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八百話 レイたちvsハリーフ

 ──"マギアの世界"。


 ライとヴァイス、ハデスの戦闘が終わっていた頃、グラオ達が居なくなってもなおの事続く戦闘にて、その戦火はより広がりを見せていた。

 ハリーフは強化された魔力を込め、レイたち目掛けて解き放つ。


「"槍の花火ハルバ・アルアーブ・ナーリヤ"」


 槍魔術を上空へ打ち上げ、次の刹那に破裂させて無数の槍を降り注がせる。その一つ一つにはかなりの威力が秘められている事だろう。それが無数に降り注いでいるのだから脅威的だ。


「レイたちは下がっていてくれ。これくらいなら簡単に防げる。"魔力の傘(マジック・アンブレラ)"!」


「うん……!」


 しかしレイたちにとっては防げない技ではない。広範囲を降り注ぐからこそ、ある程度纏まれば小さな範囲で抑えられるので逆に都合が良かった。

 だが降り注ぐ槍の数は多い。防ぐ事が出来ても中々動き出せないのは辛いものがあるだろう。


『やはり簡単に防がれてしまいますか。まあ、想定の範囲内。寧ろ想定していない事が無いレベル。魔王の魔術でないなら砕けますね。"貫通の槍(ミン・ヒラル・ハルバ)"!』


 ダメージが通らないのはハリーフも同じ事。貫通力を高めた槍をもちいてフォンセが造り出した魔力からなる傘を貫いた。だがレイたちは既に行動を開始しており、槍が貫いたのは魔力の傘だけ。そこから先程までレイたちの居た足場を砕き、星一つ程の範囲を貫いていた。此処が元の世界だったならこの槍がレイたちの住む惑星の反対側に到達していた事だろう。

 やはりそれなりの破壊力は秘めているようだが、避けられない速度ではない。槍魔術の槍を避けたレイたちは一気に踏み込み、ハリーフへ肉迫してけしかける。


「やあ!」

『甘い!』


 勇者の剣を振り下ろし、ハリーフがそれを片手に持った槍魔術で防ぐ。それによって魔力の欠片が飛び散り、ハリーフは槍を薙いでレイを弾き飛ばした。

 肉体的な力も上昇しているらしく、まさか弾かれるとは思っていなかった。


「"炎の槍(ファイア・ランス)"!」

『その力なら効きませんよ……!』


 レイが弾かれたのを見計らい、遠距離から魔王の力を使わぬ炎の槍で攻めるフォンセ。

 ハリーフは複数の槍魔術を縦に生み出し、格子こうしのような壁として防いだ。さながら槍格子という事だろう。

 しかし格子なら隙間から槍が通り抜ける事も可能な筈。それが無いという事は隙間をかなり細く小さくしたようだ。


「じゃあ……大きな物なら……。"隕石メテオ"……!」


『見ての通りです。"巨大な槍(キビーラ・ハルバ)"!』


 土の魔法・魔術からなる一つの隕石を落とし、ハリーフが巨大な槍魔術を天空に突き立てて貫き砕く。その破片が周囲に降り注ぎ、目に痛い彩色の大地へ幾つかの小さなクレーターを形成した。


「大技から小技まで。様々な攻撃を防いでいますね……」

「なら、その合わせ技が良さそうね」

「それなら俺も協力するか。そうしなくちゃ俺は足手纏いだからな……! "死霊の風ルワハメイタ・リヤーフ"!」


『合わせ技も、その程度の威力なら無問題ですね。"虹の槍カウス・コザー・ハルバ"!』


 ニュンフェの水魔法とペルセポネのいばら。そしてシャバハの死霊術を合わせた力がハリーフへ迫るが、ハリーフはそれを七色に輝く槍魔術で貫き牽制。そのまま三人に仕掛け、ニュンフェたち三人はそれをかわした。


『皆の攻撃が防がれてしまっているわ。少し厄介ね。ヴァンパイア。今回は協力しましょ?』


「ふむ、その様だな。今が今……不本意だが致し方無いか」


 レイ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、シャバハ、ペルセポネ。主力たちの攻撃がことごとく防がれる現状、エマとヘルが協力して仕掛ける事に決めた。

 エマは片手に天候の一つである風を圧縮して纏わせ、ヘルの周りを瘴気しょうきの含んだ風が吹き荒れる。ハリーフはそちらを見やり、既に魔力は込め終えていた。


「ハッ!」

『ハァ!』


『手厳しいですね。"流星の槍(ネイック・ハルバ)"!』


 圧縮された風と瘴気しょうきを含んだ死の風が放たれ、それを貫くように目映い光を放つ槍がせめぎ合う。

 刹那に旋風が巻き起こり、周囲の大地を浮き上がらせてレイたちの周りに落下する。


「成る程な。確かなパワーアップはしているようだ。以前までの貴様なら全力を出さなくては止められなかった筈だからな」


『それはどうも。まあ、これでも結構力は入れているんですよね……生物兵器の肉体のお陰で疲労は溜まらず受けるダメージも少ないですけど、このまま近距離、中距離、遠距離から攻め立てられては不死身の肉体も持ちませんよ……』


 レイ、エマ、フォンセ、リヤン、ニュンフェ、シャバハ、ヘル、ペルセポネによる一斉攻撃。ハリーフはそれを全て一人でしのいだが、かなりの疲弊は蓄積しているらしい。

 それもそうだろう。先程のフォンセ、リヤンは魔王と神の力を使っていなかったが、かなりの威力がある事は変わらない。それを防ぎ切ったとは言え、相応の魔力は消費している筈だからだ。


「ふむ。それは朗報だな。つまりこのまま続ければ貴様を打ち倒せるという事だ」


『否定はしませんね』


 不死身の肉体を手に入れたハリーフにも攻撃の意味がある。それを知れただけで良い成果だ。

 なのでエマは片手に天候を纏い、刹那にそれを放出した。ハリーフは槍魔術の槍を片手に跳躍してかわし、それを放って牽制。槍は大地に突き刺さり、鮮やかな色合いの岩盤を浮き上がらせる。レイたち八人はその岩盤の上を移動して進み、同じように跳躍して空中のハリーフの元へ迫った。


「貴方も空中では動けないよね!」

『ええ。そうですね』


 レイが空中にて勇者の剣を振るい、ハリーフは槍魔術からなる槍でそれを受け止める。それによって二人は落下し、落下と同時に即座に立ち上がって構え直した。


「"火柱(ファイア・ピラー)"!」


 その上からフォンセが火柱を作り出し、ハリーフの全身を業火が包む。炎の風圧はレイにまで及び、フォンセが風魔術で移動しながらレイを抱き寄せた。


「ありがとう、フォンセ!」

「ああ、気にするな」


 レイはフォンセの身体へしがみつくように掴まり礼を述べる。フォンセはそのままハリーフから離れ、火柱に向けてエマとリヤン、ヘルが迫っていた。


「一気に焼き払う……"神の炎(ゴッド・ファイア)"……!」


「それを私達が更に増幅させる!」

『不本意だけどね!』


 火柱を飲み込むように神聖な力が込められた炎が放たれ、凄まじい熱気が世界を包み込む。その炎に向けてエマとヘルは二つの風を放って煽り、炎の威力を増幅させた。

 熱によって周囲が消え去らぬよう細心の注意は払いつつ、内部に居るハリーフを徹底的に焼き尽くす。周りに影響を少なくする為に範囲を圧縮しているが、だからこそ、その分伝わる熱量は凄まじい事だろう。


『流石にこたえますね……!』

「あ……逃げた……」


 本来なら数秒居ただけでこの世から存在その物が消え去る程の炎。何とか形を残していたハリーフがそんな火柱の中から飛び出した。

 あの業火の中でも形が残っているとは、やはり肉体の強度はかなりのものになっているようである。しかし砕かず逃げ出したという事は、槍魔術では防ぎ切れず効果的ではあったようだ。


「逃がしませんよ!」

「ああ、一人相手に大人数は思うところもあるが、テメェが選んだ道だ。悪く思うなよ。"死霊の拘束ルワハメイタ・タクイード"!」


『ええ。卑怯とは言いませんよ。卑怯という言葉を口にするのは覚悟の決まっていない愚者。もしくは無駄に正義感が強く、自分の事をこの世で一番正しいと思い込んでいる者だけですからね……! "槍の滝(ハルバ・シャッラール)"!』


 ニュンフェがレイピアを触媒に炎魔法を放ち、逃がさぬようシャバハがハリーフの拘束を死霊で試みる。

 戦争では卑怯も何もない。それを理解しているハリーフは文句を言わず滝のように降り注がせた槍魔術でそれらを防ぐ。エマとヘルのサポートを加えたフォンセの炎魔術やリヤンの神の炎は防ぎ切れないらしいが、この力は防げるようである。


「はあ!」

『……!』


 そんな槍の滝を切り裂き、ハリーフの眼前に迫ったレイが勇者の剣でその肉体を貫いた。

 貫くと同時に横へ薙ぎ、そのまま胴体を斬って引き裂く。そこから片足を軸に踏み込み、ハリーフの頭をね飛ばす。それによって噴水のような血飛沫が周囲に飛び散り、辺りは赤く染まった。


「今更だけど、正気に戻ったなら自動修復はされないのかな……」


 頭はねた。しかし正気を失って暴走していた時は、不死身を無効化する勇者の剣をもちいても体内の魔力が自動的に斬った箇所を繋ぎ止めていた。

 つまり、今のハリーフがどうなのか。それを知る良い機会という事だ。


『見ての通り、自動修復は継続中ですね。便利なものです。お陰で完全に消滅しない限りは動けますから』


 上半身と下半身。そして頭の切り口から魔力が伸び、引っ張るように修復する。不死身は無効化する勇者の剣だとしても、その場で再生されてしまえば意味が無い。

 それなら引っ張る魔力や不死身の性質の無効化を永続させるように切り裂けば良さそうだが、ハリーフの実力も相まってそう上手くはいかないのである。


「じゃあ、それも絶つしかないね!」

『やる事が出来れば……ですけどね?』

「やらなきゃ勝てない!」


 修復された瞬間、レイが更に一歩踏み込んでけしかけた。

 先程の再生を見ていたのは今のハリーフではどうなるかを確かめただけ。再生すると分かった今、再生を途中で止める他にやり方は無い。上手く行くのが難しいだけであり、出来ない訳では無いからだ。


「はっ!」

『"ハルバ"!』


 勇者の剣と槍魔術が激突して魔力を散らす。しかし槍は即座に切断され、ハリーフの腹部を掠るように切り裂いた。

 そこから鮮血が飛び散り、既に真っ赤になった足元へ更なる赤が追加される。


「……! 治らない……そうか。離れたら魔力でくっ付くけど、その場の傷は癒えないんだ。不死身の性質は無効化されたままだから……!」


『……。フム。マズイですね』


 そして、掠った傷が癒えぬ様子を見やり、レイは一つの確信へ到達した。

 そう、癒えたハリーフの傷は綺麗に切断された場合に限る。勇者の剣によって斬られた部分には不死の性質が残っていない。それは変わらぬ事実である。先程の傷が癒えた理由は、厳密に言えば癒えたのではなくただ魔力で肉同士を付けただけなのだ。

 つまり、一々頭や腕をねなければ確かな傷は残るという事である。

 それがバレ、マズイと判断したハリーフは一旦レイから距離を置き、態勢を立て直す。


「成る程。それなら簡単だ。なるべく痛め付けて動けなくしたところで一気に消し去れば良いだけよ」


『……まるで悪役の考えですね……。まあ、私も人の事は言えませんけど』


「ふふ、実際そうだろう。この場に居る明確に正義と呼べる存在はニュンフェかペルセポネ。後は一応シャバハくらいだ」


 一気に消し去ろうとしても今のハリーフは惑星破壊規模の攻撃は耐えうるかもしれない。それならばと、四肢を奪い動けなくしたところで一気に焼却すれば早く終わる話だ。

 ハリーフは強靭な脚力で跳躍し、空中にて槍魔術を形成した。


「落ちて……。"重力ジャーディビーヤ"……!」


『……ッ!』


 刹那、それを放つより前にリヤンがウラヌスの重力魔術をもちいてハリーフを重くし、地面へ引き付けるように叩き落とす。

 それによって広大なクレーターが形成され、ハリーフは身動きが取れなくなった。


『くっ……』

「悪いな。技の手数と人数の有利は最大限に利用させて貰う。"魔王の炎(サタン・ファイア)"!」

『……!』


 それでも動こうとしたハリーフに向け、フォンセが範囲を狭めた魔王の炎魔術でハリーフの右半身を焼く。

 一気に焼き払うやり方は先程失敗している。だからこそ完全に動きを止めるのが目的である。


「流石に此方側が有利過ぎたか。ふふ、少し胸が痛むな」


『全く痛んでいないように見えますね……。しかし、仮にそれが本当だとしても、此処を任された手前、私としてもそう簡単にやられる訳にはいきませんよ……!』


 エマの攻撃は通じない。なのでエマはハリーフの身体を拘束した。

 それは念力のような力を使い、近くの瓦礫で押さえ付けただけの簡易的な拘束。しかしハリーフ周りの重力は依然として強まったままなので小さな瓦礫もかなりの重さだろう。

 最も、瓦礫その物が重力に圧されて砕かれいるが。


「さて、そろそろ終わりかもしれないな。ハリーフ」


『まだです……! 生物兵器の身体を移植しただけではないのですからね……! 私の場合は学習による模倣ではなく……攻撃を受ける度に力が強くなる事ですから……!』


「そんな種類も居るんだな。初耳だ。確かに様々な実験をおこなって生み出される生物兵器。どんな能力を持っていようと別に不思議ではないが……」


 曰く、ハリーフに移植した生物兵器の力は自動進化との事。ダメージを負い、生と死の境目に入るたび更に強くなる能力。

 生物兵器に種類があった事自体が初耳のエマたちだが、ヴァイスならそれくらいの実験はしているだろうと納得はした。


『私はまだまだ……強くなる……!』

「流石にしつこいね……まだ強くなるんだ……」

「ああ。中々殺せない。無駄に生命力が高い。にもかかわらずそのダメージによって強化される。面倒極まりない相手だ」


 リヤンの放った重力魔術に適応しつつ、ハリーフの肉体が変化する。

 槍のように飛び出した半身のトゲが更に巨大化し、ハリーフの筋肉が膨れ上がるように肥大化する。魔力の流れが早くなり、その身体が生き物の領域から飛び出した。

 レイたちによるハリーフとの戦闘。それは生物兵器の性質によって更に長引くのだった。

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