ。それのお陰で材料の身体に適度な負担を掛ける事が出来る。実験には最適という訳だね」


 時刻は真夜中。"マレカ・アースィマ"から街の外へ来たハリーフは"ハルブ・アドゥ・マウラカ"に来ており、ヴァイスから侵略活動や本来の目的である選別についての事を聞いていた。

 生物兵器。それは全ての国が、世界が禁忌とした法律。国を捨てたハリーフにも思うところがあるらしい。


「世界が禁止にしたという事は相応のリスクも秘められている筈……仮に世界を消せるような存在が生まれて反逆された場合、成す術はありませんよ」


「大丈夫さ。私たちにも相応の実力はあるからね。反乱が起こったならそれに応えるだけという事さ。……それに、生物兵器の製造が禁忌の技術だとしても、後世に伝わっているのならそれが必要な力だからとも捉えられる。本当に残してはいけない技術や力なら、それこそ世界その物に消される筈だからね」


 ヴァイス曰く、禁忌とされる力が伝わっている時点で表面上のルールでしか無いとの事。

 おそらく歴史から抹消された力や技術は多々あるだろう。それを知るにはそれこそ全知にでもならなくてはならないが、少なくとも生物兵器を生み出す事柄は無問題と考えているようだ。


「そうそう。僕が創ったこの世界に禁止事項は多い。けど、今居る僕たちがそれを気にしたところで意味が無いさ。利用出来るものは有効活用する。それが一番だよ。()がそれを許可する」


「貴方は……その言葉を聞く限り神でありこのチームの主力と捉えられますね……何者ですか?」


 ヴァイスとハリーフの生物兵器に関する会話に、グラオが割って入る。そんなグラオを気に掛け、ハリーフは本人に直接訊ねた。

 その質問に対し、グラオは笑って返す。


「おっと、名乗り遅れたね。主力の存在くらいは教えておかなくちゃ今後の活動に支障をきたす。……って事で、僕の今の名前はグラオ・カオス。世間一般には混沌を司る原初の神、カオスって言うのが広がっているかな。まあ、折角だし僕の事はグラオって親しみを込めて呼んでくれよ」


「カオス……! この宇宙に何も無い時、突如として現れ、全宇宙を創造したというあのカオスですか……!?」


「だからそう言っているんじゃん。まあ、前述したようになるべく僕の事はグラオって呼んでね。カオスって知られたらそれだけで尻込みしちゃう人が出てくるだろうし、それはつまらない事だからね」


 混沌を司る原初の神カオス。その存在はあまりに強大であり、この世に存在していたのかすら危うい存在。そう、その"存在"すら不確かなものであり、確かに"存在"している。そんな神。

 ハリーフは一つの疑問が気に掛かった。


「アナタは何故この活動に協力を……?」


「んーそう言えば何でだろうね。これと言った理由は無いけど……簡単に言えば僕が楽しむ為ともう色々創っちゃったから暇だったって感じかなぁ? 適当に目に付いた人達を選んで、君達は選ばれた……的な感じでさも自分が特別だと思わせた上で僕に挑ませるとかも考えたけど、面倒臭いからねぇ。それなら世界を敵に回せるヴァイスたちとの行動を選んだって訳。今戦いがマイブームなんだ。数千年くらい」


 ハリーフの疑問に対し、グラオはただ暇だったからと告げた。

 破壊と創造。グラオはそれらを行える存在だが、闇雲に色々創るのも色々壊すのもパッとせず退屈。なので下界に降り、マイブームという戦いを行いたいとの事。

 簡単に言えば、暇潰し兼、下の者達と同じ環境で力を振るいたいという事だ。


「神様の感覚は分かりませんね。それで……ゾフル。貴方は知っていますけど……マギアさんと言われた貴女……全知全能を目指していて、目指すだけの事はあるように様々な魔術を使えるようですが……」


「ケッ、俺はスルーかよ。ま、知らねェ仲じゃねェどころか元々はこの国の主力だしな」


「アハハ。私はマギア・セーレ! ……種族はリッチだけど……それはどうでもいいよね! 気軽にマギアって呼んでね♪」


「神の次はアンデッドの王。成る程。世界を変えるにはこれ以上に無いメンバーですね」


 混沌の神カオスに続き、アンデッドの王リッチ。その存在を目の当たりにしたハリーフは驚愕を通り越して冷静になっていた。

 最後にハリーフはシュヴァルツへ話し掛けた。


「それで……失礼ですけど最後になってしまいましたね。貴方は?」


「ハッ、順番とかは気にすんな。それに、最後は大抵最重要な立ち位置だからな。俺はシュヴァルツ・モルテ。まあ、神じゃなけりゃ何かの王でもねェ。種族は……何だろうな。人間か魔族だ。多分」


 曖昧だが、確かな実力者。それがシュヴァルツの第一印象。カオスやリッチに加えてそんな存在が居る今、相応の実力者というのは感覚で分かる。

 各々(おのおの)の紹介を終えた時、ヴァイスが言葉を発した。


「さて、まあそんな生物兵器も私たちの目的の第一歩でしかない。いずれは生物兵器の完成品を生み出す事が生物兵器の実験では最終目標だね。量産型の生物兵器を大量に生み出し、何体かを完成品にする。そして選別を開始……まあ、基本的には自由なやり方が私たちの行う選別だね。だからシュヴァルツやグラオにゾフルみたいな戦う事が好きな者を主力として集めている。マギアは本人が楽しめれば良いらしいからそれで協定は成立しているよ。まあ、シュヴァルツやグラオ、ゾフルもその節があるけど。……上に立つ事を目標にしていたり、自分が周りから認められたい。みたいな野望がある者は余計な反乱因子になるだろうから選別が完了するまでは集めない予定さ。まあ、合格者は積極的に勧誘するけどね」


「成る程」


 ヴァイスの理想とする最終目標。

 生物兵器での最終目標は完成品を生み出し、本当の目的をより効率的に進める事。本当の目的は変わらず全生物の選別。その為に余計な思想や野望を持つ者はまだ率いれないと告げる。

 合格者はその様な意思を持っていても構わず勧誘するつもりらしいが、基本的に行動するのは今居るメンバーだけのようだ。


「まあ、今は犠牲が多いけど生物兵器の改良が上手く行けば私たちの誰かも生物兵器になるかもしれない。と言うより、私も生物兵器になってみたい気持ちはあるね。未完成品で不死身の肉体に鬼のような怪力。基本的な武術に魔術を使えるんだ。改良でもして超能力でも加えればより良いものになる。後は学習能力かな」


「そう簡単にいきますかね」


「まあ、焦る必要はないさ。世界を変えるんだ。変えようと思った瞬間に世界を変えられる者は限られている。気長にやっていくさ」


 ヴァイスは案外、楽観的な部分がある。地道に基盤を整え、地道に建設するようなもの。だからこそ失敗が少なかったりもする。

 まだその時じゃないと判断すれば自分に多少の利益は得、そのまま姿を消し去る狡猾さを持ち合わせているのだ。

 だからこそハリーフはヴァイスの元に付いた。ただ力で落とすのではなく、何らかの利益は与えてくれる存在。

 生物兵器。自身がそうなってまで、力になりたいという意志が生まれたのだ。



*****



『その生物兵器……本当の完成品に私はなった……ヴァイスさんが様々な力を模倣した基本型の完成品なら、私は成長によって力を得る成長型の完成品……アナタ達は……消しますよ!』


「来る……!」


 片手に携えた槍魔術からなる槍を振り回し、レイたちを狙うように薙ぐ。

 巨大な槍は流石にいなし切れず、レイたちはそれをかわした。──そして、


「……! 空間が……裂けた……!」


 ハリーフの一撃で空間にズレが生じ、その空間のズレを周りの大気が吸い込まれるように埋める。

 空間を斬るだけならレイにも出来る。強い力が概念にまで影響を及ぼすのはレイたちにとっては当たり前だからだ。

 しかしハリーフの槍魔術による脅威はその破壊力ではない。無論それもあるが、その範囲が最大の難関ポイントだった。


「リヤン。こうなったら惑星破壊程度の小規模な攻撃ではなく、本来の力により近い力を使おう……」


「うん……このままだと危ない……」


 強化されたハリーフの実力はかなりのもの。それならばと、フォンセとリヤンは先程までの力を抑えた魔王と神の力ではなく、本来のモノに近い力を使う事にした。

 そんな二人が先ず動き出した事は、


「"魔王の城(サタン・キャッスル)"!」

「"神の領域(ゴッド・リージョン)"!」


「「「…………!」」」

『「「…………!」」』


 レイを除く、エマ、ニュンフェ、シャバハ、ヘル、ハデス、ペルセポネの六人の周りに魔王と神の力からなる安全地帯を作り出した。

 魔王の魔力からなる巨大な城を模倣した建物に神の力からなる神聖な気配が漂う空間。

 ハリーフの槍魔術による壁はまだそのままだが、その上から被せるように作られた安全地帯はおそらくこのマギアの世界にて一番安全な場所だろう。

 それは近辺の数メートルから宇宙全体の範囲内にて、全ての中で一番安全という事。これなら余波に巻き込まれる危険性も少ない筈だ。


「ふむ、確かにフォンセとリヤンの創り出したこの空間なら安全そうだ」


「ええ……。ですけど、私たちではあの方に勝てないと判断されての事。少し悔しいですね……」


「ブラックさんたちは別の場所を探しているからハリーフやゾフルと此処で出会った以上、魔族としての尻拭いは俺がやるべきだったんだが……やっぱ力不足か……」


『私的には、舐められているのは嫌だけど高みの見物を出来るならそれで良いけどね。だって他の魔物と違ってそこまで戦闘好きって訳じゃないもの』


「やれやれ……私も身体さえ無事だったら此方の侵略者は倒せたんだけどな……」


「今はそんな事言っている場合じゃないでしょう。ハデス。早いところ向こうへ行くすべを見つけないと……」


 安全地帯の空間で各々(おのおの)が心境を口に出す。

 力不足を感じて悔いる者。高みの見物を楽しむ者。自身の傷を見て歯噛みする者。その傷を心配する者。

 言葉で言い表せば様々な心境だが、レイ、フォンセ、リヤンとハリーフの戦闘を見届けるという意思は全員にあった。


『数人は隔離しましたか。けど、問題ありませんね。アナタ達三人を打ち倒すだけで後の戦闘はグッと楽になります。ライや冥界の王も負傷中。アナタ達が最後の砦という事ですから!』


「ふっ、砦だって? そんなに褒めてくれて嬉しいな。……だが、ライが居る時点で、私たちは砦にもなれないさ。例えるなら外壁……門。私たちとの戦いは前哨戦も良いところだ」


「まあ、私たちも負けるつもりは無いけどね!」


「うん……!」


 槍を片手に構え、空中に無数の槍を創り出し、レイたちとの距離を一気に詰め寄るハリーフ。その速度は光の領域を越えており、一瞬も掛からずに三人に向けて槍を振るった。


「はあ!」

『小柄なのにこの力……やはり勇者の血筋という訳ですか……!』


 その槍はレイが勇者の剣で受け止め、背後の地面に亀裂が入って粉塵を舞い上げる。

 レイは飛べないのでずっと地に足を着けた状態だが、それでも何とか抑え込んだ。

 先程は周りへの影響を考えていなす方向で防いだが、今回は周りを気にする必要もない。なのでその場で防いだのだ。

 現在のハリーフの巨体からなる一撃は凄まじいものだが、勇者の力が開花しつつあるレイにとっては容易くは無いにせよ防げる一撃。そのまま勇者の剣で槍を弾き、ハリーフの体勢が崩れた。

 その隙を狙い、フォンセとリヤンがけしかけた。


「"魔王の(サタン)"……」

「"神の(ゴッド)"……」


「「──"ファイア"……!」」


 同時に放たれた炎魔術。それには太陽系を焼き尽くす破壊力が込められており、揺らいだハリーフの肉体を燃え上がらせる。それどころか、存在その物を抹消していく。

 勇者の剣を持っているレイにはそれ程の炎でも及ぶ影響は少なく、ハリーフのみを太陽系焼却規模の炎が飲み込んだ。


「さて、一気に焼き払ったが……如何程のものか」

「どうだろう……」

「……」


 その炎は暫く佇み、少し後に消え去る。レイたちは息を飲んで行く末を見守る。

 そんな場所から、ハリーフは姿を現した。


『ええ。危うく消え去るところでしたよ……しかし、生物兵器の完成品となった今……簡単には……』


「オラァ!」


『……ッ!』

「「「……!?」」」


 そして傷を負いながらも形の保った状態で出て来たハリーフに向け、何かが光の速度を超越して攻め込みハリーフの巨体を殴り飛ばした。

 重い一撃を受けたハリーフは殴り飛ばされ、複数の山を砕いて彼方へ消え去る。レイ、フォンセ、リヤンの三人は二度三度と瞬きをしてその声の主──ライの方へ視線を向けた。


「ライ……! やっぱり無事だったんだね!」


「ふっ、当たりだろう。心配なんかするだけ無意味だ。が、しかし。ライを撒けるとはな。本当に強くなっているようだ」


「うん……さっきの攻撃で終わったと思ってた……力も強度も強くなってる……」


 ライの姿を見やり、一安心したところで吹き飛ぶ前のハリーフの状態を見、やはりかなりの力を付けているのだろうと悟った。

 太陽系破壊規模の攻撃なので流石に無傷ではなかったが、それでも確かな進化を実感する。


『不意討ちですか……しかし、まあいいでしょう。始めから纏めて相手をするつもりでしたからね……!』


「ああ。俺が来たのはさっきだけど……見たところ、レイたちとアンタは長時間戦っているみたいだからな。流石にそろそろ終わらせた方が良さそうだ……!」


 ライが姿を現し、ライ、レイ、フォンセ、リヤンの四人がハリーフに向き直る。

 今、ライたちとハリーフによる戦闘に決着が付こうとしていた。

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