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七百九十二話 死者の国の女神と冥界の女王vsマギア

 ──"幹部の塔・右側の外部"。


「周りも賑やかになって来たねぇ。うん。とっても良い感じ!」


「はぁ……これがアンデッドの王……力自体はほぼ互角だけれど、再生力がかなり厄介ね……」


『ええ、そうね。まあ、互角という部分も少し怪しいかもしれないわ。お互いにね』


 幹部の塔右側にて続く戦闘。そこではマギアが周りの様子をうかがい音を聞き、戦闘が白熱していると理解していた。

 そんなマギアを相手取るヘルとペルセポネは疲弊しており、まだ余裕のあるマギアを前にその厄介さを改めて考えていた。

 純粋な力で言えば、今は二人と互角のマギア。しかしそれはあくまで本気ではない様子の現在に限る。本来の実力は如何程のものか分からないのが本音である。


「さて、私達ももう少し楽しもうよ。今回は私もちょっと長居は出来ないからね。限りある時間で楽しまなくちゃ」


「……。何かの用事があるって事かしら? まあ、私には関係無い事ね。構わず攻めるわ」


「まあ、用事と言えばそうかな。そうならない可能性もあるけど、相手が相手。そうなっちゃう可能性はあるからね……」


 マギアの少し忙しない様子を気に掛け、ペルセポネが質問する。そしてその言葉に返した瞬間、マギアはスッと目を細め、遠くを見つめた。

 次はそれを疑問に思うヘルが訊ねるように質問した。


『……? 珍しいわね。少し表情が曇っていないかしら?』


「フフ、此方にも色々と都合があるからね。まあ、その用事は無い方が良いかも」


 質問に対して曖昧な返答をし、マギアは両手に魔力を込める。彼女達にも色々な事情はあるらしいが、それを気にする性格のヘルではない。先程の質問は純粋な疑問なので、曖昧に濁された答えでも別に構わないというのが本心である。

 マギアが力を込め直したのは事実、故にヘルとペルセポネも改めて構え直した。


「少しは力を込めようかな。守ってみなよ! "女王の炎(クイーン・ファイア)"!」


「炎は苦手だわ……!」

『取り敢えず、迎え撃たなくちゃね』


 放たれたリッチとしての炎魔術に対し、豊穣も司るペルセポネはイバラと砂をもちいて防ぎ、ヘルが瘴気しょうきの含んだ風で迎撃する。

 それらの力は拮抗し合い、茨と砂。風と炎が広がり大きな余波が周囲に流れて辺りを揺らす。本来ならそのぶつかり合いで辺りが消え去ってもおかしくないのだが、互いに全力ではないのでその様な事は起こらないのだろう。

 最も、本気なら銀河系を消し去れるマギアの力でこの程度の被害という事は本当に手を抜いている事が分かるが。


『『『…………!』』』


「……! そう言えば生物兵器の兵士達もまだ居たわね……!」


『私のゾンビ兵士達は殆ど全滅かしら? 新しいのを作って置かないと』


 そんなぶつかり合いの中、圧倒的に数の多い生物兵器の兵士達がヘルとペルセポネ目掛けて剣を振り回し、遠方から銃や矢をもちいてけしかける。

 ヘルのゾンビ兵士が応戦していた筈だが、やはり再生力の差によってある程度追い詰められ、数が不利になったようだ。

 しかし予備の死体はまだまだ残っている。この戦乱の世だ。死体が増えるこの世界はヘルにとって多くの兵士を得られるチャンス。新たなゾンビ兵士達を生み出し、生物兵器の相手を任せる。


「また貴女は……! けど、今回は仕方無いと諦めるわ……後で必ず身体の持ち主に謝罪しなさいよ!」


『分かってるわよ。別に減るものじゃあるまいし良いでしょうに』


「貴女のやり方だと減るのよ! 肉体をそのままゾンビにしているんだから! そのゾンビだった人の親族や友人がこの姿を見たら悲しむわ!」


『優しいのね。冥界の女王様。死んだ後でも役に立つなら利用しない手は無いのに。事故死でも戦死でも自害でも、死後役に立つのは良い事よ? ある意味生前より役に立っているかも』


「……っ。今回は協力しているけど、やっぱり貴女とは気が合わないわね……!」


 何処までも死体を利用する考えのヘルと死者を尊重するペルセポネの思考は相違だ。今回は今生きている兵士達や味方の為に協力しているが、同じ事柄を司っている二人だが気は合わないらしい。

 そんな二人のやり取りを余所に、マギアも力を込めていた。


「あらら。数の有利が取られちゃった。じゃあ、私も準備しようかなぁ」


『「……!」』


 そう言い、マギアが作り出したのはマギアの魔力からなるスケルトン達。

 スケルトンはガシャガシャと骨の身体を揺らし、剣などの武器を片手にゾンビ達と交戦し始めた。

 剣と剣がぶつかり合って金属音を響かせ、駆ける両者の間に敵からの砲撃と塔からの援護射撃が降り注ぎ、辺りが轟音と爆炎に包まれる。その爆炎を矢が突き切り、ゾンビ達の頭を貫きスケルトンの間接を貫き互いの動きを制止させる。そこに割り込む生物兵器の兵士達は数体のゾンビ達が抑え込み、全員で身体に噛み付いて味方を増やす。戦況はより激しくなっていた。


『言い争いをしている場合じゃないわね。そう言えば彼女も自分の手駒は増やせるんだったわ』


「その様ね。貴女の死者に対する扱いは許せないけれど、致し方無いわ……!」


 生物兵器とスケルトンに向けて瘴気しょうきの含んだ風を放ち、その動きを停止させるヘル。瘴気を含んだ風は傷を作るものではなくウイルスや病のようなもの。ある意味傷と同じかもしれないが、生物兵器の兵士達が持つ再生力とこの風は根本的に違うので再生する事なく動きを止められるのだ。

 ペルセポネもいがみ合っている場合ではないと理解し、茨をもちいて生物兵器の兵士達を拘束し、周りの掃除をしてからマギアに向き直る。

 爆風と銃声に金属音。様々な戦争の音が鳴り響く戦場にて、三人は互いに向けてけしかけた。


「そう言えばゾンビは味方を増やせるし、やっぱりゾンビごと焼き払うのが先決かな。"終わりの炎(ラスト・ファイア)"!」


『折角この世に再び"生"を受けたのだから。いきなり消すのは可哀想じゃなくて?』


「死して役目を終えた者に無理矢理"生"を与えた貴女が言う台詞かしら?」


 マギアが禁断の魔術を放ち、ヘルとペルセポネが再び受ける。

 先程の魔術はリッチとしての力だったが、今回は通常魔術よりかなり威力が高いだけの禁断の魔術。先程よりは楽に抑え込む事が出来、辺りに余波と余風が伝わり周囲に大きな砂塵を舞い上げた。

 マギアが警戒しているのはゾンビの繁殖力。それは異能の類いであり、傷口から体内に入る事でゾンビとなる現象。なので傷だけは癒える生物兵器もそれに感染すれば通常のゾンビよりも不死性が高まった状態でゾンビとなってしまう。ある意味不死身を無効化されてしまうのでマギアが警戒するのも頷ける能力である。


「別に焼き消えても可哀想じゃないと思うなぁ。だって肉体だけで動いている状態だから消滅の際に感じる苦痛が無いもんね。逆に、この世に縛り付けている状態だから消してあげるのが救いじゃないかな? まあ、生物兵器にも言える事だけど都合の良い手駒は残した方が良いからあまり消したくないけど」


『ペルセポネ。貴女はマギアとの方が気が合うんじゃない? だってほら、この世に縛り付けるのはあまり良くないって言ってるわよ。向こうの仲間に入れて貰ったらどうかしら? 私が冥界に帰して上げるわ』


「いいえ。やっぱり貴女の方が彼女と気が合うんじゃないかしら? 利用出来るモノは利用する考えですもの。向こうに付いたらどう? 纏めて倒せるのが世界の為ですものね」


 マギアの考えはヘルとペルセポネ。この二人に一致している部分がある。二人はその事を指摘するが、どちらも向こう側にはなびかなかった。


『私は嫌よ。だってもう彼女とは、彼女達とは縁を切ってるもの。お互いにお互いを利用するだけの関係だったのよ』


「私も嫌よ。人間の国の幹部として、侵略者は許せないもの。それに、万が一だけど例え彼女達がこの街を落としたとしても、人間の国にはゼウス様が居る。どんな人でも勝てる訳の無い存在よ」


 その理由は簡単。魔物の国の主力であるヘルは既にマギア達と縁を切っているので今更関わる必要が無いから。人間の国の主力であるペルセポネは人間の国の主力として国を裏切る訳にはいかないから。

 そんな二人の言葉を聞いていたマギアは肩を落とす。


「あーあ、二人にフラれちゃった。と言っても私は何も言っていなかったし勝手にフラれたんだけど、それって理不尽じゃない? 嫉妬の炎が燃えちゃうよ♪ "黒い炎(ブラック・ファイア)"!」


「……! 今までとは比にならない魔力……!」

『これは……早く対処しなくちゃね……!』


 そのまま流れに乗り、漆黒の炎を放った。

 リッチとしての魔術ではないが、先程放ったリッチとしての炎魔術よりも底知れぬ恐ろしさを感じさせる炎。ヘルとペルセポネは焦りを見せ、ヘルが最大級の力を込めて瘴気しょうきを含んだ暴風を放ち、ペルセポネが森林を急成長させて防壁とする。

 黒い炎魔術はそれらにぶつかり消滅したが確かに威力を弱め、二人が更に力を込めて何とか炎を消し去った。


「何て威力なの……。いいえ、威力や範囲自体はそれ程でもないかも……けど、当たったら最後って雰囲気の技だったわ……。……駄目ね。あの炎を表す言葉が思い付かない……」


『もしかしたら貴女の言う"当たったら終わり"ってのが一番最適な言葉かもね。純粋な威力や範囲じゃなくて、そう言う技なのかも……』


 威力や範囲は脅威的ではない。だが、当たれば確実に終わるという確信の持てた力。当のマギアは相変わらずの軽い態度だが、二人の警戒は更に高まった。


「さっすが! 見事に止められちゃったね! じゃあ次は……」


「させるないわ……!」

『同じく……!』


 炎魔術を防いだ二人を見、次の行動を考えるマギア。だが二人はそれをさせまいとマギアが動き出すよりも前に行動を起こす。

 特に策は無いが、先程のような攻撃をされるよりは無策でも相手に何もさせない方が良いと判断したのだろう。


『やれる事は少ないけど……貴女、手を貸して貰うわよ?』

「貴女と手を合わせるのはしゃくだけど、そうも言っていられないわね……。分かったわ……!」


 ペルセポネが森を生み出し、それを瘴気しょうきの含んだ風で操るヘル。森の木々を全て持ち上げ、それらを一気に放出して周りの生物兵器とマギアに狙いを付ける。

 放たれた木々は轟音と共に大地へ叩き付けられ、周りを揺らしながら生物兵器の兵士達をり潰して周囲を赤黒い血と肉の海に変える。マギアはそれを避けて行くが、次第に周りは鉄の匂いが強まっていった。


「滅茶苦茶やるね。まあ、塔の方には振動くらいしか被害が及んでいないけど、敵しか居ないこっち側は好き放題されちゃってるや」


『フフ、そうでもしなくちゃ話にならないからね。別に私は塔の誰がどうなっても構わないし、貴女が痛い目を見ればそれで満足よ』


「そう言っている割りには塔の方は風で守護しているわね……意外とちゃんとしてるじゃない」


『うるさいわね……!』


 ヘルの言葉と行動に対し、軽く笑って話すペルセポネ。ヘルは少し顔を赤くして反論し、変わらず大木の投擲とうてきを続ける。

 マギアはそれを避け続け、避けながらも魔力を片手に込めた。


「ちょっと大変かな。焼こっと。"ファイア"!」


 そしてマギアは味方の生物兵器やスケルトン。ヘルのゾンビを含めペルセポネの作り出した森林を全て焼き払う。

 味方を減らすのはあまり好ましくないと言っていたマギアだが、マギア自身がスケルトンを生み出せる事も踏まえて躊躇無く消し去ったのだ。生物兵器の兵士達は尊い犠牲である。

 ヘルとペルセポネの二人はその炎を消し去り、無傷のマギアに向き直る。


『さっきから炎の魔術しか使っていないわね。まあ、私達の力を考えるとそれが最善策だけど』


「そうね。流石に肉体そのまま冥界に連れて行く訳にもいかないし、主に荒らされちゃうからだけれど。まあ兎に角、今は豊穣の女神としての力が主な対抗手段ね。花を咲かせたりするのも良いけど攻撃は出来ないし」


 マギアが先程から使っているのは炎関連の力のみ。スケルトンなどを出したりもしたが、基本的に炎で攻めていた。

 ヘルやペルセポネの力からそれは妥当な対策であり、実際苦戦を強いられていた。二人の反応を横にマギアは言葉を続ける。


「さて、そろそろ遊びはお仕舞いかな。此方としても目的は遂行しなくちゃ」


『「……っ」』


 マギアの動きに生唾を飲み込み、二人は神妙な面持ちで構える。

 あくまで今まではマギアの遊び。それだから拮抗出来ていたとも言える。

 逆に言えば、遊びでなければ拮抗も出来ないという事。自然と表情が硬くなるのも当然だ。

 両者が相手の出方をうかがい、行動に移ろうとしたその刹那──


『「……!」』

「……。あ……」


 ──塔の方向から一つの槍が飛び出して来た。

 本人達は知らないがフォンセやリヤンと同様の物。ヘルとペルセポネはそれをかわし、マギアは軽く避けて先程までと打って変わった神妙な面持ちで塔の方向に視線を向ける。


「やっぱり……ね……。貴女達。悪いけど、今日は此処まで」


『なんですって?』

「待ちなさい!」


 何かを決心し、その場からスケルトンを残して消え去るマギア。ヘルは疑問を返し、ペルセポネが手を伸ばす。しかしもう既にマギアの姿は無く、この場には閑散とした空気と生物兵器の兵士達。スケルトン。ゾンビ兵士のみが残った。

 ヘルとペルセポネは先程までマギアの居た方角から視線を移して槍の飛んできた方角を見やり、静かに頷く。


『このまま逃がす訳にはいかないわ。あの槍も気になるもの』


「ええ。私達も行きましょう……!」


 今のマギアの行動から、先程の槍がただの余波などではないのは明白。故にヘルはこの場へ更にゾンビ兵士達を増やし、ペルセポネが森林の壁を作り出して万全の態勢を整えた後で移動する。

 ヘルとペルセポネが織り成していたマギアとの戦闘は、他の場所と同等に一時的な中断という形で終わりを迎えた。

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