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七百八十八話 レイ、シャバハvsハリーフ

「"光の槍(ヌール・ハルバ)"!」

「やあ!」

「"死霊の拘束ルワハメイタ・タクイード"!」


 レイとシャバハ目掛け、ハリーフが光輝く槍を放出した。

 目映い光を放つ槍は真っ直ぐに進み、レイが勇者の剣で切り捨てる。槍が消えたのを見計らったシャバハは死霊を操り、ハリーフの身体を拘束した。


「死霊による拘束……何とも言えない感覚ですね。湿っているようで静電気が走っているようでこそばゆい。取り敢えず良い気分では無いですね」


 死霊による拘束は、言葉では言い表せない感覚らしい。しかし存在が存在なので良い気分では無いらしく、ハリーフは即座に魔力で拘束を破壊した。


「貴方の呪術は、触れている時はこの世に形を現す。それなりの実力者相手では長く拘束出来ないようですね」


「ハッ、まあな。だが、此方こっちは主力が二人なんだ。拘束で一瞬でも隙が突けりゃ上々よ」


「その通り!」

「その様ですね……!」


 ハリーフが拘束を解いた瞬間、レイが踏み込むと同時に勇者の剣を突く。それをハリーフは辛うじてかわし、片手に槍を形成して振るうった。


「"(ハルバ)"!」

「普通に仕掛けてくるんだ……!」

「ええ。槍という物は本来、投擲よりも叩く方向性で使用される事が多いですからね。刃の部分は主にトドメ用。これが本来の使い方ですよ!」


 槍を振り回し、旋風を引き起こして風に紛れながらけしかける。レイは剣尖で槍の剣尖をいなし、流れるように放たれた薙ぎを剣の腹で受け止めた。

 それによって弾かれ、踏み込むハリーフが刺突で攻め入り、レイは剣を振るって魔力からなる槍を消し去った。


「やあ!」

「マズイですね……!」


 同時に今度はレイが斬り込み、ハリーフは振り下ろされた剣を転がるように避ける。レイはハリーフが避けた瞬間に腰へ手を当て、天叢雲剣あまのむらくものつるぎを取り出して追撃。二刀流からなる二つの飛ぶ斬撃が塔の一角を切り落とした。


「……あ……! シャバハさん!」

「分かってる! 外に連れ出せば良いんだな!」

「……っ」


 この塔に被害を及ぼす訳にはいかない。なのでレイはシャバハへ目線で指示を出し、それに従うシャバハが死霊を縄のように使って隙が出来たハリーフを再び拘束。そのまま自分と共に外へと連れ出した。


「兵士の皆! 私たちは主力を相手にするから、此処は任せたよ!」


「は、はい!」

『了解した!』

『任せとけ!』

「ああ!」


 レイもシャバハとハリーフの後を追うように窓から飛び降り、レイとシャバハによるハリーフとの対峙に手を出せなかった兵士たちに指示を出す。兵士たちは呆気に取られていたが返事をし、その指示に従って塔内の警戒を高める。

 そして三人による決戦の場は、外へと移行する。



******



 ──"幹部の塔・左側の外"。


 外へと移動した三人は落下するように大地に降り立ち、砂塵を舞い上げながら向き直る。

 レイとシャバハは周りに居る生物兵器の兵士達にも警戒をしており、ハリーフはシャバハの死霊兵士に警戒をする。レイ、シャバハとハリーフ。そして各々(おのおの)の兵士達。人数で言えば五分五分だろう。


「外へと追いやられてしまいましたか。周りを気にする必要が無いので私には有利な環境でしたが、ほんの数分の戦闘で有利な環境での戦いは終わってしまいましたね」


「私たちにとっては好都合。此処なら味方を巻き込む事も少ないからね!」


「ああ。死霊たちは生物兵器への攻撃時以外は無敵。逆に俺たちにとって良い環境となった訳だ」


 塔の外に出たレイたち。

 ハリーフの槍魔術が広範囲に使えるようになった事からあまり有利ではないようにも思えるが、実はそうではない。元より広範囲も得意とするレイとシャバハの力。兵士たちを庇いながら戦う事も無くなったので二人にとっては逆にやり易い環境が完成したという訳である。

 だが、前述したように外はハリーフの技も使い勝手の良い場所。生物兵器と死霊兵士の人数からして、戦況的にはまだレイたちが少し有利であるくらいだ。


「なら、仕掛け続けるまでです! "閃光の槍(フラーシュ・ハルバ)"!」


 それならばと、ハリーフは更に速度を上げた、光速の槍を形成と同時に放出した。

 瞬く閃光の如き速度で迫るそれは、対処が難しいものである。


「やあ!」


 だが、レイにはそれが出来る。

 ハリーフが言い終わるよりも前に力を込め、分かりつつある勇者の力という感覚を解放する事によって光速に対応して切り落とした。

 斬られた光速の槍は二つの魔力の欠片となり、そのまま進んで塔を掠り、遠方の森を吹き飛ばす。どうやら塔への被害は免れたらしい。


「とんでもねェ速度の槍だな。俺じゃ見切れなかった……。お前、前より更に強くなってんな。英雄の子孫。その名に相応しい実力を付けてきてんじゃねェか」


「うん。私もこの半年で努力したから……! 前みたいに、シャバハさんに怒られないような力は付けたよ!」


 シャバハは勇者や魔王など、かつての英雄を尊敬している。それ故に以前のレイを見た時は激昂していたが、今のレイは純粋に認めていた。それは上から見た称賛ではなく純粋な賛美。本心だ。

 ライたちも魔族の国の主力たちも着実に力を付けているが、それはハリーフにも言える事だった。


「なら、私も相応の力は身に付けていると理解して欲しいものですね。言ったでしょう、今日の私は何時もと違うって。"陽光の槍ダウ・アルシャムス・ハルバ"!」


 次の瞬間、日の光のように"刺し"込む槍が降り注ぎ、広範囲を覆った。その槍は形が無く、本当の陽光のような感覚。しかし周りが崩壊しているのを見ると、やはり相応の威力はあるのだろう。

 レイとシャバハはそれに構え、レイが跳躍して向かった。


「はあ!」

「へえ?」


 そして、その光を切り裂いた。

 その光には形が無い。光なのだから当たり前だろう。しかし勇者の剣は概念をも切り裂く事が可能。持ち主に比例して強くなるからこそ、それを可能にしたのだ。

 光を切り裂くと同時にレイは駆け出し、剣を突いて仕掛ける。ハリーフはそれもかわすが、天叢雲剣あまのむらくものつるぎを横に薙いで──ハリーフの肉体諸とも周りを切断した。


「……ッ!」

「……! やったの……?」


 上半身と下半身が分かれた訳ではないが、半分近くは切り離されている。常人なら即死の傷だろう。

 しかし、本来なら意識を失う筈のハリーフは笑みを浮かべていた。


「"ハルバ"!」

「……ッ!?」

「なにっ!?」


 それと同時に切り離されてバランスの崩れた身体の片手から槍が放たれ、レイは咄嗟に避けるが脇腹を貫いて出血する。

 急所は外したが、その激痛はかなりのものであり膝を着く。

 シャバハは驚愕の表情を浮かべており、ハリーフが続くようにけしかけた。


「"槍の花(ハルバ・ザハラ)"!」

「……ッ!」


 倒れるように地面に手を当て、花のように咲き誇る無数の槍がシャバハの足元から突き出してその身体を貫く。シャバハも足元に変化が起きた瞬間自身の肉体を霊体にしたので致命傷は免れたが、半人半霊の肉体では防ぎ切れずかなりの傷を負ってしまった。

 倒れたハリーフはそのまま起き上がり、完全に切り離されそうになった上半身と下半身をくっ付け、再生して身体の埃を払う。


「……っ。あの傷で立つのかよ……! つかその再生力……!」

「一体何が……そ、それって……!」


 その身体を見、レイとシャバハが疑問を浮かべる。

 それもそうだろう。元々ハリーフは回復術を持ち合わせていない。にも拘わらずその肉体が傷痕を残さずに再生したのだから。──そう、それではまるで、


「生物兵器みたい……ですよね?」

「「……!」」


 そう、その再生力は不死身の兵士生物兵器の様。ハリーフは得意気に笑い、再生した肉体を一瞥する。そして地に伏せるレイとシャバハに向き直り、槍魔術を形成した。


「ハリーフ……テメェ……!」


 そんなハリーフを見やり、憤慨したシャバハが血を流しながら立ち上がる。その様なシャバハの態度に、ハリーフは小首を傾げて訊ねた。


「一体何を怒っているんですか? ああ、敵が強くなれば当然その様な反応をしますよね」


「そうじゃねェよ。自分の意思で生物兵器の肉体になったっー事はテメェ、魔族を捨てたって事だ。まあテメェ自身、元々裏切り者ではあったが……その肉体を含めて全てが変わった。魔族としての誇りはねェんだな?」


「見ての通りですよ。と言うかその聞き方……君も理解しているんじゃないですか? 既に決まっている答えを聞くなんて無駄ですね。私的にはこの肉体。結構気に入っていますよ」


 シャバハが憤っている理由は、本人も薄々感じていたようだがハリーフが完全に魔族では無くなっているこの状況について。

 元々のゾフルやハリーフは肉体の改造などはおこなっておらず、あくまで魔族としてヴァイス達の侵略活動に荷担していた。その時点で問題なのだが、それに加えて肉体その物を変えてしまった事が逆鱗に触れたのだろう。

 特にシャバハは人間・魔族のような種族問わず、後世に残る事を起こした者は尊重している。だからこそ、自分自身の種族を捨てる事が許せないのだ。


「気に入っているとかの問題じゃねェんだよ。……だが、そうだな。新しく出来た今の悩みと言や……生け捕りにするつもりだったテメェを霊体にしなくちゃならなくなるかも知れねェって事だな……!」


 シャバハは鮮血を流しながらも死霊を呼び出し、黒い風が吹き荒れ、周囲に禍々しい渦を広げる。ハリーフも負けじと形成した槍魔術を増やし、シャバハの死霊に向き直って言葉を続ける。


「それはそれは手厳しい。しかし、私も完全な生物兵器になった訳ではありませんよ。ほら、見ての通り己の意思はある。今までが今までだったのでまだ痛みなども感じます。詰まる所、魔族の箇所も残っているので貴方の言うような魔族を捨てたという部分には当てはまりませんよ。──"一輪の槍の花イジラタン・ワヒダ・ハルバ・ザハラ"」


「そう言う問題じゃねェって言ってんだろ……! "死霊の呪いの渦ルワハメイタ・ラアナ・ダッワマ"……!」


 野に咲き誇る一輪の花。その花弁のような無数の槍がシャバハとレイを狙い、死霊を纏めた漆黒の渦の壁がそれを迎え撃つ。刹那に衝突した。

 無数の槍は死霊の渦に阻まれて次々と弾き飛ばされ、周囲に居た生物兵器の兵士達に当たってその肉体を滅ぼす。しかし生物兵器の兵士達は即座に再生する。が、再生した瞬間に身体が動かなくなりその場で停止した。


「これは……?」


「そりゃ呪いだ。呪いってのは即死の呪いから身体の自由を奪うモノまで様々。俺が使ったのは後者だ」


「そうなんだ……」


 呪い。

 "死霊人卿ネクロマンサー"であるシャバハは呪術にも長けている。なので様々な呪いをもちいてハリーフと相対する様子。以前レイと戦った時は呪いなどの類いをあまり使わなかったが、今回のシャバハ相手にはとことん本気のようだ。

 レイのように動くのも儘ならない傷を負っている筈だが、気合いのみで乗り切っていた。


(……私も……痛みに負けている場合じゃない……!)


 そんなシャバハの戦いを見、勇者の剣を立て、自身の身体を持ち上げる。血を流しフラつきながらも立ち上がり、レイはハリーフに構えた。


(生物兵器じゃ天叢雲剣あまのむらくものつるぎで斬った箇所は再生する……けど、ご先祖様の剣なら……!)


 そしてレイも、何の策も無しに立ち上がった訳ではない。先程使ったのは天叢雲剣あまのむらくものつるぎ。神話の剣だけあってかなりの力を有しているが、生物兵器と化したハリーフには勇者の剣しか有効打が無い事を見切っていた。

 シャバハの呪いに勇者の剣。今与えられる攻撃はこれくらいだろう。


「私も行くよ。シャバハさん……!」

「ハッ。ああ、分かった。さっさと終わらせちまおうぜ」


「良いでしょう。だったら此方も相応の力で迎い撃ちますよ」


 巨大な死霊の渦と無数の槍のぶつかり合いの前で立ち上がり、天叢雲剣を仕舞って勇者の剣を両手で持って構える。その風によってレイの纏められた白に近い銀髪は揺れ、痛みによる脂汗が乾いていく。

 レイとシャバハによる生物兵器ハリーフの討伐。その戦闘は、より激しさを増していた。

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