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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第一章 魔王の力
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七話 街にて

 森を抜け、道に出た三人。

 道中では、そよ風が吹き、草木や花を揺らす。暖かな日差しに包まれて穏やかな空間が続く。

 ──一人を除いて、


「くっ……やはり……クラクラす……る……。くそっ……! 憎き太陽め……!」


「おいおい……大丈夫か?」


「昨晩の元気は何処にいったんだろ……今なら私でも勝てそう」


 勿論ヴァンパイアであるエマだ。

 エマは顔を熱で紅潮させ、汗をダラダラと流し、ライとレイに支えられて歩いている。不調が起こると言っていたが、思ったより悪そうである。

 恐らく夜以外は先程の森や、洞窟などで生活をしていたのだろう。森ならば木々に覆われている為、日差しも最小限に抑えられる。そして洞窟は日差しが入りにくい。これらを踏まえ、日差しの届きにくい場所で生活をしていたと推測する。


「フフフ……今ならば……多分……魔法や武器を使えぬ人間にも……負けるかもな……」


「……胸張って言えることじゃねえな」


 そんなやり取りをしている中、ようやく街に辿り着く。

 街に着いたら、エマは支えなくても大丈夫だと言う。

 曰く、"ヴァンパイアが居るとバレてしまったら、面倒事に巻き込まれるかも知れぬからな"。らしい。

 息遣いが荒く、フラフラとした足取りだが、何とか歩けているようではある。

 そして三人は街に入り、街を見ればその街は活気で溢れていた。

 声を上げ、客を呼び込む店員、忙しなく行き来する人々、パッと見る限り奴隷らしき者もいない。どうやら平和な街のようだ。

 店の品々を見ると、見た事のないような物が沢山置いてあった。恐らく他国との文化交流が盛んなのだろう。

 争い事も特にないようなので落ち着ける様子のライ。

 そこでふと思い出したようにライが言う。


「そういえば……旅に出てから何も食ってないな……」


「あ……私も昨日から何も食べてないや……」


「そ、そう……か……。フフフ……貧弱じゃのう……」


 今のお前に言われたくない。という言葉を飲み込み、苦笑を浮かべるライ。

 取り敢えずライとレイは、食事を摂るために近くの飲食店に入る。

 店内も外に負けないレベルで賑やかだった。店員が食器や料理を運び、東奔西走しており、店内には香ばしい料理の匂いが漂っている。

 店員に案内され、三人席に着くライたち。

 座るや否や、空腹が限界に近付いているライとレイは早速注文をしようとするが、


「そういやレイ。持ち金って、どれくらいある? 俺、特に準備もせず旅に出たから……手持ちが殆ど無かったんだ……」


 自分の手持ちの少なさに気付き、途端に焦るライ。

 ライに聞かれたレイはライを一瞥し、財布のような物を取り出して手持ちを数える。


「えーとね……"金貨"が五枚に、"銀貨"が十七枚、"銭貨"が数十枚……」


「へえ……中々持ってるな……いや、旅してるんだから当たり前か……」


 この世界では一般的に"金貨""銀貨""銭貨"を欲しい物に使い、それよって物を購入したりする。

 一番高価な物が金貨であり、それから銀貨、銭貨と続く形となっているのだ。

 その持ち金を聞き、割りと持っていたレイに苦笑を浮かべるライ。因みにライの持ち金は、金貨無し、銀貨二、三枚、銭貨それなり、とまあ決して多くない。


「お金ないの? 私が払おうか?」


 自分の手持ちを数え、肩を落としているライに気を遣っているのか、レイは自分が奢ると言う。

 しかし、


「いや、自分の分は払えるからいいよ。レイに迷惑を掛けたくないし」


「そっか。……うん、分かった」


 ライは両手を軽く振って断る。

 出会って二日、それも昨晩出会ったばかりなので言ってしまえば一日も経っていない。流石にそんなレイへ奢らせるのは悪いと考えたのだろう。

 そんなライの気持ちを察したのか、レイも頷いて了承した。

 そしてライとレイは、メニューに書いてある食事を注文して待つ。

 待っている間、ライはエマへと気になった事を尋ねるように聞く。


「そういや……エマ。お前は食事を摂らなくても平気なのか? 血や精気を吸いとるのは知ってるけど、ここじゃ駄目だし……この店の食べ物はどうなんだ?」


 それはエマの食事についてだ。

 ヴァンパイアは不老不死。といっても流石に何かを栄養にしなければ弱ってしまう。弱ってしまえば、エマ程のヴァンパイアでも、日光に当たって消滅しかねない。

 その為ライは、栄養になりそうな物が無いかをエマに尋ねたのだ。


「フッ、問題ない。幾ら私がヴァンパイアといっても血や精気だけを吸って生きている訳なかろう。確かに美味で能力も上がるが、毎日同じものだと飽きてしまう。ただでさえ人間の数十倍以上生きているのだ。味に飽きてしまったら他の物も摂る」


 店の屋根により、日差しが窓以外から遮断されて、多少元気になったのかエマは淡々と告げる。

 それを聞いたライは安心したように、そっかと頷く。


「けど、エマは何も頼まないのか?」


「ああ、まだ頭がガンガンする。とても食事どころではない。あと、ここ数週間で森に迷った人間の血や精気を吸いとったから数ヶ月は持つだろう」


 しかし少しは気になり、何か要らないのかと尋ねるが、既に何人かの精気や血液を頂いたと言うエマは数ヶ月飲まず食わずで生活できるらしい。

 それを聞き、便利だな。と、軽く笑うライ。

 しかしライとレイは、まだエマに頭痛などの痛みがある事に対して心配だった。

 それを見る限り、やはり長時間の行動は無理なのだろう。

 と、そのような事を考えていた矢先、厨房から料理が運ばれて来た。

 ジュージューと、油が鉄板に垂れ、熱によって蒸発する心地好い音が三人の耳に響く。

 肉料理を頼んだのはライ。つまりライの料理が先に来たのだ。

 朝からかなりのボリュームを秘めた肉料理だが、昨日から何も摂っておらず空腹がピークに到達している育ち盛りのライからすれば大した事が無いだろう。


「お、もう来たのか」


「いいなー。私もお腹空いた~」


 この二人はよっぽど空腹だったのだろう。ライは肉を見て表情が明るくなり、それを見て羨ましそうな表情をするレイ。

 そして次の瞬間、レイの頼んだパンを中心とした料理も運ばれてくる。


「ハハ、もう来たじゃん」


「アハハ、そうだね」


 噂をすれば何とやらという事だろう。

 それについての話をしていると直ぐに来るものである。


「「いたたぎます」」


 二品の料理が運ばれてくるや否や二人は同時に言い、待ちに待っていた食事にありつく。

 美味しそうに料理を食す二人の様子を、エマはボーッと眺めていた。


 ──そして食事が終わり、お会計をしようとしたその時、この店のカウンターの方から何やら騒がしい声が聞こえてくる。


「オイオ~イ。この店はこんなに高い物を出すのか~? 頼むぜ~まけてくれよぉ? 俺たちゃ四人もいるんだぜ~?」

「そうそう。こんな、そこそこの味しか出せない店に来てやっただけでも感謝してくれ。その誠意を見せた上でまけてくれよ」

「俺達、金をあんまし持ってねえんだ。さっさとまけろよ」

「まけろまけろまけろ~!」


「ちょっと……困ります……」


 そこには、絵に描いたようなチンピラと、困った様子の女性店員が居た。

 そのチンピラは持ち金が無いようで、何とか安く出来ないかと話している。

 周りの客も迷惑しているが、チンピラの見た目やら何やらが怖いのからか文句を言うに言えないのだろう。


「ですから……」

「あぁん?」


 ザワザワと次第に騒がしくなる。見てる此方が恥ずかしくなるその光景。店内は騒がしくなり、チンピラを誰かが抑えるのを待っているようだ。

 それを見かねたライは立ち上がり、チンピラに近付こうとする。


「ちょっと行ってくる」

「え? でもこんな所で戦ったらお店が……」


 それを見たレイはライの方へ向け、ライを止めるように話す。

 ライは恐らくこの場を容易く打破するだろう。しかし、ライの力を目の当たりにしたレイはそれを知っている為、この店が消えてしまうのでは無いかと心配をしているのだ。

 それを聞いたライは笑いながら言う。


「ハハ、大丈夫だ。力の調整くらい出来る」

「そう?」

「…………」


 本人は大丈夫と言っているが、それでもあの力を目の当たりにしてしまったので周りの被害が心配な様子のレイ。

 エマはぐで~っと俯せながら、ライに向けて"行って来い"とでも言わんばかりの表情のみで静かに手を振っていた。


【お! 俺の出番か?】

(違えよ。俺自身の……魔族としての力を試す)

【つまんねーの】


 魔王(元)は、戦えるとワクワクしていたが、ライが自分でやると言った途端、退屈そうな態度に変える。

 どうやらライは、自分が持つ魔族としての力を試す様子だった。まだ魔王(元)を宿して数時間だが、このまま魔王(元)に頼りっ切りという訳にも行かない。

 なのでタイミング良く現れたチンピラを前に、己の力を確かめてみるつもりなのだ。


「あのー、すみません。アナタ方に周りが迷惑しているのですが」


「ああん?」


 ギロリ、とライを睨み付けて振り向くチンピラ集団。

 ライは魔族の力を試したいが、なるべく穏便に解決できないか。と考えた。

 余計な争いはしない方が良いという事は、良く分かっているからだ。


「オイ、糞ガキ。俺達はな? 大事な話をしてんだよ。さっさと帰れ!!」


「そ・れ・と・も。怪我したいのかあんちゃん?」


「ケケケケケ……」

「ヒヒヒヒヒ……」


 チンピラ四人は、ライを睨み付けて返す。それを見る限りどうやら話し合いは出来なさそうだ。仮に此処で説得しようものなら、チンピラ達は逆上して暴れだしてしまうだろう。

 仕方がないとライは内心で思う。


「……本当に止めるつもりはないのか?」


「ああ、無いね。てゆーか何を止めるんだ? 何も悪いことはしてねーしぃ?」


「……そうか」


 ニヤニヤと気持ち悪く笑うチンピラ。周りの客は、"大丈夫かあの小僧"。や、"助けに行きたいけどコエー"。と、ライを心配しつつ何とか助け出す方法を考えている者も居た。


「さっさと消えろや糞ガキ!」

「邪魔だ邪魔だ!」

「痛い目見ないうちに失せろ!」

「オォウ?オゥオゥ?」


「はあ……」


 これは話にならない。何処から誰がどう見てもそうだ。

 チンピラの方もそろそろ限界に近付いていたのか、腕を振り上げ、殴る体勢に入る。


「何時までいんだよ? さっさと消えろや!!」


「……これがラストチャンスだ。止める気は?」


 呆れたライが再びチンピラに問う。それが最後のチャンス。ライとチンピラでは確実にライの方が強いのは確定的だろう。

 そんな言葉を無視し、チンピラは叫びながらライへ拳を放つ。


「ある訳()ェだ──」


 ──刹那、チンピラの腹部にライの拳が突き刺さった。


「が……は……!?」


 殴られた衝撃で口から空気が漏れ、チンピラはうずくまるように腹を抱えてその場に倒れ込む。


「交渉決裂か……」


 ボソッと呟くように言うライ。手を出してきたのは向こう。それでも相手を殴った事に変わりないが、どの道このままでは解決しなかった事だろう。

 そして、それを見ていた他のチンピラや客は一瞬静まる。そのあと、残りのチンピラが叫ぶように声を上げた。


「テメェ!! やりやがったな!!」

「糞ガキがァ!! 調子のってんじゃねえぞ!!」

「ブッ殺してやる!!」


 一人のチンピラは、何処からか短刀を取り出し、それをライに向け、ダッシュで駆け寄る。


「そらっ……よっと!」


 ライは軽く避け、避け様にチンピラの手首を掴み短刀を叩き落としたあと、チンピラを投げ飛ばした。


「グ……」


 一連の動きで投げられたチンピラは背中が打ち付けられ、空気が漏れて気絶する。


「くそっ! 二人で掛かるぞ!」

「オウ!」


 それを見た残りのチンピラは警戒を高め、ライを挟むように陣取り片方はナイフ、片方は近くにあった看板を持ってライに突撃する。


「オラァ!」

「ダラァ!」


 ライの正面からはナイフ、背後からは看板が襲い掛かる。

 ライはチンピラが来る方向を確認し、


「ホラッ!」

「ガハッ……!」


 背後に蹴りを入れる。蹴られたチンピラは数メートル吹き飛び、ガシャン! とテーブルに叩き付けられた。


「クソォ!」


 残りのナイフを持っているチンピラはそれを見、速度を上げてライに向かう。


「ハァ!」


 それを確認したライは蹴っていない方の脚を軸に回転し、向かって来る正面のチンピラに回し蹴りを食らわせる。


「ぐふ……」


 ライの回し蹴りは、見事チンピラの側頭部に命中する。

 メキメキとめり込むライの足、それを受けたチンピラ横に吹っ飛び壁に激突して気絶した。


「一丁上がり」


 パンパンと、埃を払うように手を叩き、一仕事終えたように呟くライ。

 それを見た客は、ワアァァ! と盛り上がりを見せた。

 誰も動かなかったこの事だが、よわい十四、五の少年がチンピラを片付けた事へ感心しているのだろう。


「スゲェぜあの小僧!」

「ハハハ、何だ!? まだ若いのに強えな!」

「いやー。スッとしたぜ!」


 客たちが盛り上がる中、絡まれていた女性店員がライに近寄り、頭を下げてお礼を言う為言葉を発する。


「あの……ありがとうございました!」


「いや、別に良いですよ……先に仕掛けたのはアイツら……」

「スゲェぜ兄ちゃん! やるじゃねぇか!」


「え? あ、はい。ありがとうございます……?」


 店員がお礼を言い、ライが返した直後におっちゃんがバンバンとライの肩を叩く。

 突然のおっちゃんに困惑するライ。

 取り敢えず褒めてくれている様子なので悪い気はしていない。

 その後何やかんやあり、チンピラは警察に連れて行かれる。

 ライも軽い質問を受けたが、何事も無く終えることができ、その店を後にしたライ、レイ、エマの三人だった。

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