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七百九十一話 リヤンvs悪神

 ──"幹部の塔・中央"。


 辺りは火の海と化していた。その火は全て同一人物からなる火であり、また新たに放出される。そしてそれを防ぐ影があり、塔の一角が砕けてそこから二つの影が飛び降りた。


『外に出てしまったか。建物内に閉じ込める事が出来れば中毒に侵す事が出来たものの』


「そんな事はさせない……!」


 無論、リヤンとロキである。

 建物の中での戦闘は、ロキの特性から一酸化炭素中毒を引き起こす危険性がある。リヤンは別に問題ないが、他の兵士達の事を考えて広い外へと飛び出したのだ。

 塔の内部に広がった炎もいずれは収まるだろう。水の魔法や魔術を使える者も何人か居る。なのでリヤンは目の前のロキと周りを蔓延はびこる生物兵器の兵士達に注意を払っていた。


『まあ、私的にもジワジワとなぶるやり方よりは力で片付けた方が良い口だ。その様な真似はしないから安心せよ』


「そう……!」


 刹那、リヤンは周りに漂う焔を消火させた。

 嘘吐きのロキが言う"しない"という言葉は半分が嘘で半分が本音。故にリヤンは塔を蒸し焼きにしようとしていた炎を消し去り、目の前のロキへと駆け出した。


「嘘吐きはダメ……!」


『いやいや、人間の国のとある場所では嘘も方便と言う言葉があるらしい。目的を遂行する為ならどんな嘘も吐いて良いという素晴らしい言葉だ』


「多分それ……少し意味合いが違うと思う……」


 嘘を肯定するロキと小さな声でツッコミを入れるリヤン。

 そんなやり取りの中、駆け寄っていたリヤンは更に踏み込むと同時に加速してロキとの距離を詰め寄った。


「けど……関係無い……!」

『物理的に攻めてくるか。私の身体が流動させると知っていてな』


 そのまま幻獣・魔物の力を込めた拳を叩き込むが、ロキは自身を炎へと変えて避ける。避けた瞬間にリヤンの身体を炎で包み込み、その炎をリヤンは水魔術で消火した。

 それによって生じた水蒸気は熱によって蒸発し、白い湯気すら残さず消え去る。二人の姿があらわとなり、リヤンは片手に力を込めた。


「"重力(ジャーディビーヤ)"……!」

『……!』


 同時に放ったのは魔族の国支配者の側近であるウラヌスの扱う重力の災害魔術。炎であろうと重力は影響する。通常の弱点の筈である水が基本的に消される事もあり、リヤンは効果的と考えて重力を強めたのだ。

 ロキの身体は炎となりながら崩れ落ち、辺りには先程までロキだった炎が広がる。これでもまだ生きているのだろうが、暫く自由には動けないだろう。


「多分まだまだだよね……」


 そう言い、更に重力を強めてロキである炎の広がる範囲を押さえ付ける。その重力によって巨体なクレーターが形成されて大穴が造り出された。

 もうほとんど動けないとしても重力は弱めない。リヤンはただ警戒して重力魔術を放ち続ける。


『やれやれ。少しは力を弱めて手加減でもしたらどうだ?』

「あ……逃げられた……」


 重力の範囲から逃れ、リヤンの背後に回り込んで片手を炎に変えるロキ。リヤンは特に慌てずそちらの方を向き、冷静に力を込め直す。


「じゃあもう一回捕まえなくちゃ……」

『お前、大人しそうに見えて意外と無情のようだな』


 リヤンは重力を正面に放ち、ロキが炎で応戦する。しかし放たれた炎は重力によって方向を変更させられ、全ての炎がロキ自身を焼き尽くした。

 しかし同じ炎である自身の肉体に焼かれるロキではなく、炎のトンネルを作り出してリヤンの眼前に迫る。


『まあ、正面から焼き払うとするか……!』

「そう言いながら四方を囲んでる……」


 正面から焼き払うと告げ、前後左右から炎でリヤンを狙うロキ。リヤンは周りを見やり、全身に力を込めた。


「それなら……"時間停止(ワクト・イッドラッブ)"……!」


『────』


 ──そして、重力の災害魔術で重力を強める事で周囲の時間を遅くし、そのまま全体の時間を停止させた。

 あくまで重力の応用による時間停止なので完全に止まった訳ではないが、静止した静寂の世界にて止まっているようなロキの目の前を通り抜け、四方から迫っていた炎を消し去る。同時に力を込め、ロキに狙いを定める。


「ここは……水……かな……"洪水(ファヤダーン)"……!」


『……!』


 完全に隙だらけとなっていたロキは水によって流され、その水ごと塔に激突した。

 災害魔術程の力だと同時には使えないのか、集中力が必要な時間停止だから使えなくなったのか分からないが洪水の災害魔術を放った瞬間に静止した世界は動き出す。しかしロキへ確かなダメージは与えられたようだ。


『一体何が……? 何故私は水浸みずびたしなのだ……?』


 だが、時間を止められていた事に気付かないロキは目の前からリヤンが消え去り、自分自身の身体が流されて塔にぶつかっていた事を気に掛ける。

 時間停止させている時に重力以外の別の力を使うと強制的に解除されてしまうが、それでも確実な一撃を入れる事が出来る。時間停止(この力)は強制解除がリスクにならない程のモノだろう。


『……。この感覚……成る程。以前にも食らった事があるな。お前も重力を操れる事からするに、時間を止めたと考えて良さそうだな。前の者と違うのはお前自身が様々な力を使える事から私へのダメージが確かに存在しているという事くらいか』


 だがロキは既にウラヌスと戦った事があり、時間停止を体験している。故に即座に見破り、辺りに炎を展開させて時間停止の対策を練った。

 停止している世界でもエネルギーは健在である。リヤンやウラヌスが動ける理由は自分の周りの重力は通常のままだからだ。

 なので他のエネルギー体の近くに時間停止を引き起こした本人が近付けば動く事もある。つまり、炎を周囲に展開させる事によって無闇に近付くと止まっていた炎が動き出すという事。それを仕掛けとする事で相手も簡単に動けぬように制限させているのだ。


『さて、なるべく早くに仕掛けなくてはな……』


 しかしロキは小さく呟き、自身を炎に変換させて消え去り即座に行動へと移る。

 そう、仕掛けとして炎を展開させたが消されてしまえば元も子もない。なので炎の仕掛けはあくまで牽制とし、自分自身が動かなくてはならないのだ。

 だからこそロキは小さく呟き、リヤンには聞こえないように注意して行動を起こす。それなら話さなければ良いかもしれないが、口が達者なロキは話す事が癖になっているので呟いてしまったようだ。


「来る……!」

『ああ、来たぞ……!』


 気配を察知し、直ぐ近くにあった炎から離れるリヤンと、同時に炎から飛び出すロキ。一瞬の差で二人はすれ違い、リヤンは片手に込めた力を一気に放出した。


「やあ……!」

『空気か……!』


 それは炎を消せる空気。風魔術と災害魔術の応用であり、炎を消せる一つの空気を圧縮して放ったのだ。

 それを見ただけで理解したロキは身体を別の炎へと移動してかわし、周囲の炎を操ってけしかける。リヤンは紙一重でその炎を避け、ロキの方向へ向き直って片手に空気を込め、その空気を放出して更に狙う。


『休む暇無しか。面倒だな』


 それを見たロキは上半身のみを炎へと変えてかわし、そのまま下半身も炎に変えて進みリヤンの眼前に迫る。遠距離からの攻撃は無意味と判断したのだろう。

 迫ると同時に炎の波となってリヤンの元へ広がり、凄まじい熱気を秘めた炎が飲み込むように覆い被さる。


「……"神の波(ゴッド・ウェーブ)"……!」

『……!』


 そしてその炎に向けて神の力からなる水の波を放出し、全てを消し去って消火させる。本体であるロキは消えなかったがその姿が露となり、勢いは止まらずリヤンはロキの腹部に手をかざした。


「"神の衝撃波ゴッド・ショックウェーブ"……!」

『……っ』


 刹那に放たれた衝撃波によってロキは吐血し、塔の方向へ飛ばされて粉塵を舞い上げる。

 衝撃波は全てロキの身体に吸収されたので塔自体は無事であり、ロキはその肉体がボロボロになっていた。


『……。それがお前本来の力か……始めから他者の能力よりもそれを使った方が良かったのではないか?』


「神様の力は破壊範囲が大きい……だから……確実な攻撃が入れられる状況で範囲を抑えなくちゃ周りに迷惑が掛かっちゃう……」


 リヤンも神の力を使えば、今のロキなら簡単ではないにせよ今よりも優位に立てるだろう。しかし護るべき対象が居る為に、その力は一点に集中させた確実な一撃としてしか使えない。

 だからこそリヤンは他の者たちの力をもちいて戦闘をおこなっているのである。

 だが、前述したような力は一点に込められているからこそ余計な破壊は少なく、かなりの威力を秘めている。ロキもそれを受け、炎による再生力が追い付かない程のダメージを負っているのがその証拠だ。


『成る程な。それなら一応、今は私が有利なのか。だが、お前やヴァイスを見ているだけでも思うな。様々な能力を持つ相手というのは厄介だ。さてどうするか』


「熱を感じる……もう既に仕込んでいるかも……」


 悩むロキを余所に、周りのエネルギーを感じるリヤン。

 五感が優れているリヤンにはロキが話ながらも何かを仕込んでいる事を見抜き、ロキの会話には乗らず仕掛けた。


「えーと……多分地面に仕掛けてるよね……こうかな……」


『……!』


 ──そしてキュリテやヴァイスの扱う超能力を使い、自分と塔周辺の岩盤を浮き上がらせて地面の底からロキの仕掛けたであろう炎を絞り出した。

 ロキは狡猾こうかつである。だからこそ一言一句を告げている時にも何らかの罠を仕掛けている。策としては正しいが、敵に回すとこれ程油断ならない相手もう居ないだろう。


『全てを破られてしまったか。打つ手が無くなったな』


「……!」


 瞬間、絞り出した炎が一気に形を変えてリヤンへ降り注ぐ。

 そう、ロキの炎は自分の意思で操れる。本人が炎の化身なので当然だ。

 その炎をリヤンはかわして行き、水などをもちいて消し去る。その隙にロキは消されなかった炎を伝ってリヤンの背後へと回り込んでおり、リヤンが振り向くよりも前に炎を放出した。


「……ッ!」


 その炎に包まれ、焼かれながら落下するリヤン。ロキは追撃を試みようと片手を炎へと変えて巨大化させ、リヤンは空中で身体を捻り身体の炎を消し去って向き直る。


「上に居るなら……"神の風(ゴッド・ウィンド)"……!」


『フッ、風を熱風で迎え撃ってくれる……!』


 空なら周りへの影響は薄い。神の風を上空に向けて放ち、ロキが放った神の炎と衝突を起こして巨大な火柱を作り出す。

 その火柱は中心から爆ぜるように散り、飛び出したリヤンとロキが多少のダメージを負いつつ向かい合った。


「やっぱり一筋縄じゃいかない……」

『その様だな。私の力もそろそろ本調子になってきた。数千年のブランク。そろそろ解消されそうだな』

「まだ解消されてなかったんだ……」


 リヤンとロキ。

 リヤンは場所による不都合。ロキは数千年のブランク。それらも相まりほぼ互角の二人は、互いの一言一句、一挙一動に警戒を払いながら向かい合う。──その刹那、


「『……!』」


 ──塔の方から巨大な槍が突き出し、二人の元へ迫った。

 リヤンはその槍を見切ってかわし、ロキは動かず炎その物の身体で流動させる。槍は尚も進み、遠方の山々を抉って彼方へ消え去った。

 槍が飛んできた方向と飛んできた槍を見やり、ロキは呟くように話した。


『フム、頃合いか。ほんの数分だったが……一応は行った方が良さそうだな。神の子孫。今回は終わりだ』


「……。……え……?」


 それと同時に炎へと変化して消え去り、辺りには燃え移った小さなほむらのみが残る。

 即座にリヤンは気配を集中し、完全にロキの気配が槍の来た方向に移ったのを理解した。そしてリヤンも槍の飛んできた方向を見やり、呟くように思案する。


「あの槍……ハリーフの……。……レイたちに何かあったのかも……」


 それはハリーフと戦っていたレイたちの心配。急激に飛び出して来た槍魔術の槍は普通ではなかった。なので何かあったと考え、リヤンは駆け足でそちらに向かう。

 リヤンとロキ。フォンセとグラオのように、此方の戦闘も中断する形で終わりを迎えた。

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