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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第五章 魔法の街“タウィーザ・バラド”
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七十八話 祭典

 ──"タウィーザ・バラド"、"魔法・魔術"披露宴"。薬草・霊草"展覧会会場前入り口。


 エマたちが向かおうとしているこの会場。そしてそんな会場の入り口前には、立ちながら様子を眺めているエマたちでは無い三つの影があった。


「……へえ? この街ではこんなもよおし物をやっていたのか……ハハ、良いじゃん。中々楽しそうだな」


「本当だね。少し寄ってみようよ?」


「賛成ー♪」


 無論、ライ、レイ、キュリテの三人である。

 この三人が街の探索に出掛けようとした時、たまたまこの会場が目に入った為に寄る事となったのだ。

 その賑やかな雰囲気を一瞥し、ようやくライから普通の笑顔がこぼれる。


「そうだな。それも良いかもしれない。散策といっても特に何をすれば良いかも分からないし……それならここに寄って伝統? を見た方が多くの事を知れる可能性が高いな」


 レイとキュリテの意見に同調するライ。闇雲に街を調べるよりはその街で行われるイベントからその街の文化を知った方が良いと考えたからである。

 この街では魔法・魔術が発達しているというのは一目瞭然。なのでその発達した文化によってどのような事を起こしているのか、征服するライにとっては詳しく知らなければならない。

 文化の違いによってすれ違いが起こり、反乱などが起こってしまったら元も子も無いからだ。

  世界を征服するというのは、ただ征服すれば良いという訳では無い。

 ライが征服それを目標に考えたときから平等に平穏を与えると先の事を見据えて考えたのだ。

 その街の文化を破壊せず、如何にして馴染ませるかが重要だった。


(……まあ、それを今考えても仕方無いか……)


 そこまで思考を走らせ、今考えるべき事じゃないと首を振るライ。今は征服についてでは無く、情報を集める事が優先だからだ。


「……どうしたの?」


 そして、傍から見れば黙っているようにしか見えないライに向けて訝しげな表情をするレイ。

 先程のとは違う意味での無言と分かっているのだが、やはり気になるのだろう。


「ああいや、何でもない。文化を知るのは大切だな……と思っていただけだ」


「……そう?」


 ライは世界征服の事を言ったらこの街の者に聞かれる可能性がある為、敢えてその部分を隠して言う。

 レイは"?"を浮かべていたが、本当に無気力だった先程とは違って引きつらせているような顔では無い為、特に突っ込まずに納得する。


「まあ、文化を知るのは本当に大切だからな。そう決まれば、早速行ってみるとするか」


 そして、"魔法・魔術"披露宴"。薬草・霊草"展覧会の会場へ向かうライ、レイ、キュリテの三人だった。



*****



 一方のエマたち三人。こちらの三人は大樹のような建物を抜け、"タウィーザ・バラド"の街路を歩いていた。

 目に付くのは相も変わらずに花弁を散らし、蝶のように舞う様々な季節の花。

 噴水の水によって月の光が屈折し、反射して七色の光をかもし出して現れる虹。

 空からは星の光が降り注ぎ、宝石を彷彿とさせる景色を生み出していた。


「ふふ……改めて見ても美しい街だな……。まあ、世界にはまだこのような街もあるだろうけどな。いや、数年後に増える可能性もあるのか?」


 その光景を眺め、フォンセは感嘆の声と共に感想を言う。

 長い間戦闘用の奴隷として闘技場でしか行動できなかったフォンセからすると、見る物(ほとん)どが初めてなのだろう。


「ああ、まだあるさ。世界は常に進んでいる。私も暇潰しに世界を見て回ったが……一回行った場所にもう一度行くと全てが変わっていた。世界は日進月歩……日々進歩しているのだろうな」


「へえ……世界は広いんだね……」


 フォンセの言葉に数千年生きてあらゆる世界を見てきたエマが返し、フォンセとは別の意味で世界を知らないリヤンが頷く。

 色んな世界を見たエマと、世界を見る事が出来なかったフォンセにリヤン。

 対照的な一人と二人だが、そんな三人が共に旅をするのは世界で何が起こるのかは分からないという事を実感できるものだ。


「そうだな。確かに広い。……まあ、そんな広い世界を手に入れようと企む者が居るのだから面白い」


 それはライの事だが、聞かれている可能性も否めないのでエマは濁すように言った。

 そして、その街並みを眺めながらそんな他愛も無い事を話しているうちに、先程見た会場に辿り着く。

 先程見た時から数分程度しか経過していないが、相変わらず魔族達で賑わっていた。


「さて……開催時間は何時だ……?」


 そしてエマは看板に目を通し、魔法・魔術の披露宴が何時から始まるのかを確認する。



『"魔法・魔術披露宴"~開催期間は……──開催時間・"日の暮れから夜明け"まで~』



「……ふむ……。つまり今夜中は常に開催している……って訳か」


 "日の暮れから夜明け"という事は、文字通り読んで字の如く、夕方から朝方までという事だ。

 一部を除き、魔族は基本的に夜行性だからだろう、日が出ていないうちならばずっと開催中との事である。


「なら、今日寄る事が出来て丁度良い……と言う事か?」


「……多分……」


 エマの後ろから看板を覗き込むフォンセとリヤン。

 確かに今日寄ると決めたのは、タイミング的に丁度良い事だろう。

 たまたまやって来た街にてたまたま祭典が行われている事と、その祭典の開催期間中の時刻だった事。それからするに、エマたちは幸運なのかもしれない。


「……なら、早速向かうとするか……」


「ああ」

「うん……」


 エマが言い、フォンセとリヤンが同時に頷く。

 そして、こちらの三人も"魔法・魔術"披露宴"。薬草・霊草"展覧会の会場へ向かう事となった。



*****



 ──"タウィーザ・バラド"、"魔法・魔術"披露宴"。薬草・霊草"展覧会会場。


 ライ、レイ、キュリテの三人は会場へ入り、そこに入るや否や視界に入って来た薬草・霊草を興味深そうに見ていた。


「"マンドラゴラ"に"モーリュ"、そして"知恵の林檎りんご"……いや、知恵の林檎りんご"ふう"に普通の林檎りんごを見立てているのか……他にも有名な薬草・霊草がある。……随分と多く育てているんだなぁ……」



 ──"マンドラゴラ"とは、マンドレイクとも謂い、有名な植物の一つである。


 マンドラゴラは"魔法"・"錬金術"・"呪術"にも使われ、その他にも様々な薬の材料となる。


 その形は人に似ており、引き抜くと同時に悲鳴のような音を上げ、人体にショックを与える。最悪の場合死に至るとも謂われている。


 様々な薬の材料になったりするが、それと引き換えに命を落としてしまうかもしれない危険な植物、それがマンドラゴラだ。



 ──そして"モーリュ"とは、魔法の力や毒を打ち消す植物である。


 かつてある島に住むとある魔女が、その島に上陸した一同に毒を混ぜた飲物を飲ませて一同を豚に変えてしまった。

 そしてその時上陸した一同の船長がリヤンの祖先とは別の神にモーリュを貰い、その魔法を消し去ったという逸話が残っている。


 便利な薬となる植物、それがモーリュだ。



 ──最後に"知恵の林檎りんご"とは、文字通り生物に知恵を与える果実である。


 知恵の樹に生えると謂われている林檎りんごで、それを食した者は"知"を得る事が出来る。


 かつて二人の人間がそれを食べた事によって人は知恵を得る事が出来たらしい。

 しかしそれは、食べる事を許されていない果実だった。


 それを食べた事によって人間は知恵を得る事が出来たが、その対価として人間は神々の楽園を追放されたと謂われている。


 あらゆる生物に知恵を与える事の出来る伝説の果実、それが知恵の林檎だ。



「本当に……随分と大層なレプリカを創った物だな……」


 "マンドラゴラ"・"モーリュ"は本物だが、この"知恵の林檎"は偽物である。

 それを理解しているライは、知恵の林檎の再現度に思わず苦笑を浮かべる。


「他のも見てみよ!」

「あ、ちょ……!」

「そうそう、疲れているならリフレッシュしなきゃね♪」


 グイッとライの腕を引き、奥へ駆けていくレイとそんなライの背中を押すキュリテ。

 やはり女性だからか、こういったイベントが好きなのだろう。

 それから他の薬草・霊草を見て回るライ、レイ、キュリテの三人。危険な植物も幾つかある為、注意しながらそれらを眺める。


「あ、ほら! こんなものも!」

「そうだな」

「あっちにもあるよ!」


 この会場に並べられているのは植物だけでは無く、この街の名産品? のような物などもあった。

 無論、数々の屋台のような物もある為にそこで食事を摂っている者達も居る。祭りとは違う雰囲気をかもし出しているが、祭りとなんら遜色そんしょくが無い。


「……へえ……屋台なんかもあるのか……。本当にただの祭りだな、こりゃ」


 ライはレイとキュリテに流され、そのまま勢いで買ってしまった知恵の林檎。もとい、赤い果実に砂糖でコーティングした食べ物──りんご飴を片手に持って屋台を眺めて歩く。


「でもこの街に来た初日にこんなもよおし物が開かれているなんて運が良いかもね。私たち」


「多分ねー。私も何度か来てるけど、この祭典が開かれているのは久々かなー? まあ、この街についての詳しい事は忘れちゃったんだけどねー♪」


 アハハー♪ とお気楽に笑いながら楽しそうに話すキュリテ。

 レイとキュリテも屋台で食べ物を購入しており、"タウィーザ・バラド"の祭り? のような行事を堪能していた。


「……てか、これってもう遊びみたいなものだよな……? 一応俺は文化を知ろうとして此処に来たつもりなんだが……」


 そして、ちゃっかりそれを満喫してしまったライはハッとするようにレイとキュリテへ言う。

 ライの目的は祭典を楽しむ事では無く、この祭典から何かしらの情報を手に入れて征服した暁に文化を壊さぬようにする事。

 にもかかわらず、ライは普通に楽しんでいた。


「まあまあ、たまには良いじゃん。息抜きも必要だよ?」

「そーそー。もっと楽しまなくちゃ!」


 そんなライに向けて、レイとキュリテが休みも必要だと言う。本来の目的は世界征服だが、その為に行動し続けるのはかなり疲労するだろう。二人はその事に対してライへと言ったのだ。


「……そうか?」


 レイとキュリテに言われ、ライは考えてみる。と、確かにライは旅立ってから息抜きのような事をしていなかった。

 通常、ライ程の年齢の者は遊び盛りというのが普通だろう。

 人間よりも遥かに寿命が長い魔族それなら尚更だ。人間も魔族も、"遊び"によってあらゆる力を養っていく。

 人間ならばよわい十四、五である程度の知識は養われている。過去に何度か述べたが、魔族にとって十四、五は生まれたばかりの赤子同然だ。

 しかし魔王の力を手に入れたライは、その魔王(元)によって通常の魔族を遥かに凌駕する能力ものを手に入れてしまった。

 知識や戦闘力を養う前にそれらを手にしてしまったのだ。

 今更それらを養う必要も無いという事で、ライは遊びよりも自分の目的を優先していたのである。


(たまには休息も必要……か……。確かにそうかもな……)


【そうだそうだ……。テメェはまだまだガキなんだからよ、ちったァガキらしく振る舞ったらどうだ? 俺の子孫もガキらしくねェし?】


 そしてライの思考に入り込む魔王(元)。

 そんな魔王(元)はフォンセもよわい十七、八歳なのに魔族からしての年に似合わない態度が気になっているようだ。色々と悪い噂しか無い魔王(元)だが、やはり子孫の事は気になるものなのだろう。


(子供らしく。ねえ……まあ、たまには良いかもな)


 レイとキュリテ、そして魔王(元)の言葉を聞き、子供らしくする事も大事な事だとフッと笑うライは言葉を発する。


「そうだな。少しは楽しんでみるかあ」


「うん。それが良いよ!」

「同感!」


 ライの言葉に笑顔で返したレイとキュリテ。

 息抜きも兼ねて、ライ、レイ、キュリテの三人はこの祭典のような行事を楽しむ事にし、奥へと向かって行く。



*****



「随分と賑やかだな……。まあ、祭りのようなものだから当然か」


 "魔法・魔術"披露宴"。薬草・霊草"展覧会の会場へ来たエマ、フォンセ、リヤンの三人。こちらの三人も、入るや否や視界に入ってきた薬草・霊草を興味深そうに眺めている。

 特にフォンセは、その職業? 柄、薬草や霊草といったモノに興味が人一倍強いのだろう。


「そうだな。そしてこの薬草・霊草……色んな事に使えそうだ……」


「色んな事……?」


「ふふふ……ああ、そうだ……」


 賑やかと述べたエマの言葉に返すフォンセ。リヤンは訝しげな表情をしてフォンセに聞き返すが、フォンセの怪し気な様子を見て聞くのを止める。


「まあ、色んな事に使えようと使えまいと、薬草・霊草は他にも色々ある……薬草・霊草以外にもな……。まあ、楽しもうじゃないか……」


「アハハ……」


 ふふふ、と笑うエマ。

 エマとフォンセの二人は、珍しく楽しげな表情でそれらを眺めており、出会って一、二日だが珍しいモノだとリヤンは苦笑を浮かべていた。


「そういえば……少々小腹が空いたな……。丁度屋台のような物もあるし、何か買って行こう」


「あ……なら私も……」


 そして、薬草・霊草を眺めていたフォンセの目には屋台が入り込む。

 それを見て今の今まで食事をしていなかった事を思い出したフォンセは、空腹を感じて何かを食べようかと考えた。それにリヤンも続く。


「ふふふ……ならば彼処あそこへ行くと良いさ……。私は腹が空いていないからな……血液でもあれば良いが……」


 ペロリと、今の見た目からは年相応に見えなくもない無邪気な笑みを浮かべ、舌舐めずりをするエマ。


「そ、そうか。なら行くとしよう、リヤン!」

「あ、え、うん……?」


 舌舐めずりをするエマに対して少しゾッとしたフォンセはリヤンの手を引き、屋台に向かって歩き出した。

 リヤンは困惑していたが、取り敢えず流れに身を任せている様子だ。


「ふふ……仲間の血は吸わんよ……」


 そう呟くように言い、空を見上げるエマ。そんなエマを見下ろす月は輝いて微笑んだ気がした。


「ふむ……少し買い過ぎたか……?」

「……多分、かなり……」


 そして数分後、両手にパンやフルーツ、肉類に飲物。といった飲食物を持っているフォンセと、片手にアイスクリームを持つリヤンが帰ってくる。


「フッ……随分と買ったな……まあ、楽しむ事も大事だからな……」


 そんなフォンセとリヤンに苦笑を浮かべて話すエマ。

 何はともあれ、食べ物を購入できたのでもう少しこの会場を眺めながら行こうと考えるエマ、フォンセリヤンの三人。此方の三人も奥へ行き、この祭典のような行事を楽しもうとする。



*****



 ────その刹那、



「「「…………あ」」」

「「「…………え?」」」


 探索組みのライたちと、図書館組みのフォンセたちがバッタリと出会ってしまった。

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